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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 降伏後ニ於ケル米国ノ初期ノ対日方針

[場所] 
[年月日] 1945年9月6日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),81−91頁.外務省特別資料課編「日本占領及び管理重要文書集」,91−108頁.
[備考] 
[全文]

本文書ノ目的

本文書ハ降伏後ノ日本国ニ対スル初期ノ全般的政策ニ関スル声明ナリ本文書ハ大統領ノ承認ヲ経タルモノニシテ聨合国最高司令官及米国関係各省及機関ニ対シ指針トシテ配布セラレタリ本文書ハ日本国占領ニ関スル諸問題中政策決定ヲ必要トスル一切ノ事項ヲ取扱ヒ居ルモノニ非ズ本文書ニ含マレズ又ハ充分尽サレ居ラザル事項ハ既ニ別個ニ取扱ハレ又ハ将来別個ニ取扱ハルベシ

第一部 究極ノ目的

日本国ニ関スル米国ノ究極ノ目的ニシテ初期ニ於ケル政策が従フベキモノ左ノ如シ

(イ) 日本国ガ再ビ米国ノ脅威トナリ又ハ世界ノ平和及安全ノ脅威トナラザルコトヲ確実ニスルコト

(ロ) 他国家ノ権利ヲ尊重シ国際聨合憲章ノ理想ト原則ニ示サレタル米国ノ目的ヲ支持スベキ平和的且責任アル政府ヲ究極ニ於テ樹立スルコト,米国ハ斯ル政府ガ出来得ル限リ民主主義的自治ノ原則ニ合致スルコトヲ希望スルモ自由ニ表示セラレタル国民ノ意思ニ支持セラレザル如何ナル政治形態ヲモ日本国ニ強要スルコトハ聨合国ノ責任ニ非ズ

此等ノ目的ハ左ノ主要手段ニ依リ達成セラルベシ

(イ) 日本国ノ主権ハ本州,北海道,九州,四国竝ニ「カイロ」宣言及米国ガ既ニ参加シ又ハ将来参加スルコトアルベキ他ノ協定ニ依リ決定セラルベキ周辺ノ諸小島ニ限ラルベシ

(ロ) 日本国ハ完全ニ武装解除セラレ且非軍事化セラルベシ軍国主義者ノ権力ト軍国主義ノ影響力ハ日本国ノ政治生活,経済生活及社会生活ヨリ一掃セラルベシ軍国主義及侵略ノ精神ヲ表示スル制度ハ強力ニ抑圧セラルベシ

(ハ) 日本国国民ハ個人ノ自由ニ対スル欲求竝ニ基本的人権特ニ信教,集会,言論及出版ノ自由ノ尊重ヲ増大スル様奨励セラルベク且民主主義的及代議的組織ノ形成ヲ奨励セラルベシ

(ニ) 日本国国民ハ其ノ平時ノ需要ヲ充シ得ルガ如キ経済ヲ自力ニ依リ発達セシムベキ機会ヲ与ヘラルベシ

 第二部 聨合国ノ権限

一 軍事占領

降伏条項ヲ実施シ上述ノ究極目的ノ達成ヲ促進スル為日本国本土ハ軍事占領セラルベシ右占領ハ日本国ト戦争状態ニ在ル聨合国ノ利益ノ為行動スル主要聨合国ノ為ノ軍事行動タルノ性質ヲ有スベシ右ノ理由ニ因リ対日戦争ニ於テ指導的役割ヲ演ジタル他ノ諸国ノ軍隊ノ占領ヘノ参加ハ歓迎セラレ且期待セラルルモ占領軍ハ米国ノ任命スル最高司令官ノ指揮下ニ在ルモノトス協議及適当ナル諮問機関ノ設置ニ依リ主要聨合国ヲ満足セシムベシ日本国ノ占領及管理ノ実施ノ為ノ政策ヲ樹立スル為有ラユル努力ヲ尽スベキモ主要聨合国ニ意見ノ不一致ヲ生ジタル場合ニ於テハ米国ノ政策ニ従フモノトス

二 日本国政府トノ関係

天皇及日本国政府ノ権限ハ降伏条項ヲ実施シ且日本国ノ占領及管理ノ施行ノ為樹立セラレタル政策ヲ実行スル為必要ナル一切ノ権力ヲ有スル最高司令官ニ従属スルモノトス日本社会ノ現在ノ性格竝ニ最小ノ兵力及資源ニ依リ目的ヲ達成セントスル米国ノ希望ニ鑑ミ最高司令官ハ米国ノ目的達成ヲ満足ニ促進スル限リニ於テハ 天皇ヲ含ム日本政府機構及諸機関ヲ通ジテ其権限ヲ行使スベシ日本国政府ハ最高司令官ノ指示ノ下ニ国内行政事項ニ関シ通常ノ政治機能ヲ行使スルコトヲ許容セラルベシ但シ右方針ハ

 天皇又ハ他ノ日本国ノ権力者ガ降伏条項実施上最高司令官ノ要求ヲ満足ニ果サザル場合最高司令官ガ政府機構又ハ人事ノ変更ヲ要求シ又ハ直接行動スル権利及義務ニ依リ制限セラルルモノトス更ニ又右方針ハ最高司令官ヲシテ米国ノ目的達成ニ指向スル革新的変化ニ坑シテ 天皇又ハ他ノ日本国ノ政府機関ヲ支持スル様拘束スルモノニ非ズ即チ右方針ハ日本国ニ於ケル現存ノ政治形態ヲ利用セントスルモノニシテ之ヲ支持セントスルモノニ非ズ封建的及権威主義的傾向ヲ修正セントスル政治形態ノ変更ハ日本国政府ニ依ルト日本国国民ニ依ルトヲ問ハズ許容セラレ且支持セラルベシ斯ル変更ノ実現ノ為日本国国民又ハ日本国政府ガ其ノ反対者抑圧ノ為実力ヲ行使スル場合ニ於テハ最高司令官ハ麾下部隊ノ安全竝ニ占領ノ他ノ一切ノ目的ノ達成ヲ確実ニスルニ必要ナル場合ニ於テノミ之ニ干渉スルモノトス

三 政策ノ周知

日本国国民及世界一般ハ占領ノ目的及政策竝ニ其ノ達成上ノ進展ニ関シ完全ナル情報ヲ与ヘラルベシ

 第三部 政治

一 武装解除及非軍事化

武装解除及非軍事化ハ軍事占領ノ主要任務ニシテ即時且断乎トシテ実行セラルベシ日本国国民ニ対シテハ其ノ現在及将来ノ苦境招来ニ関シ陸海軍指導者及其ノ協力者ガ為シタル役割ヲ徹底的ニ知ラシムル為一切ノ努力ガ為サルベシ日本国ハ陸海空軍,秘密警察組織又ハ何等ノ民間航空ヲモ保有スルコトナシ日本国ノ地上,航空及海軍兵力ハ武装ヲ解除セラレ且解体セラルベク日本国大本営,参謀本部(軍令部)及一切ノ秘密警察組織ハ解消セシメラルベシ陸海軍資材,陸海軍艦船,陸海軍施設竝ニ陸海軍及航空機ハ引渡サレ且最高司令官ノ要求スル所ニ従ヒ処分セラルベシ

日本国大本営及参謀本部(軍令部)ノ高級職員,日本国政府ノ他ノ陸海軍高級職員,超国家主義的及軍国主義的組織ノ指導者竝ニ他ノ軍国主義及侵略ノ重要ナル推進者ハ拘禁セラレ将来ノ処分ノ為留意セラルベシ軍国主義及好戦的国家主義ノ積極的推進者タリシ者ハ公職及公的又ハ重要ナル私的責任アル如何ナル地位ヨリモ排除セラルベシ超国家主義的又ハ軍国主義的ノ社会上,政治上,職業上及商業上ノ団体及機関ハ解散セラレ且禁止セラルベシ

理論上及実践上ノ軍国主義及超国家主義(準軍事訓練ヲ含ム)ハ教育制度ヨリ除去セラルベシ職業的旧陸海軍将校及下士官竝ニ他ノ一切ノ軍国主義及超国家主義ノ推進者ハ監督的及教育的地位ヨリ排除セラルベシ

二 戦争犯罪人

最高司令官又ハ適当ナル聨合国機関ニ依リ戦争犯罪人トシテ告発セラレタル者(聨合国ノ俘虜其ノ他ノ国民ヲ虐待セル廉ニヨリ告発セラレタル者ヲ含ム)ハ逮捕セラレ裁判ニ付サレ有罪ノ判決アリタルトキハ処罰セラルベシ聨合国中ノ他ノ国ヨリ其ノ国民ニ対スル犯罪ヲ理由トシテ要求セラレタル者ハ最高司令官ニ依リ裁判ノ為又ハ証人トシテ又ハ他ノ理由ニ依リ必要トセラレザル限リ当該国ニ引渡サレ拘禁セラルベシ

三 個人ノ自由及民主主義過程ヘノ冀求ノ奨励

宗教的信仰ノ自由ハ占領ト共ニ直ニ宣言セラルベシ同時ニ日本人ニ対シ超国家主義的及軍国主義的組織及運動ハ宗教ノ外被ノ蔭ニ隠ルルヲ得ザル旨明示セラルベシ

日本国国民ハ米国及他ノ民主主義国家ノ歴史,制度,文化及其ノ成果ヲ知ル機会ヲ与ヘラレ且此等ヲ知ルコトヲ奨励セラルベシ占領軍人員ノ日本人トノ交際ハ所要ノ限度ニ於テノミ占領政策及占領目的ヲ促進スル為統制セラルベシ

集会及公開討議ノ権利ヲ有スル民主的政党ハ奨励セラルベシ但シ占領軍ノ安全ヲ保持スル必要ニ依リ制限セラルベシ

人種,国籍,信仰又ハ政治的見解ヲ理由ニ差別待遇ヲ規定スル法律,命令及規制ハ廃止セラルベシ又本文書に述ベラレタル諸目的及諸政策ト矛盾スルモノハ廃止,停止又ハ必要ニ応ジ修正セラルベシ此等諸法規ノ実施ヲ特ニ其ノ任務トスル諸機関ハ廃止又ハ適宜改組セラルベシ政治的理由ニ因リ日本国当局ニ依リ不法ニ監禁セラレ居ル者ハ釈放セラルベシ個人ノ自由及人権ヲ保護スル為司法制度,法律制度及警察制度ハ第三部ノ一及三ニ掲ゲラレタル諸政策ニ適合セシムル様能フ限リ速ニ改革セラルルベク且爾後漸進的ニ指導セラルベシ

 第四部 経済

一 経済上ノ非軍事化

日本軍事力ノ現存経済基礎ハ破壊セラレ且再興ヲ許与セラレザルヲ要ス従テ特ニ下記諸項ヲ含ム計画ガ実施セラルベシ

 軍隊又ハ軍事施設ノ装備,維持又ハ使用ヲ目的トスル一切ノ物資ノ生産ノ即時停止及将来ニ於ケル禁止

 海軍艦船及一切ノ型式ノ航空機ヲ含ム軍用器材ノ生産又ハ修理ノ為ノ一切ノ専門的施設ノ禁止

 隠蔽又ハ擬装セラレタル軍備ヲ防止スル為日本国ノ経済活動ニ於ケル特定部門ニ対スル監察管理制度ノ設置

 日本国ニトリ其ノ価値ガ主トシテ戦争準備ニ在ルガ如キ特定産業又ハ生産部門ノ除去戦争遂行力ノ増進ニ指向セラレタル専門的研究及教育ノ禁止

 将来ノ平和的需要ノ限度ニ日本重工業ノ規模及性格ヲ制限スルコト

 非軍事化目的ノ達成ニ必要ナル範囲ニ日本国商船ヲ制限スルコト

本計画ニ従ツテ除去セラルベキ日本国ノ現存生産施設ノ終局的処分ニ関シ用途転換,外国ヘノ搬出,又ハ屑鉄化ノ何レトスベキヤハ明細表に基キテ決定セラルベシ右決定ニ至ル迄ノ間ニ於テハ容易ニ民需生産ニ転換シ得ル施設ハ非常ノ場合ヲ除キ破壊セラルベカラズ

二 民主主義勢力ノ助長

民主主義的基礎ノ上ニ組織セラレタル労働,産業及農業ニ於ケル組織ノ発展ハ之ヲ奨励支持スベシ所得竝ニ生産及商業手段ノ所有権ヲ広範囲ニ分配スルコトヲ得シムル政策ハ之ヲ支持スベシ

日本国国民ノ平和的傾向ヲ強化シ且経済活動ヲ軍事的目的ノ為ニ支配シ又ハ指導スルコトヲ困難ナラシムルト認メラルル経済活動,経済組織及指導者ノ各形態ハ之ヲ支持スベシ

右目的ノ為最高司令官ハ左ノ政策ヲ執ルベシ

 (イ)将来ノ日本国ノ経済活動ヲ専ラ平和的目的ニ向テ指導セザル者ハ之ヲ経済界ノ重要ナル地位ニ留メ又ハ斯ル地位ニ選任スルコトヲ禁止スルコト

(ロ)日本国ノ商工業ノ大部分ヲ支配シ来リタル産業上及金融上ノ大「コンビネーション」ノ解体計画ヲ支持スベキコト

三 平和的経済活動ノ再開

日本国ノ政策ハ日本国国民ニ経済上ノ大破滅ヲ齎シ且日本国国民ヲ経済上ノ困難ト苦悩ノ見透シニ直面セシムルニ至レリ日本ノ苦境ハ日本国自ラノ行為ノ直接ノ結果ニシテ聨合国ハ其ノ蒙リタル損害復旧ノ負担ヲ引受ケザルベシ右損害ハ日本国国民ガ一切ノ軍事的目的ヲ抛棄シ孜々且専心平和的生活様式ニ向ヒ努力スル暁ニ於テノミ復旧セラルベシ日本国ハ物質的再建ニ着手スルト共ニ其ノ経済活動及経済制度ヲ徹底的ニ改革シ且日本国国民ヲ平和ヘノ線ニ沿ヒ有益ナル職業ニ就カシムルコト必要ナリ聨合国ハ適当ナル期間内ニ右諸措置ガ実現セラルルコトヲ妨グルコトアルベキ条件ヲ課セントスル意図ナシ

占領軍ノ必要トスル物資及役務ノ調達ニ関シテハ之ガ為飢餓,広範囲ノ疾病及甚シキ肉体的苦痛ヲ生ゼザル程度ニ於テ日本国ガ調達センコトヲ期待ス

日本国当局ニ対シテハ左ノ目的ニ役立ツ計画ヲ続行シ,進展シ,実施スルコトヲ期待スルモノニシテ必要アル場合ニ於テハ之ヲ命令スベシ

 (イ)甚シキ経済上ノ苦痛ヲ避クルコト

 (ロ)入手シ得ル物資ノ公正ナル配給ヲ確実ナラシムルコト

 (ハ)聨合諸国政府間ニ協定セラルル賠償引渡要求ニ応ズルコト

 (ニ)日本国国民ノ合理的ナル平和的需要を充シ得ル如ク日本経済ノ再建ヲ促進スルコト

右ニ関シ日本国当局ハ自己ノ責任ニ於テ必須国家公共事業,財政,金融並ニ必需物資ノ生産及分配ヲ含ム経済活動ノ統制ヲ設ケ且実施スルコトヲ許サルベシ但シ占領目的ニ合致スルコトヲ確実ナラシムル為右統制ハ最高司令官ノ承認及審査ヲ受クルモノトス

四 賠償及返還

 賠償

 日本国ノ侵略ニ対スル賠償方法ハ左ノ如シ

 (イ) 日本国ノ保有スベキ領域外ニ在ル日本国財産ヲ関係聨合国当局ノ決定ニ従ヒ引渡スコト

 (ロ) 平和的日本経済又ハ占領軍ニ対スル補給ノ為必要ナラザル物資又ハ現存資本設備及施設ヲ引渡スコト

賠償勘定ニ於テ又ハ返還トシテ輸出方指令セラレタルモノノ外荷受国ガ其ノ見返リトシテ必要ナル輸入品ノ提供ニ同意シ又ハ外国為替ニ依ル支払ニ同意スル場合ニノミ輸出ヲ許容ス日本国ノ非軍事化計画ト矛盾シ又ハ之ニ支障ヲ来スガ如キ種類ノ賠償ヲ強要スルコトナカルベシ

返還

一切ノ識別シ得ル掠奪財産ハ之ヲ完全且速ニ返還スルヲ要ス

五 財政,貨幣及銀行政策

日本国当局ハ依然国内ノ財政,貨幣及信用政策ノ管理及指導ノ責任ヲ保持スベシ但シ最高司令官ノ承認及審査ニ服スルモノトス

六 国際通商及金融関係

日本国ハ終局的ニハ諸外国トノ正常ナル通商関係ノ再開ヲ許容セラルベキモ占領期間中適当ナル統制ノ下ニ外国ヨリ平和的目的ノ為ニ必要トスル原料及他ノ商品ヲ購入スルコト竝ニ許容セラレタル輸入ノ支払ヲナス為ノ商品輸出ヲ許可セラルベシ一切ノ商品輸出入,外国為替及金融取引ニ対シ統制ヲ維持スベキ處右統制実施ノ為ニ執ルベキ政策及其ノ実際ノ運営ハ何レモ占領軍当局ノ政策ニ違反セズ且特ニ日本国ノ獲得スル一切ノ対外購買力ガ日本国ノ欠クベカラザル必要ノ為ニノミ利用セラルルコトヲ確実ナラシムル為最高司令官ノ承認及監督ヲ受クベシ

七 在外日本国資産

日本国ノ現存在外資産及降伏条項ニ依リ日本国ヨリ分離セシメラレタル地域ニ在ル日本国ノ現存資産ハ全部又ハ一部皇室及政府ノ所有ニ属スル資産ヲ含ミ占領軍当局ニ明示セラレ且聨合国当局ノ決定ニ依ル処分ヲ待ツベシ

八 日本国内ニ於ケル外国企業ニ対スル機会均等

日本国当局ハ如何ナル外国ノ企業ニ対シテモ排他的若ハ優先的ノ機会若ハ条件ヲ自ラ与ヘ又ハ日本国ノ産業組織ガ右機会若ハ条件ヲ与フルコトヲ許可セザルベク又外国企業ニ対シ経済活動ノ如何ナル重要部門ノ統制権ヲモ譲渡セザルベシ

九 皇室ノ財産

皇室ノ財産ハ占領目的ノ達成ニ必要ナル如何ナル措置ヨリモ免除セラルルコトナカルベシ