データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国との平和条約,議定書

[場所] サンフランシスコ
[年月日] 1951年9月8日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),440ー442頁.外務省条約局「条約集」第29集第87巻.
[備考] 
[全文]

 下名は、このために正当に権限を与えられて、日本国との平和が回復した時に契約、時効期間及び流通証券の問題並びに保険契約の問題を律するために、次の規定を協定した。

   契約、時効及び流通証券

    A 契約

1 Fに定める敵人となつたいずれかの当事者の間でその履行のため交渉を必要とした契約は、いずれかの契約当事者が敵人となつた時に解除されたものとみなす。但し、次の第二項及び第三項に掲げる例外については、この限りでない。もつとも、この解除は、本日署名された平和条約の第十五条及び第十八条の規定を害するものではなく、また、契約の当事者に対しては、前渡金又は内金として受領され、且つ、その当事者が反対給付を行わなかつた金額を払いもどす義務を免除するものではない。

2 分割することができ、且つ、Fに定める敵人となつたいずれかの当事者の間で履行のため交渉を必要としなかつた契約の一部は、前項の規定にかかわらず、解除されないものとし、且つ、本日署名された平和条約の第十四条に含まれる権利を害することなく、引き続いて有効とする。契約の規定がこのように分割することができない場合には、その契約は、全体として解除されたものとみなす。前記は、この議定書の署名国で、平和条約にいう連合国であり且つ当該契約又はいずれかの契約当事者に対し管轄権を有するものによつて制定された国内の法律、命令又は規制の適用を受け、且つ、当該契約の条項に従うものとする。

3 Aの規定は、敵人間の契約に従つて適法に行われた取引がこの議定書の署名国で平和条約にいう連合国であるものの政府たる関係政府の許可を得て行われたときは、当該取引を無効にするものとみなしてはならない。

4 前記の規定にかかわらず、保険契約及び再保険契約は、この議定書のD及びEの規定に従つて取り扱う。

    B 時効期間

1 人又は財産に影響する関係で、戦争状態のために自己の権利を保全するのに必要な訴訟行為又は必要な手続をすることができなかつたこの議定書の署名国の国民に係るものについて訴の提起又は保存措置をする権利に関するすべての時効期間又は制限期間は、この期間が戦争の発生の前に進行し始めたか又は後に進行し始めたかを問わず、一方日本国の領域において、他方この頃の規定の利益を相互主義によつて日本国に与える署名国の領域において、戦争の継続中その進行を停止されたものとみなす。これらの期間は、本日署名された平和条約の効力発生の日から再び進行し始める。この項の規定は、利札若しくは他の配当金受領証の呈示について、又は償還のための抽せん{前2文字強調}に当せん{前2文字強調}した有価証券若しくは他の何らかの理由で償還される有価証券の支払いを受けるための呈示について定められた期間に適用する。但し、これらの利札又は有価証券に関しては、期間は、利札又は有価証券の保有者に対して金額を支払うことができるようになつた日から再び進行し始めるものとする。

2 戦争中に何らかの行為をせず、又は何らかの手続をしなかつたために処分が日本国の領域において行われた場合において、この議定書の署名国で平和条約にいう連合国であるものの一国の国民に損害を与えるに至つたときは、日本国政府は、損害を生じた権利を回復しなければならない。この回復が不可能又は不衡平である場合には、日本国政府は、関係署名国の国民にそれぞれの事情の下において公正且つ衡平な救済が与えられるようにしなければならない。

    C 流通証券

1 敵人間においては、戦前に作成された流通証券は、戦争中に、引受若しくは支払のための証券の呈示、振出人若しくは裏書人への引受拒絶若しくは支払拒絶の通知又は拒絶証書の作成を所要の期間内にしなかつたことだけを理由として、あるいは戦争中に何らかの手続を完了しなかつたことを理由として無効となつたものとみなしてはならない。

2 流通証券が引受若しくは支払のために呈示され、引受拒絶若しくは支払拒絶の通知が振出人若しくは裏書人に与えられ、又は拒絶証書が作成されなければならない期間が戦争中に経過し、且つ、証券を呈示し、拒絶証書を作成し、又は引受拒絶若しくは支払拒絶の通知を与えなければならない当事者が戦争中にそれを行わなかつた場合には、呈示し、引受拒絶若しくは支払拒絶の通知を与え、又は拒絶証書を作成することができるように、本日署名された平和条約の効力発生の日から三箇月以上の期間が与えられなければならない。

3 何人かが、戦争前又は戦争中に、後に敵人となつた者から与えられた約束の結果として、流通証券に基く債務を負つたときは、後者は、戦争の発生にかかわらず、この債務に関して前者に補償する責任を引き続いて負わなければならない。

    D 当事者が敵人となつた日の前に終了していなかつた保険契約及び再保険契約(生命保険を除く。)

1 保険契約は、当事者が敵人となつたという事実によつては解除されなかつたものとみなす。但し、当事者が敵人となつた日の前に保険責任が開始しており、且つ、保険契約者がその日の前に契約に従つて保険を成立させ又はその効力を維持するための保険料として支払うべきすべての金額を支払つたことを条件とする。

2 前項に基いて引き続き効力を有しているもの以外の保険契約は、存在しなかつたものとみなし、これに基づいて支払われた金額は、返済しなければならない。

3 以下に明文の規定がある場合を除き、特約再保険その他の再保険契約は、当事者が敵人となつた日に終了したものとみなし、且つ、これに基くすべての出再保険契約は、その日に取り消されたものとする。但し、特約海上再保険に基づいて開始された航海保険に関する出再保険契約は、再保険された条件に従つて自然に終了するまで引き続いて完全に効力を有したものとみなす。

4 任意再保険契約は、保険責任が開始しており、且つ、再保険を成立させ又はその効力を維持するための保険料として支払うべきすべての金額が通例の方法で支払われ、又は相殺された場合には、再保険契約に別段の定がない限り、当事者が敵人となつた日まで引き続いて完全に効力を有し、且つ、その日に終了したものとみなす。

 もつとも、航海保険については、この任意再保険は、再保険された条件に従つて自然に終了するまで引き続いて完全に効力を有したものとみなす。更に、前記の1に基いて引き続き効力を有している保険契約に関する任意再保険は、元受保険の期間満了まで引き続いて完全に効力を有したものとみなす。

5 前項で取り扱つたもの以外の任意再保険契約並びに「超過損害率」に基く超過損害再保険及び雹害再保険{雹にヒョウとルビ}(任意契約であるかどうかを問わない。)のすべての契約は、存在しなかつたとみなし、これらに基いて支払われた金額は、返済しなければならない。

6 特約再保険その他の再保険契約に別段の定がない場合には、保険料は、経過期間に比例して清算しなければならない。

7 保険契約又は再保険契約(特約再保険に基く出再保険契約を含む。)は、いずれかの当事者が国民であつたいずれかの国又はその国の連合国若しくは同盟国による交戦行為に基く損害又は請求権を担保しないものとみなす。

8 保険が戦争中に原保険者から他の保険者に移転された場合又は全額再保険された場合には、その移転又は再保険は、自発的に行われたか又は行政若しくは立法の措置によつて行われたかを問わず、有効と認め、原保険者の責任は、移転又は再保険の日に消滅したものとみなす。

9 同一の両当事者間に二以上の特約再保険その他の再保険契約があつた場合には、両当事者間の勘定を清算するものとし、その結果生ずる残高を確定するために、その勘定には、すべての残高(未払の損害に対する合意した準備金を含む。)及びこのようなすべての契約に基いて一当事者から他の当事者に支払うべきすべての金額又は前記の諸規定のいずれかによつて返済されるべきすべての金額を算入しなければならない。

10 当事者が敵人となつたために保険料、請求権又は勘定残高の決済に当つて生じた又は生ずる延滞については、いずれの当事者も、利息の支払を要しないものとする。

11 この議定書のDの規定は、本日署名された平和条約の第十四条によつて与えられる権利を害し又はこれに影響を及ぼすものではない。

    E 生命保険契約

 保険が戦争中に原保険者から他の保険者に移転された場合又は全額再保険された場合には、その移転又は再保険は、日本国の行政機関又は立法機関の要求によつて行われたものであるときは、有効と認め、原保険者の責任は、移転又は再保険の日に消滅したものとみなす。

    F 特別規定

 この議定書の適用上、自然人又は法人は、これらの者の間で取引をすることがこれらの者又は当該契約が従つていた法律、命令又は規則に基いて違法となつた日から敵人とみなす。

   最終条項

 この議定書は、日本国及び本日署名された日本国との平和条約の署名のために開放され、且つ、この議定書が取り扱う事項について、日本国とこの議定書の署名国である他の各国との間の関係を、日本国及び当該署名国の双方が平和条約によつて拘束される日から律するものとする。

 この議定書は、アメリカ合衆国政府の記録に寄託する。同政府は、その認証謄本を各署名国に交付する。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この議定書に署名した。

 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で、ひとしく正文である英語、

フランス語及びスペイン語により、並びに日本語により作成した。