データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 復帰後の沖縄における外国人及び外国企業の取扱いに関する愛知外務大臣発マイヤー駐日アメリカ合衆国大使あて書簡

[場所] 
[年月日] 1971年6月17日
[出典] 外交青書16号,491−495頁.
[備考] 
[全文]

 拝啓

 本大臣は,1969年11月21日に発表された佐藤総理大臣とニクソン大統領との間の共同声明第9項並びに復帰後の沖縄における外国人企業の取扱いに関する両国政府の代表者の間の最近の会談に言及し,日本国政府がこの問題を同情的に取り扱うことを希望して次の方針を決定したことを貴大使に通報いたします。

I 事業活動

 1 各企業は,日本国の外資に関する法律に基づく認可及びある種の事業活動については,日本国のその他の法律に基づく免許又は許可を受けるため,沖縄の復帰の後妥当な期間内に申請を行なう必要がある。ただし,個人営業者は,外資に関する法律に基づく認可を受ける必要がない。

 2 日本国政府は,本日現在沖縄において適法に事業を営んでいる外国の企業及び個人営業者が現に有効な琉球政府の免許又はその他の許可によつて行なつている事業の継続を確保するため,1の手続に従い,それらの企業及び個人業者に対しすみやかに1の認可,免許又は許可をを与える。ただし,

  (a) 当該認可,免許又は許可については,新たに事業所を開設し又は現在の事業所を沖縄外の日本国の地域に移転することは含まず,そのような開設又は移転のためには別途申請を行なう必要がある。

  (b) ある種の企業は,日本国の関係当局との間の了解に従い日本国政府の要請した調整を行なう必要がある。

 3 1及び2の手続が完了するまでの間,関係企業が事業の継続を許されるため,必要な経過措置がとられる。

 4 前記の企業及び個人営業者は,2の条件に従う限り,沖縄の復帰の後,日本国の関係法令に従い,日本全国において取引を行なうことができる。

II 私有財産

 1 復帰後の沖縄における外国人及び外国企業の私有財産は,適法に取得された私有地及び家屋の所有権及び賃借権を含め,本土における外国人及び外国企業の私有財産の場合と同様に,日本国の法令の下で尊重される。

 2 技術援助契約,受益証券,社債,貸付金債権及び経営に影響を及ぼすことがない株式取得に係る元本及び利潤について外貨支払の保証を得ることを希望する外国投資家は沖縄の復帰の後,そのような契約又は権利について外資に関する法律に基づく認可の申請を行なう必要がある。その認可は,すみやかに与えられる。

III 国有地及び県有地の賃貸借

 沖縄における国有地及び県有地の賃貸借については沖縄の復帰の後1年間現在と同様の条件でこれを継続することができるよう必要な措置がとられる。その後の賃貸借については,その1年の期間中に関係当事者の間で取りきめることとする。

 復帰後の沖縄における国有地及び県有地の賃貸借は,日本国の法令に基づいて行なわれ,また,合衆国の賃借人は,外国人であることを理由として差別されることはない。

IV 外貨送金

 1 外資に関する法律に基づく認可を受けた投資に係る元本及び利潤については,交換性のある外貨に交換し及び自由に外国へ送金することが同法によつて保証される。個人営業者の場合には,利潤及び清算代金の送金は,確認を経たうえ自動的に認められる。

 2 沖縄の復帰の時点において沖縄の銀行にドル預金を保有している外国人居住者は,復帰の後,引き続き当該ドル勘定を保有し又はこれを円勘定に交換することができる。

 それらの勘定の外国への送金は,外国為替及び外国貿易管理法に定めるところによる。

V 自由職業者

 復帰後の沖縄における外国人自由職業者の取扱いは,次のとおりとする。

 1 弁護士

 1971年1月1日前から沖縄において継続して業務に従事している外国人弁護士は,日本国の最高裁判所の承認を受けること及び沖縄に法律事務所を保有することを条件として,沖縄の復帰の後,外国法に関する弁護士業務を従前どおり行なうことを認められる。

 2 医師及び歯科医師

  (a) 沖縄の復帰の日現在沖縄の関係法令に基づく医師又は歯科医師の免許を受けている外国人の医師及び歯科医師は,沖縄の復帰の後相当の期間沖縄において従前どおりその業務を行なうことを許され,また,その期間中日本国の法令に基づき医師又は歯科医師の国家試験又は国家試験予備試験を受ける資格を認められる。それらの試験は必要に応じ英語で行なうものとし,英語で試験に合格した者は,沖縄においてその業務を行なうことを許される。

  (b) 那覇市のアドヴェンティスト・メディカル・センターにおいて医務活動を行なうため復帰後の沖縄に来る医師及び歯科医師については,同センターの業務を継続する必要性を考慮し,日本国の法令に基づき医師又は歯科医師の国家試験又は国家試験予備試験を受ける資格を認める。それらの試験は,必要に応じ英語で行なうものとし,英語で試験に合格した者は,同センターにおいて医務活動を行なうことを許される。

 3 獣医師

 沖縄の関係法令に基づく免許を受けている獣医師は,復帰後の沖縄においてその業務を行なうことを認められる。

 4 公認会計士

 沖縄において適法にその業務を行なつている公認会計士で,合衆国その他の外国において日本国の公認会計士の場合に相当する要件を満たす者として資格を与えられており,かつ,会計に関する日本国の法令について十分な知識を有するものは,日本国の大蔵大臣による資格の承認及び日本公認会計士協会への登録を経たうえ,その業務を行なうことを認められる。その承認は沖縄の復帰の後すみやかに与えられる。

VI 課税

 1 日本国政府は,復帰前の沖縄における活動及び財産につき,沖縄の復帰の後新たに日本国の税法に基づき遡及して課税する意図を有しないことを確認する。このことは,日本国政府が,外国企業の活動及び財産であつて復帰前の沖縄において沖縄の税法(民政府布令を含む。)に基づいて課税されるべきであつたものにつき,当該税法によつて適正に課税されていない場合には沖縄の復帰の後,日本国の法律としての効力を認められることとなろう沖縄の税法(民政府布令を含む。)に基づいて課税する権利を放棄することを意味するものではない。

 2(a) 日本国政府は,青色申告に係る欠損金で沖縄の法人税法により繰越控除の対象となりうるが実際にはその適用を受けていないものにつき,原則として沖縄の復帰の後,日本国の法人税法による繰越控除を認める。青色申告に係る純損失で沖縄の所得税法による繰越控除の対象となりうるものについても,同様とする。

  (b) 地方公共団体が課する事業税及び住民税についても,(a)と同様とする。

VII 輸入割当て

 日本国政府は,1970年11月20日の閣議決定に示すとおり,日本国の関係法令の適用が沖縄における民生及び事業活動に及ぼすことのある影響を緩和するため,必要に応じ,沖縄への物資の輸入につき品目ごとに特別の配慮をする。

 数量制限物資の輸入については,日本国政府は,前記の閣議決定を照らして,各企業に対し沖縄へのその輸入の実績に基づいて割当てを行ない,また,需給関係等に照らして合理的な輸入増加の必要性をも考慮する。

 日本国政府は,前記の閣議決定に示す政策の実施及び輸入割当てにあたり,外国企業に対して差別的取扱いをしない。

VIII 放送事業

 極東放送会社の運営に関し,日本国政府は,沖縄の復帰の後,同社に対する無線局の免許につき次のとおり必要な措置をとる。

 1 日本国政府は,日本国の関係法令に従い,財団法人極東放送による日本語の放送を許す。

 2 極東放送会社が現在行なつている英語の放送については,沖縄の復帰の後5年間この放送を継続することが認められる。この放送は,日本国の関係法令の定める条件に従つて行なう。

                               敬具

 1971年6月17日に東京で

                        日本国外務大臣 愛知揆一

  アメリカ合衆国大使

    アーミン・H・マイヤー殿