データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 8月18日スナイダー公使と会談の件

[場所] 
[年月日] 1969年8月18日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告対象文書(1.1960年1月の安保条約改定時の核持込みに関する「密約」問題関連),文書1-7
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告の際に公開された文書。公開された文書は外務省罫紙に手書き。漢字、ふりがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。1ページ目の欄外の書き込みの記録は、本文の前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。また文中での欄外の書き込みは注釈により文末に説明。
[全文]

<1ページ目 欄外上>

次官

森参事官

田中公使

条約局長

米参

北米一長 ※{※は花押}

極秘{前2文字二重四角で囲み線あり}

極秘 無期限 3部の内2号{前11文字数字以外はスタンプ、上記の極秘に重ねて押してある}

<1ページ目 欄外右>

一週間 米局長

   /1.原寸大

コピー−2.本コピー(ファイル)

   \3条約局


8月18日スナイダー公使と会談の件

44・8・18 米局長

8月18日スナイダー公使と会談の要旨次のとおり。

A.共同声明案

本官 ― 我方8月12日共同声明案に対する15日の米側ペーパーの諸点に関し若干コメントし度し。

1. 第2点 我方案から中共の核装備{前6文字下線あり}云々を削った趣旨如何。又軍備云々は言及しているが、このcontextには必ずしも当てはまらぬかと思う。

2. 第2点 peace-loving nations{前2語下線あり}は free nations と同義語と解してよいか。

3. 第2点 末文米案はどぎつ過ぎるから、別添一{添一に丸で囲みあり}の二のように改め度し。

公使 ―

1. 米案の趣旨は中共関係で positive な扱方をしたい趣旨である。軍備云々に関する御指摘はその通りかも知れない。何れにせよ実際問題ではないから、如何様にも改善したし。

2. 然り。

3. 結構である。

本官 ―

第3点 米側が参戦国として honorable peace と云う字を採りたいと云うことであるならば我方案の次の文章末段は peace based on justice をthat end{前2語下線あり}と代った方がよからう。

公使 ― 賛成。この点はワシントンより より▲しい{▲は解読不可}表現を言って来るかも知れぬ。

本官 ― 第5点 米側は我方の need という字を好まぬと云うことであったが、我方▲方{▲は解読不可}をもとにして別添2{前5文字下線あり}を以て{needを抹消}原案に代っては如何。

公使 ― 結構であると思う。

本官 ― 第6点は小笠原の共同声明{前8文字下線あり}の表現をとつている。前回説明した理由で日本側原案がよい

公使 ― 分った。

本官 ― 第7点に関し、

1. “including” 以下の挿入句が “transit” を意図しているのならば困る。 transit{前1語下線あり}については我方としては之には触れられぬと云う結論である。

公使 ― ロジャーズ長官の grandfather approach{前2語下線あり}即ち、今のまゝで続けると云う考から入ったものであるがtransitもその一部である。触れられぬとは、了解は続くと云うことで触れないということか。

本官 ― 現状のまゝと言うの他ない。何れにせよ “including”{前1語下線あり}以下{前文字下線あり}の挿入句は困る。

2.末段 without any substantial modifications は、前回の経緯で substantial{前1語下線あり}を削る要あり。地位協定の枠内で合同委員会で{取極めるを二本線で抹消あり}所要の調整を行うことは異存なく、小笠原の協会も共同声明等で{2文字分抹消あり}触れることなく実際に合同委員会で措置したが、その例に倣って措置したい。

公使 ― 全く何もやらぬと云う表現は困ると思う。without以下を削る訳には行かないが、それでも特別取り決めなしと云うことになるではないか。

本官 ― 理屈はその通りだが、「特別取り決めなしに」と云う点が我方国内的に一つの重要ポイントであるので、削除は支障あり。国会に持つて行かなければならぬような取決めは困ると云うことで行政権の範囲内で合同委員会でやれるような事は構わないのである。

公使 ― “without modification of these arrangements” と云う表現ならばよいかも知れぬ。更に検討願いたい。

本官 ― 第8点は今直ちにどうこう出来るわけではないが、日本案と米案では、大統領のunderstandingの内容が異っている。米案の“understanding” の内容は日本案第6項第1文に既に盛られている。よって、一つの考方として日本案第6、第7項を併せて一項と{前15文字下線(波線)あり}し、第7項冒頭 “described” の前に“further” を入れ、同第2文“expressed … and””を削った形とすることを考へ得べし。

公使 ― 御趣旨はよく理解出来る。何れにせよ前記第7点の1及び第8点は訓令を待たなければ何とも出来ず、当分保留し度し。

本官 ― 次回は21日とし、一方的発言案につき話し度し。我方では朝鮮半島と台湾の並列は依然極めて困難である。

公使 ― 米側から見て大きな問題点であるこの点に関し、先般申し上げた如く、日本政府の方から韓国のみならず国民政府を安心させる措置をとることができるなら非常に助かるので御検討戴き度い。

 なお、日本案第5項の72年のくだりで米側から見たゆとりを与へるため “accomplishing the reversion”を“reading agreement on there specific arrangements for reversion”とし得ないか。

本官 ― 我方では協定署名後、国会審議、批准と云う手続があるので問題だが、検討すべし。第9項、即ち pre-reversion 我方案(別添3)につき千葉課長よりお話する(以下B){記録別途を二本線で抹消あり}){右下向きの矢印あり}

B.返還準備措置

 当方より別添三の共同声明案第9項案(英文)を手交し、当方の考え方および国内ならびに沖縄における事情を説明せるところ、先方も(日本側の)意のある所はよく分{ったを抹消}り、本案も有用であるが、米側としても国務省と軍との調整の問題があり、出来るだけ返還に関係する話し合いは東京(即ち自分)で一元的にコントロール出来るようにしたい旨述べ、このため{約3文字黒塗りあり}日米協議委員会{約8文字黒塗りあり}を主たる機関とする書き方、例えば「両国政府が東京及び那覇で連けい協力を緊密にする必要あり。この為東京の協議委員会が総括的責任を負うが、同時に那覇に協議委員会にリポートする混合準備委員会を設置する」云々のリーディングも考えられるので検討願いたい。自分の方も対案を{考えてみた上を抹消}出すから▲▲{▲▲は解読不可}双方で一緒に考えた上でワシントンに報告したいと思う。

従つて本日頂いた案はこのまゝワシントンに送ると軍部あたりに飛びつかれても困るので、一応伏せておきたいと述べ、当方も了承した。