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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳共同声明

[場所] 東京
[年月日] 2023年12月18日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

我々、オーストラリア、ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、インドネシア、日本、ラオス人民民主共和国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ及びベトナムの各国首脳は、2023年12月18日に東京でアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合を開催した。

AZEC原則

我々は、エネルギー安全保障の確保及び地政学的リスクの緩和を図りながら、世界共通の課題として気候変動に取組むこと、並びに、パリ協定は、衡平並びに各国の異なる事情に照らした共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力に関する原則を反映するように実施されることを想起しつつ、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏2度高い水準を十分に下回るものに抑えること、そして世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏1.5度高い水準までのものに制限するための努力を行いつつ、カーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出への協力を進めることにコミットする。また、アジア、特に、アセアン地域は今後も世界経済とエネルギー需要拡大のエンジンであり続ける見込みであることを強調し、特にイノベーションを通じ、経済成長、エネルギー安全保障及び強靭性と両立する形で、カーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出に向けた脱炭素化を促進する。これに際し、産業構造、社会的背景、地理的条件、発展の段階と速度を含むがこれらに限定されない各国の状況や出発点の違いに応じて、カーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出への多様かつ現実的な道筋があること及び、それらの道筋を設計・実施するために多様なエネルギー源と技術の活用が重要であるとの理解を共有する。

我々は、2023年3月に東京で開催され、パートナー国間でこれらの共通理解を打ち出した第1回AZEC閣僚会合の結果を歓迎する。上記の共通理解を行動指針として共有しながら、長年培ってきた相互の信頼の上に成立するAZEC構想を通じて協力を推進する。我々は、AZEC構想における重要なステップとして、2021年に開始されたアジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)や第1回から第3回までのアジア・グリーン成長パートナーシップ閣僚会合(AGGPM)の成果など、日本によるアジアのエネルギー移行への継続的なコミットメントを歓迎し、閣僚が今後の協力に向けた議論を一層加速させることを期待する。また、我々は、アラブ首長国連邦のドバイで先般開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)の結果を歓迎する。

政策支援及び具体的プロジェクトにおける協力の推進

我々は、ヒートポンプなどの技術を通じた「第一の燃料」としての省エネルギーの強化、再生可能エネルギーの拡大、エネルギー貯蔵、地域間連携及び系統柔軟化の拡大、原子力の利用を志向する国々のための小型モジュール炉及び革新炉を含む原子力エネルギーの使用、水素並びにアンモニアやイーメタンを含むその派生物、電気分解技術、バイオマス及びセクターや産業における炭素の回収・利用・貯蔵(CCUS)の適用及び重要鉱物のリサイクル、を含み、かつ、これらに限定されない、各国の異なる状況に合わせた脱炭素化の手法をとる必要性を認識するとともに、電化及び燃料転換を推進し、パリ協定の気候目標と整合するトランジション燃料として天然ガス及びLNGが果たす重要な役割に留意し、離島等における信頼性の高い再生可能エネルギーベースのマイクログリッド、ペロブスカイト太陽電池及び洋上風力発電を導入し、系統制約を解決するための経験を学習し、電動車及び持続可能な航空燃料(SAF)などのバイオ燃料、及び水素並びにアンモニアやイーフュエルを含むその派生物などの様々な技術を用いた活動の拡大を通じた運輸部門の脱炭素化を進める。

我々は、情報やベストプラクティスの共有、必要に応じた政策協調、人材の交流・開発等を通じてこれらの分野に取り組むよう、閣僚に呼びかける。

特に、我々は、クリーンエネルギー及び関連技術に関する技術革新の促進、展開支援、強固で透明性のある強靱で信頼できるサプライチェーンの構築及び市場の創出又は拡大に向けて協働するとともに、各国の状況に応じたエネルギー移行のための計画やロードマップの策定並びに再生可能エネルギー導入のための系統制約の解消、省エネルギー機器の使用の促進及び水素製造のための炭素/排出集約度に基づく算定方法の開発などに向けてAZECパートナー国で実施されている政策、基準、枠組及び事例の相互的な学習・協調等を通じ、これらの技術の展開を進めるべく、適切な場合には、政策の立案及び協調を促進するために協働する。この目的を達成するため、我々は、情報を共有し、政策やプロジェクトに関する調査を実施し、AZECパートナー国におけるエネルギー移行の促進及び必要に応じて脱炭素化に向けたビジョン、ロードマップ又は政策の策定を支援するためのプラットフォームとして、アジア・ゼロエミッションセンターを設立するよう、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)に招請する。

我々は、脱炭素化された経済成長を達成するため、公正で持続可能なビジネス環境の重要性を強調しつつ、対話を通じて意見交換することの重要性を認識し、自動車産業の脱炭素化のためのマスタープランの策定や、グリーン産業サプライチェーンの確立に向けて産業の消費者が脱炭素電源を利用できるようにするための政策といった、AZECパートナー国における製造業の競争力と脱炭素化を強化するための政策の選択肢について模索する。

我々は、具体的なエネルギー移行プロジェクトの創出を通じて、エネルギー移行を加速するための官民連携や民間セクター間の協力を促進する。この観点から、我々は、AZECアドボカシー・グループ、ベトナムにおけるAZEC/GX推進ワーキングチーム、インドネシアにおけるAZEC日本・インドネシアジョイント・タスクフォース、CEFIAのような、パートナー国における官民協力を促進する活動を歓迎する。

我々は、地域におけるエネルギー移行の加速を支援するための適切な資金の重要性を確認する。増大するエネルギー需要を満たし、経済全体の脱炭素化を達成するためには、包摂的な投資が必要であることを認識しつつ、我々は、エネルギー部門を含む、経済全体の移行を達成するための資金措置としてのトランジション・ファイナンスの重要性を強調するとともに、AZECの枠組を通じて、この観点での投資の拡大に取り組む。我々は、アジア・トランジション・ファイナンス・スタディ・グループにおける地域・国別ロードマップ、タクソノミー、分野横断的対話など、官民両部門による様々なイニシアティブを認識する。我々はまた、各国の様々な事情を考慮し、例えば、二国間クレジット制度(JCM)に限定されないがこれを含む協力モデルを通じた、質の高い炭素市場およびクレジット制度の推進及び実施の重要性を認識する。

AZECパートナーを超えた協力の醸成

我々は、アジア地域のエネルギー移行とエネルギー安全保障を支援することを望む、アジア内外の全ての国々との協力を歓迎する。我々は、さらに、エネルギー移行において協力することや、相互に有益なクリーンエネルギー取引市場及び強靭なサプライチェーンを将来確立することを視野に、既存の二国間枠組みの活用を含めて各国に働きかけることの重要性を認識する。

また、必要に応じて、ERIA、国際エネルギー機関(IEA)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、ASEANエネルギーセンター(ACE)等の関連する国際機関・組織とも協力していく。