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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 琉球列島米国民政府に関する指令

[場所] 
[年月日] 1950年12月5日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),121−125頁.中野好夫編「戦後資料 沖縄」,55−7頁.
[備考] 
[全文]

 日本帝国降伏条件受諾及び占領国の権利義務に関する国際法の原則の結果として,米国政府は,北緯30度以南の琉球列島の行政の責任を負うている。琉球列島の行政運営に対する米国政府の方針は,軍事的必要の許す範囲において,住民の経済的並びに社会的福祉の増進を図るにある。

 本指令は琉球の帰属確定までの占領国たる米国の権利義務を正当に考慮して発したものである。責任,目的,民行政及び民政副長官に対する補足的訓令は,次の通りである。

A 責任

(1) この責任は,本指令並びに米国政府の訓令に基づき遂行すべきものである。この地域に対する米国の行政府を「琉球列島米国民政府」と呼称する。

(2) この責任は,琉球民政長官たる極東軍総司令官に委託されたのであるが,極東軍総司令官は,琉球軍司令官を民政副長官に任命した。民政長官の権限の一部は,本指令に明示されたものを除き,民政副長官に委任する。民政副長官は,本指令でそのあらましを述べた基本政策を遵守し,且つ次の訓令に基づき,これを実施する。

B 目的

(1) 米国琉球民政府は,軍事的必要の許す範囲内において,次の諸事項を促進しなければならない。

 (イ) ガリオア資金の許す範囲において戦前同様の琉球列島生活基準の確立。但し,戦前の程度以上の生活基準の向上は,米国予算の援助なしに琉球住民自体の努力によって達成さるべきものである。保健基準は,現在戦前以上に達しているが,琉球駐屯米軍要員の保健上必要なる限り,その基準の向上に対しては,ガリオア資金による必要資材の輸入を許可する。

 (ロ) 1952会計年度末までに自立財政を可能ならしめるための予算及び税制を含む健全財政組織の確立。これは,1953年度に対外決済に欠損を生じた場合,その補?のためガリオア資金の割当を要請することを禁ずるものではない。

 (ハ) 民主主義の原則により設立された立法,行政,司法の機関による自治。但し最高の権威は,民政長官にあり,その権威に服する。

 (ニ) 住民の現在の文化を尊重しつつ文化教育の発達を図ること。

C 行政

(1) 琉球住民が民主的手続で次の諸行政機構を樹立することと必要な規定を設けること。但し,全行政機構は,米国琉球民政府がこれを統轄する。

 (イ) 市町村単位の自治機構。

 (ロ) 群島単位の自治機構。

 (ハ) 能う限り速やかに中央政府樹立に関する規定を設けねばならぬ。

  中央政府樹立までは米国琉球民政府の諮詢に答申する琉球諮詢委員会を設

立することができる。

(2) 前項第1項B(1)及び第1項C(1)により設立される裁判所には,権限及び訴訟手続きをそれぞれ明確に示した民事及び刑事裁判所並に控訴裁判所が含まれる。前述の裁判所の権限は,不動産の所有権に関する紛争の審判及び収容処分を含む。民政副長官の定むる規定に従い,前述の裁判所は,琉球列島内の総ての人に対する民事裁判権を有し,連合国国民以外の総ての人に対する刑事裁判権を有する。この刑事裁判権は,民政長官の自由裁量による認可ある場合に限り,占領軍の軍人,軍属及びその家族以外の総ての人に及ぼすことが出来る。

(3) 民政副長官は,前述の裁判所の判決を再審する権限を有する終審裁判所を設立し,必要な手続法を制定しなければならない。終審裁判所の判検事は,民政副長官の推薦により民政長官がこれを任免する。民政長官は,自由裁量により裁判所の決定,判決または宣告に対する再審,承認公判期日延期,執行猶予,減刑,却下またはその他の方法による修正または撤回の権限を留保する。民政長官は,恩赦の権限を留保する。民政副長官の進言に対しては充分考慮する。

(4) 軍事占領に支障を来たさない限り,琉球住民に対し,言論,集会,請願,宗教,出版の自由及び正当な法律上の手続を履まない不法の捜索,逮捕及び生命,自由,財産の剥奪に対する保証を含む民主主義国における基本的自由を保証する。

(5) 民政副長官は,その使命遂行上必要なる場合は,次の事項を行なうことが出来る。

 (イ) 前述の諸行政機構により制定された法令,規定の否認,禁止またはその執行停止。

 (ロ) 前述の諸行政機構に対し,民政副長官の必要と認める法令,規則の公布を命ずること。

 (ハ) 民政副長官の命令が実施されない場合または安全のために必要と認めた場合には,琉球行政の一部または全部につきその執行の全権を自ら掌握すること。

 民政副長官が以上の権限を行使するに当っては最深の熟慮を払わねばならぬ。

  D 民政副長官に対する補足的訓令

(1) 琉球中央政府が樹立されるまでは,民政副長官は,琉球における日本及び軍政府現行法の再検討及び法典化を速やかに開始せねばならぬ。また本指令の目的に抵触する法令の修正,改訂または廃止を規定しなければならぬ。

(2) 琉球中央政府が樹立されるまでは,民政副長官は,土地所有権に関する紛争解決に必要な裁判機構の設定を含む土地所有権の登録または確定の遂行を優先的になさねばならぬ。

(3) 副長官は,長官の承認を得て,長期経済計画に着手する。本計画は,本指令のIのBの(1)(イ)の範囲で琉球の自立を達成することを主たる目的として,琉球人を出来るだけ各面に参画させること。該計画は下記を含む。

 (イ) 企業の自由競争制度の下で,農水商工の適当な琉球人が参画すること。

 (ロ) 土地の改良を含む琉球の天然資源の利用,保存に対する健全なる政策。

 (ハ) 輸出向或は輸入を軽減することの出来る琉球産業の長期開発計画。

 (ニ) 琉球人の労務,その他不動産を含む経済資源を以って,その援助に寄与したるものに対する琉球駐在の米軍及び米政府代行機関による相当な賠償。

 (ホ) 外国貿易の発展。出来るだけ早く民貿易の復興を目的として,最初は官貿易による。

 (ヘ) 財政安定の方法,例えば赤字財政によらずして,必要な琉球政府各機関を維持するための適切公平な税制,健全な銀行及び通貨制度並びに長官の承認を得て,総ての対外取引に適用する単一為替レートの設定。これは,自由兌換を最終目標とする。

 (ト) ガリオア物資売上より生ずる全資金を繰入れる別途見合資金の設定。本資金の管理には,長官の承認及び長官の随時制定する規定に従い,副長官これをなすものとする。下段の1のDの(8)に規定せる如く,合衆国政府が永久に必要とする土地購入のための米国予算割当の獲得を俟って,前記の別途見合資金は,下記の用途に使用される。

1.適切な税制が設定されるまでは,最小限度必要な資金を中央政府運営のために支出してよい。しかしこの資金は,1952年4月1日以後は使用してならない。

2.米情報教育計画の地方現金出費。

3.経済復興の推進。島内生産を増加し,経済自立を推進する農業並びに私企業に対する長期貸付の拡張を含む。

4.1950年7月1日以前米国の使用せる民財産の各使用料の支払。但し右支払は,副長官の決定する時期と額によるものとする。疾病及び社会不安の防止,同地方の統治及び経済復興のために使用されたる資金(即ちガリオア予算からの支出)を米国に払戻させるために琉球人に負担をかけることを期してはならない。

(4) 民政副長官は,極東軍総司令部の設定せる政策及び手続きに従い,且つ,軍事的必要並びに施設の利用が許す範囲内において琉球列島と諸外国間の旅行並び通信を許可する。民政副長官は移民を奨励する。

(5) 民政副長官は,下記の事項を促進する。

 (イ) 教育施設の設立。特に人事及び資材の両面に重点を置く。

 (ロ) 公の情報を弘布するための施設。

 (ハ) 民主的市民の義務についての認識を深めるための計画。

(6) 民政副長官は,必要に応じて,琉球列島米国民政政府運営並びに琉球列島における経済復興及び救済のために,米国政府からの資金割当見積書を作成し,詳細な説明書を添え,本指令に従って,極東軍総司令官を通じて,これを米国陸軍省に提出する。民政副長官はかかる目的に使用するために充てられた資金については,支出手続に従い,支出の責任を負う。

(7) 琉球列島内にある日本政府の国有財産は,講和条約が締結される時まで,もしくは別の方法により日米両国間の戦争状態が終結せられる時までは,引続き日本政府の所有として存続する。現在,米国は,国際法上の占領国である。占領国の権利の中には前政府の国有財産または市町村の所有財産以外の被占領地域の政府の所有財産等を無償で占有したり,使用したりする権利がある。それで,民政副長官は,米国政府が必要とする日本政府または市町村以外の琉球人行政機関に所属していた公共財産を占有する。かかる財産は無償で使用される。民政副長官は,適当な米国政府の代行機関にこの種財産を割当て,占有せしめる。講和条約の締結がなり,或は日米両国間の戦争状態が終結したら,上の条約文または戦争状態終結の条約書により認められた範囲内で,民政副長官は米国政府の名において,この種財産の所有権を獲得するために適当な行動をとる。しかる後に,副長官は,かかる財産を割当先の代行機関に譲渡して永久に所有させる。

(8) 副長官は,合衆国政府が永久に必要とするその他の財産もしくは施設を,所有者が琉球人たると,日本人たるとまたはその国籍の如何を問わず購入によりまたは収用して,その所有権を獲得する。この種財産は,出来るだけ談合による購入によって獲得するものとする。もし,適当な条件で購入出来ない場合または所有者が商議することを拒んだ場合は収用手続をとる。民政副長官は,財産の評価,取得または収用手続きをとるに当ってデイストリック・エンジニヤの業務を利用する。陸軍省,空軍省または海軍省もしくはその他の米国政府代行機関は,ガリオア資金中より相応額の資金を減ずることを条件として,この種財産を購入するために特定の権限及び資金を要求する。もし資金の割当が認可されなかった場合は,支出出来る範囲内の見返資金を所要の土地の購入に充当する。こういうふうにして資金を得ることは,現行法で認められていることである。かように資金を使用することは,前記1のDの(3)(ト)に詳述せる諸事項のために右資金を使用することよりも優先権を与えられるものであるが,しかしながら会計年度1951年−1952年の期間中の中央政府運営費の支出及び情報教育計画中の最重要部門に要する経費を円予算から支払うことに関しては,この限りではない。

(9) 副長官は,米国政府が臨時に必要とする財産または前記1のDの(8)により購入をなすまでの財政については,これを強制的に徴発したりまたは借用したりすることが出来る。使用者たる米国政府代行機関は,1951年7月1日以降かかる借用地または建物に対しては割当資金を以って,使用料を支払う必要がある。

(10) 副長官は米国政府が必要としない日本の国有財産の所有権を得る。副長官はかかる日本国有財産の一部を琉球人が行政上の目的で使用する必要のある場合は,これを無償で琉球人行政機関に払下げることが出来る。副長官は,合衆国政府が,この種財産の譲渡について法的権限を確保したら,この種財産の所有権を琉球人政府またはその代行機関に譲る。残余の財産は,使用料を徴し,優先的に琉球人に貸与する。この使用料は,特別会計に繰入れ,民政長官の指示する行政上の目的を有する経費に充てる。借地人による土地の永久的改善を奨励する見地から,副長官は,規定を設け,借地の所有権を譲渡すべく米国政府が法的権限を確保できた場合,貸借契約成立の際決定された価格及び条件で借地人が随時に該借地を購入できるようにすべきである。

(11) 在日本の日本人または日本人法人団体にして,琉球列島内にありしかも米国政府が必要としない財産を所有している者は,引続きかかる財産を管理してもよい。但し,これは琉球経済の便益のために適当に利用すべきである。琉球列島経済のために使用する必要のある財政の所有者が,もし,その使用について同意しなかった場合は,民政副長官は,民法廷で収用手続を発動させこれを収用する。しかして,所有権が確保されたとき,この財産は,適当な購入希望者に売却する。

(12) 副長官は,琉球列島内にある日本人所有の不動産中米国政府が必要としないものについては,前記の所有者に対し,極力これを琉球列島の住民に売るようにすすめる。

II

 現行指令の条文中に本指令に抵触するところがあれば,本指令の通り改正したものと見做す。

III

 現在までに琉球列島軍政府の発した布告,布令,指令または一般命令等における「琉球列島軍政府」の名称はこれを「琉球列島米国民政府」と改める。副長官は,これを確認する。

以上マッカーサー元帥の命に依り

          軍務局長

          米国陸軍准将

          K・B・ブッシュ

 琉球列島米国民政府に関する指令(改正)

 1950年12月5日附極東軍総司令部書翰・主題「琉球列島米国民政府に関する指令」中第1項Cの(3)を削除し,これを次の通り改める。

(3) 民政副長官は,前述の裁判所の判決を再審する権限を有する終審裁判所を設立し,必要な手続法を制定しなければならない。終審裁判所の判検事は,民政副長官の推薦により民政長官がこれを任免する。民政副長官は自由裁量により裁判所の決定,判決または宣告に対する再審,承認,公判期日延期,執行猶予,減刑,却下またはその他の方法による修正または撤回をなすことができる。民政副長官は,赦免権を有する。

  民政長官の命に依り

          軍務長官

          米国陸軍准将

          K・B・ブッシュ