データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 佐藤栄作首相とジョンソン米大統領の共同声明

[場所] ワシントン
[年月日] 1965年1月13日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),542ー546頁.外務省所蔵文書.
[備考] 訳
[全文]

1.ジョンソン大統領と佐藤総理大臣は,

1965年1月12日及び13日の両日,ワシントンにおいて会談し,現下の国際情勢及び日米両国が共通の関心を有する事項に関し意見の交換を行なつた。会談には,ラスク国務長官及び椎名外務大臣と三木自由民主党幹事長が参加した。2.大統領と総理大臣は現在の国際情勢を検討し,共通の信条とすべての人のための正義,自由及び繁栄に基づく恒久的な平和という共通の目的に基づく両国間の盟邦関係を再確認した。両者は,両国がこの共通の目的を追及するためこれまで以上に緊密に協力して行くべきであるとの確固たる決意を表明した。両者は,この目的のために,両国が単に日米間の問題にとどまらず,広くアジア及び世界の問題について,常時最も密接な連絡と協議を行なうべきことを合意した。

3.大統領と総理大臣は,世界の平和と繁栄の維持のために国際連合が果たしている役割を高く評価するとともに,現在国際連合が直面している困難な諸問題について隔意ない意見の交換を行ない,今後とも協力して国際連合の機能を強め,かつ,権威を高めるよう努力することを合意した。

4.大統領と総理大臣は,できるだけすみやかに軍備の管理及び軍備拡大競争の緩和を促進することが望ましいことを認め,部分的核実験禁止条約の成立に引き続き,全面的核実験禁止の実現に向かつて前進できることを強く希望する旨を述べた。

5.大統領と総理大臣は,中国問題がアジアの平和と安定に至大の影響を及ぼす問題であることを認め,この問題に対する両国の立場について腹蔵ない意見を交換し,今後も密接な協議を行なうことを合意した。大統領は,米国の中華民国に対する確固たる支持の政策を強調するとともに,中共の近隣諸国に対する好戦的政策及び膨張主義的圧力がアジアの平和を脅やかしていることについての重大な関しんを強く表明した。総理大臣は,中華民国政府との間において,正規の外交関係に基づく友好的なきずなを維持するとともに,中国大陸との間においては,政経分離の原則に基づき現在行なわれている貿易等の分野における民間の接触を引き続き増進して行くことが日本政府の基本政策である旨表明した。

6.大統領と総理大臣は,アジアにおける不安定,かつ,困難な情勢,なかんずくヴィエトナム情勢について深い関心を表明し,南ヴィエトナムの自由と独立のためには,今後とも忍耐強い態度が必要であることについて意見が一致した。両者は,アジアの平和と進歩が世界の平和にとつて必須であるとの確信を新たにした。

7.大統領と総理大臣は,世界の発展途上にある諸国の政治的安定を図るためには,生活水準の向上及び社会福祉の発展が不可欠であることを認め,これらの諸国に対する経済協力をさらに強化することを合意した。両者は,かかる援助の方法につき,今後も引き続き協議することを合意した。総理大臣は,アジアに対する開発及び技術援助において占める日本の役割を増大させることについて,特に強い関心を表明した。

8.大統領と総理大臣は,日本の安全の確保につきいささかの不安もなからしめることが,アジアの安定と平和の確保に不可欠であるとの確信を新たにした。このような見地から,総理大臣は,日米相互協力及び安全保障条約体制を今後とも堅持することが日本の基本的政策である旨述べ,これに対して,大統領は,米国が外部からのいかなる武力攻撃に対しても日本を防衛するという同条約に基づく誓約を遵守する決意であることを再確認した。

9.大統領と総理大臣は,今後とも両国関係の一層の緊密化を図る不断の努力が重要であることを確認した。両者は,特に,両国のそれぞれの経済成長を基盤とした日米関係の拡大は,日米双方にとりきわめて重要な意味を有することを認め,また,世界貿易の拡大と有効な国際金融協力のための世界的努力について,日米相互に協力すべきことについて意見の一致をみた。

10.大統領と総理大臣は,閣僚レベルにおける意見の交換の場である日米貿易経済合同委員会を始め,日米科学委員会及び日米文化教育会議の3委員会を今後とも継続し,かつ,活用することが望ましいことを確認した。両者は,さらに日米貿易経済合同委員会の第4回会合を7月中に開催することを同意した。

11.大統領と総理大臣は,琉球及び小笠原諸島における米国の軍事施設が極東の安全のため重要であることを認めた。総理大臣は,これらの諸島の施政権ができるだけ早い機会に日本へ返還されるようにとの願望を表明し,さらに,琉球諸島の住民の自治の拡大及び福祉の一層の向上に対し深い関心を表明した。大統領は,施政権返還に対する日本の政府及び国民の願望に対して理解を示し,極東における自由世界の安全保障上の利益が,この願望の実現を許す日を待望していると述べた。両者は,琉球諸島の住民の福祉と安寧の向上のため,今後とも同諸島に対する相当規模の経済援助を続けるべきことを確認した。両者は,琉球諸島に対する援助に関する日米間の協力体制が円滑に運営されていることに満足の意を表明し,現存する日米協議委員会が,今後は琉球諸島に対する経済援助の問題にとどまらず,引き続き琉球諸島の住民の安寧の向上を図るために両国が協力しうる他の問題についても協議しうるように,同委員会の機能を拡大することについて,原則的に意見の一致をみた。大統領は,旧小笠原島民の代表の墓参を好意的に検討することについて同意した。

12.大統領と総理大臣は,日米航空協定,北太平洋漁業条約,日本に対する民間投資,利子平衡税その他の経済問題を討議した。両者は,日米両国間の懸案事項について,双方が受け入れうる公正な解決が得られるよう,両国政府間で緊密な協議協力をはかることが重要であることについて意見の一致をみた。

13.大統領と総理大臣は,アジアのすべての人人にとつて重大な関心事である保健上の分野が多多あることに留意し,大気汚染と殺虫剤の問題に対する協力的な努力に加えて,マラリア,コレラ,住血吸虫病,結核,胃がん等の疾病に関し,医学面における協力計画を大いに拡大することを合意した。両者は,この合意を実施する第一歩として,日米両国の第1級の医学者からなる会議を召{前1文字ママとルビ}集し,他の関係政府との討議のため,この新計画の委細を作成させることについて同意した。

14.大統領と総理大臣は,今回の会談に対し,満足の意を表明するとともに,今後も引き続き緊密な個人的接触を維持して行きたいとの希望を表明した。