データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 吉田総理大臣とアイゼンハワー大統領との間の共同声明

[場所] ワシントン
[年月日] 1954年11月10日
[出典] 日米首脳会談共同声明及び共同発表集,5−8頁.
[備考] 
[全文]

 アイゼンハウァー大統領と吉田総理大臣は11月9日会談し、日米両国の国交の基本である友好的な協力の精神を再び確認した。

 なお総理大臣はダレス国務長官、ハンフリー財務長官、ウイルソン国防長官、スタッセン対外活動本部長官等と会談した。総理大臣と国務長官は今週再度会見し、両国の共通の諸問題について隔意のない意見の交換を行うと共に、過去3週間に亘る両国代表の会談について検討を加えた。

1.大統領と総理大臣は、自由諸国の団結と決意が世界平和のため大いに寄与するところがあつたことについて同感の意を表した。大統領及び総理大臣は、日米両国政府が今後とも力を合せてアジアの自由諸国と協調し、アジアの平和と繁栄を維持し、かつ、これを増進する所存であることを言明した。また総理大臣は、日本政府がこれらの目的のため充分な寄与をなす決意を有することを再確認し、特にアジアの自由諸国の経済発展についで、日本は能う限り協力を行うことを要望する旨を強調した。

 大統領と総理大臣は、両国政府は平和を目的とするものであり、両国国民は両国及び隣邦のため平和と自由を希求するものである旨を表明した。

2.両国政府代表は日本経済の現状について詳細に討議した。日本国民の経済的福祉が、自由政界全般にとつて重要な事項であることについて意見の一致をみた。日本の経済状態の改善は、日本国民自身が健全にして建設的な国内の金融及び経済諸施策を遂行し得るか、また日本が貿易をこれ以上増進し得るかにかかつている。終戦後日本が達成した経済の発展については米国は各種の方途によつて相当の寄与をなして来た。今日日本が経済上の困難な諸問題を解決するために払つている努力は、米国もこれを認識しており、日本国民の福祉を更に増進するために、米国としてとり得る各種の施策については今後とも好意をもつて検討する方針である。

 今次の会談において若干の具体策の検討が行われた。貿易を増進し、外国との経済関係の改善を図るための日本の努力に対して米国は協力することについて原則的な了解に達した。また米国は、日本に各種の農産物を売却し、日本における売却代金の相当額は、日本の国内経済の改善、防衛支持、及び地域的な経済発展に使用されることについても意見の一致をみた。その他討議された事項は、日本において生産性向上計画を実施すること、南及び東南アジアの自由諸国とともに、日本がどう地域の経済発展に参加することによつて生じ得べき相互の利益等である。これらの方策は、すべて日本の経済状態の改善及び成果tく水準の向上を促進するため資するところ大なるものがあることについても双方の意見が一致した。

3.米国代表は、去る3月1日太平洋における原子核の実験により落下した放射能物資のため23名の日本漁民が傷害を受け、うち1名は死亡した事件について遺憾の意を表明した。米国代表は原子力の平和的利用が着々と進められ、究極においては日本及び世界の友好各国にとつて大きな価値をもたらすことを信ずる旨を強調した。

4.米国によつて接収された日本資産の処理についても討議が行われ、米国代表は本件は目下考慮中である旨を述べた。その他の問題としては、アジアの自由諸国政府の活動を弱め、かつ、信頼を失わしめようとする共産主義者の努力、戦争犯罪人の問題に対し考慮を促進すべき旨の日本の要請、現下の国際情勢にかんがみての琉球及び小笠原諸島の地位、並びに元島民の小笠原諸島復帰に関する日本の要望等について検討が行われた。