データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第1回日米貿易経済合同委員会共同声明

[場所] 箱根
[年月日] 1961年11月4日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),385−387頁.外務省情報文化局「外務省公表集」,昭和36年下半期,194−9頁.
[備考] 
[全文]

一,第一回日米貿易経済合同委員会は,昭和三十六年十一月二日から四日まで箱根において行なわれた。

二,本委員会に出席した日本側委員は,小坂外務大臣,佐藤通商産業大臣,河野農林大臣,水田大蔵大臣,藤山経済企画庁長官,福永労働大臣および大平官房長官であつた。また,関係各省庁の次官および朝海駐米大使も出席した。

三,また,これに出席した米国側委員は,ラスク国務長官,ユードル内務長官,フリーマン農務長官,ホッジス商務長官,ゴールドバーグ労働長官,ファウラー財務次官およびヘラー大統領府経済諮問委員会委員長であつた。フェルドマン大統領府特別顧問代理およびライシャワー駐日大使ならびに関係各省庁からの顧問も出席した。

四,委員会の開会の冒頭,池田総理大臣は,ラスク国務長官以下の米国側委員に対し歓迎の挨拶を述べるとともに,今回の会合が日米両国の経済貿易関係の一層の緊密化に寄与することを期待する旨表明した。

五,委員会は,小坂外務大臣が議長となつて円滑に議事が進められ,極めて友好かつ卒直な雰囲気の中に,活発な意見の交換が行なわれた。

六,会議の目的は,昭和三十六年六月二十二日付けの国務長官と外務大臣との間の交換公文に表明されているごとく,「両国の国際経済政策におけるくい違いを除き,経済協調を一層十分に行ない,貿易を振興するため」情報と意見を交換することであつた。

II

七,討議は日米両国の貿易経済関係のすべての面にわたつて行なわれ,また,両国と世界の他の地域との貿易経済関係および両国の国内経済事情と経済政策についても検討された。

八,委員会は,まず,国内経済政策と国際経済関係との間に密接な関連があることを認識し,世界の多角的貿易および支払い制度が自由な基礎のうえに効率的に機能することが両国にとつて重要であることに意見の一致をみた。

九,委員会は,日米両国の経済の現状と見とおしについて検討した。最近数年における日本経済の著しい成長が指摘され,日本の国民所得倍増計画が討議され,その意義が高く評価された。

十,現在における米国経済の概況が述べられ,最近の景気後退からの回復が指摘され歓迎すべきことと認められた。物価の適当な安定を維持し国際収支の均衡を図りつつ,米国がいかにして十分な景気の回復と,より高度の経済成長を達成しうるかという基本的問題も討議された。

十一,両国にとつて,健全な経済と満足すべき国際収支を維持することならびに労働基準および生活水準の向上の重要性が強調された。貿易政策が雇用情況によつて影響されており,また影響されざるをえないことにも留意された。

十二,委員会は,日米両国の国際収支問題を討議し,両国は,ともに輸出市場を拡大する必要があることについて意見の一致をみた。日本の生存と成長は貿易にかかつており,米国の成長と,自由世界の安全保障のための責務遂行も同様に貿易に依存している。米国側委員は,米国の場合,経済援助および必要な海外軍事支出であつて,自由世界の安全と福祉に欠くべからざる支出を実施するために貿易収支の黒字が必要であることを力説した。米国側委員は,また,米国の国際収支の不均衡は自由世界の貿易および支払組織の中枢となつている二つの主要な準備通貨の一つとしてのドルに対する国際的信用を維持するために,現在より大きい貿易上の受取超過によつて是正されなければならないことを力説した。最近の日本の対米収支不均衡に関し,米国側委員はそれが少くとも部分的には最近の米国における景気後退と日本の経済成長と輸入需要の突然,かつ急速な増大によるものであることを強調した,日本側委員は,日本の場合には,政府の国民所得倍増十ヵ年計画完遂に必要な輸入を確保するために輸出の増進が不可欠であることを強調した。この点に関し,日本側委員が,最近における日米貿易の著しい不均衡を指摘し,対米輸出水準の上昇なくしては,十分な輸出水準を確保しえないとの見解を披瀝した。日本側委員はさらに,両国が多角的方途により国際収支を改善することが望ましいとはいえ,日本の特殊な貿易事情および日米間の最近における異常な貿易不均衡にもかんがみ,両国間においてもできる限りの輸出入の調整のためあらゆる努力が払われるべきであることを指摘した。これらの米国およ

び日本の見解にかんがみ,委員会は,輸出拡大を達成するための方策を検討した。

十三,両国の最善の努力にもかかわらず,両国間の貿易のみでは十分に輸出を拡大しえないことが合意された。委員会は,従つて,多数の国が依然として,ガット三十五条を援用する等により日本からの輸入に対し差別的制限を課していることを遺憾とした。

十四,委員会は,開発途上にある国に対する援助のための両国の政策および計画の概要につき検討した。両国政府間のこの分野における協調は,二国間で行なわれているほか,世銀,コロンボ計画およびいまや新しく発足したOECDの開発援助委員会を通じて行なわれていることに留意された。

十五,一次産品価格安定のための国際的措置およびその買付け促進によつて開発途上にある国の所得を増進するという困難であるが重要な問題が十分検討された。米国側委員は開発途上にある国の経済発展に対する「平和のための食糧計画」の有する意義にふれ,あわせてこの面での協力を期待した。

十六,委員会は,日米両国における賃金,雇用,労働条件およびそれらの要因と両国間の貿易との関連について討議を行なつた。

II

十七,委員会は,そのほか,両国間の資本および技術交流の促進,労働関係者のより緊密な人的交流の促進等について討議した。

十八,日米両国のそれぞれの国内および対外的経済財政政策が相手国にとつて非常に重要であること,開放的,かつ,自由な基礎のうえに自由世界において多角的貿易および支払制度が運用されていることならびに現在および将来の諸計画について十分な情報の交換を行なう必要があることに鑑み,通常の外交経路,国際機関における日米両国代表間の討議および適当と認められる場合には,両国政府職員が随時会合を行なうことを通じて,共同の協議および研究を鋭意行なうべきことに意見の一致をみた。このような緊密なそして頻繁な接触は,将来閣僚レベルの会合が,両国が共通してもつている経済上の諸目的の達成に貴重な寄与を行なうことを可能とするものと期待される。

十九,また,在米日本大使,在日米国大使および日本国外務省ならびに米国国務省の担当官が,中核となつて日米貿易経済合同委員会が会合していない期間中は両国政府によるこの課題の遂行に当るべきことが合意された。

二十,一層緊密な協力についてこのような一般的合意に従つて,次のいくつかの分野において直ちに着手することが決定された。このほかにも両国間の協定が望ましいと考えられる問題がここ数ヵ月にわたつて次第に重要性を帯びてくるものと思われる。

 (イ) 両国は相互主義に基づいて貿易の機会を改善するため諸外国との関係,ならびに相互の関係で今後も継続して貿易の自由化に向かつて共同して進むことに意見の一致をみた。

 (ロ) 米国側委員は,日本が諸外国との多角的貿易関係に平等な立場で参加することに対する,特にガット三十五条等を理由とする差別待遇を減少ないし撤廃するための日本の努力を支持することに合意した。

 (ハ) 両国は,発展途上にある諸国に対する経済および技術援助計画につき協力を行ない,これらの諸国における生活水準を向上させるための共同の努力に参加することについて意見の一致をみた。

 (ニ) 両国代表は,両国が,両国間の経済および貿易関係が大幅に変る場合にこれを一層よく予測できるようにするために必要な経済,金融の動きおよび将来における諸計画に関する情報を交換することにつき意見の一致をみた。

 (ホ) 両国にとつては,相互の貿易関係に悪影響を与えている誤解を取り除くため,労働基準,雇用条件,賃金および労働政策上の他の諸問題につき一層の情報交換を行なうことが望ましい。従つて,これらの諸問題が今後も両国政府によつて検討されるべきことが合意された。

 (ヘ) 両国にとつては,また,市場育成活動,特定産品についての市場攪乱の防止および輸入により悪影響を蒙つている産業の競争力の問題も大なる関心事である。よつてこれら諸問題に関連ある情報および資料の交換を行なうべきことが合意された。

二十一,委員会は,今回のごとく,両国閣僚の多数が会談して両国のもつ共通の問題点について深く互いに理解し合わんとする会議は,日米外交史上かつてないことであり,日米貿易経済合同委員会が六月の池田・ケネディ両国首脳の会談によつて合意されたことに深い意義を認め,今後長きにわたつて経済的協力を進め,両国友好のきずなをいよいよ堅くすることに合意をみた。