データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 佐藤総理・マイヤー米大使会談

[場所] 
[年月日] 1969年11月11日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告対象文書(3.1972年の沖縄返還時の有事の際の核持込みに関する「密約」問題関連),文書3-1
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告の際に公開された文書。公開された文書は外務省罫紙に手書き、英文はタイプによる文書。。漢字、ふりがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。欄外の書き込みの記録は、本文の前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。
[全文]

<1ページ目 欄外右上>

極秘 無期限 部の内 号{前9文字スタンプ}


大臣

次官

森審議官

条局長

条参

条々長

アメリカ局長

参事官

米北一長※{※は花押}


佐藤総理、マイヤー米大使会談

44.11.11

米北一長

本11日午後(16:30より約1時間余)の会議概要次のとおり。

(出席:総理、愛知外務大臣、東郷アメリカ局長、赤谷審議官(通訳)、米北一長、小杉秘書官、「マ」大使、スナイダー公使、マクニール書記官)

(冒頭 大使より14日一時帰国出発・日程には上下両院議会訪問もある旨、準備交渉は大臣・大使レベルほか長期間・精力的に行なわれ極めて有用なりし旨(総理これを慰労)発言)

大使:本国より{1文字抹消あり}大統領決裁ずみの、会議に臨む米側考え方を総理にお伝えすべしとの訓電接到、さほど驚くような内容ではないが、以下要旨を御説明したい。なお文書にしたものを差し上げる。(注:別添英文)

1.大統領は貴総理御来訪を心待ちにしており、両国の共通の問題、特に沖縄問題の検討が双方にとり有用と信じている。

2.共同声明書は復帰後の在沖、在本土基地の通常兵力による使用に関する共通の理解を行動に反映しており、大統領はこれを総理と確認することを期待。

3.先月愛知外務大臣より屢次核はどうなっているかと御質問があったが、その点につき画期的なものではないがお話ししたい。

核兵器の貯蔵(nuclear storage)は大問題で大統領は総理とこれに{1文字抹消あり}つきとくとお話したい。

大統領は総理にとっての政治問題に同情的であり理解を有していることを知って頂きたい。同時に核兵器は地域での米戦力の至大(vital)な要素で、上院でのsense of the senate決議(バンド議長提出)は貯蔵制限の如何なる提案も米国で重大な戦略的政治的問題を惹起すべきことを裏書き(underscore)している。

米側の希望は両政府による本問題対処の最善の取り決め作成にあり、よって大統領は総理との会談で双方にとりかくも重要な本問題を協議するまで何等の決定をしたくない次第である。

かかる協議及び決定に当って総理が本件を大統領と突込んで討議し解決に向われる用意があられることはことの他有用である。

なお差上げた文書には記載されていないが、他の重要{3文字程度抹消あり}案件たる復帰に伴う財政面の問題につき日本側の建設的態度、特に会談の友好的雰囲気を評価し、

解決への到達を期待する。

復帰問題とは別に、上記文書中に出ている2国間圣済問題につき、大統領は総理と日本側の輸入・投資規制緩和の促進と、繊維の対米輸出問題を検討したい。(以下別途記録「日米圣済関係」参照)

総理:(他発言後)核の持ち込み‐「貯蔵」と同義語であろう‐につきどういう話が出るか?余計な3原則(ママ)を作ったが、これとぶつからない方法は仲々無いのでは?最後に出て来るのは本問題か‐誰にも相談せず悩んできたが、本日の大使のお話しでもあり、外務大臣と相談して腹づもりを作ろう。これは想像の外の問題ではない・・・

大使:あと2‐3点あり。

先般愛知大臣より共同声明案について今までの協議、合意した沖縄問題についてのみに限定したいとのお話があったが、本日本国政府より単一問題に限定されざる、圣済、軍縮等を含む、より通常の形の共同声明を望む旨案文(すでに日本側へお渡しずみ)と共に訓令越してきた。本件はこゝでなく東郷局長・スナイダー公使レベルで協議して貰いたいが、概して好い内容ではないかと思っている。(尤も繊維は一寸別だが)軍縮についても、戦略兵器制限関係の定型的(standard)の文言を含んだものは如何。

外務大臣:(米案には)NPTほか色々入ってるが、沖縄の分とその他一般分に分けた、2本建の共同声明としたら如何。或はうち一つはjoint press releaseの形とするのも一案ならん。

大使:沖縄分の文{言を削除}章を最後の項目として分離できるか否か、●{渋のさんずいをトル}か判らないが。

総理:NPTまで入れるのは好くない。(東郷局長:当方としては入れない所存)

外務大臣:日本側が自立的になすべき事柄でもある。

大使:時間も切迫しているが、協議したい。

外務大臣:NPT以外はそれほど困難ではあるまい。

東郷局長:圣済問題もある。

総理:圣済問題は抽象的な書き方ならよかろう。なお今後日米が共に努力すべき方向は緊張緩和である。表立ってこれを書く要もなかろうが、声明案の中共のくだりはやゝ緊張緩和とは方向が違う様だ。書かなくても済むことは書かない方がよくないか?

大使:もっと協議致したい。本国は何かの言及がほしい様だ。前回の共同声明にはあり、欠けていると注意を惹こう。

総理:中共の反省を求める、ということもあるから。

大使:それは良い論点である。

外務大臣:核について。米側訓令で心配されている問題は、当方も当初より理解しているつもりであり、それを含めたギリギリの案をこちらからお出ししてあり、その案で本{件を抹消}問題をカバーしているつもりである。大使も「ス」公使もよくご理解のことと思うが、ワシントン説得に助力願いたい。

大使:大臣の案文には多大の考慮が含まれていることは本国にも言ってあるが、全くコメントが返って来てない。興味ある方式(interesting form)だが、米国にとっては問題である。

(先月末日の)ウィーラー統幕議長は「総体的姿勢は抑止力の心理面の維持で、抑止力の如何なる要素も減退したと、の印象を与えてはならない」と言っている。

いまひとつ‐厳に極秘として頂きたいが‐

在沖化学兵器撤去を約してから、実施に向って努力してきたが、目下大きな{2文字抹消}問題に{約4文字抹消}際会している。即ち米国立法府は特にかゝる程の案件には敏感であり、核及びCBR兵器の撤去には立法府との特別取り決めが必要とのことで、既に手続きを開始した。しかし撤去作業開始は総理御訪米直後(完了までには合理的期{限を抹消}間必要){2文字抹消}期待しているという現状である。

総理:公明党の米軍基地実態調査について、「変なことをするとスパイ行為として捕えられる惧あり」と注意しておいたが、「毒ガスがまだある」とか「メースBはどちらの方向に向いている」などと言ってきた。創価学会員の情報を集めて。

大使:「友好人士」というので沖縄{3文字抹消}での調査を許可したところ、その結果がこの様なこととなった。

総理:政府と公明党だけなら平穏に話ができるが、国会では様子が異り、油断できない。

大使:毒ガスの件は厳にこゝ限りとして頂きたい。機会が動く前に洩れたら一大事である。なお屋良琉球主席には実施直前に話しする所存だが、先ずは総理に申し上げた。

総理:この話は忘れることとする。

ところで訪米より帰国後臨時国会を開かなくてはならない。その時期は13日の閣議で決めたく、12月はじめとなろう。

(大使の質問に答え)総選挙についてはむつかしい。

国民に訴える大義名分がない。沖縄が旨く行けば選挙は不要、拙く行っても同じ。しかし衢{チマタとルビあり}ではすでに選挙終盤戦位の宣伝が行われている。(大使の12月-1月には休暇をとりたいとのコメントに対し)正月が来ると、選挙をやるときもない。

(以上にて会議終了、大使より「良い御訪米を祈り上げる」と発言。外務大臣よりプレスに対し「本日は雑談せるのみ」と言うことを提案、了承。)


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1969.11.11 佐藤総理マイヤー大使会談

SECRET

The President looks forward to his meeting with the Prime Minister in mid-November and believes that their review of common problems will be valuable to both goverment. The President believes that a full discussion regarding Okinawa reversion is particularly desirable.

The draft joint communique reflects a high degree of common understanding on the conventional use of bases in Okinawa and Japan following reversion. The President will want to confirm these important understandings with the Prime Minister.

The issue of continued nuclear storage after reversion is a major one which the President will want to explore carefully with the Prime Minister. We want the Prime Minister to know that we appreciate and sympathize with his political problems in Japan. At the same time, nuclear storages is a vital element in our strategic strength in the area, and as exemplified by the Byrd “sense of the Senate” Resolution any proposal to limit that storage poses serious strategic and political issues for the U.S. It is, of course, our desire to work out the best possible arrangements to meet the problems faces by both goverments. Thus, the President does not want to make any decision on this matter so important to both himself and the Prime Minister until they can discuss it together. In such a discussion and in making his decision, it would be helpful if the Prime Minister would be prepared to discuss this issue in depth with the President and to explore possible solutions which would meet both countries requirements.

In addition to the above issues directly connected with reversion, the President will want to talk to the Prime Minister about bilateral economic issues that are of deep concern in the U.S. These particularly involve the problem of the slow pace in the reduction of Japanese import (and investment) restrictions and our inability thus far to arrive at any understanding or means to handle the problem of Japanese exports of synthetic textiles and woolens to the U.S. At this time the textile issue is of particular concern to the President. These matters present serious economic and political issues for the U.S. The President hopes that he and the Prime Minister can reach agreement, at least in principle, on an arrangement that will provide comprehensive limitations reasonable to both parties on exports of wool and synthetic products to the U.S.