データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] プレム=タイ国首相の訪日に際しての共同コミュニケ

[場所] 東京
[年月日] 1981年11月16日
[出典] 外交青書26号,501−504頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.プレム・ティンスラノン=タイ国首相は、鈴木善行総理大臣の招待により、1981年11月4日から8日まで日本を公式訪問した。プレム首相には、シティ・サウェートシラー外務大臣、チャチャイ・チュンハワン工業大臣、ソンマイ・フントラクン大蔵大臣、チュアン・リークパイ商務大臣、スリー・マハーサンタナ総理府付大臣、アナット・アーパーピロム農業・共同組合大臣、チャン・マヌータム運輸・通信副大臣、チャントラクップ・シリスット内閣書記官長、サノ・ウナクン国家経済社会開発庁長官その他のタイ王国政府高官が随行した。

2.11月5日、プレム首相は、皇居において天皇陛下に拝謁を賜った。

3.プレム首相と鈴木総理大臣は、11月5日、共通の関心を有する国際的及び地域的諸問題並びに二国間の諸問題について意見交換を行った。

4.両首相は、首脳会談が親密かつ友好的な雰囲気の中で行なわれ、先般の鈴木総理大臣の訪タイを通じて深められた両国間の伝統的友好協力関係を更に促進するとともに両者間の個人的友誼を更に強化し得たことに深い満足の意を表明した。

5.両首相は、国際の平和と安定に脅威を与えている外国軍隊によるカンボディア各地に対する武力占領の継続に対する深い憂慮を改めて表明した。

両首脳は、国連総会決議36/5の採択を歓迎した。両者は、カンボディアからの全外国軍隊の前面撤退及びカンボディア国民の民族自決権の行使を主たる要素とする包括的政治解決が一日も早く達成されるべきであるとの共通の確信を再確認した。両首相は、すべての関係諸国に対し、カンボディアの完全な独立及び主権を確保することによりカンボディアに永続的平和を回復するための国際的努力に参加するよう訴えた。両者は、このような国際的努力を成就するため、相互に、また志を同じくする他の諸国及び関係国際機関と引き続き緊密に協議し、かつ、全面的に協力していくとの決意を再確認した。

この関連で、鈴木総理大臣は、東南アジアの平和と安定の維持のためにタイ国の主権及び領土保全は完全に尊重されねばならない旨を再確認した。

6.両首相は、カンボディア国民、特にカンボディア紛争の継続の結果、タイ領及びタイ・カンボディア国境地域に避難している者に対する深い憂慮を表明した。両者は、このために、すべての関係者に対し、自らの自由意思に従って安全に母国に帰還するというこれらカンボディア人の固有の権利を尊重するよう求めた。

プレム首相は、これらカンボディア人、ラオス難民及びタイ被災民のために日本国政府が医療・食料・水資源開発等の諸側面においてこれまで実施し、タイ国の負担軽減に寄与してきた多大の人道的援助に対し深甚なる謝意を表明するとともに、日本のこのような協力が引き続きなされるよう希望した。

鈴木総理大臣は、人道的観点からインドシナ難民を一時的に受入れていることによりタイ国が負っている経済・社会・治安上の負担に対する深い理解を表明し、日本国政府は人道上及びタイ国の負担を軽減するため、引き続きタイ国政府のカンボディア難民、ラオス難民、タイ被災民に対する救済計画及び国際機関の同様の救済計画に対し、必要に見合った協力を継続する考えである旨述べた。

この関連で、鈴木総理大臣は、日本国政府が先般政府調査団をタイ国に派遣したことを想起し、同政府が同調査団の調査結果を踏まえて、引き続き具体的にいかなる援助を供与しうるか十分検討していく旨述べた。プレム首相は、日本国政府のこのような積極的対応を高く評価した。

7.両首相は、日・タイ両国間の緊密かつ友好的な関係が近年益々増進されつつあることに満足の意をもって留意し、両国間の関係を一層強固なものとするために両国政府が政治、経済、文化その他の分野において更に緊密に協力する用意がある旨改めて表明した。

8.プレム首相は、1981年1月より開始されたタイ国の第5次国家経済社会開発計画を説明するとともに、タイ国の経済・社会開発及び民生の安定に対する日本の積極的な貢献に対し深甚なる謝意を表明した。

 この関連において、プレム首相は、1981年1月鈴木総理大臣のタイ国訪問の際に両首脳間で意見の一致を見たとおり、日本国政府が、同年5月今後の両国間の経済協力を効果的に進めていく方途について協議を行うことを目的として大来佐武郎政府代表を団長とする総合ミッションをタイ国に派遣したことを高く評価した。両首脳は、今後ともこのような協議を継続的に行っていくことを確認した。

 鈴木総理大臣は、プレム首相の卓抜した指導の下にタイ国政府が経済・社会開発を推進し、民生の改善及び福祉の向上の実現を通じて自国の政治的、経済的及び社会的強靱性を強化することにより東南アジアの平和、安定及び経済発展に大きな役割を果たしていることを賞賛し、日本国政府としても、このようなタイ国の努力に対して、今後とも種々の形の協力を行うとの意向を改めて明らかにした。

 また、鈴木総理大臣は、日本国政府としてはタイ国に対する協力の供与にあたっては農村・農業開発、代替エネルギー資源開発を含むエネルギー開発及び人造り協力の各分野を重視するとともに、経済・社会インフラストラクチャーの一層の改善のための協力及び住民の生活水準の向上に直接裨益する基礎生活援助の拡充を図っていくこととしたい旨述べた。

 この目的のために、鈴木総理大臣は、日本国政府はタイ国政府に対し、第9次円借款についても可能な限り積極的かつ効果的な協力を行っていきたい旨述べた。

 両首相は、タイ国における天然ガス利用計画の発展が、タイ国の経済・社会開発に大きく貢献するであろうとの所信を表明した。プレム首相は、天然ガス分離プロジェクトに対し、できる限り短期間内に日本から資金協力が行われることを希望する旨述べた。鈴木総理大臣は、同プロジェクトのタイ国にとっての重要性を認識し、日本国政府としては、150億円にのぼる円借款を含め、タイ国首相の要請に応えて資金協力を行う用意がある旨表明した。

プレム首相は、鈴木総理大臣の声明を歓迎するとともに、さらに中央造林研究・訓練センター設立のための無償資金協力及び貧困撲滅計画のための監視・評価システムの改善に対する協力を要請した。これに対し、鈴木総理大臣は、タイ国首相のこれらの要請については今後の両国間での具体的検討を十分勘案しつつ好意的配慮を払うであろう旨述べた。

 両首相は、プレム首相の今次訪問中に両国政府間で技術協力協定が署名されたことを歓迎し、日本国政府による技術協力が、同協定の下で、タイ国の経済・社会開発の促進のために最大限の寄与をするであろうとの確信を共有した。

 両首相は、また、タイ国の食糧増産計画に協力するために34億円を越えない額の日本の無償資金協力につき今次訪問中に交換公文が行われたことに満足の意を表明した。

9.両首相は、両国間の貿易が着実に拡大し、かつ、多角化することは、相互の利益にかなうものであることを認識し、また両国間の長年にわたる貿易不均衡を勘案し、両国間に存在する貿易不均衡を縮小するために、あらゆる可能な努力を継続することにつき意見の一致を見た。

プレム首相は、タイ国の輸出能力向上の重要性をこの関連で特に強調し、タイ国における貿易研修センターの設立のための日本の無償資金協力及び技術協力を要請した。鈴木総理大臣は、プレム首相の要請に対する十分な理解を表明しつつ、日本国政府は右協力につき両国間での具体的検討を十分勘案しつつ好意的配慮を払うであろう旨述べた。

10.両首相は、日・タイ経済関係の一層の緊密化を希望しタイ国の国家開発協力に対する日本の民間部門からの投資の重要性に留意しつつ、両国政府がこのような投資を円滑にするために引き続き最善の努力を払うべきことにつき意見の一致を見た。

 この関連で、両首相は、鈴木総理大臣訪タイ時の了解に基づき両国間の投資保護協定締結のために両国間で交渉が進展を見せつつあることを歓迎し、同協定が早期に締結されるようにとの希望を表明した。

 プレム首相は、今次訪問中に日本の財界指導者と親しく会見し、タイ国に対する日本の民間投資促進につき十分な意見交換を行いえたことに満足の意を表明した。

11.両首相は、両国民の相互理解と友好親善に基礎を置いた緊密な両国関係をさらに強化していくためには、文化面での交流及び協力をあらゆるレベルで推進していくことが重要であることを再認識した。

両首相は、このような観点より、今次訪問の機会に日本国政府が、タイ国政府に対し、通信教育機材を文化無償協力により供与することを内容とする交換公文が行われたことに満足の意を表明した。

12.鈴木総理大臣は、チャクリ王朝創始及びバンコック●{鄭からおおざとを取る}都を記念する来たる1982年の「ラタナコシン二百年祭」に関し、日本国政府及び日本国民を代表して祝意を伝達するとともに、同総理大臣がタイ国民と大きな喜びを分かち合うものである旨述べた。プレム首相は、この温かい心遣いに対し深い謝意を表明し、同二百年祭に対する日本の大きな寄与の一部である青少年福祉センター及びマハラート病院の建設に満足の意をもって留意した。

13.両首相は、日本とASEAN諸国との関係が、政府及び民間の双方のレベルにおいて益々緊密化されつつあることを歓迎し、日本とASEANとのより広範かつ緊密な協力がアジアの平和、安定及び経済発展の増進に積極的に貢献するであろうとの確信を表明した。

 鈴木総理大臣は、日本国政府がASEAN諸国の一層の強靱性の強化及び連帯と協力の努力に対して引き続き援助を行う旨述べた。

 この関連で両首相は、鈴木総理大臣が本年1月に提唱したASEAN人造りプロジェクトの一環としてのタイ国の「基礎保健開発センター」に対する協力の実施に向けて、両国政府間で引き続き協議を行っていくことについての意見の一致を確認し、また、同じく本年1月に引き続き提案された文化交流に係わる諸計画が着実に進展していることを確認した。

 また、両首相は、本年5月に東京に設立されたASEAN貿易投資観光促進センターが日本とASEANの間の経済関係の一層の発展に貢献することへの期待を表明した。

14.両首相は、プレム首相の日本訪問が日本とタイ両国間の相互理解及び伝統的な友好関係の一層の増進に大いに貢献したことに深い満足の意を表明した。

両者は、政府及び民間レベルにおける両国指導者間の緊密な接触及び協議の継続並びに相互訪問が両国間の緊密かつ互恵的な関係の増進に資するであろうとの点で意見の一致を見た。

15.プレム首相、同首相及び随員一行が日本国政府及び国民から受けた温かい歓迎と接遇に対し深甚なる感謝の意を表明した。