データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 千九百六十年一月十九日に発表された岸日本国総理大臣とアイゼンハウァー合衆国大統領との共同コミュニケ

[場所] ワシントン
[年月日] 1960年1月19日
[出典] 外交青書4号,268−270頁.
[備考] 
[全文]

 日本国総理大臣と合衆国大統領とは,本日日本国と合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の正式署名を行なう前にホワイト・ハウスにおいて会談した。会談においては,主として現在の国際動向を広範かつ包括的に検討し,かつ,日米関係の討議を行なつた。日本国の藤山外務大臣と合衆国のハーター国務長官も,このホワイト・ハウスにおける会談に参加した。総理大臣及びその一行は,大統領との会談の後両国が関心をもつ事項についてハーター長官と会談を行なつた。

一 総理大臣及び大統領は,まず国際情勢を検討した。その際,大統領は,最近の南アジア,近東,アフリカ及び欧州への旅行中これらの諸地域を通じ,国際連合の目標の達成,世界平和,人権の尊重及びよりよい生活に対する熱烈な意欲のあることに深い感銘を受けた旨を述べた。大統領は,きたるべき巨頭会談において,緊張緩和への有意義な進歩を達成するためにあらゆる努力を払う決意を表明した。総理大臣は,大統領のこの決意に対し全く同感であり,これを支持する旨を述べた。

 総理大臣及び大統領は,軍縮について,査察と確証という重要な保証を伴う軍縮があらゆる国家にとつて緊急かつ最も重要な問題であり,かつ,この問題の解決が軍備の重荷と戦争の危険を減少するのに著しく貢献するものであるという点で見解を一にした。両者は,さらに,核兵器実験中止のため適当な保証を伴う計画に関し,早期に協定が締結できることの希望を表明した。

 両者は,世界は重要な機会をもたらしうる時期に入つており,これらの機会を単なる約束のみでなく,実証された行為をもととして真剣に探究すべきであるとの結論に達した。両者は,正義と自由に基礎を置く世界平和の達成のため人類のすべてのえい知と創造力を傾けるべきであることを確認し,この間を通じ,なかんずく,あらゆる国民が誠実に国連の目的と原則を遵守し,武力の行使を放棄するようになる時までは,自由諸国にとつて必要なことはあらゆる手段によつて自らの決意,団結及び力を保持することであるとの確信を表明した。

二 総理大臣及び大統領は,現在の国際情勢に対する両者の認識をもととして日米両国間の安全保障関係を検討し,この緊密な関係が正義と自由に基づく平和の達成に不可欠であることを強く表明した。両者は,日米両国間における提携と協力は,現在の両国関係を特色づけている主権平等及び相互協力の原則に基づいて作られた新条約によつて強化されることを確信し,また,両者は,この条約が批准され,本年日本国最初の遣米使節派遣百年祭が行なわれることは日米友好関係の強さと継続性を一層宣明することになるであろうと期待した。

 総理大臣及び大統領は,千九百五十七年六月の会見以来の日本国及び合衆国の関係を回顧し,当時共通の利益,相互の信頼及び協力の原則に基づく両国関係の新しい時代をひらくことの希望を表明したが,今やこの希望が達成されたことを特に喜びとする旨を述べた。

 総理大臣及び大統領は,新しい相互協力及び安全保障条約のわく内において今後両国が緊密な協力を持続して行くことを期待した。両者は,同条約が極東における平和と安全を大いに強化し,全世界における平和と自由を増進するものであるとの確信を表明した。両者は,また,同条約が相互の信頼関係を助長するものであるとの確信を表明した。これに関し,総理大臣は,大統領と新条約の下における事前協議の問題を討議した。大統領は,総理大臣に対し,同条約の下における事前協議にかかる事項については米国政府は日本国政府の意思に反して行動する意図のないことを保証した。

 総理大臣及び大統領は,また,アジアの情勢を討議した。両者は,この地域における将来の発展に関し密接な連絡と協議を維持すべきであるという信念を再確認し,アジアの問題の国際的討議に対する日本の参与が増進されることが自由世界の利益であることに意見が一致した。

三 総理大臣及び大統領は,自由諸国家間の貿易の拡大増進並びに低開発諸国の経済発展及び生活水準の向上が最も緊要であり,このことが世界平和の達成のためには欠くことのできない安定と進歩に貢献するであろうということに意見が一致した。

 総理大臣及び大統領は,欧州経済貿易共同体及び工業化の進んだ自由世界の諸国が低開発地域の経済的発展のために果たし得る役割について意見を交換した。両者は,世界の低開発地域の民衆が,自由を維持するためには欠くことのできない経済的発達を緊急に要望していることについて特別の関心を払つた。両者は,自由世界の工業先進諸国が低開発地域の発達を援助するためにさらに一段とその役割を増加して行かなければならないことを強調した。大統領は,特に日本国民が自由アジアの経済的発達にますます大きな役割を果たしつつあることに言及した。

 日米間の経済関係を検討した結果,総理大臣及び大統領は,米国は日本の輸出品の最大の顧客であり,日本は米国産品の第二の買手であることからみても,両国民の間の貿易は双方にとつて大きな利益をもたらすものであることを確認した。両者は,日米相互に利益となる両国間の貿易の成長を喜ぶ旨を述べた。さらに,かつてきままなかつ不必要な貿易上の新たな制限を限止することにより,また,現存する障害を除去するため積極的措置を執ることにより,世界貿易を継続的に,かつ,秩序だつて発展させることは両国の福祉と発展に不可欠であるとの信念を再確認した。

 総理大臣は,日米両国が相互に関心を有する経済問題に関し継続的に協議することの重要性を強調し,大統領も,全く同感である旨を述べた。

四 大統領は,日米関係が極めて重要であるこの時期に総理大臣がワシントンを訪問したことに特別の喜びを表明した。総理大臣は,大統領に再開する機会を得たことに謝意を表明した。

 総理大臣及び大統領は,両者の会談が日米両国の提携を引き続き強化することに貢献するであろうということに意見が一致した。