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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] スハルト大統領主催晩餐会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] ジャカルタ
[年月日] 1990年5月4日
[出典] 海部演説集,233−235頁.
[備考] 
[全文]

 スハルト大統領閣下、令夫人、並びにご列席の皆さま、

 本夕は、私どものためにかくも盛大な晩餐会をご開催頂き、また、ただいまは大統領閣下から心のこもったご挨拶を賜わりました。日本側一同を代表して厚くお礼申し上げます。

 大統領閣下

 私は、昨年八月の総理大臣就任以来、わが国と深いかかわりを持つ貴国、インドネシアをできるだけ早く訪問し、大統領閣下と親しくお会いしたいと考えて参りました。大統領閣下をはじめ貴国の皆さまのご好意によって、このたびそれが実現され、これほどうれしいことはございません。

 実を申しますと、私にとって貴国訪問はこれが初めてであります。かねてから美しいインドネシアに旅したいと願いながら、これまで機会を得ずに参りました。しかし、それだけに、見事な街づくり、木々の深い緑、そして街行く人々の服装の華やかな色どりなど、貴国の全てが新鮮で、まさに魅惑される思いがいたします。その意味で、今回の貴国訪問は、私にとって二重の喜びなのであります。

 大統領閣下

 貴国が現在議長国を務めておられるアセアンは、過去二十年余、政治・経済・文化のあらゆる面で域内の協調を深めつつ、アジア・太平洋の平和と繁栄に多大な貢献を行ってきました。とりわけ近年においてはその発展振りは目覚ましく、世界の諸国の注目を集めていると申し上げて過言ではありません。

 我が国は、このようなアセアン諸国の努力に敬意を払い、これまでこれら諸国の真の友人たるべく努めてきました。私は、我が国とアセアン諸国の間には、既に幅広い分野で、強い信頼と友情の関係が築かれているものと確信いたします。しかしながら、二十一世紀を目前に控えて国際情勢が大きな流動の時期を迎えている今、我が国とアセアン諸国との協力関係は、単に双方にとってのみならず、アジア・太平洋地域にとってますます重要性を増していると言わなければなりません。私は、かかる協力関係の一層の充実のため、能う限りの努力を行っていく決意であります。

 私は、カンボディア問題への取り組み等、この地域の平和と安定のため、アセアンの中で優れた指導力を発揮しておられる大統領閣下の前で、このようなアセアンとのパートナーシップを再確認できることを、大きな光栄であると感ずるものであります。

 大統領閣下

 閣下は四半世紀にわたって数々の苦難と闘いながら推し進めてこられた開発政策が実を結びつつあることは、いまや誰の目にも明らかであります。閣下は、昨年発表されました自叙伝の冒頭において、一九八四年に米の自給を達成したことを喜びに満ちた口調で述べられておられます。また、積極的な規制緩和政策の遂行によって、民間部門の活性化が図られ、その成果が、輸出の増大等によって示されていることは心強い限りであります。我が国でも最近は、家具やバティック、クレテック煙草やコーヒー等、メイド・イン・インドネシアの商品の表示を見ることが多くなりました。これは貴国の非石油・ガス製品の輸出振興という政策の歓迎すべきあらわれであります。

 私は、貴国が今や、将来の離陸のための基盤整備という極めて重要な時期にあることもよく承知しております。日本とインドネシアはこれまでも長い間お互いに助け合ってまいりました。我が国としては、今後も引き続き、貴国経済の発展のためにできる限りの協力を行ってまいる所存であります。

 大統領閣下

 両国関係において近年大きく進展しつつあるのは、文化と人物の交流です。テレビ映画「おしん」が貴国の人々に日本人の心を伝えたのは記憶に新しいところです。引き続きこのような我が国の名作が貴国に紹介されることを期待します。他方、貴国を旅する我が国の人々の増大に伴って、貴国の優れた文化に対する日本人の関心も次第に高まってきています。昨年の東京国際映画祭でインドネシアの「父」及び「炎の女」が上映され、多数の観客の公表を博しました。貴国の伝統芸能であるワヤンについても、我が国に上演グループがあり、根強い人気を得ております。

 こうして両国民が草の根レベルで交流し、その心を通い合わせることは、今後の両国関係を支える裾野を広げていく意味で極めて意義あることでありましょう。私は、両国国民の間の友情と信頼の絆が立派にたくましく育つことを願い、そのための努力を続けていきたいと思います。

 それではご列席の皆さま

 スハルト大統領閣下ご夫妻のご健康、インドネシア共和国の繁栄、そして両国の友好と協力の関係の一層の前進のために乾杯したいと存じます。

 スラマット・ミヌム!(乾杯!)