データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 東南アジア諸国訪問の際の内外記者会見における村山内閣総理大臣の冒頭発言

[場所] 
[年月日] 1994年8月29日
[出典] 村山演説集,134−136頁.
[備考] 
[全文]

一、私は、今月二十三日よりフィリピン、ヴィエトナム、マレイシアを訪問し、昨日当地シンガポールに到着いたしました。まず、これらの諸国における暖かい歓迎に対し、心から感謝申し上げたいと思います。

二、東南アジア諸国への訪問は、私にとって長い間の願いでした。私が生まれ育ちました九州は、日本の中で地理的に最も他のアジア諸国に近く、古来これらの諸国との交流が盛んな地であります。このような環境の中で育ってきただけに、今回初めて東南アジア諸国を訪問し、その国情に直接触れる機会を得ることができたことは、感慨深いものがあります。

三、訪問を通じて、私は我が国と東南アジア諸国の相互依存関係が目を見張るような深まりと多角化を見せていることを実感いたしました。内にあっては変革、外交面では継続性の重視を掲げた新内閣としては、国際社会が抱える諸問題の平和的解決や世界経済の発展と繁栄の面で、従来以上に積極的に取り組むこととしています。そして、引き続きアジアを重視し、アジア諸国との相互依存関係を発展させ、幅広い協力関係を構築していく考えであります。

 私は、各国首脳にこの考えを率直に説明し、引き続きお互いに協力していくことを確認し得たことは喜ばしいと考えています。

四、私は、今後のアジア外交を進めるに当たって、我が国の侵略行為や植民地支配などがアジアの多くの人々に耐え難い苦しみと悲しみをもたらしたことを深く心に刻んでいくことが重要であると考えます。このような見地から、アジア近隣諸国等との関係の歴史を直視し次世代に伝えるとともに、次代を担う人々の交流を拡充するなど相互理解を一層深める施策を推進すべく、その具体化を急いでいるところです。更に、今後のアジア外交の前提ともいうべきことがもう一つあります。それは、我が国は平和憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないということであります。また、我が国は、非核三原則を国是とし、核不拡散条約の無期限延長を支持しております。

五、今回訪問した諸国において、さらなる経済成長への期待が高まっていること、ASEAN諸国とインドシナ諸国が相携えて東南アジア全体の安定と繁栄を模索していること、東南アジア諸国がアジア・太平洋地域において中核的役割を果たそうとしていること、さらには東南アジアの人々の間に、自らの関心を世界全体の安定と繁栄へと広げていこうという意識が高まっていること、といった新しい動きあるいは気運が生まれていることを強く感じました。この意味で東南アジアは新たな時代を迎えているといえましょう。

六、我が国としても、このようないわば東南アジア新時代において、東南アジア諸国と次のような協力を進めることを通じて一層緊密な関係、すなわち「さらなる飛躍へのパートナーシップ」を構築していきたいと考えます。まず、我が国は引き続き政府開発援助等を通じて東南アジア諸国の国造りに協力してまいります。その際、インドシナ全体の総合開発という視点に立ったインドシナ諸国への支援、ASEAN諸国とインドシナ諸国との間のいわゆる南南協力に対する支援などを行っていくことも重要であると考えます。また、開かれた地域協力を進めるという考え方に立って、APECやASEAN地域フォーラムといったアジア・太平洋における地域協力を進めてまいります。更に我が国は、人権、環境、人口、麻薬、エイズ等の人類共通の課題に東南アジア諸国と協力して対処していきたいと考えます。

七、私は、「常に国民とともに国民に学ぶ」ということを信条としてまいりました。これは国民一人一人の心を大切にし、国民の知恵と創造力を国政に活かしていくということであります。今回の訪問で東南アジア諸国の皆様と触れあう機会を持ち、アジア諸国の国民一人一人の心を大切にし、その知恵と創造力に目を向けることも非常に大切であると感じました。「常にアジアの国民とともにアジアの国民に学ぶ」という姿勢の大切さに改めて気付いたこと、これが私にとって今回の訪問の最も大きな成果の一つと考えます。

 ありがとうございました。