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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] スハルト・インドネシア共和国大統領歓迎晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] 飯倉公館
[年月日] 1982年10月22日
[出典] 鈴木演説集,289−290頁.
[備考] 
[全文]

 スハルト大統領閣下、令夫人、並びに御列席の皆様

 今夕ここにインドネシア共和国のスハルト大統領御夫妻をお迎えして歓迎の宴を催すことができますことは、私の大きな慶びとするところであります。

 こうして親しく大統領御夫妻とお会いしておりますと、昨年一月に私がインドネシアを訪問した際のことが、つい昨日のことのように思い起こされます。

 緑豊かな中に躍動的な建設の槌音が響く首都ジャカルタの活気、市庁舎における歓迎の伝統舞踊、私の誕生日に際してのタマン・ミニ公園での心暖まる祝いの宴、行く先々で貴国国民が示された熱烈な歓待、全行程を通じての貴大統領御自身の細やかな心遣い、これら全ては忘れることのできない良い思い出であります。

 ジャカルタで大統領と記念写真を交換した際、閣下が「スモガ・アンダ・スラル・ブルバハギア」(あなたの御多幸をお祈りします)と記されたことを想い起こします。私は親しみを込めた第二人称であるこの「アンダ」というインドネシア語をここで繰り返させていただき、あらためて友人たる大統領閣下の御来日を歓迎する次第であります。

 夕食会に先立ち、私は大統領閣下と国際諸情勢、二国間関係等広範な問題につき、親しく、腹を割った話し合いを行いました。今日、厳しい国際政治経済情勢の中で、日本とインドネシア両国は成熟したパートナーシップに基づき友好協力関係を着実に発展させてきておりますが、両国首脳間のこのような腹蔵のない話し合いは今後の両国政府の一層の進展に大きく貢献するものであると信じます。

 日本とインドネシアとの関係が経済貿易の分野にとどまらず、社会文化等幅広い分野において発展を示し、人的交流も益々深まっていることは心強いことであります。両国関係が密接になればなるほど、両国間により深い相互理解を必要とする問題が出て来ることはむしろ当然でありましょう。

 重要なことは、そのような場合にも両国が相互信頼を基礎とし、新たな状況に対し新たな協力関係を見出していくとの精神をもって問題に前向きに取り組んでいくことであります。

 国と国、国民と国民との間の相互理解、相互信頼の増進ということは、言うは易いものの現実には地道な不断の努力を要する難しいものであります。大統領閣下も御承知のとおり、私は近く総理大臣の任を退くことになっておりますが、離任後も引き続き大統領閣下とともに、日本・インドネシア間の相互信頼関係を真に永続的なものとすべく誠心誠意尽力してまいる所存であります。

 御挨拶を終えるに当たり、私はスハルト大統領御夫妻の御健康と、インドネシア共和国の繁栄、そして日本・インドネシア両国の末永き友好関係のために乾杯いたしたいと存じます。

 乾杯! スラマット・ミノム!