データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アキノ大統領主催晩餐会における竹下内閣総理大臣のスピーチ

[場所] マニラ
[年月日] 1989年5月6日
[出典] 竹下演説集,215−217頁.
[備考] 
[全文]

 アキノ大統領閣下並びにご列席の皆様

 ここマニラは、私が大蔵大臣当時、アジア開発銀行の総会等でたびたび訪問したほか、一昨年、私が総理大臣として最初に訪問した外国の地であり、様々な楽しい思い出のあるところであります。このたびASEAN諸国歴訪の締めくくりに、なつかしい当地を一年ぶりに訪れることができ、本日午後、敬愛する大統領閣下との間に、くつろいだ中にも有意義な会談を持つ機会を得ましたことは、私にとって大きな喜びであります。今夕は、私ども一行のために、かくも盛大な晩餐会をご開催いただき、ただいまは、大統領閣下から暖かい歓迎のお言葉を賜りました。心から感謝申し上げます。

 また、大統領閣下が去る二月の昭和天皇の大喪の礼にご列席いただきましたことに対し、私は、日本国政府及び国民を代表して、厚く御礼申し上げます。

 大統領閣下

 本日、当地に到着以来、私にとって最大の印象は、マニラの人々の表情から一年半前の緊張が影をひそめ、一段と明るく活気にあふれていることであります。これは、大統領閣下の英明なご指導により、新生フィリピンが自由と民主主義の旗の下に着実に進歩・発展しつつあり、フィリピン経済も上昇気運にあるからだと思います。私は、このような貴国の目覚ましい発展に強い感銘を禁じえません。

 顧みれば、新生フィリピンが歩んできた最初の千日は貴国民にとっても、また大統領閣下にとっても苦難の連続であったことと思います。しかし、大統領閣下とフィリピン国民はそれらの試練をひとつひとつ乗り越えてこられました。これからもなお厳しい日々はあるかと存じますが、大統領閣下の不動の信念とフィリピン国民の熱意をもって前進されるならば、必ずやその初心は貫徹されるものと信じます。これは長年政治家としての道を歩んできた私の率直な印象であるばかりでなく、貴国における民主主義育成と経済再建という偉大な実験を暖かい目で見守っている世界の人々の共通の願いでもありましょう。

 大統領閣下

 我が国はアキノ政権誕生以来、貴国の民主化と経済再建のための努力を一貫して支持、支援してまいりました。特に貴国の国づくり、人づくりに関しては、特別の配慮を払ってきたところであり、この政策は今後も不変であります。また、我が国は大統領閣下が重視されている多国間援助構想に対して、早い段階から積極的な対応をとってきております。

 去る一月に訪米したおり、私はブッシュ大統領との間で、貴国の持続的成長と改革が重要であることに合意し、その目的に向かって本年中に多国間援助構想を開始するためにあらゆる努力を払うことを話し合いました。そして今日、大統領閣下との間で、我が国としても準備作業の進展をまってできるかぎり早いタイミングで多国間援助構想のための援助国会議が開催されることを希望していること、また、東京でそのための会場を提供する用意があること、そして、構想の内容に相応しい十分な貢献を我が国の対比支援努力の一環として行っていく所存であることを話し合いました。この構想が、貴国の開発のための条件を更に整え、貴国の経済発展に重要な役割を果たすものとして一日も早く開始されることを哀心より期待するものであります。

 私は、大統領閣下が、経済計画の中でも特に地方開発に力をいれておられると伺っておりますが、それは私が日本国内で提唱してまいりました「ふるさと創生」と一脈相通ずるものがあるように感じられます。日本語の「ふるさと」とは単なる地理的概念にとどまらず、精神的、文化的拠り所をも意味しており、私の唱える「ふるさと創生」とは国民一人一人が自分の住む地域を自らの情熱と努力によって物質的にも精神的にもバランスのとれた豊かなものとすることを目指しております。大統領閣下の主張されている地方開発にもそのような意味がこめられているのではないでしょうか。政治家として同じ理想と共通の課題をかかえる私たちは、お互いの経験をいかしつつ、双方で「パキキサマ(円滑な人間関係)」、または「バヤニーハン(協力関係)」の精神に立って今後とも協力していこうではありませんか。

 大統領閣下並びにご列席の皆様

 今回のASEAN諸国訪問は、私にとって本当に実り多い旅でありました。ASEAN諸国が自らの特性をいかしつつ、それぞれ目覚ましい発展を遂げておられることをこの目で確かめることができ、誠に感慨深いものがありました。当地マニラにおいては、貴国経済の充実・向上ぶりを肌で感じたのみならず、大統領閣下との実り多い意見交換を通じ、日本・フィリピン関係の将来に向けて、さらに強固なレールを敷くことができましたが、これは今次歴訪の最後を飾るにふさわしい重要な成果であったと思います。両国は、今後とも、共に考え、共に歩むパートナーとしてお互い手を携えていきたいと存じます。

 ここに大統領閣下のご健康、ご列席の皆様のご繁栄、並びに日本・フィリピン両国の友好関係が益々発展することをお祈りして、杯を上げたいと存じます。

 マブハイ(乾杯)