データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 東南アジア農業開発会議共同コミュニケ

[場所] 東京
[年月日] 1966年12月8日
[出典] 外交青書11号,10−13頁.
[備考] 
[全文]

一 東南アジア農業開発会議は、本年四月東京において開催された東南アジア開発閣僚会議の合意に基づき、一九六六年一二月六日、七日および八日の三日間にわたり、東京において開催された。

二 会議には、カンボディア王国からホー・トン・リップ農業省農業研究局長、インドネシア共和国からアミン・チョクロスセノ農業省次官、ラオス王国からブァパット・チャンタパンヤ経済計画省森林灌漑局長、マレイシアからチュー・ホン・ジュン農業省農業局次長、フィリピン共和国からウマリ農業天然資源省農業次官、シンガポール共和国からチョイ・トーン・ローク法務・国家開発省一次産品局次長、タイ王国からチャクラトーン・トーンヤイ農業省農業次官、ヴィエトナム共和国からトン・タット・トゥリン大統領府顧問、日本から大野勝巳大使および武田誠三農林省農林次官が出席した。

三 会議には、また、アジア開発銀行から渡辺武総裁、国際連合アジア極東経済委員会から山下貢アジア極東経済委員会および国際連合食糧農業機関合同農業部長、国際連合食糧農業機関からアーサン・ウ・ディーン・アジア極東地域事務所長がオブザーバーとして出席した。

四 佐藤総理大臣は、歓迎の挨拶においてアジアにおける人口増加の趨勢にかんがみ食糧生産の増大が緊急に必要であることに言及しつつ、東南アジアの経済発展に占める農業の重要性を強調し、農業開発を進めるにあたっては、英知と忍耐が必要であり、また、真摯な自助の努力が継続的に積み重ねられなければならない旨述べた。同総理は、さらに日本がこの会議を契機とし、今後、農業分野における経済、技術協力を一層推進する旨述べた。

五 会議は終始友好的で打ちとけた雰囲気の下で進められ、東南アジアの農業開発に関連する諸問題について活発な討議が行なわれた。

 会議は、東南アジアの経済開発において、農業の果すべき役割が極めて重要であることを再確認し、農業開発に伴う各種の困難をも十分認識しつつも、これらの困難を克服するため、東南アジア諸国が相互に協力しうる分野の大きいことを認めた。

 会議は、また、人口の著しい増加に対処するために、食糧生産特にこの地域の主要食糧である米の生産を安定的に拡大することが東南アジアの農業開発において最も緊要かつ共通の課題であることを認めた。

 会議は、東南アジアの農業開発を行なうにあたっては、より大きな財政資金が必要であることを強調した。

六 会議は、農業技術の改善に関する諸問題を討議し、東南アジア諸国の農業の中心である稲作の単位面積当り収量を向上させることが重要であることを特に再確認した。このために会議は、また、品種改良、施肥、栽培法の改善、病虫害の防除等各般にわたる農業技術の改善を、各国の又は各国内の各地域における農業の実情に即した方法で行なうことが必要であることを強調した。

 会議は、農業技術の改善に関し、技術を農民に伝達する普及事業の果す重要な役割を特に強調した。

 これと関連して、会議は、農民が新しい技術を容易に理解し、利用しうるように普及方法を改善するために努力すべきであること、並びに、試験研究に際しては、実用的な技術の開発に重点が置かれるべきことを再確認した。普及事業を行なうにあたっては、各種の農業資材が供給されなければならず、また、最大限の農業生産をあげるため、当該地域の資源を開発するための確固たる手段が取られなければならない旨の発言があった。同時に、普及の分野においては生活改善の重要性が指摘された。

 普及が効果的に行なわれるために、会議は普及員とその訓練の果す重要な役割を強調した。この意味で、農業普及職員のための訓練センターの設置が示唆され、これと関連して、国際機関の活動を調整する必要性が指摘された。

 普及事業における大学など教育機関の役割の重要性が強調された。

 会議は、新しい農業技術と知識に関する情報の交換のために、地域協力を促進することが望ましい旨強調した。

七 会議は、農業基盤の整備に関する諸問題を討議し、農業生産の着実な増大を図るためには、灌漑排水施設の建設および治水事業の実施により水の安定した供給を確保することが必要であることを再確認した。

 会議は、水資源の効果的利用の見地から灌漑排水事業が大規模、かつ、多目的な水資源開発計画の一環として実施されることが望ましいことを認めた。

 しかし、会議は、食糧生産を早急かつ効果的に増大するためには、営農改善と農地拡大の促進に必要な諸措置をとるとともに農業生産に直結し、農業開発にとりより効果が高い中小規模の灌漑排水事業に重点を置く必要があることを認めた。

八 会議は、肥料、農薬、農業機械および漁具の製造ならびに農産物および水産物の加工等の農水産業関連産業が農業開発の促進にあたって果す重要な役割を認めた。会議は、また、計画的な関連産業の育成を図るためには、業種ごとにその発展の可能性を十分に研究しなければならないことを指摘した。これに関連して、各国の農業の発展段階および経済計画について十分な配慮が与えられなければならないことが強調された。

 さらに、肥料工業等大規模生産が必要とされる産業に関しては、地域的協力が必要であることが指摘された。

九 会議は、農産物の市場性の改善に関する諸問題を討議し、農業生産を拡大し、かつ、農産物の国際競争力を強化するためには、農産物の生産費を引きさげ、品質を向上し、農業協同組合の育成ならびに輸送、貯蔵等農産物の流通施設の改善に関する必要な措置をとることが必要であることを認めた。

 また、農産物の市場性の改善を図るためには、東南アジアの諸国間における地域的協力が有効であることが指摘された。この点に関し、国際商品協定の重要性が強調され、同時に、国連貿易開発会議、国連食糧農業機関等の国際機関が十分に活用されるべきであることが指摘された。

 さらに、会議においては、一次産品価格の低下について懸念が表明され、また、交易条件の悪化を阻止することの緊急な必要性について、国際機関の注意が喚起された。

一〇 会議は、農業開発の資金的側面に関し、中小規模または末端の灌漑排水事業および農業関連産業の開発への投資の増大が必要であることを認めるとともに、このために必要な資金を政府および民間の努力により国内的に確保することの重要性を指摘した。しかしながら、この地域の各国の一般的な国内資金の不足にかんがみ、会議は、東南アジア地域の農業開発事業に対し緩和された条件で融資を行なうための基金をアジア開発銀行の特別基金として設置する必要があることを認めた。会議は、先進国およびアジア開発銀行に対し、かかる基金の設置について呼びかけるとともに、アジア開発銀行が本会議出席国および関係者の意見を聞いて、すみやかに基金設置に関する諸問題の検討を開始することを同銀行に対して要請することに合意した。

一一 会議は、食糧供給の増大と栄養水準の改善とくに動物性蛋白質の供給増大の見地から漁業開発の促進が必要であることを認めた。また、東南アジアに適合した漁業技術の研究、開発および普及、漁業技術者の養成及び漁業資源の調査に努めつつ、沿岸漁業の近代化と沖合漁業の開発を促進することが重要であることを認めた。

 さらに、いくつかの国にとっては内水面漁業が極めて重要であり、内水面漁業資源の保存と増大が必要であることが指摘された。

 本年四月の東南アジア開発閣僚会議において提案された地域的海洋漁業研究開発センターにつき、タイ及びシンガポールの両国から設立具体案が提出された。

 会議は、東南アジア漁業開発センター設立に関連する問題の細目についてこれらの提案およびこれに関連して行なわれた討議を十分に考慮しつつ関係各国の専門家よりなる作業部会に検討させることとし、作業部会の設置につき議長国に一任することに合意した。

一二 会議は、このような会議が東南アジアの農業開発を促進する上に有用であり、また、東南アジアに繁栄と安定をもたらすことに大きく寄与するであろうことを認め、この種の会議を将来開催すべきか否かの決定を、一九六七年にマニラにおいて開かれる東南アジア開発閣僚会議に委ねることに同意した。