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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第13回日メコン外相会議共同議長声明:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成及び経済の一体的強化のための日メコン協力

[場所] 
[年月日] 2020年7月9日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.第13回日メコン外相会議は、2020年7月9日にビデオ会議形式で開催され、同会議の成果として「UHC達成及び経済の一体的強化のための日メコン協力に関する共同議長声明」を採択した。同会議は、日本国の茂木敏充外務大臣とベトナム社会主義共和国のファム・ビン・ミン副首相兼外務大臣が共同議長を務め、カンボジア王国のプラック・ソコン副首相兼外務大臣、ラオス人民民主共和国のサルムサイ・コンマシット外務大臣、ミャンマー連邦共和国のチョウ・ティン国際協力大臣及びタイ王国のドーン・ポラマットウィナイ外務大臣が出席した。

2.閣僚は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる生命の損失及び苦しみに深い哀悼とお見舞いの意を表明した。そして閣僚は、新型コロナという共通の脅威に対する国際社会の連帯・協力を高く評価し、新型コロナのパンデミックにより課された前代未聞で深刻な挑戦に打ち勝つための共同行動の必要性を強調した。

3.閣僚は、新型コロナとの闘いの中で、共同で「ASEAN特別首脳会合」やパンデミックに対応するための高い水準の貢献を示した2020年4月14日の新型コロナ(COVID-19)に関する「ASEAN+3特別首脳テレビ会議」が成功裏に開催されたことを含め、域外のパートナーや国際社会と連携したASEANによる幅広い努力を歓迎した。

4.閣僚は、2020年4月14日にASEAN+3の首脳により支持を受けた「新型コロナ(COVID-19)に関するASEAN+3特別首脳会議共同声明」を履行することへのコミットメントを再確認した。この観点から、メコン諸国の閣僚は同首脳会議において日本が表明したASEAN支援の3つの柱を歓迎し、日本は「公衆衛生上の緊急事態及び新興感染症のためのASEANセンター」の設立の支援を含む、ASEAN諸国によって表明されたイニシアティブへの支援を再確認した。

5.閣僚は、新型コロナパンデミックへ対処する上での、世界保健機関(WHO)の不可欠な役割を認識し、初動の重要性に関する見方を共有すると共に、WHOの調整による新型コロナに対する国際的な保健対応から学んだ経験と教訓を回顧することを目的として、公平で独立した包括的な段階的な検討を適切な早期に開始することを、WHO事務局長に対して求める第73回世界保健総会にて昨今採択された決議を徹底することの重要性を確認した。

6.閣僚は、2019年10月10日に国連総会において採択された「UHCハイレベル会合政治宣言:より健康な世界を共に築こう」の重要性を再確認した。

7.閣僚は,2018年10月に開催された第10回日メコン首脳会議において採択され,メコン地域の発展のための未来のビジョンを示す「東京戦略2018」の下での日メコン協力の進展を評価し、同戦略の3本の柱を実施するための6か国の努力が、世界経済の困難な時期を克服するのに必要な強靱性を強化するのに役立つとの共通認識を共有した。

8.閣僚は、アジア太平洋地域とインド洋地域におけるASEANの取組の指針となり、また、新型コロナとの戦いを含む現在のグローバル環境によってもたらされた課題や機会に適切に対応するためのASEAN主導のメカニズムを強化するインド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)の目的と原則を再確認した。

UHC達成の重要性

9.閣僚は、今回の世界的な新型コロナ拡大を受け、公衆衛生上の緊急事態に対するより良い予防、発見および対応を兼ね備えたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成が、すべての人の健康と人間の安全保障にとって、特に将来のパンデミックへの対処にとって不可欠であると改めて認識した。

10.閣僚は、各国の状況や優先度に応じ、UHC達成に向けて、強靭で持続可能な保健システムを強化することに加え、追跡システム、栄養、水・衛生等も含分野における取組の重要性を認識した。

11.閣僚は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」の達成の重要性を改めて再確認し、2030年までの達成に向け、国際社会と協力して取組を更に加速させていくことを再認識した。

12.その観点から、閣僚は、2018年10月9日、東京での第10回日メコン首脳会議において採択された「東京戦略2018」に沿った別添のUHC関連の日メコン協力の進展を高く評価した。

UHC達成への取組を土台とした感染症対策分野での日メコン協力

13.閣僚は、パンデミックへの備えを含めたヘルスケアシステムの強靱性強化のための日メコン協力の重要性を強調した。

14.新型コロナの拡大を抑制した経験を基に閣僚は、以下を決意した。

 -新型コロナとの闘いにおける状況に関する、定期的で、開かれた、透明性のある、リアルタイムな情報・データ・知見、そして、各国でとられている政策・措置の共有を強化する。

 -効率性・安全性・公平な・アクセス可能性・適切な価格の目的を遵守しつつ、診断法、抗ウイルス薬及びワクチンの研究・開発・製造・供給の加速に向けた民間部門との連携及び、より多くの投資を引きつけるための有効なビジネス環境構築を含む疫学的研究における科学的協力を強化する。

 -主要パートナーや国際社会の協力と支援によるメコン諸国で医療機器の準備、人材育成等を通じた、遠隔医療、診断検査のための能力構築を含む強力で自立した保健システムを確立する。

15.閣僚は、パンデミックへ対策を含む保健分野における日メコン協力の進展に満足の意を表明し、また、メコン諸国は、短期的な支援だけでなく、中長期的に医療システムを強化する以下の日本の支援に感謝した。

 -日本による、国際機関をと協力したメコン諸国に対する56百万米ドル規模の医療従事者への技術協力や病院・医療施設に対する医療物資供与。

 -メコン諸国における感染症への備え・対応能力を高めるため、各国の支援ニーズを踏まえつつ、少なくとも50百万米ドル相当の医療機材の供与やJICAによる技術支援を更に実施していくとの日本の意思。

16.特に、閣僚は、日本がその設立に全面的な支援を表明し将来の感染症に対する予防・発見・制御・対応の強化を目的とするASEANセンターの重要性を認識し、この観点から緊密な連携と協力継続に向けた各国の強力な支援を再確認した。

17.閣僚は、メコン諸国の公衆衛生上の緊急事態に対処するための適切な資源と能力を促進することの重要性を強調し、この観点から閣僚は、新型コロナ及び将来の公衆衛生上の緊急事態に対処するために「ASEAN新型コロナ対応基金」を設立するためのASEANのイニシアティブと、将来の感染症に対する予防、管理及び対応を強化するための迅速な対応を可能にするための「医療用品の地域的な備えおよび医療緊急事態に対する標準的な運用手順」の確立のための各国の緊密な連携と協力を継続する強力な支援を歓迎した。

18.閣僚は、ケースマネジメント、予防、疾病管理に関する公衆衛生人材の知識と能力の向上及びリアルタイムの相談のための迅速な医療ネットワークシステム構築に貢献する「国境を越えた医療ネットワークシステムを通じた経験の共有と知識移転に関するプロジェクト」に対するタイ国際協力開発機構(TICA)の下でのタイのイニシアティブを歓迎した。

新型コロナを乗り越えた日メコン協力を通じた日メコン経済の一体的な強化

19.閣僚は、以下のコミットメントを再確認し、経済活動の再始動を決意する。

 -経済成長及び財政的強靱性の下支え、経済、連結性及び観光の回復、市場の安定の維持、経済後退の潜在的なリスク阻止、メコン小地域バリューチェーン統合促進のために、小地域内外の連結性を強化することで、強靱で持続可能な地域サプライチェーンを構築する。

 -脆弱なグループ、特に中小零細企業及び労働者に対する社会経済的影響を緩和し、資本と技術、特にデジタル技術、雇用回復、質の高い雇用創出及び能力構築へのアクセスを促進する。

 -モノ、データ及びサービスの流通を促進するために、貿易・輸送に関する措置の開放性を維持し、保護主義に陥ることを防ぐ。これには、地域貿易協定、特に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の推進と拡大、電子商取引に関するルールメイキングの交渉を含むWTO改革の進展を支援することが含まれる。

 -農業分野における技術とデジタルイノベーションの普及と、天然資源のより持続可能な利用を促進し、キャパシティ・ビルディングや市場・資本へのアクセス促進などによる食料関連分野における中小企業への支援を通じて、食料安全保障協力を強化する。

 -農業・食品産業、バイオ・サーキュラー・アンド・グリーン(BCG)経済における、ビジネスとイノベーションのパートナーシップを奨励し、国際スタンダードに則り、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」に記載されている開放性、透明性、ライフサイクルコスト等を考慮した経済性及び債務持続性といった原則に沿う質の高いインフラ開発、デジタル技術、産業開発及び、エネルギーを推進し、持続的な経済成長とサプライチェーンの強靱性を高める。

 -流動性が停滞する中で、貸し手借り手双方による透明で持続可能な金融慣行をより一層促進する。

 -メコン各国と日本の市場への更なる資本流入を促進するビジネス環境を強化する。

20.メコン諸国の閣僚は、新型コロナに打ち勝った後のメコン諸国の経済再始動に貢献する日本主導の以下のプロジェクトにおける進展を歓迎した。

-質 の高いインフラ開発、女性及び中小事業者向けのマイクロファイナンス、及びグリーン投資を促進するために、日本の「対ASEAN海外投融資イニシアティブ」を活用し、JICAの海外投融資を通じてタイのロジャナ・ラヨン2工業団地に複合サイクルガスタービン発電所を、ベトナムのタイニン省に太陽光発電所を建設・運営することを決定し、また、中小零細事業者開発プロジェクトのため、カンボジアのハッタ・カクセカール・リミテッド(HKL)と融資契約の締結が行われた。

 -新型コロナへの対応に必要な資本を迅速に注ぎ込むことにより、メコン諸国を含む発展途上国の経済の維持及び活性化を目的とした新型コロナ危機対応緊急支援円借款の導入。-メコン地域の町や村の社会・経済の発展を支援するため、「草の根メコンSDGsイニシアティブ」として、2020年度に10億円規模の草の根・人間の安全保障無償資金協力の実施。

21.閣僚は、パンデミックの蔓延の制御と封じ込めのための共同の取組を促進し、パンデミックが我々の社会や経済に及ぼす悪影響に対応し、新型コロナ後における経済の回復及び再開を加速させる中での日メコン協力の重要性を強調した。