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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第3回佐藤総理大臣・ニクソン米大統領会談(要旨)

[場所] ホワイト・ハウス
[年月日] 1969年11月27日
[出典] 情報公開法に基づき外務省から開示された文書
[備考] 外務省アメリカ局
[全文]

佐藤総理・ニクソン大統領会談

(第3回 11月21日午前)

昭和44.11.27

アメリカ局

 本件会談は、21日午前10時21分より同11時04分までホワイト・ハウスで行なわれたが、要旨次のとおり。(通訳赤谷審議官)

 別室待機者

日本側 愛知外務大臣、木村官房副長官、下田駐米大使、森外務審議官、東郷アメリカ局長、中島条約課長、楠田、小杉両総理秘書官、渡辺書記官

米側 ロジャーズ国務長官(ただし直ちに退出)、ジョンソン国務次官、マイヤー駐日大使、グリーン国務次官補、スナイダー公使、フィン日本部長

1.総理より、本日の会談に入る前に繊維の問題につき1、2申上げたいことありと前おきの上、本件について大統領が有しておられる深い関心については十分承知しているが、一方日本側としても従来から説明しているとおり、沖縄問題と本件がからみ合つてくることはなんとしても避けたい。今朝本件の処理につき、外務大臣と下田大使に対し、おおむね次の3点につき指示を与えた。第1に、現在ジュネーヴで行なわれている話合いに関し、外部に発表する意図はないが、12月末までに話をつけ、その上ではつきりした形で約束をする。そこでもし、問題があつたら、大統領から直接下田大使を招致し、話していただきたい。申すまでもなく自分は、このことにつき十分責任をとる用意がある。第2に、米側として comprehensive な解決を強く求めているようであるが、これまでの交渉の過程で、米側も comprehensive という表現には固執しなくなつてきており、米側の injuries の諸要素(elements)の検討となつてきていると聞いている。かかる経緯にてらし、再度 comprehensive という表現の議論にもどすのは不適当と思うので、この際大統領において配慮してほしい。交渉の場所は、ジュネーヴですでに行なつていることは公表されており、参加者が専門家で時に意見の対立もあるが、別のものを作つてやつてはどうかという意見については、ジュネーヴで続けてやるのがよいと考える。大統領と自分の話は外部に出すべきでないと考えるが、事務当局の話合いが続いていることは発表されている。第3に、日本側代表団の構成につき、中山大使は外務省の人間であり、しつかりしているが、通産省からは課長クラスが出ているので、これについては帰国後早急に変えることとしたい、と述べた。これに対し大統領は、御指摘のように月末までに了解に達することは重要なことである。しかる後GATTの枠内で検討するのが望ましい。外部との関係については、プレス・クラブでの演説等でも言及されると承知していることでもあり、共同声明では繊維問題にふれないことにして差支えなく、広範な経済問題について意見の交換を行なつたといつた一般的表現にとどめておいて結構である。沖縄と繊維がからんでいるとの印象を与えたくないという貴総理の意向については十分承知していると述べ、総理は右を多とする旨答えた。

2.大統領より、総理との会談前に行なわれた米議会領袖との会談に言及し、議員側からこの問題が提起されたが、自分はこれまでの総理との話合いのラインで答えておいた。新聞等より質問ある場合は、繊維についてもディスカスし、今後も両国間で協議を続けると答えることとしたい。12月末までは外部に洩らすことはなく、その時になつたらGATTに本件を提起する適当な時期につき合意したい。ただ、 comprehensive という表現は一層むずかしい問題である。スタンズ長官がこれについては強い意見をもつている。これがどのように解釈されるべきかは今後の話合いの問題である。自分はできるだけ広い合意を望んでいる(How that is to be interpreted is open to discussion. I would hope that agreement would be as broad as possible.)。本件は自分にとつて、総理にとつての沖縄問題と同様、現実の問題なので(a practical problem)あり、問題によつては、実質よりも表現が一層重要なこともある。米側関係者は、 comprehensive agreement を press し続けるであろう。総理が selective ではなく、 comprehensive な agreement に到達するよう協力していただければありがたい、と述べた。これに対し総理より、自分はその場限りの男ではない。誠意をつくすというのが自分の信条である。この問題には幾多の困難があり、米側だけでなく、日本側においても業界は強い利害関係をもつている。しかし、本日述べた趣旨で自分が最善をつくすことを信頼してほしいと答えた。

{約210字黒塗り}

4.総理より、核拡散防止条約につき一言したしとして、日本政府の意向については、外務大臣から十分御説明させており、また核兵器に対する日本国民の特殊な感情も十分お伝えしてある。これまでの日本政府の考え方は大きく変つてはおらず、自分は、調印決定はまだ早すぎると考える。しかし、米側において、是非調印を急いでほしいという事情があるならばいつてほしい、と述べたのに対し、大統領は、日本側を press することはしない。これは日本自身で決定されることである。かりに考えが変ることがあればお知らせしようと答えた。

5.続いて大統領より、話は変るが、自分の東南アジアに対する考え方については、11月3日のヴィエトナムに関する演説を読んでいただければお分りねがえる。この際総理に強調しておきたいことは、ヴィエトナムの収拾が米国にとつての屈辱と敗北であると受けとられることは絶対に避けなければならないのであり、名誉あるものでなければならないということである、と述べた上、これをもつて、総理との会談は終了した。最後に大統領は、最大の懸念である沖縄問題を解決したが、われわれは正に新時代に向つて歴史的な第一歩をふみ出すことになるとして総理に握手を求めた。