データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] リー首相夫妻主催晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] シンガポール
[年月日] 1981年1月13日
[出典] 鈴木演説集,183−184頁.
[備考] 
[全文]

 リー首相閣下、リー令夫人並びに御列席の皆様

 リー首相閣下よりただ今、暖かい歓迎の言葉を戴き厚くお礼申し上げます。

 私は、今回初めて貴国を訪問致しましたが、政府と国民とがリー首相閣下の卓越した指導の下で、一致団結して活気ある国造りに邁進されている様子に接し、深い感銘を受けました。

 首相閣下

 私はまず最初に先の総選挙における貴首相の率いる与党の勝利に対し、心からお祝い申し上げます。私の属する自民党も昨年夏の総選挙にて満足すべき勝利をおさめは致しましたが、人民行動党の場合のパーフェクト・ゲームには程遠いものでありました。私は、今回のシンガポール滞在中に是非首相閣下より、いかにして選挙に完全勝利をおさめるかの秘訣につき、技術移転を受けたいと考えております。

 貴国とわが国は、実に多くの共通項を有しております。両国は天然資源に恵まれず、また国土挟隘であるという極めて不利な条件にもかかわらず、ともに質の高い人的資源を最大限に活用し経済を発展させてきました。今日、日本とシンガポール両国が世界の耳目を集める発展を遂げつつあることは、世界の多くの国々にとって、とりわけ同様に不利な条件をかかえつつ向上を目指す国々にとって、大きな希望を与えるものであります。また、今日、両国が行いつつあることは、単なる経済発展以上の深い意味を有する現代史上の挑戦に他なりません。両国は、東洋の伝統的価値観と西欧の先端的科学技術が両立し、新たな文明として発展し得るものであることを現実に証明するという困難な挑戦を試み、しかもこれに成功しつつある国であります。

 更にシンガポールと日本とは、平和を愛し、紛争を対決よりも対話によって解決することを国是としていることも、両国をごく自然な形で協力者たらしめている所以であります。本日、私はリー首相閣下と会談しました。私はこの会談を通じ、改めてかかる共通項を確認するとともに、東南アジアの平和と繁栄のために、日本とシンガポール両国はより一層の協力を進める極めて広い水平線を有することを認識した次第であります。

 首相閣下

 私はこの度の訪問によって、貴国シンガポールが、言語・民族を異にした人々を見事に調和させ、シンガポール国民としての一体性を確保しつつ、各民族の特色を生かして、首相閣下の言われる活力ある国つくりに励んでおられるのを目のあたりにすることができました。これは偉大な事業であります。私もかねてより、「和の精神」をもって自らの政治活動の基本理念と致してまいりましたが、異なる文化の調和による新しい文化の創造に日夜腐心しておられる首相閣下の御努力を知って、誠に頭の下がる思いがしたのであります。

 首相閣下

 シンガポールと日本は、両国政府並びに国民の地道な努力の積み重ねによって、今日、両国交流史上、かつて類を見ない友好関係を享受していると言えましょう。しかしながら、困難な一九八〇年代の国際環境は、日本とシンガポール、ひいては日本とアセアンの関係をより一層前進させることを求めております。このため私は、最大限の努力をねばり強く払って行く決意であります。

 ここで私は、御列席の皆様とともに杯を挙げて、シアーズ大統領御夫妻及び貴首相閣下御夫妻の御健康、シンガポール共和国の繁栄、シンガポール・日本両国間の友好並びにアジアと世界の平和と安定のために乾杯したいと存じます。

 乾杯!