データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 一九六七年一一月一四日および一五日のワシントンにおける会談後の佐藤栄作総理大臣とリンドン・B・ジョンソン大統領との間の共同コミュニケ

[場所] ワシントン
[年月日] 1967年11月15日
[出典] 外交青書12号,22−26頁.
[備考] 
[全文]

一 佐藤総理大臣とジョンソン大統領は,一一月一四日および一五日の両日ワシントンにおいて会談し,現下の国際情勢および日米両国が共通の関心を有する諸問題に関し意見を交換した。

二 総理大臣と大統領は,日米両国が,ともに個人の尊厳と自由という民主主義の諸原則を指針として,世界の平和と繁栄をもたらすため,今後とも緊密に協力して行くことを明らかにした。両者は,平和維持機構としての国際連合の権威と役割りを高めること,核兵器拡散防止条約の早期締結を含め,軍備の管理および軍備拡大競争の緩和を促進すること,並びに開発途上の国,特に東南アジアの開発途上の国に対して効果的な援助を与えることの重要性に留意した。

三 総理大臣と大統領は,最近の国際情勢,特に極東における事態の発展について隔意なく意見を交換した。両者は,中共が核兵器の開発を進めている事実に注目し,アジア諸国が中共からの脅威に影響されないような状況を作ることが重要であることに意見が一致した。また総理大臣と大統領は,中共が究極的にいかなる対外姿勢をとって行くかは現在のところ予想し難いが,自由諸国としては,アジア地域の政治的安定と経済的繁栄の促進のため,引続き協力することが肝要であることに意見が一致した。さらに両者は,アジアにおける持続的な平和確立の見地から,中共が現在の非妥協的態度を捨てて国際社会において共存共栄を図るに至るようにとの希望を表明した。

四 大統領は,米国が南ヴィエトナム人民の自由と独立を擁護するため,引続き援助を続ける決意であることを再確認した。同時に,大統領は,紛争の正当かつ永続的な解決を見出すため,いつでも話合いに入る用意のあることを明らかにした。総理大臣は,紛争の正当かつ公正な解決を求めるという米国の立場に対する支持を表明するとともに,できる限り平和探求に努力するとの日本の決意を再確認した。総理大臣は,また,北爆の停止にはハノイによるそれに対応した措置が期待されるべきであるとの見解を表明した。総理大臣は,東南アジア訪問において,共産主義の干渉と浸透に対処するための自由世界の努力に対し,広範な支持のあることを見出した旨を述べた。総理大臣と大統領は,南ヴィエトナムの新しい政府が,安定した民主的諸制度と住民の社会的,経済的な向上に向って前進を続けることが重要であることに意見が一致した。

五 総理大臣と大統領は,日本を含む極東の安全保障の問題について,隔意なく意見を交換した。両者は,日本の安全と極東の平和および安全の確保のため,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力および安全保障条約を堅持することが両国の基本政策であることを明らかにした。総理大臣と大統領は,平和と安全の維持が,単に軍事的要因のみならず,政治的安定と経済的発展にもよるものであることを認めた。総理大臣は,日本がその能力に応じてアジアの平和と安定のため,積極的に貢献する用意があると述べた。大統領は,このような日本の努力はきわめて貴重な貢献をなすであろうと述べた。

六 総理大臣は,最近の東南アジア諸国訪問に言及し,これら諸国が自助の精神に立脚して自国民の福祉と繁栄の増進に努力していることを説明するとともに,このような努力に対し引続き援助の必要があることを指摘した。総理大臣は,日本政府としては,この必要に応えるため,援助量を拡大し,その条件を緩和することにより,特に農業,漁業,運輸,通信の分野において,東南アジア地域に対し,より有効な二国間ないし多角的な援助を供与することに引続き努力する意図であることを表明した。総理大臣は,特に東南アジアにおいて地域協力の促進に向って望ましい趨勢がみられたことを説明するとともに,アジア開発銀行とその特別基金の前途の明るいことに言及した。総理大臣は,さらに,日本政府としては,その運営の拡大を援助することにより,これらの機構の一層の活用を図りたい意向であると述べた。総理大臣と大統領は,開発途上の地域,特に東南アジア諸国に対する経済援助をさらに強化する必要を認め,この分野で一層緊密に協議することに合意した。

七 総理大臣と大統領は,沖繩および小笠原諸島について隔意なき討議をとげた。総理大臣は,沖繩の施政権の日本への返還に対する日本政府および日本国民の強い要望を強調し,日米両国政府および両国民の相互理解と信頼の上に立って妥当な解決を早急に求めるべきであると信ずる旨を述べた。総理大臣は,さらに,両国政府がここ両三年内に双方の満足しうる返還の時期につき合意すべきであることを強調した。大統領は,これら諸島の本土復帰に対する日本国民の要望は,十分理解しているところであると述べた。同時に,総理大臣と大統領は,これら諸島にある米国の軍事施設が極東における日本その他の自由諸国の安全を保障するため重要な役割りを果していることを認めた。

 討議の結果,総理大臣と大統領は,日米両国政府が,沖繩の施政権を日本に返還するとの方針の下に,かつ,以上の討議を考慮しつつ,沖繩の地位について共同かつ継続的な検討を行なうことに合意した。

 総理大臣と大統領は,さらに,施政権が日本に回復されることとなるときに起るであろう摩擦を最小限にするため,沖繩の住民とその制度の日本本土との一体化を進め,沖繩住民の経済的および社会的福祉を増進する措置がとられるべきであることに意見が一致した。両者は,この目的のために,那覇に琉球列島高等弁務官に対する諮問委員会を設置することに合意した。日米両国政府および琉球政府は,この委員会に対し各一名の代表者と適当な要員を提供する。この委員会においては,沖繩と日本本土との間に残存している経済的および社会的障壁を除去する方向への実質的な進展をもたらすような勧告を案出することが期待される。東京の日米協議委員会は,諮問委員会の事業の進捗について高等弁務官から通報を受けるものとする。さらに,日本政府南方連絡事務所が高等弁務官および米国民政府と共通の関心事項について協議しうるようにするため,その機能が必要な範囲で拡大されるべきことにつき意見の一致をみた。

 総理大臣と大統領は,小笠原諸島の地位についても検討し,日米両国共通の安全保障上の利益はこれら諸島の施政権を日本に返還するための取決めにおいて満たしうることに意見が一致した。よって,両者は,これら諸島の日本への早期復帰をこの地域の安全をそこなうことなく達成するための具体的な取決めに関し,両国政府が直ちに協議に入ることに合意した。この協議は,この地域の防衛の責任の多くを徐々に引受けるという総理大臣が表明した日本政府の意図を考慮に入れるであろう。総理大臣と大統領は,米国が,小笠原諸島において両国共通の安全保障上必要な軍事施設および区域を日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づいて保持すべきことに意見が一致した。

 総理大臣は,小笠原諸島の施政権の返還は,単に両国の友好関係の強化に貢献するのみでなく,沖繩の施政権返還問題も両国の相互信頼関係の枠の中で解決されるであろうとの日本国民の確信を強めることに役立つであろうと述べた。

八 総理大臣と大統領は,ケネディ・ラウンド交渉が成功裡に終結した後の貿易および経済政策について意見を交換した。両者は,世界貿易の継続的な拡大が両国の利益に最もかなうものであると認め,この目的のため引続き緊密に協力することを約した。両者は,より自由な貿易をもたらし,また,他の国際取引の一層の自由化をもたらす諸政策を支持することを再確認した。両者は,両国政府が,両国間の貿易および経済問題に関して相互に満足すべき解決策を見出すため,引続き緊密に協議すべきであることに意見の一致をみた。両者は,さらに,両国それぞれの全般的な国際収支の均衡を早期に回復することが両国の基本的関心事であることに注目し,この目的を達成するため,相互に支援すべきことに意見が一致した。この点に関連し,かつ,相互に有益な両国間の貿易および金融関係の継続拡大を可能ならしめるとともに,アジア太平洋地域の開発と安定を増進するため,両者は,早い機会に日米貿易経済合同委員会の小委員会を設置することにより,同委員会を一層活用することに意見の一致をみた。この小委員会は,両国の短期的および長期的国際収支の問題を含め,両国にとって重要な経済および金融問題を協議する場となろう。

九 総理大臣と大統領は,日米両国間の科学分野における協力が活発であり,かつ,拡大しつつあることに満足の意を表明した。両者は,特に,一九六五年一月の前回の会談の結果設立された日米医学協力計画によってなされた貢献および科学協力に関する日米委員会が引続き業績を挙げていることを認めた。

 総理大臣と大統領は,宇宙空間の平和的探査と利用について討議し,宇宙空間の平和利用に向っての人類の進歩の過程における新たな道標である月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する原則に関する条約が最近発効したことに満足の意を表明した。両者は,現在までの日米両国間の宇宙開発に関する協力を再検討し,将来の協力の可能性を検討した。両者は,両国政府が宇宙空間の科学的研究および平和利用のための衛星を開発し,打上げることを中心に,かかる協力の可能性をさらに検討することに意見が一致した。

 総理大臣と大統領は,増大する世界の人口のための食糧源として,また,鉱物源として海洋の重要性が高まりつつあることを認識して,天然資源の開発利用に関する日米会議を通じて,海洋資源の利用のための調査および技術開発の分野で日米両国の協力を一層拡大する方法を探究することに意見の一致をみた。このため,日米天然資源計画の一環としてこの分野における両国間の協力について両国政府に対する報告および勧告を準備すべきことに意見が一致した。

 総理大臣と大統領は,原子力平和利用の促進が人類の福祉の増進のための無限の可能性を含むものであり,この分野において日米両国が緊密な協力関係にあることに満足の意を表明した。両者は,原子力の分野における新協定締結のための現在の交渉が順調に進捗していることをよろこび,特に,総理大臣は,ウラン二三五,プルトニウム等の核燃料の日本に対する供給を増加するとの米国政府の意向に満足の意を表した。

一〇 総理大臣と大統領は,今回の第二回目の会談がきわめて有意義であったことに満足し,今後とも緊密な個人的接触を続けるべきであるとの希望を表明した。