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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マハディール首相夫妻主催晩餐会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1991年4月27日
[出典] 海部演説集,253−256頁.
[備考] 
[全文]

 マハディール首相閣下、令夫人並びにご列席の皆さま

 本夕は、私ども一行のためにこのような盛大な晩餐会を催していただき、また、只今は暖かい歓迎のお言葉を頂戴し有難うございます。

 また、本日は当地到着早々に歓迎の栄に浴し、知日家の閣下と膝をつき合わせて会談ができましたことを私は心から嬉しく思っております。激動する国際情勢及び益々発展する二国間関係についての深く掘り下げた意見交換は、今回のASEAN諸国歴訪の嚆矢にふさわしい実の有るものでした。また、閣下が提唱された東アジア経済圏構想について親しくご説明を受ける機会を得たことも有意義でした。

 私どもは、明日はマレイシアの独立と縁深く、世界に名だたる歴史の街マラッカを訪れます。また、明後日は、貴国の推進しておられる東方政策にゆかりの深いマラヤ大学を訪問する予定となっておりますが、このような行き届いた日程をご用意いただき、その間貴国より示された木目細かいご配慮に、私ども一同心から感謝いたしている次第です。

 首相閣下

 私はこのたび初めて閣下にお目に掛る機会を得ましたが、旧知の友に再会したような気がしてなりません。それはマハディール首相閣下のお人柄によるところ大ではありますが、加えて、閣下は米どころケダ州のご出身、私はかつての米どころ愛知県の生まれ、いずれも若くして政治の道を志し、一九七〇年代の半ばにともに文部大臣となったという共通点の然らしめるところもあるように感じます。

 首相閣下

 私はおよそ二十年程前に貴国を訪れたことがあります。その時は、創設間もない我が国の青年海外協力隊の隊員を激励に、クアラ・ルンプールの他、コタ・キナバル、ペナンなども訪問いたしました。当時、協力隊員たちから、若い国マレイシアの青年たちが、額に汗して国造りにいそしむ姿について熱っぽく説明を受けたことをいまもまざまざと思い起こします。それから二十年を経た今日のクアラ・ルンプールを見渡す時、その発展振りには目を見張るものがあり、感慨を新たにしているところであります。

 そして、マハディール首相閣下はこの二十年間のほぼ半ばを首相として貴国の国造り、発展のために多大の成果を挙げられました。のみならず、国際的にも、ASEANの有力指導者としてのご活躍は元より英連邦首脳会談や途上国首脳会議を主催し、さらに昨年は国連安保理の非常任理事国として、湾岸危機の公正な解決に努力されるなど、世界の平和と繁栄のために、幅広い指導力を発揮してこられました。私は閣下のこのご功績に、改めて深い敬意を表したいと存じます。

 首相閣下

 閣下は、十年前首相になられて直ぐに「東方政策」という、勇気ある大きな選択をされ、力強くその推進に当たってこられました。我が国はこのような貴国の国造り、人造りの努力に対し、官民ともに積極的に協力して参りました。両国間の貿易、我が国からの民間投資も貴国経済の順調な発展、優れた投資環境に恵まれ大きく増大しております。こうして、日本とマレイシアの友好関係は従来に増して深まってきました。我が国としては、今後とも貴国の期待にできる限りお応えすべく、さらなる努力を行っていきたいと思います。

 首相閣下

 私は、国と国との関係は詰まるところ人と人との絆であるという信念を有しております。かかる信念から、私は先にも述べました我が国の青年海外協力隊の発足に微力ながらも力を注いだところであります。その甲斐あって現在世界四十二か国に約二千名の協力隊員が派遣されておりますが、そのうちの約九十名が貴国において協力活動に参画しているという事を大変うれしく思います。また、昨年のマレイシア観光年には我が国からも前年の二倍をゆうに越える約六十七万人の旅行客が貴国を訪れました。他方、閣下の東方政策の下、我が国に派遣されてきた貴国の留学生・研修生の数は既に約三千名に上がっており、帰国後、貴国の国造りの中枢で活躍すると同時に、青年交流の大きな柱として、両国民の間の懸け橋となっています。

 こうした両国関係を示す諸々のバロメーターは、両国関係が今や経済のみならず人物・文化交流をも包含した幅広いものへと移行してきており、両国関係が新しい段階に達しつつあることを示しております。しかしながら、私は、現状に甘んじることなく、両国国民の信頼関係を一層高め、日本・マレイシア関係を未来に向けて不動のものとすべく、引き続き閣下と共に協力しあっていきたいと存じます。

 首相閣下

 今日、私達をとりまく世界は、東西対立の終焉、湾岸危機の発生、多角的貿易体制の再構築等、大きな変動の時期にあり、その中で、我が国は世界の平和と繁栄のために自ら果たすべき責任の重さを痛感しております。この十年間、閣下の卓越した指導力を得て際立って強固なものになった両国民の間の友情と信頼は、未来に向けての両国関係発展の支えであると同時に、このような国際情勢下にあっては、アジア・太平洋、ひいては国際社会の平和と繁栄のために協力していくための礎であると信じます。

 翻ってみれば、丁度二十年前の一九七一年、当地においてASEAN諸国は貴国の主導の下、クアラ・ルンプール宣言を採択し、東南アジアの国際政治に新しい頁を開きました。また、十年前の一九八一年、閣下が首相に就任して東方政策を打ち出され、日本・マレイシア関係の新時代が開かれました。今年一九九一年、私たちは、次の十年、更には次の世紀に向かって新しい協力の頁を開くため決意を新たにしようではありませんか。

 首相閣下並びにご列席の皆さま

 それでは、ここに皆さまとともに杯を上げ、マハディール首相閣下、令夫人のご健康とご多幸、マレイシア国民の皆さまの一層のご発展とご繁栄、そして日本・マレイシア両国の友情を祈念いたしまして乾杯したいと存じます。

 乾杯。