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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ゴー・チョクトン首相主催晩餐会における橋本内閣総理大臣の挨拶

[場所] シンガポール
[年月日] 1997年1月13日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),300−302頁.
[備考] 
[全文]

 ゴー・チョクトン首相閣下、令夫人、並びにご列席の皆様、

今宵は私のためにかくも盛大な宴を催していただき誠にありがとうございます。また、ただいまはゴー首相よりご懇切な歓迎の言葉を賜り感謝に堪えません。

首相閣下、

 答礼に当たり、私は、まず先に行われた総選挙において、閣下がシンガポール国民から二十一世紀に向け国家を指導する強い信託を得られたことに心から祝意を申し上げたいと存じます。この信託は、過去六年間にわたる閣下の素晴らしい業績に対する評価であるのみならず、シンガポールの将来に対する閣下のヴィジョンに対する支持の現れであります。

 私は、特に閣下がこれまでの目覚ましい経済発展に安住することなく、経済構造の一層の高度化、周辺諸国との経済交流の強化など、国家の安定と更なる発展の確保に向け、先見性に富んだ施策を打ち出されていることに強い感銘を覚えます。私は、また、閣下がシンガポール国民が経済的繁栄のみならず、文化的で、潤いのある生活を享受することができるよう、「思いやりのある社会」(グレイシャス・ソサエティー)の構築を目指し、各般の努力を払われていることにも深く共感する次第であります。

首相閣下、

 本日、閣下との間で日本とシンガポールの両国が直面する種々の課題について意見交換を行った際、私が最も印象付けられたことは、我々両国の将来がアジア太平洋地域全体の将来とますます不可分になっていることです。両国は歴史的、地理的、文化的に国のなりたちを異にしておりますが、国家の生存が周辺地域の平和と安定、更には貿易・投資の自由な交流に依存する点で、運命共同体とも言うべき関係にあります。そしてこのような両国が今後一致して取り組むべき最も重要な課題は、アジア太平洋地域の平和と繁栄の確保に向け、お互いの立場や持ち得る資源を創造的に活用しつつ、貢献を行っていくことにあります。この地域の将来と我が国の貢献に関する私の所信については、明日予定される政策演説において詳しく申し述べたいと存じますが、この場を借りて、閣下がAPECやASEAN地域フォーラムなどの地域協力の発展に積極的に取り組まれるとともに、アジア欧州会合を提唱し、地域間の連帯の強化にも努力されていることに深い敬意を表したいと思います。

首相閣下、

 日本とシンガポールの関係は、幸い大きな懸案もなく、極めて順調に推移しております。しかしながら、両国間の協力関係を地域的、さらにはグローバルな拡がりをもつ形で発展させていく上で、両国国民の間の相互理解を一層拡充していくことが重要であることは言うまでもありません。この意味で、本日の閣下との話し合いにおいて、行政官交流やビジネス・フォーラムの設立など、両国各界、各層において対話と意志疎通を強化する新たな方途について合意できたことは喜びに堪えません。我が国としては、今後こうした構想を早期かつ円滑に実現すべく努力する所存ですので、貴国政府のご協力をお願いしたいと思います。

首相閣下、

 一昨年、独立三十周年を迎えた貴国は、人生にたとえれば、数々の悩みを克服しつつ、成長を遂げてきた青年期を経て、国際社会においてより大きな責任を担う、成熟期を迎えようとしております。私は、本日、青年期のシンガポールを導いてこられたオン・テンチョン大統領閣下やリー・クァンユー上級相閣下と親しくお話しするとともに、成熟期における国家のかじ取りを担われている閣下と忌憚のない意見交換を行いました。私は、これらの会談を通じ、今日のシンガポールを形づくってきた、逆境に打ち克つ強い意志と進取の気性が脈々と息づいていることに強い感銘を感じました。アジア太平洋地域が今後種々の課題に直面しつつ、「二十一世紀はアジアの世紀」という予言を現実のものとなし得るか否かは、この地域の国々が国家としての強靱性を発揮できるか否かにかかっていると言えます。この意味で、今回の東南アジア諸国歴訪の締めくくりに貴国を訪問し、閣下をはじめとする各位の謦咳{けいがいとルビ}に接し大きく勇気付けられているところであります。

 ゴー首相閣下、令夫人

 並びにご列席の皆様

 最後に私は皆様とともに、杯を上げ、貴首相閣下ご夫妻のご健康並びにシンガポール共和国の一層の繁栄、そして日本とシンガポール両国間の友好・協力関係のますますの発展のために乾杯したいと存じます。

 乾杯。

 ありがとうございました。