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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 米原潜の日本寄港問題についてのソ連声明に対する日本政府回答

[場所] 
[年月日] 1964年10月27日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),538−539頁.外務省情報文化局「外務省公表集」,昭和39年下半期,164−5頁.
[備考] 
[全文]

   米国原子力潜水艦寄港等に関する対ソ回答

 ソ連邦政府は,昨年いらい,日米相互協力及び安全保障条約に基づいてとられた各種の措置,なかんずく,米国原子力潜水艦の寄港許可,ジエット戦闘爆撃機F一◯五の配置及び米国第七艦隊艦船の行動について,四回にわたり日本国政府に対し声明を行なつた。

 日本国政府は,ソ連邦政府がこれらの声明のなかで表明した懸念はすべて,日米相互協力及び安全保障条約の目的とするところを正しく理解していないか,あるいは理解しようとする意志を有しない結果に基づくものと考える。日米相互協力及び安全保障条約が,国際連合憲章によつて認められている「個別的又は集団的自衛の固有の権利」に基づいて締結された純粋に防衛的な性格をもつ条約であることは,いままで日本国政府が内外に繰り返えし明らかにしてきたとおりである。日米相互協力及び安全保障条約のこのような性格は,この条約が日本国民の圧倒的大多数によつて支持されていることをみれば明らかである。もしも日米相互協力及び安全保障条約がいささかなりとも侵略的意図を有するものならば,真の平和を愛好する日本国民がかくも広く支持することはとうていあり得ないことである。

 そもそも一国は,その主権国家の基本的な権利として,自衛のためいかなる政策をとるかを自ら決定しうるものであつて,他国がこれに対して一方的,主観的解釈を加えて容喙することは不当な介入といわざるをえない。故にソ連邦政府が前記申入れを行なつた意図が,日本国政府の外交,防衛政策に容喙し,日本国民に対してなんらかの圧力を加えんとするにあつたとすれば,かかる試みはいかなる意味においても許されるべきでなく,また益のないものといわざるを得ない。

 日本国政府が米国原子力潜水艦の寄港に関して今回下した決定は,科学技術の急速な進歩とともに,原子力の開発利用が一般化しつつある今日においては,当然に行なわれるべきもので,日米相互協力及び安全保障条約の性格になんら新らしい要素をつけ加えるものではない。一九六四年七月二十六日付プラウダ紙に掲載されたソ連邦海軍総司令官ゴルシコフ元帥の論文も説いているとおり,原子力を推進力としている艦船の普及は,ソ連邦においても同様であり,かかる艦船の一部が極東水域にも配備されていることをここに指摘しておきたい。

 ソ連邦政府は,米国原子力潜水艦の日本国港湾への立寄りにともなつて,「重大な結果」が生ずることがありえようと述べているが,以上のごとき日本国政府の正当な措置によつて,何が故に「重大な結果」が生じるのであるか,全く理解に苦しむところである。日本国政府は,純粋に防衛的な性格を有する日米相互協力及び安全保障条約が,日本国とその隣接国たるソヴィエト連邦との間の友好善隣関係の発展に妨げになるとは全く考えていない。

 日本国政府は,ソ連邦政府が客観的事態をありのまま認め,速かに日本国政府の平和的意図を正当に認識するに至ることを希望する。日本国政府は,国家間の友好善隣関係を固めるものは,それぞれの立場に対する相互の理解と尊重であつて,決して事実の歪曲と他国の政策に対するいわれなき非難ではないと信じるものである。