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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 沖縄問題に関する「プライス」報告書

[場所] 
[年月日] 1956年6月13日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),758−772頁.「ジュリスト」,8月15日号,22−9頁.
[備考] 外務省アジア局第一課訳
[全文]

 一九五五年十一月十四日より同年十一月二十三日に至る視察旅行に基く下院軍事分科委員会報告

    序  言

本報告は世界各地における軍事基地及び機関の視察に関連し分科委員会より軍事委員会に提出されたものである。

下院軍事委員会

下院軍事委員会委員長殿

 一九五五年十月十四日より同年十一月二十三日まで海外軍事基地及び機関の視察旅行を行つた特別分科委員会の報告を軍事委員会の審議のため茲許提出する。

                        メルヴィン・プライス

分科委員会議長

    特別分科委員会報告

 下院軍事委員会委員長は,一九五五年七月二十六日世界各地における合衆国の軍用施設及び機関を現地視察せしめるためメルヴィン・プライス議員を団長とする特別分科委員会を任命した。同分科委員会の主たる使命は沖縄における土地状況を調査するにあつた。

 ヴィンソン委員長は軍の委員会の次の委員を特別分科委員会委員として任命した。

 O・C・フイシャー

        W・スターリング・コール

 ゲョージ・ミラー

          ウオルター・ノーヴラド

        ジェームス・T・パターソン

         ウイリアム・H・ヴェーツ

 また次の各員が左に示した資格で分科委員に随行した。

  軍事委員会顧問 フイリップ・W・ケレヘル

  顧問補佐       ロイド・K・クーン

  陸軍省法制連絡局

  随行将校     ヂョン・W・ゴーン大佐

  米国陸軍

  随行将校補佐 ウイリアム・F・ダニエルス曹長

 特別任務のため分科委員会付となつた他の将校は次のとおりであつた。

  合衆国海軍

 ジョン・F・デミヴイドソン海軍大佐

 ウイリアム・H・マクマホン海軍少佐

 一行は一九五五年十月十四日朝ワシントンを出発し同年十一月二十三日ワシントンに帰還した。

 旅行の間分科委員会に提出された口頭及び文書による資料の多くは必然的に高度の機密性を持つているので本報告中で論議することができない。この機密文書資料は,軍事委員会の機密ファイルのうちに綴込められ,軍事委員会委員の閲覧に供せられる。

    沖  縄

 沖縄において土地占拠と土地接収に関して米国が直面している異常に複雑で,また多様な諸問題を明確に理解するためには,一九四五年に沖縄を日本軍から奪取した時からの米国占拠の沿革についてどちらかと云えば充分な理解を持つことが必要である。また沖縄を最大の島とする琉球諸島の最近の政治情勢について若干の知識を有することも同様に必要である。

 琉球諸島は,日本の南西,台湾及びフイリッピン群島の北東,小笠原群島の西方にある。同列島の延長は約七七五マイルであり,一四○個の島嶼からなつている。主島である沖縄はサン・フランシスコから約六,○○○マイル,東京からは八五○マイルの距離にある。沖縄には中国側に面する那覇港と,太平洋岸にあるホワイト・ビーチとの二つの主要港がある。同島の長さは六七マイルであり,その幅は三マイルない至一○マイルである。島の三分の二は標高一,五○○フィート以上の丘陵のある高低に富む地形である。南部沖縄は高低に乏しく浅い峡谷と谷のある起伏した丘陵がある。琉球諸島の人口は約八○万人で,そのうち約六五万五千名が沖縄と同島周辺の小島嶼に居住している。

 アメリカ人は最初一八五三年にマーシュ・C・ペルリ提督の指揮の下に那覇港に到着した。同提督は那覇で米国海軍石炭補給所用として土地を実際に買入れた。しかもその後提督が日本を開国することに成功したため米国は琉球諸島を看過するに至つた。沖縄は一八七九年に日本の県となつた。

   合衆国の軍政府及び民政府

 沖縄は,連合国最高司令官が行政のため日本本土の南方境界線が琉球及び奄美諸島の北を通過する北緯三○度(後に二九度)に決められた一九四六年三月までは日本の県として残つた。

 米国海軍は,日本降伏後の初期の間は琉球諸島における軍政府としての責任を負つた。同軍政府の責任は一九四六年七月一日陸軍に移管された。琉球軍政府は,一九五○年十月にその一切の活動機能がマッカーサー元帥を長官とし,琉球軍司令官を副長官及び民政官として構成された琉球諸島米国民政府に移管されるまで存続した。

 琉球諸島を統治する米国の権利は,初期においては陸戦法規に基礎を置いた。対日平和条約が批准された一九五二年四月二十八日以後の同地域における米国の権限は同条約第三条によつて設定された。同条は次のように規定している。

 日本国は,北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)孀婦岩の南方諸島(小笠原群島,西之島及び火山列島を含む。)ならびに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで,合衆国は,領水を含むこれら諸島の領域及び住民に対して,行政・立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する。

 一九五三年十二月二十五日に奄美大島として知られている琉球諸島の北端の島嶼が日本に返還された当時,ダレス国務長官は本問題に関連する部分において以下を含む政策発表を行つた。

 米国は,極東において脅威及び緊張の状態が存続する間は,現在の権力及び権利を爾余の琉球諸島において引続き行使することが,平和及び安全の方向に,アジア及び世界の自由国家陣の協同的努力を成功せしめるため肝要であると確信する。従つて米国は将来相当期間これらの島の管理者としてとどまる意向を有するものである。

   行  政

 琉球諸島の行政責任は,大統領決定によつて国防長官に委ねられている。同長官は更に執行者としての権限を陸軍省に委任している。琉球諸島施政を指導する政策及び手続は,大統領が一九五四年八月二日に承認した琉球諸島米国民政府に対する指令に規定されている。

 琉球諸島米国民政府は琉球諸島における米国の行政機関である。同民政府は民政長官の下に構成され八つの部と二つの地域チームからなつている。同民政府の各部は琉球政府の部に相応じ,また琉球政府の政策遂行にあたりそれを援助する。琉球現地政府に対してはその能力に応じて最大限の自治が附与されており,かつ時日が経過するとともに漸次より大きな権限が授与されつつある。

 琉球政府は一九五二年四月一日に正式に組織され,行政,立法及び司法の機能を有する。同政府は,一九五一年四月一日に地域的な四群島政府が合併した結果成立した臨時中央政府から発展したものであつた。琉球政府の行政部門を統轄する琉球政府行政主席は,米国民政長官によつて任命された。しかし同政府の立法院は琉球人民の一般投票によつて選出された。独立の司法部員は琉球政府行政主席より任命される。

   陸海空三軍の土地需要

 一九四五年,米軍はその軍事施設用に約四万五千エーカーの土地を琉球人から収用したが約五千エーカーが琉球人に返還されたので現在の土地収用は約四万エーカーである。これ等の土地は当初戦争行為として収用されたので,地主に対しては補償が行われなかつたし,又考慮されたこともなかつた。

 一九五○年七月一日から一九五二年四月二十八日(対日平和条約発効日)までの間米国軍は沖縄の地主に対して地代を支払つた。これは一九五○年七月一日から同地域において「即金払方式」(pay as you go basis)を実施するという米国の決定に従つて行われたものである。この期間における地代支払は,土地所有者台帳の再編成が困難な事業であるために一九五三年の末期まで結了しなかつた。対日平和条約で,日本は米国に対するその国民の戦争請求権をすべて放棄した。従つて沖縄人は一九五二年四月二十八日以前についてはその土地使用に対して合衆国に補償を要求する法律的根拠を有しない。

 一九五六会計年度の沖縄に対する支出権限要求は四三,九八三千ドルであつたが,このうち三○,五○○千ドルが五万二千エーカーの土地の取得のために割当てられることになつている。五万二千エーカーのうち五一,六三六エーカーが軍用に当てられる。その時表明された三軍の土地要求,各場合における費用,及び兵力の内訳は左記の通りである。

(価格は一九五四年七月一日現在)

           土地要求      費用       兵力

軍           (注)      (注)

            エーカー     千ドル       人

陸軍        一○,一三八    七,五四七  一四,六○○

海軍(海兵隊を含む)二一,八三七    六,八○○  一九,二五九

空軍        一九,六六二   一○,三一四  一○,八八七

(注)一九五五年六月現在

 総額三○,五○○,○○○ドルのうち五七○万ドルは移住定着費用である。この五七○万ドルは次のように使用される。即ち二七○万ドルは土地を失つた沖縄人を約三百マイル離れた島嶼に移住させ其処に彼等のために部落を建設するために使用され,更に三○○万ドルが,海兵隊用に取得を予定されている一万二千エーカーの土地に現在居住している約一千二百家族を移住させるために使用される。

 第一次案では海兵隊は現在軍用として占有されている四万エーカーの土地のうち七千エーカーを利用し,また一万二千エーカーを追加要求し,総計一万九千エーカーとする計画であつた。更に海兵隊は演習用として沖縄の北部において広大な土地を利用しようとしている。この土地はその大部分が旧日本の公有地であるので土地使用料の支払を必要とせずまたそれを使用することによつて実際に土地を失う人もでてこないであろう。しかし本報告書のうちで後述するような他の経済的影響がある。

 地代の年額は収用土地価額の六パーセントの率と決められた。またこの評価は一九五二年四月二十八日現在で陸軍工兵隊の評価班が決定したものであつた。しかし地主は米国提案の支払率が不当であると主張して,右の条件で土地賃貸契約を結ぶことに不承知であつた。一九五三年十二月五日付で発布された民政布告第二六号に基ずいて土地は現在黙示的の賃貸契約によつて使用されている。この地代は個々の地主名義で琉球政府に供託されている。地主は地代引上げ訴願権をそこなうことなく供託額の七五パーセントを受取ることができる。右訴願を裁定するために米国土地収用委員会が設置された。同委員会はこの地域の司令官である琉球諸島副長官によつて任命されたもので二名の将校と軍属一名で構成されている。地主は全部訴願をすることにした。訴願公聴会は委員会によつて行われたが下院議案五七○○号審議の中に本委員会により行われた証言の日付現在では何らの判定が下されなかつた。陸軍の提案では同一の手続が長期地上権の取得の場合にも採られることとされている。

    伝統的農業経済

 沖縄は伝統的に土地を最も重要な所有物とする農業経済が主体となつていた。五人家族僅か○・八エーカーの土地があれば生活ができる。沖縄の面積は二十九万エーカーでその中僅か八万エーカーのみが耕作地である。一平方哩の人口密度は印度の二百八十一名,フイリッピンの百七十八名,中国の百二十三名,ブラジルの十六名に対して沖縄では一千二百七十名である。更に沖縄の旧来の農業経済に対する土地の異常な重要性を指摘する為には米国において約一億六千百五十万人が殆んど三百万平方哩の土地を占めていること,即ち一平方哩当り五十四人である事を想起しさえすればよい。従つて若し琉球の人口状態が米国に依存するとすれば,米国の人口は現在の一億六千百五十万人に代つて二十七億五千万人となるであろう。

 目下軍によつて使用されている四万エーカー内の約一万六千エーカーの耕作地は沖縄における全耕作地の二十%に当る。米国による占拠のため約五万の家族,即ち約二十五万人を転地させた。海兵隊によつて要求されることになつている一万二千エーカーの中約三千エーカーも可耕地である。土地を失つた地主は○・八エーカーにつき(一九五二年の土地価格に基く)年平均二十ドル足らずの地代を受けている。この額は明らかに移住し得るだけの資金を地主に与えるものでない。又地主はこの額を以前には最低ながら自分及びその家族の生計を維持して行く手段となつていた土地の利用を失つたことに対する相当な補償とも見ていない。

 土地を失つた地主の問題が経済上,政治上,現在以上に深刻化しないのは,この適切な要因のためである。

 第一に,地主達は主として一九四五年の戦争によつて土地を失つた。彼等の多くは軍事施設の建設の間に急に発展した建設産業において職場を見付けたか,或いは米軍の雇傭員となつた。第二に地主の約三分の一は土地の全面的使用が必要となる迄は,彼等の土地(暗黙の借用権に基ずき米国が保持している)を引続き耕作することを許可されて来たことである。もし現行の地代の毎年払方式が引続き行われるならば,最後の空け渡しの時におけるこれらの地主及び今後海兵隊の要求に応じて移動させられる地主達が直面する経済上の苦境は,最も深刻な民事上の問題となるであろう。

 琉球列島の農業経済は日本の管轄下にある時,通常,毎年完全欠損を生じ外部から色々の形での助成金を必要としたと云う事実をここに附言することはおそらく適当であろう。第二次大戦における日本の土地占拠は,当然沖縄人の経験した経済上の困難の一因であつた。

 今日,人口は急速に増加しておるが,米軍は,日本が占拠したよりもずつと宏大な地域を占拠していることは,この増加人口と相まつて本質的に同島における基礎経済問題であるところのものを甚だ悪化させている。米国が現在の農業経済からの土地を取り上げたことは,過剰人口の絶えざる圧迫と結びついて琉球の農業経済の伝統的な不足を強め,琉球人をして他の型の職業へ転換を早めることとなつた。

    陸軍の計画

 

 この問題の公正な解決には二つの措置が考えられると云うのが陸軍の立場である。

 第一は米国は米軍が必要とする土地に長期利権を獲得しようとすることである。土地所有権放棄に反対する琉球の強い伝統に鑑みて,この計画は米国によつて必要とされる限り土地の完全使用を許与する長期間の地上権を取得することであり,このため長期の地上権取得時現在の土地価額を地主に一括払いしようとすることである。第二に南琉球諸島及び沖縄において社会施設(道路,学校,病院,水道設備,動力)を提供する最少限の公共事業計画に資金を出そうとすることである。こうすることにより彼等が米軍の土地要求に応じて既に或は今後移動させられる家族の再定住の為に新しい土地が手に入り得ることとなる。陸軍側の説によると,斯様な二重の目的を持つ計画によつて,長期地上権が取得された時に地主は自分の土地に対する米側による完全な土地の評価額を受ける。地主はこの資金を利用して他に再定住しそこで土地から生計費を獲得するか,或は後に詳述する他の方法によつて資金を活用することができるであろう。こうすれば米国にとつて毎年地代を継続して支払うより,明らかに経済的であろう。

    沖縄の計画

 他方,沖縄人が要求している補償方式および方法は彼等が計算基準と称しているものに基づいている。この立場は一括払い,及び長期地上権,或は他の長期的利権に反対するものである。沖縄人は,その代り,土地が米国によつて必要とされている限りの間,地代の毎年払の継続,しかも現行見積り地代のほぼ七倍の大きさの年極め地代を提案している。彼等の要求は,地代として土地が生産し得るであろう生産物の純価値ーしかもこれからの家族労働を控除することなしにーの一○○%を得べきであると云う理論に基づいている。

 加うるに彼らはすべての被接収地主に対し生計の損失に対する補償として,前記地代の五年分相当額を一括して支払うよう要求している。

 ワシントンにおける全委員会,沖縄における分科委員会において証言された如く,沖縄人の提案する方法によれば四万エーカーに対する支払は八百二十六万三千百七十八弗の年間地代と,それに土地,財産の破壊及び土地接収の結果として蒙つた雑費と損失に対する未払請求に対する支払として一千四百三十六万八千百四弗を加算したものとなる。

 この金額は証券が示すように,公道の為に強制収用された土地に対する支払としての四百九十三万七千七百九十三弗を含むものである。米国と沖縄の評価との間の大きな相違はワシントンの公聴会で陸軍が提出した。財産に対する米国による永代借地権の市価の評価額は沖縄の提案による地代支払その他の請求で二年少しで支払われてしまう事を考えれば明らかである。

   米国防衛の一環としての沖縄

 土地問題そのものの理解の為に必要な基礎事実のすべては既に述べた所で出尽したと分科委員会は希望する。しかし土地問題の根底に土地問題を惹起する諸要素がある。それは次の通りである。

 第一に,まず我々はなぜ沖縄にいるのか,第二に,何時迄我々はそこに駐留するのかということである。我々が沖縄にいるのはまず占領により,第二には対日平和条約により,第三には同平和条約に関連し,爾後米国政府が行つた政策の声明によつてである。

 何故我々は特殊の軍事的立場から其処に居るかは次の如き理由からである。

   何故に我々は沖縄にいるか

 我々が沖縄に居るのは沖縄が我々の世界的規模にわたる防衛の不可欠の一部をなしているからである。世界の他の地域におけると同様,日本とフイリッピンにおいても,我々が基地を保有しているのは,友好政府が継続して存在することに依存している。

 琉球諸島においては我々が政治的にコントロールを行つている事情と,好戦的民族主義運動が存しないため,勿論我が国策に従つてであるが,極東,太平洋地域の海上連鎖諸島嶼における前進軍事基地の長期間使用に対する計画を立案することができる。ここではわが原子兵器の貯蔵ないし使用の権限に対し外国政府による制限が存在しない。以上の考慮に加えて,陸海空および海兵隊に課された使命を考えると同島の重要性は更に高まつて来る。

    陸  軍

 陸軍は同地域において作戦の為の前進軍事基地を維持する。原子装備を所有する地上軍を使用する水・陸・空からの攻撃に対し同島を防禦し,空中兵力の為に対空防禦を設け,他の部隊に対する兵站設備を備え対日平和条約によつて規定されたる同島および住民に対する管理行政上の責任を実行する。攻撃の場合は,陸軍司令官が同地域の全米軍に対し暫定的に作戦上の統御を行う。

    海  軍

 米軍の極東における前進戦略は米国が他の同盟軍と共に極東における共産攻撃を其処から封じ込めようとしている海上連鎖列島の中の一つである沖縄を,米国が占領することによつて強化されている。この冷戦の期間中は,同地域における共産国の活動をたえず監視する為に偵察機が作戦する海軍航空施設の一つが同島にある。太平洋艦隊海兵部隊は西太平洋における騒乱の地域に直ちに出動し得る兵力として沖縄に駐留している。

 米軍が日本から撤退する暁には平時において沖縄を軍事基地として維持することの重要性が増大する。戦争の場合,沖縄の戦略的重要性は現在より更に大きなものとさえなろう。沖縄は極東におけるソ連基地からの出口である黄海及び日本海への接近をコントロールする為に理想的位置にある。また中共,国府間の戦争がもしあれば秀れた後衛基地である。更に太平洋における戦争において初期に利のない場合,容易に防禦し保持し得る数少い島の一つである。朝鮮動乱において沖縄は偵察および機雷作戦に従事した陸上海上機の一基地として使用された。将来の如何なる戦においても,この島は対潜攻撃と共にこれ等上述の目的の為に再び使用されるであろう。海岸設備に加えて,バックナー湾は海上作戦,対潜護衛作戦並びに機雷除去作戦の為の前進第二次根拠地として海軍によつて使用される。それは海軍機飛行場としても使用されるであろう。これ等の海軍機が海岸に保持される前にかなりの港岸建設が必要であろう。

 然し一方,航空機は海上兵力によつて基地を与えられ,保護され得る。

    空  軍

 中国本土の東約五百哩,東京及びマニラを去る約八百二十五哩の沖縄は米国の安全の為の重要と考えられる太平洋防禦圏の一部である。

 極東空軍は,この防禦圏に沿う我々の諸設備と,我々が条約で義務を負つている外国領土上の諸設備の防禦の為に兵力を提供し,軍隊を輸送し,又広く展開している極東空軍の各部隊に対する兵站支援を与える使命を課せられている。極東空軍がこの使命を遂行することに当り最も重要な基地の一つが沖縄である。

 沖縄は又米国航空隊の戦略的,戦術的兵力が共産侵略に対し使用され得る跳躍台でもある。かような次第で沖縄は本質的に戦略的航空隊の行動範囲を拡大する為に存在する海外基地の増加している連鎖の一環である。従つて,現在における我々自らの安全の為且つ将来の侵略に際し急速に展開し得る必要な能力を備える為に,米国航空隊が予見される将来に対して沖縄に航空部隊を維持することを計画することは最も重要である。

 沖縄の嘉手納航空基地における行政上,管理上の組織は第三百十三航空師団で,戦闘作戦部隊は第十八戦闘爆撃連隊である。

    米国の保有期間

 米国が保有する期間の問題は奄美大島を日本の管轄に復するに際し述べられた国務長官の言明の中に最もよく答えられている。即ち同長官は,極東に脅威と緊張の状態が存在する限り,米国は残余の琉球列島で現在の権力を行使し続ける積りであると述べている。

 従つて,不幸にもわれわれは非常に長い期間沖縄に駐留することになろう。

    問題は一時的のものでない

 上述の諸事実を念頭に置けば土地問題は現在又は極く近い将来だけのものではなく,無視することの出来ない半ば永久的問題であることは明らかである。同時に,米国が沖縄に対し幾つかの責任を持つていることも明らかである。これらの責任は第一にわれわれのフェアープレーの伝統から生じている。フェアープレーの概念は,わが憲法修正第五条の正当な補償の下に土地を取得することに関する事項中に明示されている。責任の一は沖縄が最も正確な意味で民主々義の[[undef12]]見本窓″となつたことからも生ずる。世界の目,特に共産諸国のかくされた目は沖縄におけるわれわれの行動を注意深く見守つており,共産側はわれわれに対する反対宣伝として利用し得るものの発見に専念している。これら二つの事柄は慎重に考慮の末,道義を第一とし,実際を第二とする優先順序を附された。

    沖縄案の意味

 此処で沖縄人の要求している補償計画の精確な性質と影響をも細に検討することがよいと思う。明らかに,沖縄案は土地から得られると推定される総収入の八○%を地代として極めている日本の特別措置法に基いている。

 同法が沖縄側の要求の基礎となつているとするならば,同法は地主が永久に他の場所へ移転せず寧ろ米軍がもはや土地を必要としなくなつた場合は戻つて土地を取り返すことが必要であり,或いは,望ましいと恐らく思われた当時の日本の一時的条件に合致するために制定されたことが指摘されなければならない。以上指摘した如くかかる事態は現在われわれの土地保有が長期間に亘ると考えられねばならない以上,沖縄には存在しないのである。

 金銭的には,既述の如く沖縄人側の提案は年間地代八,二六三,一七八ドルと,これに加えて「その他の補償」として一四,三六八,一○四ドルの一括払をすることを含んでいる。

 簡単にいえば沖縄案は,米国が沖縄人の地主に対し,これを実際に耕作したならば,その土地から得ることを期待できる総収入を支払うことを企図している。種子購入等の如き些細な費用を除いては通常家族労働である労働でさえ総収入から控除しようとはしていない。

 以上は琉球政府の正式の提案である。分科委員会はこの計画を支持するものが政府当局であろうと否とを問わず,これら沖縄住民の誠意を決して非難しようとするものではない。しかしながら,分科委員会はかけ引にしろ,一体何うしてかかる法外な要求がなされたか非常に諒解に苦しむものである。実際においてその要求は,仮に沖縄人が,米国が現在必要としている農地の一かけらを所有していたとしても,米国政府はその個人,そして恐らくはその相続者までをも,あたかも彼らが長時間重労働に従事し,毎年自然の脅威を受けていたかの如き様式と方法で扶助すべきであるということを意味するものである。

 この提案は本分科委員会の委員が知悉している補償についての凡ての社会主義理論の上を行くものである。これ程地主を堕落させ,米国の納税者に対し不公平なものはない。それは前に指摘した如く,土地を失つた地主は,如何なる労務をも提供することもなく,土地の全生産力と同等額を受取るであろうから,いわゆる土豪と称せらるべきグループを作り出すことになるであろう。又この計画を採用すると,沖縄人,特にこの多額の年間地代を貰わない人々に有害なインフレーション的悪循環を作り出すことになることが分らないわけではない。また定期的な再評価の時期が近づくにつれ,更に多くの地代を獲得しようと試みることは必然であるから,年ぎめの地代によつて根本問題は解決されないであろう。

   今日までの米国の計画の不適当性

 本分科委員会の見解によれば,沖縄人は正当な範囲を正に越ている補償の要求をしたが,一方わが政府も沖縄人が蒙つた損失に対し補償を怠つた。

 前に述べた如く米国は占有した財産の適正価格の六%を使用料と決定した。土地価格につき成程一エーカー当り平均三三○ドルという明らかに寛大な評価をした。しかし沖縄では一家族平均僅か○・八エーカーの土地しか所有しておらず,年六%の地代の率では年間二○ドル足らずの収入にしかならないということは否定できない。

 沖縄人は○・八エーカーあれば食つて行けようが地代として受ける二○ドル足らずの収入では生活をして行けない。

    米軍占領の恩恵的部分

 以上米国による補償費の支払に関する記述は正確ではあるが沖縄に米軍が駐留する結果沖縄人に生ずる附随的利益,例えば米軍による防衛施設の建設作業による沖縄人の広汎な雇傭,右以外の米国側による直接雇傭および沖縄の経済状態が極めて実質的に変化したことにより沖縄人にもたらされた多くのその他の機会等を表現していないという点で誤解を招く惧れがある,沖縄の労働力の各四人ごとに一人は何らかの形で米国のために働いており,沖縄の歴史上なかつた最高の給与を受けているということが報告されている。舗装された道路上の永久建築物は首府那覇の狭いきたなかつた道に取つて替り近代的商店街が生れており,劇場は建築されている。これらのものは現地の活動であつて米国の活動ではない。

 死亡率は戦前の四○%以下に減少し,前には殆ど専ら甘薯を常食としていた多くの沖縄人は,現在は,米を含むずつと変化に富んだ食生活をしている。

 その上,約二年前米国は,教室建設計画に乗り出したが,この結果あと一年たてば,満足できる近代的コンクリート校舎を沖縄人に与えるであろう。

 今日沖縄は沖縄自身の大学(これも米国の新施設であるが)があり勿論沖縄人の大きな誇りの一つとなつている。学校の数は非常に少なかつたのが現在では小学校一四一,高等学校十六,高等専門学校一○校がある。

 そこで実相は,われわれの占領の結果沖縄人に課せられた苦痛と,占領によつて沖縄人にもたらされた利益の双方を理解するために,あらゆる角度から眺められなければならない。

    突き進めた考察

 片や琉球政府の補償要求は不合理であるとともに,他方わが政府の今日までの態度は非現実的であるというのが,上述せる考察からする分科委員会の見解である。琉球側の要求と土地問題固有の複雑性は,当然口やかましい少数派に対しあつらい向きの政治論争を提供した。

 この問題は,この少数派に煽動的紛糾のための好個の手段を提供した。少数派は,共産主義者の煽動によるものか否かはさて置いて,補償をする為に米国が取る如何なる措置に対しても,それが如何に公正で寛容であろうと,満足しないであろう。何となれば少しでも満足を示せば彼ら少数派が地方的にも国際的にも有効とみている政治論争を除いてしまうことになるからである。

 土地は何処にあつても土地であり,その取得は常に厳密に同じ法則によつて行われるという立場を取るということは,便宜であり,又問題解決を容易にする如く思えるであろう。

 しかしながら分科委員会は琉球における土地収用には,米国ではあり得ない極めて特殊な政治的経済的要因が存在していることは明瞭であると信ずる。この要因はあまりいくら強調しても強調し過ぎることはない。分科委員会の見解では,安易で便宜主義的態度は沖縄において公正な解決を与えることができず,沖縄および他の琉球諸島の土地収用に従事している者を惑わせ,ひいては今日存在する不公平な状態がそのまま続く結果となろう。

    今日までの評価法

 これまで米国の評価当事者は比較される財産の売買及び賃貸料を基礎として評価しようと試みてきた。米国ではこの方法は,煩繁に売買されている他の財産同様に農業財産についても信頼できる指数を普通与えている。

 従つて活発な不動産市場のある世界のいずれの地域にもよく適合した方法である。なんとなれば自由市場において比較される財産に対し支払われるところのものは疑いなくその価値の正しい標準であるからである。琉球では農地の活発な市場はなかつた。農地はめつたに売買されないのみか寧ろ数代にわたつてその一家が保有している。従つて,沖縄及び他の琉球諸島では比較財産売買法だけでは農地の価値を示す適切な指数を得られないことは明らかと思われる。

   沖縄における公聴会に関する論評

 分科委員会は沖縄において公聴会を行つて以来,問題の研究を続けたが,この研究の過程において,沖縄での公聴会に関する現地新聞の論評に留意した。分科委員会は,沖縄の新聞の論評が分科委員会に出頭した沖縄側証人の発言の挙動及び内容に失望の意を現わしていることに少々驚いた。

 先ず第一に証人が,議会分科委員会が事実調査のため履む手続につき殆んど知識を持たないであろうことは全く当然である。証人に対する尋問に示された如く土地問題をめぐる事実と環境についての分科委員会の徹底的質問と明白にあくことを知らぬ好奇心とは沖縄人の間に分科委員会は自分達の問題に対し必ずしも同情的ではないという感じを起させたようにみえる。しかし,これほど事実に反することはない。分科委員会は,長距離を旅行し,しかも且つ沖縄における公聴会開催の一種の先例を創つたと思つている。分科委員会は問題は何であり,可能なる解決は何であるかを確めるためにこれ以上よい場所はなかつたと感じている。

 それ故,分科委員会は,土地問題のあらゆる面を検討しようと決意をした。分科委員会は土地を失つた地主の問題及び米軍の沖縄占領の影響をうけた琉球諸島のその他の住民に対し,極めて同情的であつたし,現在もそうである。

 沖縄人の証言に不満の意を表わした新聞論評の部分は,分科委員会の意見では正しいと認められない。成程,若干の質問については,分科委員会のメンバーの完全の満足を得る回答をえなかつたが,これは証人が委員会の手続と訊問のたどりそうな筋道を心得ているワシントンでの公聴会の場合も往々起り勝ちなことである。若干の困難は,といつてもそれらは何れも重大なものではないが,実際上すべての証人の陳述が証人台に付そう通訳の飜訳を必要とした事実により容易に説明される。全体として証人の振舞が品位あり称賛に値するものであつたという意見を分科委員会は持つている。何れにせよ,ワシントン及び沖縄で行われた証言の綜合,分科委員会の行つた実地検証及び訪問した多くの村の村長及び村民と更に会談を行つたこと等により,分科委員会の委員は,その研究のためにやつてきた問題に関して均斉のとれた見解を得ることを得た。同様に分科委員会はワシントン及び沖縄の公聴会を通じ米軍の当面する諸問題を認識しえた。従つて云い得ることは必ずしも関係者の全部が分科委員会の到達した結論に基き行う勧告に同意しないことは考えられないことはないが,しかし,それらの基礎として理解を欠いていることはありえないと思う。

    権限の行使

 沖縄では,実質上不動産関係の取引について,殆んど前例のない多種多様の問題が土地収用と関連している。これらの問題は,米軍が土地を必要とすることから,起つたものであるが単なる土地収用の域を遙に越えた考慮すべき事柄を内包している。既に指摘した如く,土地問題から起つた深刻な経済的影響のほか微妙な地方的,国際的な問題の面がある。かかる状況においては,軍隊に与えられた権限が期待されるほど厳格且つ精密さをもつて行使されないことは明らかで,これは米国内においても似た状況においてはまさにそうである。それ故,一般的に制定された法の範囲内にあつても行政にあたつては,前記の事情がなければ,えられないかなりの想像力と同情とを働かせる必要があると分科委員会は考える。

 よつてこの問題の責任を負う人々が準備しなければならない,さまざまな回答を包含する宏い見解並びに弾力性ある考え方を示すことが望ましい。

    一般的考察

 琉球問題は如何に同情的であつても,一個の不人気な真実に当面せざるを得ないことは前述の通りである。即ち,沖縄におけるわれわれの第一の使命は戦略的なものであり,結局この使命と,それから由来する軍事的必要性が優先せざるを得ないことである。一年毎の地代支払に代えて分科委員会の勧告した長期地上権は分科委員会の意見では,琉球諸島における米国の駐屯の長さを示すものと解されてはならぬ。全部若しくは一部の琉球人同様,われわれも島の占領が必要でないことを望んでいる。しかし,それが必要であること,そして,この報告に含まれているすべての勧告がこの事実に基いていることは否定できない。このことを支持するため引用される最高政策の声明は,一九五四年一月七日の一般教書で「われわれは沖縄の米軍基地を無期限に保持するであろう」と述べたアイゼンハウアー大統領のそれである。

    一括払に関する論評

 ワシントンにおける公聴会においても,沖縄における公聴会においても沖縄側証人は普通の沖縄人は金銭の取扱に不慣れであるのでこれをうまく利用できず,又一括払で受ける基金を浪費して深刻な経済的窮境に陥るであろうとの注意すべき懸念を発言した。委員会はかかる可能性の合理性を評価することが出来ない。しかし,もしかかる可能性が,沖縄地主は資金を節倹使用する能力に欠けているとの確実な知識に基いたものであるならば,地主を保護するに必要な指導と援助を与える合理的な監督を課することができると思われる。例えば,一括払額を政府の基金に寄託しこれを土地開発,商業企業とか,或いはその他これに類する経済的に有益な計画であつて,以つてかかる活動より預託者に年々支払うため充分な収入を生み出すものに使用することが出来よう。更に,地主が新しい土地を獲得したり,健全な商業投資を行つたり,南方琉球諸島に入植したり,外国に移住したりする為寄託金を要すると申立てれば,自分の寄託金の全部または,その一部を引出し得るよう規定することも出来る。

 右に述べたことは,この任務を負う琉球政府が適当な機関を助長して行くことを期待するものである

    沖縄における原子力

 沖縄の土地問題とは関係はないが,分科委員会は究極的には沖縄人,吾々の防衛及び恐らく或る意味においては世界に影響を及ぼすに違いないところの勧告を行いたいと思う。

 一九五七年会計年度の軍事公共事業計画の中には約四万四千キロワットの電力を起すに必要な第一次施設拡張の項目が含まれると諒解される。この建設は漸く着手されたばかりだが,約千百五十万ドルと見積られている。沖縄では窮極的には十五万キロワット程度のものが必要であると推定される。これらの発電所の燃料として現在使用されている,或は将来使用されるすべての油樽は何千マイルの海を越えて油槽船によつて運んでこなくてはならない。

 油はこの目的のためにつくられた輸送管を通つて汲み上げられ,且つ多額の費用をかけて建設したタンクに貯蔵されねばならぬ。

 営利用原子力発電所の開発が目下米国で行われておるのは周知のとおりである。例えば遠隔基地用の熱及び電気をつくりだすために小型原子力発電所を設置しようとする陸軍の原子力の計画が進められている。

 輸送費がペルシヤ湾油田地における燃料石油の原価よりも事実高くつく沖縄のような地域においては,原子力発電所は普通の発電所と充分競争し得るであろうことは分科委員会にとつて明らかであると考える。平和目的のための原子力利用がもつ経済上,文化の向上はたまたま本質的に沖縄のような戦略地域において原子力開発が行われた場合人心に与える感動的衝撃のためにも分科委員会は国防省がこの問題に関し検討し且つ適切な勧告を行うよう分科委員会は勧告する。

    分科委員会の勧告

 土地の評価に当り,行政部門の主管範囲を侵すことは分科委員会の意図するところではないが,前述の如く琉球における農地に関する限り,比較売買法を用いることは全く実際的でないと考える。それではそれに代る方法は何であるか?農耕に最適である土地の補償を決定するに当つては米国は沖縄において現今農耕されている同種の土地に関する現在農業生産力及び収入資料に最大の考慮を払わねばならぬということが分科委員会の見解である。沖縄の土地所有者がその土地に対して公正な補償を受け又米国が沖縄における全面的義務を履行しようとするならば,確かに,土地から得られる将来の収益を考慮した現在価値は沖縄独特の考慮を要する要素であろう。

 分科委員会は又,将来無期限に必要と認められたるこれらの土地において取得される権利は,永代借地権とするかもしくは現行法規,ないしは現行法規の改正により取得しうる最大限の権利たるべきことを勧告する。永代借地もしくはそれに近い権利を取得される場合においてはこの報告の他の部分で述べた評価手続に従つて土地の適正なる価格が一括に支払われるべきである。これは地主がこうすることによつて,他の地域(多分他の琉球諸島)に移動するか,他の生計手段に慣れつつ生計を維持しもしくは数年前実施された移民計画を続行して海外へ移住するに足る完全且つ充分な金額を受け得る唯一の方法を示すものであると分科委員会は考える。

 他の方法,即ち毎年地代を支払うということは,とりわけ土地再評価の度毎に支払われる地代について,同意を得ることが出来ないため絶えず不安と意見の相違を見るであろうということが指摘されてきた。沖縄の地主に対する地代の一括払の悪影響について沖縄の証人がしばしば表明した関心事についてはこの報告書の後半において述べられている。

 評価方法についてはこれまで述べた事項はすべて農地についてのみである。沖縄には米国の活動によつてもたらされた新しい経済情勢に合致した性格をもつ商業用地及びその他の土地において活発な市場が存在している。これらの土地に関する評価の設定は比較売買法が最も適当である。

    その他の勧告

 分科委員会は,希望的な事項としてではなく,その各々について関係軍部門が綿密に検討し,この特別勧告の諸要素が熟した時軍事委員会に報告すべき事柄として次の追加勧告を行う。

1 耕作地と非耕作地とを問わず,沖縄経済のために返還し得る凡ての土地は速かに返還されるべきである。現在行われている基本計画に従つて,明瞭且つ明確に利用計画はされている土地で現在使用されていない土地があることを認める。然しながら,分科委員会はこれらの土地の外に将来必要となるかも知れないという単なる見込みだけで押えられていると思われる土地があると考える。このような土地があれば,これも出来得る限り速に返還さるべきである。

2 現在軍の管轄下にある耕作地約一万七千エーカーの内七千エーカーは許可制により沖縄人に農耕を許されているがこれら六千エーカーのうち三千エーカーは主として予備飛行場無線燃料タンク等の施設地域,軍需品貯蔵所などであるので,右土地は殆ど無期限に耕作され得るものと十分認められる。沖縄人が現在耕作しているこれらの土地は最大限に農耕の利用に供さるべきであり,又其の外の土地も利用が可能なる限り利用さるべきである。

3 次の勧告は琉球人自身及び特に琉球政府に対して,為されるものである。沖縄諸島において以前農耕地であつて現在休閑地となつている土地は少くとも一万二千エーカー(或る推定では二万七千エーカーに及んでいる。)と見積られている。ここに申述べた土地はいずれも基本計画の対象となつていないものである。これらの大部分の土地は,他の生計手段をもつている個人,別に肥沃な土地をもつている者,或は軍又は民間産業に雇傭された者によつて所有されている模様である。沖縄人はこれらの土地が何故耕作されていないかについて理由を述べているがそれらの理由はどれ一つとして遊休地となつている事情について十分な正当性がないように思われる。

 分科委員会の調査によれば琉球政府行政府は米国当局より何らか要請があつた後,これらの土地竝に其の他潜在的耕作可能な数千エーカーの土地を政府機関が取得する法案を起草した。この法案もまた水源,整地等によつて,取得したる土地を改良することを規定したものであつたであろう。耕作可能なる一切の土地が利用し得られるよう早急且つ積極的措置がとられるよう勧告する。

4 この計画は未だ十分進展しているように見えないが,分科委員会としては空軍は沖縄南西一八○哩に所在する宮古島に飛行場建設計画を真剣に検討しているものと考えた。分科委員会は低空で同島上空を飛行し,これにより同島は到る処集約的に耕作されていることが十分つた。又分科委員会はこの島は住民に比し土地が不足しているため住民は,石垣島及び西表町に移住が行われていることも知つている。

 沖縄に起つたよりも更に深刻な問題が沖縄のそれより小規模であるが,宮古島に発生する可能性があるから,この計画は最大の綿密さをもつて再検討されるべきである。

5 分科委員会は薪拾いのために個人のものでない森林地帯が沖縄全土に亘り村落経済に如何に重要であることを知つて驚いた。村民は演習や,その他の軍事行動のため,一時に数日間もこれらの森林を使うことを妨げられている模様である。

 このことは前述のとおり,非{前1文字ママとルビ}常にとつて真に幸いなことでありこのような目にあつている村落の基本経済に直接触れる問題である。分科委員会は,軍部が沖縄住民の伝統的慣習に従つて住民に森林を最大限に利用することを保障するためあらゆる措置を講ずるよう希望すると共に,協力的精神に基いてこの問題を解決すべきことを勧告する。

6 土地を失つた沖縄の地主に対し,農地となる可能性ある土地を回収し,整地し或はその他の方法で整備計画を始めることにより多大の援助を与えなければならない。分科委員会としては米軍は援助計画を立案しこれを実行に移し右計画が成功するよう,前記の援助を与え,又軍の技術知識を利用すべきであると思う。この点に関し,更に又分科委員会が行つた他の若干の勧告に関連して,国務長官の「米国は全力を尽して琉球住民の福祉と厚生の改善に努めるであろう」という約束をここに引用することが適切である。

    附帯的諸問題の決定

 分科委員会は二つの問題を未解決のままにして沖縄から帰国した。その一つは米国海兵師団(戦闘隊一個連隊を除く)を沖縄に駐留させることが賢明であるか否かの問題である。もう一つは米軍による普天間飛行場の使用と,それに附随して起る問題即ち海空による与那原飛行場の拡張計画に関するものである。

 分科委員会は帰国後これらの二つの問題について公聴会を開き徹底的に検討したところ海兵一個師団の三分の二を沖縄に移住させようとする軍の決定が正しいものであり又軍事上の必要性から正当であるとの結論に達した。公聴会の委細及び分科委員会の結論の根拠は,高度の軍事の機密に亘る点があるので報告書の討論の議題とすることはできない。

 普天間飛行場は,約一,八○○エーカーであり現在空軍により補助的なものとしてのみ使用されているが将来は特定の利用計画を有している。

 与那原は現在使用されていない海軍飛行場である。右飛行場は面積約六三○エーカーで,これが利用されるとすれば海軍による更に多くの土地の取得が必要となるであろう。これら二つの飛行場の使用計画は前述のとおり分科委員会よつて最も詳細に亘つて行われた公聴の議題であつた。分科委員会はこの二つの飛行場の使用暫定計画案に対し異議をはさむものではないが,両施設についての両省関係の錯綜する利害について引続き検討を行うよう勧告する。

 この点につき分科委員会のとつた立場は,両飛行場の拡大と使用は現在のところ計画の段階を出てはいないということである。右の両飛行場問題については,今日のところ判然と予測し難い種々の考慮が最後的決定を行う際なされることになろう。

    要  約

 以上を要約すれば分科委員会の勧告は次のとおり。

一,将来無期限にわたつて必要と考えられるこれらの諸資産に対して取得すべき権利は,永代借地権ないしは現行法律又はそれに加えられる修正に基く最大限の権利でなければならない。永代借地権もしくは永代借地権に極めて近い権利が取得される場合,本報告で定められた評価手続きに従つて公正な資産価格が支払われるべきである。

二,農地の価格評価にあたつては,主として農業生産性に考慮を払うべきである。

三,商業用財産の評価にあたつては,比較売買法を用うべきである。

四,耕作地と非耕作地とを問わず沖縄の経済のため返還しうるすべての土地はすみやかに返還さるべきである。

五,現在軍が接収している土地で琉球人が農耕を行つているものは引続きその用途に使用し,その他の耕作可能の土地も農耕に供すべきである。

六,琉球政府は,軍制下におかれていない遊休地を農耕に転換し得るよう積極的な計画を立案すべきである。

七,米軍による土地の追加の土地収用は絶対最少限度に止めるべきである。

八,空軍省は宮古島に飛行場の建設案を再検討すべきである。

九,軍当局は沖縄の森林利用を最大限に許可すべきで,しかも,それは,同情的且つ協力的立場に基いて行うべきである。

十,米軍は耕地を復旧し,その他の準備を行う琉球人に対し,一切の援助と支持を与えるための計画を立案し,これを実施すべきである。

十一,海空軍は与那原と普天間の改良問題については慎重な態度をとり,あらゆる社会的・経済的要因を最も詳細且つ正確に検討したうえでのみ最後的決定を行うべきである。

 なお,国防省が核エネルギー利用による電力開発の可能性に関する分科委員会の示唆に対して極めて真剣な考慮を払うことを勧告する。