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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第9回日米貿易経済合同委員会共同声明

[場所] 東京
[年月日] 1973年7月17日
[出典] 外交青書18号,109−113頁.
[備考] 
[全文]

 第9回日米貿易経済合同委員会は,東京において1973年7月16日及び17日,大平正芳外務大臣の議長のもとに開催された。

1. 委員会は,最近の国際情勢を検討し,世界各地で緊張緩和の傾向がみられることに満足の意をもつて留意した。委員会は,米国とソヴィエト社会主義共和国連邦との対話の前進を歓迎した。特にアジアに関しては,委員会は,インドシナ全域に平和をもたらすための最近の合意につき討議した。委員会は,インドシナ問題の永続的な解決が早期に実際に達成され,関心を有する各国の援助と支援により,その地域の諸国民が平和と繁栄の中に生活できるようになることを希望した。委員会はまた,日本及び米国の中華人民共和国に対する関係の発展を満足の意をもつて検討した。委員会はさらに,朝鮮半島における新たな進展がその地域の平和と安定に永続的に貢献しようとの希望を表明した。

 委員会は,相互信頼と友好に基づく日米関係がアジアと世界のその他の地域の平和,安定及び繁栄の増進にとりひきつづき不可欠の要素であり,世界的な重要性をましつつあることに留意した。

2. 委員会は,日本と米国の経済情勢を検討した。委員会は,現在先進国に共通してみられるインフレ傾向に懸念がもたれることを認めた。

 両国代表団は,それぞれの政府が世界経済の中における各国の相互依存関係増大を認識しつつこれらの問題に対処するためとつている施策につき報告した。両国代表団は,それぞれの国際収支改善に向つての動きを報告し,この改善への動きを保持するための政策を引続き推進するとの両国政府の意向を確認した。

3. 委員会は,近年日米両国にとりその縮少が緊急の課題となつていた両国間の貿易不均衡が大幅に改善したことに満足の意をもつて留意した。日本側代表団は,日本の全体的な国際収支黒字を削減し,その結果として日米二国間の貿易不均衡を縮少させるため日本政府がとつた諸措置につき説明した。

 米側は,これらの措置を評価し,それが貿易のより良き均衡のため大きく貢献したことを確認した。委員会は,しかしながらこの構造的な改善が一時的な要因により,助けられたことに留意し,日米両国それぞれの全体的な国際収支均衡回復に向つての動きを持続させるためには双方において今後引続き努力が必要であり,またその一環として,日米貿易の妥当な均衡に向つての動きを持続させるため双方において努力が必要であるとの見解を表明した。この関連において委員会は,製品を含む米国の対日輸出の増加を奨励するため両国が努力することが望ましい旨強調した。

 委員会は,貿易の一層の増大を通ずる拡大均衡の指向により,また,両国市場の自由化と開放体制維持のための一段の努力により,既に緊密な両国経済関係をさらに強化する決意を再確認した。

 最近の発展を基礎として,委員会は,日米両国がその経済関係において新らしい展望に立つた進展を期し得ることに留意した。

4. 日本側代表団は,木材,鉄屑,小麦,大豆,その他の飼料穀物の重要物資の日本に対する安定した持続的な供給についての強い懸念を表明し,現在行なわれている輸出規制が短期間で終了するよう希望を表明した。米側は,これらの産品の多くにつき現在米国でみられる輸出能力の不足は一時的なものであり,また,主として海外需要の異常増をもたらした世界の他の地域における供給不足によるものである旨強調した。米側は,これらの重要物資を日本に供給するため最善の努力を尽くす旨を述べた。

5. 委員会は,両国間の投資の流れの増大が相互の利益となることを再確認した。米側代表団は,5月に発表された100%資本自由化原則に基づく日本の資本自由化計画に対しこれを評価する旨表明した。日本側代表団は,既に明らかにされている日本政府のそのような資本自由化を更に推進する可能性を引き続き検討する意向を再確認した。委員会は,対米投資に関する最近の日本側業界の積極的態度を歓迎し,そのような投資,特に製造及び加工分野への投資が引き続き増大するよう希望を表明した。

6. 委員会は,国際経済情勢に多大の注意を払つた。委員会は,日本及び欧州の目ざましい経済的進歩の結果,現在いずれの一国も圧倒的な経済的地位にはないという状態が生じていることに留意した。委員会は,国際経済をこうした新しい状況に適合させるべく多角的に進められている進展につき検討した。

 両国代表団は,通貨・通商の分野における多角的交渉及び投資に関する多角的討議が成功裡に終ることの重要性を強調した。両国代表団はこれらの交渉及び討議が,すべての国に永続的な通貨制度,拡大する国際貿易及び国際投資の生産性から利益を受ける機会を与えることを認めた。

 委員会は,20カ国蔵相会議の枠内での通貨及び関連問題に関する交渉について討議した。両国代表団は,これらの交渉は精力的に進められるべきであるが,永続的制度の樹立には多くの複雑な問題が介在していることにつき合意した。ナイロビにおける国際通貨基金の年次総会までに,改革されるべき制度の主要な原則につき出来るだけ広範な合意に達しうるよう努めるとの意向が表明された。

 委員会は,1973年9月に東京で開催予定の閣僚会議において,ガットの下での多角的貿易交渉の新ラウンドが開始されることに大きな重要性を認めた。米側代表団は,これらの交渉に米国が全面的に参加し,世界貿易拡大のための共同努力の中において交渉の結果を実施に移すことを可能にする通商改革法案が現在議会で審議されている旨を述べた。

 委員会は,世界貿易に特有な問題は多角的交渉を通ずることにより最も良く解決されるとの両国代表団の確信を表明した。委員会はまた,新ラウンドにおける交渉はその目標として,世界貿易の拡大と自由化,通商関係を律するための国際的な枠組みの改善,及び世界の人々の生活水準の改善を掲げるべきことに意見の一致をみた。委員会は,さらに,これらの多角的交渉は全般的な相互主義に従つて相互の利益及び相互の約束を基礎として行なうものとし,工業品貿易及び農産物貿易の関税及び非関税障壁を対象とし,かつ,多角的・無差別のセーフガード制度の整備を含むべき旨合意した。

 委員会は,投資問題に関する作業が経済協力開発機構において進行していることに留意した。委員会は国際投資活動の調和のとれた発展を図るとの両国政府の意向を再確認した。

7. 委員会は,将来における石油,濃縮ウラン及びその他のエネルギー資源の供給確保問題につき,継続的かつ広範な意見交換を行なうことが日米両国にとつて重要であることを確認した。この関連において,委員会は,資源の開発協力及び新エネルギー源の研究・開発の推進を含め,エネルギー分野における両国の協力可能な領域について幅広い討議を行なつた。

8. 委員会は,二国間での,及び国際金融機関を通じての発展途上国に対する経済・社会開発援助が先進諸国の重要な課題であることを再確認した。日本側代表団は,米国が特にアジア地域に対する援助を拡大することを要望するとともに,予定されている米国のアジア開発銀行の特別基金への拠出及び新規増資への応募の重要性に特に留意した。日本側代表団は,また,今後とも日本の援助計画の地理的及び機能的範囲を拡大し,また日本の政府開発援助の質量両面における拡充に努めるとの意向を表明した。

 委員会は,多角的貿易交渉の新ラウンドが発展途上国に輸出拡大の機会を提供するよう強い希望を表明した。

9. 委員会は,両国間の理解を増進するため,日米両国が二国間及び多国間での政府及び民間レベルでの接触におけるコミュニケーションの拡大と向上に努めることに合意した。この関連で,委員会は以下の諸点について合意を表明した。

 (1) 委員会は労働分野での人的交流の継続を歓迎するとともに,勤労者の職業安全及び衛生に関する最近の共同研究の成功に満足の意をもつて留意し,勤労婦人の役割と地位の問題について共同研究を行なうことに合意した。

 (2) 委員会は,両国間の航空及び海運に関する最近の発展について検討し,これらの問題について今後とも協議することに合意した。委員会は,また,日米運輸専門家会議の有益な活動に満足の意をもつて留意し,これらの分野における互恵的協力が強化されることを希望した。

     委員会はまた,日米両国間の旅行者の顕著な増大を歓迎し,特に海外から米国への旅行者の中で今や日本からの旅行者は最多数を占めていることに留意した。委員会は,こうした旅行者の交流の増大が両国間の友好関係の促進に寄与することへの期待と希望を表明した。

 (3) 委員会は,日米間の科学・技術交流の急速な増大を歓迎し,この傾向が促進されるよう強い希望を表明した。この関連において,委員会は,天然資源の開発と利用の面における日米協力に関する年次経過報告書を受理した。

 (4) 委員会は,両国の業界人の交流の増大に満足の意を表明し,このような交流がさらに促進されるよう希望を表明した。この関連において,委員会は各種の日米業界人合同機関の活動と日米経済関係においてこれらの機関が果して来た建設的な役割を歓迎した。委員会はまた,これらの機関がその活動を欧州共同体の代表者も含めるよう拡大するためにとつた積極的態度を歓迎した。

 (5) 委員会は,経済活動のあらゆる側面における環境についての配慮の重要性に留意し,環境問題の解決のため努力する必要性を再確認した。

10. 委員会は,この会議における卒直かつ有益な意見の交換に満足の意を表明し,次回会議を相互に都合のよい時期に米国において開催することに合意した。

11. 日本側参加者は,大平正芳外務大臣,愛知揆一大蔵大臣,桜内義雄農林大臣,中曽根康弘通商産業大臣,新谷寅三郎運輸大臣,加藤常太郎労働大臣,小坂善太郎経済企画庁長官,鶴見清彦外務審議官であつた。関係省庁の随員も出席した。

 米国側の参加者は,ウィリアム・P・ロジャーズ国務長官,フレデリック・B・デント商務長官,ポール・A・ヴォルカー財務次官,J・フィル・キャンベル農務次官,リチャード・F・シューバート労働次官,ケネル・L・レイ内務次官代理,ロバート・H・ビンダー運輸次官補,ゲーリー・L・シーバース経済諮問委員会委員,ウィリアム・D・エバリー通商交渉特別代表,ロバート・S・インガソル駐日米国大使であつた。関係各省の随員も出席した。