データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第5回日米文化教育会議最終コミュニケ

[場所] 
[年月日] 1970年3月23日
[出典] 外交青書14号,405−408頁.
[備考] 
[全文]

1.第5回日米文化教育会議は,1970年3月18日から23日まで東京で開催された。会議は,第1回会議以来の両国間の文化教育交流の総合的検討を行なつた後,今後における両国間の文化教育交流および協力を拡大させるための諸方策,アジア諸国に対するそれぞれの文化教育計画の経験の交換並びに日米両国の有識層・文化人の間の相互理解を増進させるための諸問題に関し討議を行なつた。

 会議は,最近急速に発展しつつある両国関係に対応して,文化教育交流事業を拡大する必要性がいつそう高まつたこと,および社会の急速な変化に伴つて,新しい文化教育上の諸問題が生じつつあることを認め,次の勧告を採択した。

(1)教育交換の拡大計画に関する諸問題および両国民の相互理解の増進に関する諸問題について,ひきつづき討議を行なうこととし,そのためそれぞれの分野の専門家の会合を行なうこと。

(2)両国間の次の分野における交流活動を日米両国において奨励すること。

  イ,新聞,テレビジョンその他マスメディア関係者の交流

  ロ,両国の産業界が文化教育面で行なつている国際交流活動に関する情報の交換

  ハ,両国の初等中等学校教員および中等学校生徒の交流

  ニ,両国の中等学校および大学における相手国の文化,歴史に関する教育

  ホ,世代間の断層の問題および青少年問題についての情報交換

  ヘ,テレビ番組の交流

(3)両国において従来から行なわれている次の事業をさらに強化すること。

  イ,アメリカにおける日本研究および日本におけるアメリカ研究

  ロ,アメリカ人に対する日本語教育および日本人に対する英語教育

  ハ,留学生に対するカウンセリング

  ニ,日本における人文および社会科学の成果を紹介する文献の翻訳

  ホ,人文および社会科学分野の共同研究

  ヘ,図書館職員,図書資料および図書館の管理・運営に関する情報の交換

(4)大学についての共通問題に関し適当な時期に関係専門家によるセミナーを開催すること。

2.会議が討議した各議題についてのハイライトは,次のとおりであつた。

(1)第1回会議以来の両国間文化教育交流の総合的検討

 両国代表は,第1回の会議以降現在までの8年間に払われた多くの努力の結果として,文化教育の交流が一段と推進されたことを認めた。

 とくに,アメリカにおける日本研究,日本におけるアメリカ研究および図書館協力の成果が高く評価された。言語教育,芸術交流事業等については,今後さらに促進する必要があることが指摘された。また,他の分野に比べて立ち遅れていた人文および社会科学の領域における共同研究については,これが組織的,かつ,活発に実施されるにいたつたことが高く評価された。

 会議は,両国民の間の一層効果的な理解を図るためには,日本研究および米国研究を含む人文科学および社会科学の分野でのいつそう多くの専門家の養成と交流を促進することが急務であることを認め,かつ,この会議設立の趣旨に立ちかえつて重要な研究課題を設定して共同研究をさらに進めるとともに,日米双方とも相手国国民のもつ価値観に対する理解を深めることが必要であることが指摘された。

 また,それぞれの国民が相手国についての正しいイメージをもつことによつて誤解の発生を防ぐ上で,新聞とテレビジョンが大きな役割を果たすことにかんがみ,新聞記者およびテレビジョンプロデューサーの交流の活発化が望ましいことが強調された。

 さらに,両国代表は,外国語としての日本語または外国語としての英語の教育に関し,現在双方が行なつている事業の強化および教育方法の改善について,両国の関係者が常時情報および意見の交換を行なうことが望ましいことを指摘した。

(2)アジア諸国に対するそれぞれの教育文化計画の経験の交換

 日米両国は,この分野で多くの類似の経験をもつていることにかんがみ,かつ両国の経験についての情報と意見の交換がそれぞれの国で行なわれている事業の改善に役立つことを認め,両国のこれまでの経験とこれらの経験から生じたさまざまの問題点について意見を交換した。

 とくに,留学生の受入れの問題については,(イ)受入れ国の言語を能率的かつ効果的に修得させること,(ロ)留学生の派遣国の国情に精通した専門家を養成すること,(ハ)留学生の母国の国情に即した受入体制および教授方法を研究すること,並びに(ニ)留学生が帰国後において留学中に修得した知識および技術を生かしうるよう配慮することの必要性が強調された。

(3)教育交換計画の拡大とこれに関連する問題

会議は,日米両国がいつそう緊密な関係に移行しつつある新しい情勢に対応して新たな観点から,両国間の教育交換のあり方およびその拡大の方途について意見の交換を行なつた。

 両国代表は,今後の両国間の教育交換を一層効率的に実施するため学生,学者,研究者の交換の重要性を指摘するとともに,さらに,両国の相互理解にとつて特に影響力の強い新聞,テレビジョン等の分野における関係者の交流を含めることの望ましいことが指摘された。

 両国代表は,さらに,政府の関与する公の教育交換計画は,民間の資金では実現が困難な分野,とくに,日本におけるアメリカ研究,アメリカにおける日本研究,日本人に対する英語教育,アメリカ人に対する日本語教育,並びに,人文および社会科学の分野に重点をおくべきことを指摘し,また,その実施に当つては,それぞれの分野で質的に優れた者を選ぶことが必要であることが指摘された。また過去において,両国間の公の計画により米国に留学した日本人の多くが現在日本の各界の中堅となつており,他方同計画により日本に留学した米国人の多くが米国における日本研究を推進していることは,この計画の果してきた大きな役割を実証するとともに,これを高く評価すべきであることが指摘された。

(4)両国の有識層・文化人の相互理解増進に関する諸問題

 会議は,日米両国の有識者の相互理解を妨げている要因およびこれらの要因を緩和し,相互理解を増進する方法について,十分な分析を行なつた。

 両国代表は,両国民の相互理解を困難にしている要因は,単に両国の言語および伝統が異なることにあるばかりでなく,両国間の政治および経済の問題とも無関係でないことをも考慮に入れて,両国の広い範囲の知識層および文化人の間の相互理解の促進が,阻害要因の除去を図る上で,大きな役割を果すことを指摘した。

 両国代表は,また両国の社会がそれぞれ急速に変化していること,およびそれぞれの社会の内部における断絶の現象も上記の問題と関係があることを指摘した。

3.会議は,第4回会議の最終コミュニケに基づき設立された日米文化教育協力に関する合同委員会の両パネルの事務局を強化すべきことを勧告した。

 1972年ワシントンにおいて開かれる次回会議の期日は,1971年ハワイで開かれる合同委員会において協議する。