データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 佐藤総理・ニクソン大統領会談(第1回11月19日午前)

[場所] 
[年月日] 1969年11月27日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告対象文書(3.1972年の沖縄返還時の有事の際の核持込みに関する「密約」問題関連),文書3-2
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査報告の際に公開された文書。公開されたものはタイプによる文書。漢字、送りがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。欄外の書き込みの記録は、本文の前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。
[全文]

<1ページ目 欄外右上>

極秘 無期限10部の内4号{前12文字数字以外はスタンプ}


佐藤総理・ニクソン大統領会談

(第1回 11月19日午前)

昭和44.11.27

アメリカ局

 19日午前10時40分より同12時10分までホワイト・ハウスで行われた本件会談要旨次のとおり。(通訳赤谷審議官)

別室待機者

日本側 愛知外務大臣、木村官房副長官、下田駐米大使、森外務審議官、東郷アメリカ局長、中島条約課長

米側 ロジャーズ国務長官、ジョンソン国務次官、マイヤー駐日大使、グリーン国務次官補、スナイダー公使、フィン日本部長、ホルドリッジ大統領補佐官

1.冒頭

 総理より、日米両国が太平洋をはさむ2大国として、その間の協力を通じて、この地域の安定に寄与しうる立場にある旨述べた。それに対し大統領より安全保障の問題については、力の均衡が重要で旨述べた上で中共はたしかに人口は多いがアジアに平和と繁栄をもたらす鍵は日米両国であり、日米友好関係が、今後四分の一世紀続くことがアジアの平和と繁栄に大きく寄与すると考えられ、もし、日米が離反することともなれば、この地域の平和の希望が絶たれることになると強調した。

 さらに、大統領は今回の会議を通じて、上記の認識の下に十分な話し合いを行ないたく、沖縄をはじめ、貿易、経済、経済協力等について、相互に満足しうる解決を見出さなければならない旨述べた。また大統領は、総理が政治家としてお互いに立場を理解し合える人であることを喜んでいる旨述べ、自分も総理も各々、国内に政治問題をかかえているので、今回の会談も二人切りで行なうこととした次第なる旨述べた。

 総理より、大統領は、歓迎式の挨拶の中で、かつては、バルカン半島が世界のトラブルスポットであつたが、今や、それがアジアに移つた旨述べたが自分(総理)としては、米国が自らはアジアに位置していないにもかかわらず、その国民の血を流し、予算を費してアジアの安全に寄与しておられることを高く評価している旨述べた。

2 会議の進め方及び新聞発表振り

 大統領より、19日は安全保障及び沖縄を含む東南アジアの政治・外交問題を話し20日に経済問題を話すこととしたい旨提案、総理もこれを了承した。 

 また、大統領より、沖縄問題等今回の会談の全容については、新聞、議会関係者などが、かなり興味をもつているので、会議内容についての対外説明振りについては途中でこれを明らかにせず共同声明によりその内容を明らかにすることとしたい旨述べた。それに対し総理より、大統領が議会への説明という問題を抱えていることを承知しているので、対外説明振りについては、大統領の提案通りで結構である旨述べるとともに、他方、会談が建設的であつたということはその都度明らかにしないと、かえつて報道関係者が疑問をもち、種々憶測することになる旨指摘し、大統領もこれを了解した。

3 安全保障及び沖縄

(1)(日米安保)

 総理より、社会党、共産党等の安保条約に対する態度を中心に、日本の国内事情を説明の上、安保条約の固定延長は諸般の考慮から好ましくないので、長期にわたり安保条約を継続するということとしたい旨述べ、すでに自民党が党議としてこの旨明らかにしている旨付言した。それに対し、大統領より沖縄問題の解決は、日本国内の安保反対勢力の存在という問題を解決することになるかと問うたので、総理より、(イ)社会党、共和党は、イデオロギー的見地から政府のすることにはなんでも反対するという姿勢であること、(ロ)「社」「共」は沖縄返還には反対していない(何故なら、それが国民全体の願望であるから)が、これを自分(総理)の手で実現することには反対していること、等を説明の上、日本国内の大多数は、日米安保体制を支持しており、また社会党の一部にもこれに反対しない者が出て来ているので、自分としては沖縄問題の解決により、社会党の力を減少せしめることを狙つている旨述べた自信をもつて安保堅持の方針を貫いて行きたいと考えている旨付言した。

(2)(アジア)

 大統領より、自分(大統領)は、アジア、とくに日本の事情に十分に精通しているつもりであり、また、日本が今後、アジアの平和と繁栄のために果しうる役割りについても、これを十分評価している旨述べた上でアジア政策について自由アジアと共産アジアの間に壁をつくる考えはなく、むしろいつの日か、その間に橋をかけることが必要であると考えているが、そのためには、まず自由アジアを強くすることが必要であると考えており、その見地から米国の現政権のtop priority goalを日米友好関係の強化においている旨述べた。

 それに対し、総理より自分(総理)がニクソン大統領副大統領当時、はじめて会つた時ニクソンが、日本の平和憲法は誤りであつたと述べたことが、強く印象として残つているが、日本はその後平和に徹し、今日に至つているが、その間 economic animal といわれたことはあつても、military animal といわれたことはない旨述べた上で、(イ)ソ連中共と近接し、朝鮮半島の緊張が続き、しかもヴィエトナム戦争が続いているという現下の四囲の情勢の下で日本の安全は米国のカサの下ではじめて確保しうること、(ロ)米国と日本は自由世界の1位と2位の経済力を有する国と言われるが、1位と2位の間には力の上でかなりのへだたりがある。こと等を説明した。

(3)(沖縄)

 上記のやりとりに引続いて総理より、(イ)沖縄が返還された上は、復帰後の沖縄を含む日本全体の安全を守るために、日本の自衛力を強化しなければならないことは、自分(総理)としても良く判つていること、(ロ)沖縄返還後の安全保障を考えるにあたつては、沖縄が、現在、日本の安全を含めアジアの安全保障に重要な役割を果たしていることを十分ふまえて行く考えであることを説明し、自分(総理)は大統領に沖縄を返してくれということをまだ言い出していないが、沖縄の返還後の安全保障の問題については上記の考え方を持つていることをまずお伝えする旨述べた。

 それに対し、大統領より、沖縄にある米軍基地は日本及びアジアの防衛にとり極めて重要である旨指摘し、今後沖縄の返還のための色々な取決めを work out し、沖縄が日本に返された後は沖縄が日本の主権の下におかれることになるので、日本が軍事的にgreater responsibilityを assumeして欲しく、これは要望(demand)ではなく、事実の問題( statement of fact )である旨述べた。さらに大統領は、(イ)米国側としても、沖縄の施政権を日本に返還する結果として、沖縄の米軍の機能が若干弱まる結果となることは覚悟しており、また日本の憲法上の問題も判つているが、核能力ということとは別に、日本が significant military capacity をdevelopをすることが世界の将来のためにのぞましい旨及び、(ロ)現在世界には、米国、西独を含む西欧、ソ連、中共という四つの勢力圏があるが、これに日本が加わりこの5者間の力の均衡をきずくことが必要と考えている旨述べこの考え方に対する総理の comment を求めた。

 それに対し、総理より、日本としては、純軍事的に世界の平和維持に加わることは無理であるが、経済協力などの面ではすでにその方向を(に)努力している旨指摘し、非核三原則{を抹消}にを説明の上、大統領のいわれることも純軍事的なものではないと了解する旨述べた。それに対し、大統領より、自分(大統領)としてももちろん、経済協力が間接的に安全の維持に役立つていることは承知しているが、自分の云う significant military capacityとは通常兵器の事を云つている旨述べたので、総理より日本としては、今後「空」及び「海上」を中心に自衛力を強化して行く方針である旨述べ、大統領よりも、右は結構なことである旨答えた。

4.沖縄問題の財政面

 大統領より、沖縄の財政問題についても、事務レベルの予備折衝が順調に進ちよくしていると聞いている旨述べたので、総理よりも自分もそのように聞き、米側財務当局者の努力を多としている旨述べた。

5.共同声明の表現(核兵器に関する部分)

 大統領より、施政権返還後の沖縄の基地の使用について、緊急事態における沖縄基地の使用について、どういう手続きでやるかが一番問題である(最近の戦争については2、3日の内、極端な場合には、2、3時間の内に決断しなければならないことがある旨付言)旨述べ、その点を共同声明でどう表現するかにつき、自分(大統領)は一案を有しているが、総理の側に案がおありか否かと問い、自分(大統領)としては、沖縄が日本に返還されれば、そこにある米軍基地のステータスも本土並みとなるので、上記の緊急事態の場合の手続きとの関連で、これを上院の軍事委員会等にどう説明するか頭を痛めている次第である旨付言した。

 (ここで、総理より、日本側案の内、「日米安保条約の事前協議制度に関するその立場を害することなく」との表現を削除したものを示し、大統領より、米側案を示した。)

 総理より、米側案を一読の上、沖縄が日本に返還された後には、日米安保条約がなんらの変更なしに適用されることになるので、沖縄の軍事的役割りについて自分(総理)も十分認識して対処して行くこととしたいが、共同声明の上で、重大な事態の際に沖縄の米軍基地の機能を損わないとすることは非常にむづかしい問題である旨述べた。

 他方、大統領は、前記日本案を一読の上、この表現は自分(大統領)と総理の間の文章としては、これで十分であるが、自分が米国民に説明するためには、もう少し詳しく事前協議を説明する必要がある旨述べた。

(ここで総理は、「事前協議制度」云々を含んだ案を提示)

 大統領は、これを一読の上、右の表現につき総理が日本国民を納得せしめうるのであれば、自分(大統領)はこの表現で米国民を納得せしめる用意がある旨述べ、総理も大統領のこの発言を多とする旨述べた。

(注:上述日米各案別添は省略)

6 ホット・ライン

 大統領より、EC‐121機事件を例に引き、今後日米間で緊急事態において事前協議の手続きに基づき緊急な連絡を行なう必要があるところ、右につき総理に何か良いお考えはないかと問うたので、総理より、米国は既にソ連との間にホット・ラインを設け、また、ボン及びロンドンとの間にも同様のホット・ラインを開設すると聞いているが、東京・ワシントン間にもホット・ラインを開設することとしては如何と述べたところ、大統領は右は excellent な考えである旨述べ、これが開設されれば日米両国は全く対等の立場で協議しうることになると思う旨述べた。

 大統領より、ホット・ラインの開設につき、共同声明に盛込むこととしては如何と述べたのに対し、総理より、このことはいずれ外部に知られることとなろうが、今回の共同声明に盛込むことは慎重を要するところである旨述べたところ、大統領は総理のご意見に従い、共同声明には盛込まないこととすべしと述べた。

7.共同声明の核兵器に関する表現の確認

 総理より確認までにと前置きして、共同声明の核に関する部分の表現は、{別覚1を抹消}前述の日本側案の通りとすることで合意に達したと考えて良いかと質したのに対し、大統領より、その通りである旨述べるとともに、これは歴史的な moment であるから握手をしたいと述べ、握手を求め、総理も無言のままこれに応じた。

8.メースBの撤去

 大統領より、ここでもう一つ総理にとつての良い話がある旨前置きして、米国政府は今後3週間以内に、即ち、日本の総選挙の前に沖縄のメースBの漸進的撤去を開始することに決定した旨述べ、総理より右につき謝意を表した。

9.新聞発表振り

 ここで愛知大臣を別室より招致して新聞発表振りを次のとおり打合せ会談を終了した。

 「本日の会談では、沖縄を含め、アジア問題ならびに国際情勢について広範に意見を交換した。この会談は今後も続けられるが、第2回会談では、主として経済問題を話し合い21日に共同声明を発表する。本日の会談は極めて友好的かつ建設的であつた。」