データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回日本・ASEAN経済閣僚会議共同新聞発表

[場所] 
[年月日] 1985年6月28日
[出典] 外交青書30号,441−445頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.第2回日本・ASEAN経済閣僚会議は1985年6月27日及び28日の両日、東京で開催された。

2.日本側では、安倍晋太郎外務大臣、竹下登大蔵大臣、佐藤守良農林水産大臣、村田敬二郎通商産業大臣、金子一平経済企画庁長官、河本敏夫特命事項担当国務大臣が代表を務めた。

3.ASEAN側では、インドネシアのラフマット・サレー商業大臣及びハルタルト工業大臣、ブルネイ・ダルサラームのペヒン・ダトー・アブドゥル・ラーマン・タイブ開発大臣、マレーシアのテゥンクー・ラザレイ・ハムザ貿易産業大臣及びダドー・レオン・キー・セオン第1次産業大臣、フィリピンのロベルト・オンピン貿易工業大臣、ヴィセンテ・ヴェルデペニアス・ジュニア経済企画大臣、アントニノ・ロマン大蔵省次官及びオルランド・サカイ農業・食料省次官、シンガポールのトニー・タン・ケン・ヤム商工大臣兼教育大臣及びリー・シェン・ロン商工及び国防担当国務大臣及びシデク・サニフ商工政務次官、タイのソンマイ・フーントラクン大蔵大臣、コーソン・クライルーク商務大臣、プラパート・リムパパン外務副大臣及びチラーユ・イサラーンクーン・ナ・アユタヤ工業副大臣が代表を務めた。

さらに、ASEAN中央事務局のパーン・ワンナメティ中央事務局長が会議に出席した。

4.日本側経済閣僚及びASEAN側経済閣僚は、世界経済情勢、世界貿易の諸問題、日本及びASEAN諸国の経済情勢と経済政策並びに日本とASEAN諸国との間の経済関係に係る幅広い諸問題について意見交換を行った。

(世界経済情勢)

5.双方の経済閣僚は、世界経済の持続的成長を確保するためには、主要先進国の大幅な財政赤字、高金利及び引き続く保護主義の圧力等克服すべき多くの問題が依然として存在すること、並びに開発途上国が、全体として、未解決の対外債務問題、市場アクセスの困難性、一時産品価格の低迷及び為替レートの変動等に起因する不確実性をはらんだ厳しい経済情勢下にあることに留意した。双方は、かかる状況下にあって、各国が個別に及び共同して、広範かつインフレなき持続的成長を達成すべく総合的かつ包括的な努力を払うべきことに留意した。

6.日本側経済閣僚は、ASEAN側経済閣僚に対し、1985年5月に開催されたボン・サミットの結果を通報した。この関連で、双方の経済閣僚は、世界経済の安定的発展のためには、開発途上国経済の健全な発展が不可欠であることを再確認するとともに、自由貿易の推進、政府開発援助(ODA)の拡充、技術移転及び市場アクセスの改善等の方途を通じた開発途上国における持続的成長の必要性につき合意した。

(世界貿易の諸問題)

7.双方の経済閣僚は、保護主義的傾向の復活に対し重大な懸念を表明するとともに、この重大な時期に自由でかつ開かれた世界貿易体制の強化にむけ新たな断固たる努力が払われるべきことに合意した。双方の経済閣僚は、保護主義的措置は巻き返されるべきであり、また、いかなる貿易問題も透明性があり予見可能でかつ無差別な方法により取り扱われるべきであることに合意した。

ボン・サミットにおいて先進諸国が行った多国間貿易交渉の新ラウンドに関する宣言について、双方の経済閣僚は新ラウンドが開始されることを歓迎した。この目的に向け迅速に準備過程に入ることが必要である。

8.これに関連して、双方の経済閣僚は、以前の東京ラウンドのコミットメント及び1982年のGATT作業計画の適当な項目を実行することが必要である旨強調した。双方の経済閣僚は、新ラウンドにおいて、特に、ASEAN及び他の開発途上国の利益が充分考慮されるべきであり、また、開発途上国の先進国市場へのアクセスの改善に妥当な考慮が払われるべきであることに合意した。

9.日本側経済閣僚は、1985年6月25日の「関税に関するアクション・プログラムの骨格」において、新ラウンド交渉の過程で日本が関税についてとる主要な政策方針を率先して発表した旨強調した。右内容は、すなわち、新ラウンドの交渉を通じて、他の先進工業国とともに工業製品の関税率を零にまで引き下げること、また、新ラウンドにおいて、農業の特殊性を考慮し、また、タリフ・エスカレーションの是正を勘案しつつ農水産品の関税交渉を推進するというものである。

10.更に、日本側経済閣僚は、日本が新ラウンドの開始に先立ち具体的かつ目に見える形での貢献を行うことを決定した旨述べた。これは1、800を越える品目についての関税率の撤廃又は原則として20%、乃至それ以上の引き下げ及び農産品のカヴァレッジ拡大等の一般特恵関税制度の実質的改善の措置を含む。

11.ASEAN側経済閣僚は、1985年6月25日に発表された関税に関数日本の政策方針及び措置を歓迎するとともに、1985年7月に発表されるアクション・プログラムにおいて非関税障壁問題等ASEAN側の関心に考慮が払われる事となるよう希望した。

12.ASEAN諸国が、外貨獲得と発展の多くを一時産品に依存していること、最近の国際商品市場における需給の変化及び商品価格の低迷の現状に鑑み、双方の経済閣僚は、現行の商品協定の諸目的達成に向け、引き続き一層の努力を行うことに合意した。

13.この関連で、双方は、国際天然ゴム協定(INRA)、国際すず協定(ITA)、国際砂糖協定(ISA)等の商品協定の再交渉においてこれらの協定を一層効果あらしめるため建設的な役割を果たすことに合意した。また、双方は、国際コーヒー協定に関して、生産国及び消費国双方にとり受諾可能なコーヒーの輸出枠割当の適当なフォーミュラが、在庫、消費国の実需並びに生産国の輸出実績、生産の実態及び輸出能力等の要因を考慮の上、策定されるべきであるとの見解で一致した。

14.ASEAN側経済閣僚は、新たな方向を模索し、また、より長期的な展望の下、一層の付加価値、所得、雇用及び外貨収入を得るため、ASEANの各生産国の一時産品の下流加工部門の拡大を奨励し、また、一時産品部門の研究及び開発につき一層密接な協力を推進していくべきであるとの見解を支持した。

(日本とASEAN諸国の経済情勢及び政策)

15.日本側経済閣僚及びASEAN側経済閣僚は、各々の経済情勢及び経済政策につき説明した。

(日本・ASEAN間の経済関係に係る諸問題)

16.双方の経済閣僚は、貿易、投資、技術移転の各分野に亘る日本・ASEAN間の協力関係につき討議を行った。

(a)貿易 (市場アクセスを含む。)

17.日本側経済閣僚は、日本政府が「関税に関するアクション・プログラムの骨格」において、日本のASEANとの関係に特別の考慮を払い、最大限の努力を行った結果、相当数のASEAN関心品目につき関税の撤廃及び大幅な引き下げを決定した旨述べた。

18.ASEAN側経済閣僚は、日本政府が行った関税引き下げについての今般の決定、特に骨無し鶏肉、パーム油及びバナナに関する関税引き下げに対し評価を示した。また、同閣僚は、かかる市場開放措置はASEANと日本の貿易関係を強化するものと認めた。

19.更に、ASEAN側経済閣僚は、日本政府に対し、関税、非関税障壁及びGSPに関するASEAN側のその他の要望にも好意的配慮を払うよう、また、ASEAN産品の日本市場へのアクセスを容易にすべく一層の努力を傾けるよう要請した。

20.日本側経済閣僚は、上記要請を将来の検討課題として留意した。

21.双方の経済閣僚は、ASEANの製品・半製品の輸出促進における日本の支援及びアクション・プログラムの策定を含む日本政府の努力並びに日本の関係諸機関により行なわれる種々の形態の協力活動の重要性を認めた。このためASEAN側経済閣僚は、ASEAN諸国の個々のニーズに見合った輸出促進計画の策定におけるJETROからの支援を含め、ASEAN諸国の輸出発展・促進計画に対する日本政府のより一層の支援を要請した。

更に同閣僚は日本に対しASEANに依存する日系企業及び合弁企業がその製品の対日輸出促進に努力することを奨励するよう要請した。

(b)投資

22.双方の経済閣僚は、日・ASEAN関係の全体的枠組における投資、就中、輸出指向、加工及び裾野産業への投資の重要性を強調した。

23.海外投資は民間企業の決定の結果として行われることに留意しつつ、双方の経済閣僚は、日本とASEANが、ASEANの産業と貿易の構造的変化に貢献する日本からASEAN諸国への円滑な投資の流れを促進し容易にすることに適する環境作りに協力していくことに合意した。

(c)技術移転

24.双方の経済閣僚は、日本からASEAN諸国への技術移転が増大し、かつ、円滑に行われることの重要性につき合意した。

25.ASEAN側経済閣僚は、技術移転につき、適切かつ実際的アプローチが採用される必要がありかかる過程は相互の継続的協力により促進されうる旨述べた。また、同閣僚は、技術移転の過程は、ASEAN諸国の経済にとって有益な効果をもたらすためにも、日本及びASEAN諸国双方の発展段階と変化に適切に関連した既存及び将来の技術の双方を含みつつ、整合性のとれた形で実施されるべきである旨述べた。

26.日本側経済閣僚は、ASEAN諸国に対する技術移転に関する政策を実施する方法と手段を詳細に検討することに合意した。同閣僚は、また、この関連において、日本政府がASEAN諸国に対する協力を最重視しており、今後とも、ASEAN諸国の開発ニーズに即して協力を拡大していく旨述べた。

(d)投資と技術移転の協力の将来の方向

27.双方の経済閣僚は、上記の目的を達成するために、以下の具体的措置を含む方法と手段を事務レベルで検討することに合意した。

−日本とASEAN諸国双方における投資と技術に関する情報の収集と普及

−既存の投資及び技術関連諸機関の連携強化

−「ASEAN合弁事業計画」への日本企業の参加を奨励するための既存の金融制度の一層の活用

−JICA、JETRO及びASEAN貿易投資観光促進センターにおける投資・技術関連活動の強化

(結語)

28.双方の経済閣僚は、ASEAN諸国の経済発展の展望、右を実現するためのASEAN側の諸政策及び日本・ASEAN間の経済関係発展のための双方の協力の展望について意見を交換した。双方の閣僚は、日本とASEANの協力があらゆる分野において、拡大していることを高く評価し、かかる協力が今後更に促進されるべきことを希望した。

29.双方の閣僚は、日本・ASEAN経済関係の今後の発展のためには、日本が総合的かつ中・長期的観点から、21世紀に向けてのASEANの産業構造を高度化するための努力を支援していくことが必要であることを認識した。

30.この関連で、双方の経済閣僚は、経済協力、貿易、投資及び技術移転等様々な手段を通じて、ASEANの産業・貿易構造の高度化に資するための努力を官民双方に亘って相互に強化していくことに合意した。

31.また、ASEANと日本の緊密な相互依存に照らし、双方の経済閣僚は、双方の関心事項につき、緊密かつ時宜をえた意見交換を継続することに合意した。

32.会議は、友好的な雰囲気の下で行われた。双方の経済閣僚は、今次会議が日本・ASEAN間の協力関係を一層拡充し、相互理解を増進する上で、大きな成果をあげたことを高く評価した。

(謝辞)

33.ASEAN側閣僚は、日本政府及び日本国民が供与した今次会議開催のための便宜及び同閣僚に与えられたもてなしに対し深甚な謝意を表明した。