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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] スハルト大統領主催晩餐会における橋本内閣総理大臣の挨拶

[場所] インドネシア
[年月日] 1997年1月9日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),283−286頁.
[備考] 
[全文]

スハルト大統領閣下、

並びにご列席の皆様、

 本夕は、私どものためにかくも盛大な晩餐会を催していただき、また、只今は大統領閣下より心のこもったご挨拶をいただき、厚くお礼申し上げます。

 大統領閣下とは以前より何回もお目にかかる機会がありましたが、昨年一月に内閣総理大臣に就任してからも、既に昨年三月のアジア欧州会合、昨年十一月のAPECスービック会合と二度にわたってお目にかかる機会を得ております。今回、総理として初めてインドネシアを公式訪問する機会を得ましたことは、私にとって格別の喜びであります。

大統領閣下、

 現在の貴国の経済開発の進展ぶりを見る時、私は、貴大統領が過去三十年間にわたって発揮してこられた指導力の偉大さに改めて賞嘆の念を禁じ得ません。貴大統領が就任以来、一貫して政治的安定の確保と経済開発の推進を最重要課題として国民を指導し、今日の貴国の繁栄を築かれたことは、世界の注目の的となっております。

 また私は、過去三十年間、貴大統領の多大なご努力もあって築かれてきた両国間の絆の強さにも大きな感銘を受けるとともに、我が国が苦しい状況にあった際に貴国がさまざまな支援の手を差しのべていただいたことに改めて深い感謝の気持ちを覚えるものであります。

大統領閣下、

 現在我々は、このような過去三十年間の成果を正当に評価しつつも、同時に、今後三十年間の両国関係のあるべき姿にも思いをいたす時期に来ているのではないかと思います。その際、単に日・インドネシア両国関係のみならず、我々自身ですら驚くほどの勢いで変化を遂げつつあるアジア太平洋地域全体の状況を視野に置くことがますます重要となってきております。

 大統領閣下は過去三十年間、貴国の開発のみならずASEANの発展にも特別の意を用いてこられました。そしてそのASEANは当初の五か国から、今や十か国へと拡大成長を遂げようとしております。同時に、APECやARFに見られるように、そのASEANが中核となる形で、域内各国の関係強化が飛躍的に進んでおります。その結果、アジア太平洋地域は、今後、その多様性を維持しつつも、一定のまとまりをもって新たな国際秩序形成の主要な軸となることが期待されております。他方において、域内各国の開発の急速な進展の結果、アジア太平洋地域においては、食糧・エネルギーの確保の問題の他、環境問題等の新たな課題も生じております。

大統領閣下、

 私は、このように大きな変化の時期を迎えている今こそ、これまでに堅固な信頼関係を築いてきた日・インドネシア両国が今後一層その絆を強め、アジア太平洋地域の安定と繁栄の確保のための努力を共に担っていけるようにすることが、何より重要であると確信いたすものであります。本日、大統領閣下との首脳会談においては、このような観点から多くの協力分野の可能性について意見の一致を見たところであります。

 従来、両国の絆の核として我が国は貴国の開発への協力に最大限の敬意を払ってまいりましたが、今後もこの我が国の基本政策に変わりはありません。私はここに、貴国の開発のために最も望まれる形で、我が国が今後もできる限りの協力を行っていく所存であることを申し上げたいと思います。私は今後の日・ASEAN協力の重点施策の一つとして、ODAと民間経済の活力の組み合わせによる基盤整備支援の重要性を強調したいと思います。更に、これまで貴国との間で成功裏に進められている南南協力も一層充実させたいと考えております。

 また、将来にわたって両国間関係を一層堅固なものにしていくための基盤を確立するという観点から、知的交流を始めとする幅広い人的交流と、固有の文化の保護・振興への協力等を柱とする文化交流の飛躍的な拡大を図ってまいります。私は、この点についても、ASEAN諸国との協力強化の具体策の柱としたいと考えておりますが、特に貴国との間の人的交流・文化交流には私個人としても意を用いてまいる所存です。

大統領閣下、

 九五年十月にジャカルタで開催された日本・インドネシア友好祭の開会式には大統領閣下にもご臨席いただき、「経済関係は強固な文化交流に基づく必要があり、これにより両国の相互理解を深め、価値観を共有できる」というお言葉をいただいたと伺っております。貴国のご協力もあり、同友好祭はテーマ・パーク、音楽、舞踊、学術セミナー、スポーツ等合計三十六の行事に延べ十一万人の観客を集め、我が国の多様な文化を貴国に紹介し、国民レベルでの交流と相互理解を増進させる上で絶大な効果を挙げたと聞いております。私は、この席をお借りして、改めて同友好祭に対する貴大統領を始めとする貴国政府関係者の方々のご協力にお礼申し上げるとともに、私としては、大統領閣下と同じ考えに基づいて、来年東京で開催予定の貴国主催のインドネシア・日本友好祭の成功を祈念し、そのために可能な限りの協力をさせていただく所存であることを申し上げたいと思います。

ご列席の皆様、

 スハルト大統領閣下のご健康・インドネシア共和国の繁栄、そして両国の友好協力関係の一層の進展のために杯を挙げたいと存じます。

スラマット・ミノム(乾杯)