データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 岸信介首相とアイゼンハワー米大統領との共同コミュニケ

[場所] ワシントン
[年月日] 1957年6月21日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),806ー810頁.二国間条約集(1958年), 395ー402頁.
[備考] 仮訳
[全文]

 合衆国大統領及ぴ日本国総理大臣は,両国が関心を有する諸問題についての有益な討議を本日終了した。両者の会談の焦点は,主として日米関係に置かれたが,両者は,また,共通の関心の対象たる国際問題,特にアジアの情勢について討議した。

 総理大臣及びその一行は,三日間の滞在中,国務長官と長時間にわたり会談し,また,財務長官,商務長官,合衆国統合参謀本部議長,輸出入銀行総裁,大統領府,国防省及ぴ農務省の関係官並びに合衆国議会の指導者と会談した。総理大臣は,ワシントンを出発した後,合衆国内の他の地方を訪問して,実業界その他の民間の諸団体の指導者と会談する予定である。

 大統領及び総理大臣は,全面戦争の危険はいくらか遠のいたが,国際共産主義は依然として大きな脅威であることについて意見が一致した。よつて,両者は,自由諸国が引き続きその力と団結を維持すべきであることに意見が一致した。自由世界の侵略阻止力がこの数年間に極東及び世界を通じて公然たる侵略を防止するため有効な働きをしてきたことが相互に承認された。

 大統領及び総理大臣は,日米関係が共通の利益と信頼に確固たる基礎を置く新しい時代に入りつつあることを確信している。両者は,日米両国間の緊密な関係から得られる多くの相互的利益について討議した。よつて,大統領及び総理大臣は,両国間の協力の次の諸原則を確認することが適当であると決定した。

(l)日米両国の関係は,両国に有益な主権の平等,相互的利益及ぴ協力という確固たる基礎に立脚するものである。この関係は,今後長期にわたり自由世界を強化する上に重大な要素をなすであろう。

(2)両国は,国際連合の原則に従つて自由と正義に基く平和のために自らを捧げるものである。両国は,平和と自由が支配しうる状態を確立するため努力することを決意している。このため,両国は,国際連合を支持し,かつ,自由世界の団結の維持及び強化に最善の努力を捧げる。両国は,国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の場合のほかは,いかなる国の武力の行使にも反対する。

(3)自由世界は,平和の維持のため,軍備が有効な管理の下に置かれるまでは,その防衛力を維持しなけれぱならない。同時に,自由諸国は,経済的及び社会的進歩のため並びにアジア及び世界を通ずる自由の強化のために必要な諸条件の実現を促進する努力を強化することを必要とする。援助を希望する自由なアジア諸国に対しては,経済開発及ぴ技術訓練のための方策を進めるについて援助が与えられるべきである。

(4)日米両国は,自由諸国に利益をもたらすような世界貿易及び両国間の秩序ある貿易が,不必要かつ恣{しとルビ}意的な制限を課されることなしに,高い水準に保たれることが望ましいことを再確認する。

(5)両国は,核兵器及ぴ通常兵器の双方における軍備の縮少のための実効な国際協定が世界の将来にとつてきわめて重要であることについて完全に意見が一致している。両国は,この重要な問題について,今後とも緊密に協議を行う。

 以上の諸原則に照らして,大統領及び総理大臣は,日本の広範な経済復興及ぴ国際連合への加盟を含めて,この数年の日本における大きな変化を検討した。大統領は,この二つの事実について心から喜びを表明した。

II

 日米両国間の安全保障に関する現行の諸取極について討議が行われた。合衆国によるその軍隊の日本における配備及び使用について実行可能なときはいつでも協議することを含めて,安全保障条約に関して生ずる問題を検討するために政府間の委員会を設置することに意見が一致した。同委員会は,また,安全保障条約に基いて執られるすべての措置が国際連合憲章の原則に合致することを確保するため協議を行う。大統領及び総理大臣は,千九百五十一年の安全保障条約が本質的に暫定的なものとして作成されたものであり,そのままの形で永久に存続することを意図したものではないという了解を確認した。同委員会は,また,これらの分野における日米両国の関係を両国の国民の必要及び願望に適合するように今後調整することを考慮する。

 合衆国は,日本の防衛力整備計画を歓迎し,よつて,安全保障条約の文言及ぴ精神に従つて,明年中に日本国内の合衆国軍隊の兵力を,すべての合衆国陸上戦闘部隊のすみやかな撤退を含み,大幅に削減する。なお,合衆国は,日本の防衛力の増強に伴い,合衆国の兵力を一層削減することを計画している。

 大統領は,日本が生きるためには貿易をしなけれぱならないことを認めつつも,国際共産主義の拡大により自由諸国の独立を脅かしている諸国に対する戦略物資の輸出を統制する必要が引き続き存在することを強調した。総理大臣は,他の自由諸国政府との協力の下にそのような統制を行う必要があることに同意しつつも,日本はその貿易を増大する必要があることを指摘した。

 総理大臣は,琉球及び小笠原諸島に対する施政権の日本への返還についての日本国民の強い希望を強調した。大統領は,日本がこれらの諸島に対する潜在的主権を有するという合衆国の立場を再確認した。しかしながら,大統領は,脅威と緊張の状態が極東に存在する限り,合衆国はその現在の状態を維持する必要を認めるであろうことを指摘した。大統領は,合衆国が,これらの諸島の住民の福祉を増進し,かつ,その経済的及び文化的向上を促進する政策を継続する旨を述べた。

 日米両国間の経済上及び貿易上の関係については,詳細な討議が行われた。大統領及び総理大臣は,両国間の貿易が高い水準を保つことが望ましいのみならず,両国がその他の経済分野においても緊密な関係を保つ必要があることを相互に確認した。総理大臣は,合衆国におけるある種の輸入制限運動に対し強い懸念を表明するとともに,合衆国の市場が日本の貿易にとつて至大の重要性を有することにかんがみ,日本が合衆国への輸出の秩序ある発展のための措置を執つていることを説明した。大統領は,合衆国政府が不必要かつ恣{しとルビ}意的な制限を課されることなしに貿易を高い水準に保つという伝統的政策を維持することを確認し,日本産品の販売に対する地方的な制限の撤廃を希望している旨を述べた。

 総理大臣は,最近のアジア諸国訪問の模様を説明し,これらの諸国が経済開発のために行いつつある真剣な努力に深く感銘した旨を述べた。総理大臣は,これらの諸国における経済開発の一層の進歩がアジアの安定と自由に大いに寄与するであろうという確信を表明した。大統領は,総理大臣と全面的に同意見である旨を述べた。大統領及び総理大臣は,自由なアジア諸国の経済開発をさらに援助するための方策について討議した。総理大臣の見解は,合衆国によつて研究される。

 大統領及び総理大臣は,実効の保障のある軍備縮少計画における第一歩の一部として核兵器の実験及び製造をともに早期に停止することについて討議した。大統領は,現在のロンドンにおける国際連合軍縮会議における合衆国の立場を決める上において,総理大臣の見解が考慮に入れられていることを伝えた。

 大統領及び総理大臣は,両者の意見の交換が相互の理解を深め,かつ,基本的な関心事についての意見の一致をもたらす上に大いに役だち,その結果,今後長期にわたり両国間の友好関係がさらに強化されるものと確信する。