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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 通商に関する日本国とマラヤ連邦との間の協定

[場所] クアラルンプール
[年月日] 1960年5月10日
[出典] 外交青書5号,254−258頁.
[備考] 
[全文]

 日本国政府及びマラヤ連邦政府は、日本国とマラヤ連邦との間に存在する通商関係を強化し、かつ、発展させることを希望して、日本国とマラヤ連邦との間の通商関係を規律する協定を締結することに決定し、次のとおり協定した。

第一条

1 各締約国は、輸入若しくは輸出について若しくはそれらに関連して課され、又は輸入品若しくは輸出品のための支払手段の国際的移転について課されるすべての種類の関税及び課徴金に関する事項、それらの関税及び課徴金の賦課の方法に関する事項、輸入又は輸出に関連する規則及び手続に関する事項、輸入貨物若しくは輸出貨物については又はそれらに関連して課されるすべての内国税その他すべての種類の内国課徴金に関する事項並びに自国の領域内における輸入貨物の販売、販売のための提供、購入、分配又は使用に影響を及ぼすすべての法令及び要件に関する事項のすべてについて、他方の締約国に無条件の最恵国待遇を与えなければならない。

2 したがって、いずれか一方の締約国の産品で他方の締約国の領域内に輸入されるものには、1に掲げる事項について、いずれかの第三国の同様の産品に課されているか又は将来課される関税、内国税又は課徴金より一層高額の関税、内国税又は課徴金が課されることはなく、また、同産品に適用されているか又は将来適用される規則又は手続より一層厳重な規則又は手続が適用されることはない。

3 同様に、いずれか一方の締約国の領域から輸出され、かつ、他方の締約国の領域に仕向けられる産品には、1に掲げる事項について、同様の産品がいずれかの第三国の領域に仕向けられる場合に課されているか又は将来課される関税、内国税又は課徴金より一層高額の関税、内国税又は課徴金が課されることはなく、また、同産品が同様の場合に適用されているか又は将来適用される規則又は手続より一層厳重な規則又は手続が適用されることはない。

4 1に掲げる事項についていずれか一方の締約国がいずれかの第三国を原産地とする産品又はいずれかの第三国の領域に仕向けられる産品に対して与えているか又は将来与えるすべての利益、特典、特権又は免除は、他方の締約国の領域を原産地とする同様の産品又はその領域に仕向けられる同様の産品に対し、即時に、かつ、無条件で与えられるものとする。

5 1の関税及び課徴金に関する規定は、日本国に対し、マラヤ連邦が英連邦諸国、アイルランド共和国及びビルマ連邦の産品にもっぱら与える特恵又は利益の享受を要求する権利を与えるものではない。

第二条

1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、両締約国の領域の間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、並びに他方の締約国の領域と第三国の領域との間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、いかなる第三国の国民及び会社に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

2 1の規定は、いずれか一方の締約国が、国際通貨基金協定の締約国として有するか又は有することがある権利及び義務に合致するような為替制限を課することを妨げるものではない。

3 いずれの一方の締約国も、他方の締約国のすべての産品の輸入に対し、又は当該他方の締約国の領域に仕向けられるすべての産品の輸出に対しなんらの制限又は禁止をも課してはならない。ただし、すべての第三国の同様の産品の輸入又はすべての第三国への同様の産品の輸出が同様に制限され、又は禁止されている場合は、この限りでない。

4 3の規定にかかわらず、いずれの一方の締約国も、貨物の輸入及び輸出について、当該一方の締約国が、2の規定に基づいて当該時に課することができる為替制限と同等の効果を有する制限又は統制をすることができる。

第三条

1 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域に入り、同領域に滞在し、同領域内を旅行し、又は同領域に居住することを許される。ただし、この権利の享有は、一般的にすべての外国人に同様に適用される当該他方の締約国の法令及び規則に従うことを条件とする。

2 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、税金の賦課、裁判を受けること、財産権、法人への参加並びに一般にあらゆる種類の事業活動及び職業活動の遂行に関するすべての事項について、いかなる第三国の国民及び会社に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

 前記の規定にかかわらず、各締約国は、相互主義に基づき、又は二重課税の回避若しくは歳入の相互的保護のための協定により、租税に関する特別の利益を与える権利を留保する。

第四条

 いずれの一方の締約国の国民及び会社の財産も、他の締約国の領域内において、法令に従い、かつ、衡平な方法で行なわれる場合を除くほか、収用し、又は使用してはならず、また、迅速、適当かつ有効な補償なくして収用し、又は使用してはならない。この条で取り扱うすべての事項については、いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、いかなる第三国の国民及び会社に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

第五条

 両締約国は、両国の貿易を発展させ、及び経済関係を強化すること並びに、特にそれぞれの領域内における経済の発展及び生活水準の向上に資するため、科学及び技術に関する知識の交換及び利用を促進することを目的として、相互の利益のため、協力することを約束する。

第六条

1 各締約国は、国家企業を設立し、若しくは維持し、又はいずれかの企業に対して排他的の若しくは特別の特権を正式に若しくは事実上与えるときは、その企業を、輸入又は輸出を伴う購入又は販売に際し、民間貿易業者が行なう輸入又は輸出に影響を及ぼす政府の措置についてこの協定で定める無差別待遇の一般的原則に合致する方法で行動させることを約束する。この目的のため、前記の企業は、この協定の他の規定に妥当な考慮を払った上で、前記の購入又は販売を商業的考慮(価格、品質、入手可能性、市場性、輸送その他購入又は販売の条件等に関する考慮をいう。)によってのみ行なわなければならず、かつ、他方の締約国の企業に対し、前記の購入又は販売に参加するために競争する適当な機会を通常の商慣行に従って与えなければならない。

2 1の規定は、再販売するため又は販売のための貨物の生産に使用するためではなく、直接に又は最終的に政府用として消費するための産品の輸入には、適用しない各締約国は、そのような輸入に関しては、他方の締約国の貿易に対して公正かつ衡平な待遇を与えなければならない。

第七条

1 いずれか一方の締約国の国旗を掲げる船舶で、国籍の証明のため当該締約国の法令により要求される書類を備えているものは、公海並びに他方の締約国の港、場所及び水域において、当該一方の締約国の船舶と認められる。

2 いずれの一方の締約国の商船も、他方の締約国の商船及び第三国の商船と均等の条件で、外国との間における通商及び航海のため開放されている他方の締約国のすべての港、場所及び水域に旅客及び積荷とともに入ることができる。これらの船舶は、当該他方の締約国の港、場所及び水域において、すべての事項に関して、当該他方の締約国及び第三国の同様の船舶に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

3 いずれの一方の締約国の商船も、他方の締約国の領域に又はその領域から船舶で輸送することができるすべての貨物及び人を輸送する権利に関して、当該他方の締約国及び第三国の同様の船舶に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。また、これらの貨物及び人は、(a)すべての種類の関税及び課徴金、(b)税関事務並びに(c)奨励金、関税の払いもどしその他この種の特権に関して、当該他方の締約国の商船で輸送される同様の貨物及び人に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

4 前諸項の規定は、沿岸貿易には適用しない。もっとも、いずれの一方の締約国の商船も、外国で積載した旅客若しくは積荷の全部若しくは一部を陸揚げし、又は外国向けの旅客若しくは積荷の全部若しくは一部を積載する目的をもって、他方の締約国の領域内のいずれかの港から他の港に向かって航海を続けることができる。

5 いずれの一方の締約国も、他方の締約国の船舶に対し、難破、海上損害又は不可抗力による寄航の場合には、同様の場合に自国の船舶に与えると同一の援助、保護及び免除を与えるものとする。それらの船舶から救い上げられた物品は、すべての関税を免除される。ただし、それらの物品が国内消費のため搬入されない場合に限る。

 いずれか一方の締約国の船舶が他方の締約国の沿岸で座礁し、又は難破した場合には、当該他方の締約国の当局は、もよりの地にある船舶所属国の権限のある領事官にそれを通告するものとする。

6 いずれか一方の締約国の権限のある当局が発給した船舶の積量測度に関する証書は、他方の締約国の権限のある当局によって、同当局が発給した証書と同等のものと認められる。

第八条

 この協定のいかなる規定も、いずれか一方の締約国が関税及び貿易に関する一般協定若しくは国際通貨基金協定又はそれらを修正し若しくは補足する多数国間の協定の締約国として有するか、又は有することがある権利及び義務については、両締約国が当該協定の締約国である限り、影響を及ぼすものではない。

第九条

 この協定の規定は、各締約国が次の事項に関する措置を採用し、又は実施することを妨げるものと解してはならない。

(a) 公共の安全若しくは国防又は国際の平和及び安全の維持

(b) 武器、弾薬及び軍需品の取引

(c) 公衆衛生の保護並びに病気、害虫及び寄生物に対する動植物の保護

(d) 金又は銀の貿易

第十条

1 各締約国の政府は、他方の締約国の政府がこの協定の実施から又はそれに関連して生ずる問題に関して行なう申入れに対して好意的考慮を払わなければならず、また、協議のため適当な機会を他方の締約国の政府に与えなければならない。

2 この協定の実施に関する協議は、いかなる場合にも、二年ごとの間隔で行なわなければならない。

第十一条

1 この協定は、批准されなければならない。この協定は、批准書の交換の日に効力を生ずる。批准書の交換は、できる限りすみやかに東京で行なわれるものとする。

2 この協定は、効力発生の日から三年間効力を有し、その後も効力を存続する。ただし、この協定は、いずれか一方の締約国の政府が他方の政府に対しこの協定を終了させる意思を少くとも六箇月の予告をもって書面により通告した場合には、前記の三年の期間の終了の日に又はその後に終了する。

 以上の証拠として、このために正当に委任された両政府の代表者は、この協定に署名した。

千九百六十年五月十日にクアラ・ランプールで、本書二通を作成した。

日本国政府のために

林馨

マラヤ連邦政府のために

M・K・ジョハリ