データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マハディール=マレイシア首相の訪日に際しての日本とマレイシアの共同新聞発表

[場所] 東京
[年月日] 1983年1月25日
[出典] 外交青書27号,456−459頁.
[備考] 
[全文]

1.マレイシア首相マハディール・モハマッド閣下及び同令夫人は、日本国政府の招待により1983年1月23日から29日まで、日本国を公式訪問した。マハディール首相夫妻には、外務大臣ガザリ・シャフィ閣下、総理府無任所大臣アブドゥラ閣下の他マレイシア政府の高官が随行した。

2.マハディール首相夫妻は、1月25日、皇居で天皇陛下に拝謁した。

3.マハディール・モハマッド首相及び中曽根康弘総理大臣は、1月24日及び25日会談し、両国の二国間関係の様々な側面につき協議を行うとともに、両国政府が共通の関心を有する国際的及び地域的な諸問題につき幅広い意見交換を行った。この会談には、マレイシア側よりガザリ・シャフィ外務大臣、アブドゥラ・ハジ・アハマッド・バダウィ総理府無任所大臣、日本側より安倍晋太郎外務大臣、後藤田正晴官房長官が同席した。会談は、両国間の極めて緊密な関係を反映して、親密かつ友好的な雰囲気の中で行われた。

4.中曽根総理大臣は、ASEANに対する日本国政府の基本政策につき説明した。総理大臣は、日本がASEANとの関係に極めて大きな重点と重要性を置いている旨述べた。総理大臣は更に、この政策に沿い、日本のASEANとの関係を経済及び政治分野において一層発展させるために最大の努力を払う旨述べた。

 中曽根総理大臣は、同地域の平和、安定及び繁栄を促進する上でASEANが果たしている積極的な役割と努力を歓迎するとともに、日本政府としては、今後ともASEAN諸国の経済社会発展への努力に対する積極的かつ効果的な協力を通じ、同諸国の国家的及び地域的強靱性並びに連帯意識の強化を支持する方針である旨述べた。マハディール・モハマッド首相は、この日本政府の政策を歓迎する旨述べた。

5.両首相は、アジア特に東南アジアにおける情勢につき意見交換を行った。

 両首相は、現在の困難な国際情勢下においてASEAN諸国が東南アジアにおける平和と安定のための要因であることにつき合意した。

 両首相は、同地域全体の平和と安定を著しく脅かしているカンボディアの軍事占領の継続に対し重大な懸念を表明した。

 両首相は、すべての国が他国への内政不干渉と紛争解決に当たっての武力不行使の基本原則を遵守する必要性を強調した。

 両首相はカンボディア国際会議宣言及び国連総会の関連諸決議に従い、カンボディアからの全外国軍隊の撤退及び同国の独立、主権、中立の回復を呼び掛けた。

 両首相は、ノロドム・シハヌーク殿下を大統領とする民主カンボディア連合政府の樹立をカンボディア問題の包括的政治解決に向けての積極的進展として歓迎した。

 中曽根総理大臣は、マハディール・モハマッド首相との間でASEANの追求する東南アジアの平和、自由、中立地帯の実現に対する一つの重大な障害を除去することとなる本問題の早期解決が絶対的に必要であることにつき意見の一致をみた。

6.両首相は、アフガニスタン問題についての討議の中で、アフガニスタンからの外国軍隊の全面撤退及びアフガニスタンの独立、主権、領土保全の回復を改めて呼び掛けるとともに、アフガニスタン国民が自由に自らの将来を決定する権利を再確認した。

7.両首相は、国際経済の現状について意見交換を行い、ASEAN諸国は70年代を通じ順調な経済発展を遂げてきたが、世界経済の長期的停滞の結果輸出収入が減少したため、経済成長の鈍化に苦しんでいることに留意した。

 両首相は、保護主義が世界貿易にとり最も重大な脅威の一つであることを認識し、両国が保護主義の防圧{圧にあつとルビ}、市場開放措置と世界貿易の拡大を促進することにつき引き続き努力することで、意見が一致した。

8.中曽根総理大臣は、日本国の基本的安全保障政策を説明し、その中で、日本国は、国際環境をできる限り平和で安定的なものにするための外交を推進している旨述べるとともに、日米安全保障体制の一層の円滑かつ効果的な運用を図りつつ、憲法の枠内で、専守防衛に徹し、軍事大国にならないとの基本方針に従って、自衛のための必要最小限度の防衛力の整備を図っている旨述べた。この関連で中曽根総理大臣は、日本国はアジアの平和と安定を達成するため、ASEAN諸国との友好関係を一層発展させ強化するよう努めることを約した。

 マハディール首相はこうした日本の政策に対し理解と満足を表明した。

9.マハディール首相は、中曽根総理大臣に対してマレイシアの「東方政策」の目的とその行動計画について説明した。

 中曽根総理大臣は、マハディール首相の指導性を歓迎すると共に、この「東方政策」が、経済分野における現在の緊密な協力に加え、特に産業・技術訓練、学術・技術研究、及び技術移転の分野における両国関係の一層の拡大に寄与することを希望した。中曽根総理大臣は、さらに同政策の実施がマレイシアの発展にとり極めて重要であり、また同政策がマレイシアにおける「人造り」に対する日本の協力政策と軌を一にするものであるとの認識の下に、本件につき可能な限り協力する意向である旨述べた。

10.両首相は「東方政策」の実施の具体的方策につき意見交換を行った。その中にはマレイシア政府による産業技術研修生、経営実務幹部研修生及び大学並びに専門学校への学生の日本への派遣が含まれる。両首相は、「東方政策」のもう一つの重要な要素は、マレイシアにおける日本語の学習であることにつき意見の一致をみた。

 両首相は、1982年9月に来日した第1陣の研修生の研修計画が円滑に進められていることに満足の意を表明するとともに、1983年1月21日にマレイシア人の日本における産業技術研修のための枠組みについての討議が日本、マレイシア双方の間で成功裏に終了したことを歓迎した。

 中曽根総理大臣は、「東方政策」を推進する計画の一環としてマレイシア政府から要請のあったマラヤ大学における日本語校舎の建設計画に対して日本国政府が無償資金援助を行う用意がある旨表明した。

 マハディール首相は「東方政策」の行動計画の実施に際して日本が行ってきた協力に対し、深い感謝の念を表明した。

11.両首相は、政府ベース及び民間ベースにおいて日本とマレイシア両国間の経済協力が着実に進展していることに満足の意を表明するとともに、かかる緊密な協力関係をさらに増進するための方途につき話し合った。

 マハディール首相はマレイシアの開発戦略の底流をなす目的につき説明し、この戦略に対する日本の経済協力の重要性を強調した。

 中曽根総理大臣は、マレイシア政府の行っている経済社会開発に対する努力を高く評価するとともに、日本国政府としてもこのようなマレイシアの努力に対して東方政策にも留意しつつ引き続き支援と協力を行うと述べた。

12.この関連で、中曽根総理大臣は第4次マレイシア計画の中でマレイシア政府が高い優先度を与えているパカ火力発電所計画及びサバ・ガス事業計画並びにセレンバン−アイル・ヒタム有料高速道路計画に対し、日本国政府としてできる限り協力を行う旨述べた。

 また、中曽根総理大臣は第9次円借款としてパカ火力発電所計画及びサバ・ガス事 計画に対し、210億円までの借款が供与されるよう協力する意図がある旨述べた。

 さらに、中曽根総理大臣は、マレイシアの現在直面している経済的困難及び両国関係の重要性を特別に配慮して、ポート・クラン火力発電所計画(第2期)に対し、日本国政府として海外経済協力基金からの400億円までの円借款を含む500億円までの直接借款が供与されるよう協力する意図がある旨述べた。

13.両首相は、1981年1月、日・マ両国首脳により話し合われ、職業訓練指導員・上級技能者養成センターでの形で実現の運びとなっているASEAN人造りプロジェクトが進展していることに満足の意を表明した。

14.両首相は、両国間の貿易・投資が安定的に拡大していることに留意するとともに、日本、マレイシア両国が相互の利益のため更に経済・貿易関係を強化すべきであることにつき意見の一致をみた。

 マハディール首相は、日本が加工品・製品のマレイシアからの輸入を増大すること、及び今後の市場開放措置の中にマレイシアをはじめとするASEAN諸国の利益が考慮されることを希望した。

 中曽根総理大臣は、今後とも日本国政府が、ASEAN諸国との貿易関係の円滑なる進展に貢献するため最大限の努力を引き続き払う旨述べた。

15.両首相は、両国民の交流と相互理解を促進する目的で、1983年1月25日に両国政府が相互主義に基づく査証免除の取極を順調に行ったことを歓迎した。

16.マハディール首相は日本国滞在中、同首相夫妻及びその一行が日本国政府及び国民から受けた温かい歓迎と厚遇に対し深甚な謝意を表明した。マハディール首相は中曽根総理大臣に対し、夫人と共にマレイシアを公式訪問するよう招待した。この招待は喜んで受諾され、また訪問の時期は、双方にとって都合の良い時期に決定される。