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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 原子力の非軍事的利用に関する日米協定(原子力の非軍事的利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定)

[場所] ワシントン
[年月日] 1955年11月14日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),730−733頁.外務省条約局「条約集」第33集第62巻.
[備考] 
[全文]

 原子力の平和的利用は,人類すべてにきわめて有望な前途を約束しているので,

 日本国政府及びアメリカ合衆国政府は,原子力の平和的利用の開発のため相互に協力することを希望するので,

 数種の研究用原子炉(この協定の第一条に定義するところによる。)の設計及び開発が十分に進んでいるので,

 研究用原子炉は,研究に必要な量の放射性同位元素の生産,医学的治療その他の多くの研究活動に有用であり,また,同時に,民間の原子核動力を含む原子力の他の平和的利用の開発に有用な原子核科学及び原子核工学における貴重な訓練及び経験を与える手段であるので,

 日本国政府は,原子力の平和的及び人道的利用の実現をめざす研究及び開発の計画を遂行すること並びにこの計画に関しアメリカ合衆国政府から援助を受けることを希望するので,また,

 合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府は,前記の計画について日本国政府を援助することを希望するので,

 よつて,両当事者は,次のとおり協定する。

   第一条

 この協定の適用上,

A 「合衆国原子力委員会」とは,合衆国原子力委員会又は正当に委任を受けたその代表者をいう。

B 「設備及び装置」とは,機械又は器具をいい,この協定に定義する研究用原子炉及びその構成部品を含む。

C 「研究用原子炉」とは,一般的な研究及び開発の諸目的のため,医学的治療のため,又は原子核科学及び原子核工学における訓練のため中性子その他の放射線を発生させることを目的として設計された原子炉をいう。この用語には,動力用原子炉,動力試験用原子炉又は特殊核物質の生産を第一次の目的として設計された原子炉は,含まれない。

D 「秘密資料」,「原子兵器」及び「特殊核物質」という用語はこの協定においては,千九百五十四年合衆国原子力法に定義するところに従って用いる。

   第二条

 この協定の当事者は,第六条の制限を条件として,次の分野における情報を交換する。

A 研究用原子炉の設計,建設及び操作並びに研究,開発又は技術上の用具としてのその使用及び医学的治療におけるその使用

B 研究用原子炉の操作及び使用に関連する保健上及び安全上の問題

C 物理学上及び生物学上の研究,医学的治療,農業並びに工業における放射性同位元素の使用

   第三条

A 合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府は,日本国政府が合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府と協議の上建設することを決定する研究用原子炉を操作するための最初の燃料及び代替用の燃料として必要であり,かつ,原子力の平和的利用に関連する実験のため必要である同位元素Uー二三五を濃縮したウランを,この協定に定める条件に従つて日本国政府に賃貸する。合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府は,また,日本国政府が合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府と協議の上その管轄の下にある民間の個人又は機関に対し研究用原子炉の建設及び操作を授権することを決定するときは,その研究用原子炉を操作するための最初の燃料及び代替用の燃料として必要である同位元素Uー二三五を濃縮したウランを,この協定に定める条件に従って日本国政府に賃貸する。ただし,後の場合においては,日本国政府は,この協定の規定及び賃貸借取極の関係規定を守ることができるように,そのウラン及びその原子炉の操作について絶えず十分な管理を維持するものとする。

B 合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府によつて移転され,かつ,日本国政府の管理の下にある同位元素Uー二三五を濃縮したウランの量は,いかなる場合にも, Uー二三五を最大限二十パーセントまで濃縮したウランの中に含まれるUー二三五の量において六キログラムをこえないものとする。ただし,この物質の六キログラムの最大限の活用を可能にすることが合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府の意図するところであるので,取り出された燃料要素の放射能が日本国内において減衰している間又は燃料要素が運送されている間にも原子炉の効果的かつ継続的な操作を可能にするため必要であると合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府が認める追加量をこれに加えるものとする。

C 合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府が賃貸したUー二三五を含有する燃料要素が取替えを必要とするときは,その燃料要素は,合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府に返還されるものとし,かつ,合意される場合をのぞき,照射を受けた燃料要素の形状及び内容は,その燃料要素が原子炉から取り出された後合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府に引き渡されるまでの間は,変更してはならない。

D 同位元素Uー二三五を濃縮したウランのこの条の規定に基く賃貸借は,相互間で合意する料金並びに相互間で合意する輸送及び引渡に関する条件により,かつ,第七条及び第八条に定める条件に従つて行われるものとする。

   第四条

 合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府は,供給が可能であることを条件として,かつ,相互間の合意によつて,日本国政府又は同政府が授権するその管轄の下にある者に対し,市場で入手することができず,かつ,日本国における研究用原子炉の建設及び操作に当り必要とされる原子炉用資材(特殊核物質を除く。)を適当と認める機関を通じて売却し,又は賃貸する。これらの資材の売却又は賃貸借は,合意される条件による。

   第五条

 第二条に掲げる合意された情報交換の対象に関して,アメリカ合衆国政府は,その管轄の下にある者が,日本国政府並びにその管轄の下にある者で同政府により資材(設備及び装置を含む。)の受領及び所有並びに役務の利用を授権されるものに対し,次の条件に従つて,当該資材を移転し,及び輸出し,並びに当該役務を提供することを許可すべきことが了解される。

A 次条の制限

B 日本国政府及びアメリカ合衆国政府の関係法令及び許可要件

   第六条

 秘密資料は,この協定に基いては通報されないものとし,また,資材若しくは設備及び装置の移転又は役務の供与が秘密資料の通報を伴う場合には,日本国政府又は同政府が授権するその管轄の下にある者に対する資材若しくは設備及び装置の移転又は役務の供与は,この協定に基いては行われないものとする。

   第七条

A 日本国政府は,合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府から賃借した同位元素Uー二三五を濃縮したウランがこの協定に従つて合意された目的のためにのみ使用されることを確保するため,及びそのウランの保全を確保するため必要な保管の措置を維持することに同意する。

B 日本国政府は,同政府又は同政府が授権するその管轄の下にある者がこの協定に基いてアメリカ合衆国内から賃借し,又は購入した他のすべての原子炉用資材(設備及び装置を含む。)が,別段の合意がある場合を除き,日本国政府によって建設及び操作が決定される研究用原子炉の設計,建設及び操作並びにこれらに関連する研究のためにのみ使用されることを確保するため必要な保管の措置を維持することに同意する。

C 日本国政府は,この協定に従つて建設される研究用原子炉について,その出力及び原子炉燃料の燃焼に関する記録を保持し,かつ,これらの事項に関して合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府に年次通報を行うことに同意する。合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府の要請があるときは,日本国政府は,合衆国原子力委員会の代表者が,賃貸された資材の状態及び使用を随時観察し,並びにその資材が使用されている原子炉の運転状態を観察することを許可する。

   第八条

 日本国政府は,次のことを保証する。

A 前条に定める保管の措置が維持されること。

B 日本国政府又は同政府が授権するその管轄の下にある者に対しこの協定に従つて賃貸,売却その他の方法により移転される資材(設備及び装置を含む。)が,原子兵器,原子兵器の研究若しくは開発又は他の軍事目的に使用されないこと並びにその資材(設備及び装置を含む。)が授権されていない者に対し,又は日本国政府の管轄の外に移転されないこと。ただし,合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府が,他の国へのそのような移転が合衆国とその国との間の協力のための協定の範囲内に入ると認めて,その移転に同意する場合は,この限りでない。

   第九条

 この協定は,各当事国においてこの協定に法的効力を与えるため必要な憲法上の又は法律上のすべての手続が完了したことを確認する公文が両政府の間で交換された日に効力を生ずる。この協定は,その効力発生の日から五年間引き続き効力を有し,両政府の間で合意するところに従つて更新される。

 日本国政府は,この協定の存続期間又は延長された期間の満了の際に,合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府が賃貸した原子炉燃料を含有するすべての燃料要素及び合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府が賃貸した他のすべての燃料物質をアメリカ合衆国に引き渡すものとする。これらの燃料要素及び燃料物質は,日本国政府の負担で,合衆国原子力委員会によつて代表されるアメリカ合衆国政府に対しその指定する合衆国内の場所において引き渡されるものとし,その引渡は,運送中の放射線障害の危険に対する適当な保護措置の下に行われるものとする。

 以上の証拠として,このために委任された両政府の代表者は,この協定に署名した。

 千九百五十五年十一月十四日にワシントンで,日本語及び英語により本書二通を作成した。

 日本国政府のために

   井口貞夫(署名)

 アメリカ合衆国政府のために  

   ウィリアム・J・シーボルト(署名)

   ルイス・L・シュトラウス(署名)