データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣のインドネシア共和国公式訪問に際しての日本とインドネシアの共同新聞発表

[場所] ジャカルタ
[年月日] 1974年1月17日
[出典] 外交青書18号,64−66頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1 田中角栄日本国総理大臣は,インドネシア共和国大統領スハルト将軍の招待により,1974年1月14日から17日までインドネシアを公式訪問した。

2 総理大臣は,1月15日,スハルト大統領およびハメンクブオノ副大統領を表敬した。総理大臣は,大統領と友好的,かつ,広範囲に亘る討議を行い,両国間に存在する友誼と相互理解を再確認した。

3 会談において,総理大臣は,東南アジア諸国との間に,平和と繁栄を分かち合う良き隣人の関係を促進し強化したいとの日本の真摯な希望を表明した。総理大臣は,また,日本がインドネシアおよびその他の東南アジア諸国との関係において,各国の自主性を最大に尊重し,各国の経済自立への努力を阻むことなくその発展に貢献することを基本原則としていることを確認した。大統領は,総理大臣の説明を衷心より歓迎し理解を表明した。両者は,このような精神と原則に基づき,日本とインドネシアとの間に互恵の関係を増進するための一層の建設的努力が払われるべきであることに意見の一致をみた。

4 大統領と総理大臣は,両国が共通の関心を有する現下の国際情勢,なかんずくアジアの情勢について率直な意見を交換した。両者は,全ての東南アジア諸国が各国主権・独立尊重の原則の基礎の上に確保される永続的平和と繁栄を享受し得る諸条件が確立されるべきであるとの両国共通の願望を表明した。この関連において,大統領と総理大臣は,両国政府が国際連合およびその他の国際的な場において引続き協議を行うことが重要であることを再確認した。

5 大統領と総理大臣は,ヴィエトナム平和に関するパリ協定並びにラオスにおける平和に関する協定および同付属議定書の締結を歓迎し,関係各国によるこれら諸協定の忠実な遵守および実施がインドシナにおける安定的かつ永続的な平和の確立のために不可欠であることに合意した。この関連において,総理大臣は,インドネシアが国際監視管理委員会の活動的な一員としてヴィエトナムにおける平和の確立のために果して来た積極的役割を高く評価した。大統領および総理大臣は,カンボディア問題は外部からの介入を受けることなく,カンボディア国民自身により平和裡に解決され,同地域に出来るだけ速やかに平和が回復されることを希望した。

6 大統領と総理大臣は,中東における未解決の紛争によつて提起されている世界の平和に対する引続く重大な脅威を憂慮し,国際連合の関連決議,特に安全保障理事会決議242の速やかな実施,並びに,パレスチナ人民の正統な権利の回復を通じて,同地域に可及的速やかに公正,かつ,恒久的平和がもたらされるべきであることに意見の一致をみた。この関連において,両者は,ジュネーブで開催されている平和会議を歓迎し,この会議がイスラエル軍の占領地域からの早期の撤退をもたらし,かつ,この紛争に解決をもたらすことに成功するようにとの希望を表明した。

7 大統領と総理大臣は,地域的連帯および協力の精神がアジア全域の平和と繁栄に貢献するものであることを確認し,地域協力の重要性が増大しつつあることに満足の意をもつて留意した。両者は,アジア・太平洋地域における地域協力が関係諸国,特に,東南アジア諸国の希望と利益にかなうように促進されるべきであることを強調した。

 総理大臣は,ASEANの重要な役割に留意し,東南アジア地域の国家および地域の自立を支える活力のためにASEANがますます活発な活動を行なつていることを高く評価した。大統領と総理大臣は,ASEAN加盟諸国の願望に沿いつつ,ASEAN地域の調和のとれた発展を促進するために日本のなし得る貢献につき討議した。

8 大統領は,第1次5カ年計画の実施の満足すべき進展を説明すると共に,同計画の実施に対する日本から供与された援助に感謝の意を表明した。大統領は,また,本年4月に開始されるべき第2次5カ年計画に含まれることとなる諸目的と主要政策の概要を説明した。総理大臣は,大統領の卓越した指導の下におけるインドネシアの経済・社会開発の成果に敬意をもつて留意しつつ,日本国政府はインドネシア援助国会議(IGGI)の内外において,インドネシアの開発努力に対する協力の供与につき引続き積極的な役割を果す用意がある旨を述べた。

9 この関連において,大統領と総理大臣は,農業開発に対する協力および液化天然ガスの開発,供給に関する取決めを含め,インドネシアの経済開発の一層の促進に貢献すべき各種の事業計画につき率直かつ建設的な意見の交換を行つた。両者は,インドネシアの全国的な経済開発と当該地域の開発にとつて重要な民間部門の事業計画であるアサハン水力発電・アルミニューム精練計画についても討議した。両者は,全ての関係者の間の相互協力を通ずるこれら事業計画の迅速な実施がインドネシアの経済開発に大きく貢献するであろうことに意見の一致をみた。

10 大統領と総理大臣は,インドネシアにおける民間投資の進展について意見を交換し,民間投資がインドネシアの開発計画の実施を促進するための資本およびこれに付随する技術的ノウハウをインドネシアに供与することによつて果す重要な役割を認識した。大統領は,外国民間投資が一層の雇用機会を大幅に創出するとともに,インドネシア企業の管理能力を高めるようにとの心からの希望を表明した。大統領は,また,この関連において,インドネシアの要員と企業家を責任ある地位につけるための訓練が重要であることを強調した。

 総理大臣は、大統領の見解を理解をもつて聴取し日本はこの分野においてインドネシアと協力して行く用意がある旨を述べた。

11 大統領は,群島理論に関するインドネシアの立場を説明した。総理大臣は,インドネシアが本件を重視していることを理解できると述べるとともに,日本は海洋法会議においてこの問題の合理的解決のために同情的考慮を払う用意がある旨述べた。

12 大統領と総理大臣は,両国間の相互理解を増進させるために,あらゆる分野における人的接触と交流を拡大することが極めて重要であることに意見の一致をみた。この関連において,総理大臣は,日本は東南アジアおよび日本の青年間の友好的な交流の機会を提供する「東南アジア青年の船」の計画を発足させる希望を有している旨述べた。大統領は,この友好の意思表示を評価し,この計画が東南アジアおよび日本の青年間の理解の増進に対し貴重な貢献を果し得るようにとの期待を表明した。

13 大統領と総理大臣は,今次の総理大臣のインドネシア訪問が両国間の友好と協力関係の一層の強化に大きく寄与したことに完全な満足の意を表明した。両者は,今回の訪問が,両者の個人的接触を新たにする機会をもたらしたことを歓迎し,今後ともかかる接触を維持し,かつ,強化したい旨希望した。

14 総理大臣は,インドネシア滞在中に総理大臣および随員一行が受けた友情に満ちた暖かいもてなしに対し衷心より感謝の意を表明した。