データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] インドネシア・スハルト大統領主催の晩餐会における福田内閣総理大臣スピーチ

[場所] ジャカルタ
[年月日] 1977年8月12日
[出典] 福田内閣総理大臣演説集,110‐114頁
[備考] 
[全文]

 スハルト大統領閣下及び令夫人、ハメンク・ブオノ九世大統領閣下並びにご列席の皆様

 私は、この度スハルト大統領閣下のご招待により、念願の貴国訪問が実現致しましたことを無上の喜びとするものであります。私は、この機会に、大統領閣下をはじめとするインドネシアの皆様から、私ども一行に示して下さっている並々ならぬご好意に対し、心から感謝の意を表明したいと存じます。

 私が前回閣下に御拝眉の栄を得たのは、一九七五年閣下が東京を訪問された時でありましたが、今般再びお会いし、閣下が相変わらずご壮健で国務に専念しておられるお姿に接し欣快にたえません。

 私はかつて一九六九年、大蔵大臣時代に豪州よりの帰途、当地に立ち寄ったことがございますが、先程ハリム国際空港より迎賓館までの道すがら、当時とは全く面目を一新した首府ジャカルタの姿を目のあたりにし、貴大統領指導の下における貴国の発展振りの片鱗を窺い得た感じが致しました。

 平和回復以来、日本は一貫して諸国との善隣友好政策を推進し、特にアジア諸国との友好を、わが国外交の一つの柱としてまいりました。その中でも、太平洋とインド洋とを結ぶ要の位置を占め、歴史的にも深い文化的、経済的関係をもつ貴国との関係を重視していることは、申すまでもありません。今日、日・イ両国は国際社会の種々の変動にもかかわらず、対等の独立国としてのパートナーシップに基づき、極めて緊密な友好、協力関係を築き上げるに至っており、喜びに堪えない次第であります。

 自然の富に恵まれた貴国と、技術と資本を有するわが国との間に、経済的相互補完の関係が存在することは衆知の事実でありますが、日・イ関係は時代の新しい要請に応じて常に発展して行くものであり、また当然のことながら、経済関係のみが日・イ関係の総てではありません。私は、貴国との文化、学術、社会その他一切の分野における交流が、ますます拡大することを希望しております。

 私は、大統領閣下のご持論である国家及び地域のレジリエンス論に強く共鳴するものであります。閣下は、常々国ないし地域のレジリエンスとは、それぞれの政治的、経済的、社会的、文化的その他諸々のレリジエンスの調和せる総体である旨を説いておられますが、私も正しくその通りであると考えます。私は、外国の友人から、「日本は軍備を放棄して厳しい極東の国際情勢の中で、いかにして国の安全を守ろうとするのか」と質問されることがあります。これに対して、私は、先ず国民生活を充実し、安定した生活基盤の上に、国民全体が、自由と独立を守るために団結することこそ、国防の基本であると答えるのでありますが、これは大統領閣下のナショナル・レジリエンスの考えと全く軌を一にするものであります。

 私は、かねてより日・イ関係の発展は、貴国のレジリエンスの増進に寄与し、そのことがまた、アジアの平和と繁栄に通ずるものであることを確信している次第です。

 かかる立場から、私は、常々日・イ関係を今後長期間にわたり、より強固にして安定せる基盤に乗せるためには如何なる努力を払うべきであるかを考え続けて参りました。

 大統領閣下、私は国内政治において常々「連帯と協調」をモットーにしているものであります。新しい秩序を模索しつつ、重大な転機に立つ国際社会におきましても、今ほど「連帯と協調」の精神が強く求められている時代はないものと信じます。その意味において、貴国を有力メンバーとするASEANが、既にいうなればこの「連帯と協調」の精神に基づいて活発に動いていることを、この度のクアラルンプール首脳会議において、私自身の眼で確かめることができ、まことに同慶に堪えません。

 私は、かねてより、われわれが同じアジア人として、その心情において極めて近いものがあることを感じている次第であり、わが国と貴国との間にも、この「連帯と協調」の精神に基づく相互理解をこの上とも深め、心と心との通じ合う真の友好親善関係を発展させることを希望するものであります。そして、その上に更に両国が相携えて、われわれの直面する世界の諸問題に取組むことができることを希望します。私は、この点に関し、大統領閣下の卓抜なるリーダーシップとご協力に多大の期待をかけるものであります。

 市内の随所に設けられている独立記念祝賀の飾り付けを目にして、私は目前に迫った第三十二回インドネシア共和国独立記念日を迎えるに当たっての皆様の喜びを実感しております。この席をお借りして、インドネシア国民の皆様に、私の心からの祝意を表明したいと存じます。

 さて、今回貴国を訪問するに際し、インドネシアの国民の皆様への贈り物をと考え、わが国の天然記念物に指定されている「おおさんしょううお」を持って参りました。

「おおさんしょううお」は、両生類中最大のもので、古くより山岳地帯の清流の守り神と信じられております。また中新世代の「生きた化石」とも言われており、学術的にも非常に価値の高いものであります。

 これは、先日、大統領閣下より、わが国国民に贈られた「コモド・ドラゴン」に対するお返しでもあります。

 コモド・ドラゴンは、去る四月私の官邸において貴国のウイトノ大使より私が受け取りましたが、当日は日本においては「子供の日」という国民の祝日が間近いこともあってまさに「コドモの日にコモド」でありました。「コドモとコモド」が対面した訳です。この「コモド」は、東京、大阪等で展示された後、現在北海道で展示されており、折から夏休み中のコドモ達を楽しませております。

 本席をお借りしてあたらめて日本のコドモ達を代表してお礼を申し述べたいと思います。

 ご挨拶を終えるに当たり私はスハルト大統領夫妻のご健康とインドネシア共和国の繁栄をお祈りし、皆様とともに乾杯致したいと存じます。

 乾杯! スラマット・ミヌム!