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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国とヴィエトナム共和国との間の賠償協定

[場所] サイゴン
[年月日] 1959年5月13日
[出典] 外交青書4号,270−274頁.
[備考] 
[全文]

 日本国及びヴィエトナム共和国は、

 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約の規定の趣旨に従つて行動することを希望して、この賠償協定を締結することに決定し、よつて、次のとおりそれぞれの全権委員を任命した。

 日本国

  外務大臣 藤山愛一郎

  ヴィエトナム共和国駐在特命全権大使 久保田貫一郎

  外務省顧問 植村甲午郎

 ヴィエトナム共和国

  外務大臣 ヴ・ヴァン・マオ

  日本国駐在特命全権大使 ブイ・ヴァン・ティン

  外務省総務局長 ファム・ダン・ラム

 これらの全権委員は、互に全権委任状を示してそれが良好妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。

第一条

1 日本国は、現在において百四十億四千万円(一四、〇四〇、〇〇〇、〇〇〇円)に換算される三千九百万アメリカ合衆国ドル(三九、〇〇〇、〇〇〇ドル)に等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、この協定の効力発生の日から五年の期間内に、以下に定める方法により、賠償としてヴィエトナム共和国に供与するものとする。

2 前項に定める生産物及び役務の供与は、最初の三年の期間において現在において三十六億円(三、六〇、〇〇〇、〇〇〇円)に換算される一千万アメリカ合衆国ドル(一〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)に等しい円の年平均額により、次の二年の期間において、現在において十六億二千万円(一、六二〇、〇〇〇、〇〇〇円)に換算される四百五十万アメリカ合衆国ドル(四、五〇〇、〇〇〇ドル)に等しい円の年平均額により行うものとする。

第二条

1 賠償として供与される生産物及び役務は、ヴィエトナム共和国政府が要請し、かつ、両政府が合意するものでなければならない。これらの生産物及び役務は、この協定の附属書に掲げる計画の中から選択される計画に必要な項目からなるものとする。

2 賠償として供与される生産物は、資本財とする。ただし、ヴィエトナム共和国政府の要請があつたときは、両政府間の合意により、資本財以外の生産物を日本国から供与することができる。

3 この協定に基く賠償は、日本国とヴィエトナム共和国との間の通常の貿易が阻害されないように、かつ、外国為替上の追加の負担が日本国に課されないように、実施しなければならない。

第三条

 両政府は、各年度に日本国が供与する生産物及び役務を定める年度実施計画(以下「実施計画」という。)を協議により決定するものとする。

第四条

1 第六条1の使節団は、各年度の実施計画に従つて生産物及び役務の供与が行われるため、ヴィエトナム共和国政府に代つて、日本国民又はその支配する日本国の法人と直接に契約を締結するものとする。

2 すべてのそのような契約(その変更を含む。)は、(a)この協定の規定、(b)両政府がこの協定の実施のため行う取極の規定及び(c)当該時に適用される実施計画に合致するものでなければならない。これらの契約は、前記の基準に合致するものであることを日本国政府により認証されなければならない。この項に定めるところに従つて認証を得た契約は、以下「賠償契約」という。

3 すべての賠償契約は、その契約から又はこれに関連して生ずる紛争が、一方の契約当事者の要請により、両政府間で行われることがある取極に従つて商事仲裁委員会に解決のため付託される旨の規定を含まなければならない。両政府は、正当になされたすべての仲裁判断を最終的なものとし、かつ、執行することができるものとするため必要な措置を執るものとする。

4 1の規定にかかわらず、賠償としての生産物及び役務の供与は、賠償契約なしで行うことができる。ただし、各場合について両政府間の合意によらなければならない。

第五条

1 日本国政府は、第一条の規定に基く賠償義務の履行のため、賠償契約により第六条1の使節団が負う債務並びに前条4の規定による生産物及び役務の供与の費用に充てるための支払を、第九条の規定に基いて定められる手続によつて、行うものとする。その支払は、日本円で行うものとする。

2 日本国は、前項の規定に基く円による支払を行うことにより及びその支払を行つた時に、その支払に係る生産物及び役務をヴィエトナム共和国に供与したものとみなされ、第一条の規定に従い、その円による支払金額に等しいアメリカ合衆国ドルの額まで賠償義務を履行したものとする。

第六条

1 日本国は、ヴィエトナム共和国政府の使節団(以下「使節団」という。)が、この協定の実施(賠償契約の締結及び実施を含む。)を任務とする同政府の唯一かつ専管の機関として日本国内に設置されることに同意する。

2 使節団の日本国における事務所は、東京に設置されるものとする。この事務所は、もつぱら使節団の任務の遂行のためにのみ使用されるものとする。

3 使節団の日本国における事務所の構内及び記録は、不可侵とする。使節団は、暗号を使用することができる。使節団に属し、かつ、直接その任務の遂行のため使用される不動産は、不動産取得税及び固定資産税を免除される。使節団の任務の遂行から生ずることがある使節団の所得は、日本国における課税を免除される。使節団が公用のため輸入する財産は、関税その他輸入について又は輸入に関連して課される課徴金を免除される。

4 ヴィエトナム共和国の国民である使節団の長及びその上級職員二人は、国際法及び国際慣習に基いて一般的に認められる外交上の特権及び免除を与えられる。

5 ヴィエトナム共和国の国民であり、かつ、通常日本国内に居住していない使節団のその他の職員は、自己の職務の遂行について受ける報酬に対する日本国における課税を免除され、かつ、日本国の法令の定めるところにより、自用の財産に対する関税その他輸入について又は輸入に関連して課される課徴金を免除される。

6 賠償契約から若しくはこれに関連して生ずる紛争が仲裁により解決されなかつたとき、又は当該仲裁判断が履行されなかつたときは、その問題は、最後の解決手段として、日本国の管轄裁判所に提起することができる。この場合において、必要とされる訴訟手続上の目的のためにのみ、4に定める使節団の長及び上級職員は、訴え、又は訴えられることができるものとし、そのために使節団における自己の事務所において訴状その他の訴訟書類の送達を受けることができるものとする。ただし、訴訟費用の担保を供する義務を免除される。使節団は、3及び4に定めるところにより不可侵及び免除を与えられてはいるが、前記の場合において管轄裁判所が行つた最終の裁判を、使節団を拘束するものとして受諾するものとする。

7 最終の裁判の執行に当り、使節団に属し、かつ、直接その任務の遂行のため使用される土地及び建物並びにその中にある動産は、いかなる場合にも強制執行を受けることはない。

第七条

1 両政府は、この協定の円滑なかつ効果的な実施のため必要な措置を執るものとする。

2 ヴィエトナム共和国は、日本国が第一条に定める生産物及び役務を供与することができるようにするため、利用することができる現地の労務、資材及び設備を提供するものとする。

3 この協定に基く生産物又は役務の供与に関連してヴィエトナムにおいて必要とされる日本国民は、ヴィエトナムにおける所要の滞在期間中、その作業の遂行のため必要な便宜を与えられるのとする。

4 日本国の国民及び法人は、この協定に基く生産物又は役務の供与から生ずる所得に関し、ヴィエトナムにおる課税を免除される。

5 ヴィエトナム共和国は、この協定に基いて供与された日本国の生産物が、ヴィエトナム共和国の領域から再輸出されないようにすることを約束する。

第八条

 この協定の実施に関する事項について勧告を行う権限を有する両政府間の協議機関として、両政府の代表者で構成される合同委員会を設置する。

第九条

 この協定の実施に関する手続その他の細目は、両政府間で協議により協定するものとする。

第十条

 この協定の解釈及び実施に関する両政府間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする。両政府がこうして解決することができなかつたときは、その紛争は、各政府が任命する各一人の仲裁委員とこうして選定された二人の仲裁委員の合意により定める第三の仲裁委員との三人の仲裁委員からなる仲裁裁判所に決定のため付託するものとする。ただし、第三の仲裁委員は、いずれか一方の国の国民であつてはならない。各政府は、いずれか一方の政府が他方の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から三十日の期間内に各一人の仲裁委員を任命しなければならない。第三の仲裁委員については、その期間の後の三十日の期間内に任命されなければならない。一方の政府が当該期間内に仲裁委員を任命しなかつたとき、又は第三の仲裁委員について当該期間内に合意されなかつたときは、いずれか一方の政府は、それぞれ当該仲裁委員又は第三の仲裁委員を任命することを国際司法裁判所長に要請することができる。両政府は、この条の規定に基いて与えられた決定に服することを約束する。

第十一条

 この協定は、批准されなければならない。この協定は、批准書の交換の日に効力を生ずる。批准書の交換は、東京でできる限りすみやかに行われなければならない。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この協定に署名調印した。

 千九百五十九年五月十三日にサイゴンで、日本語、ヴィエトナム語及びフランス語により本書二通を作成した。解釈に相違があるときは、フランス語の本書による。

日本国のために

藤山愛一郎

久保田貫一郎

植村甲午郎

ヴィエトナム共和国のために

ヴ・ヴァン・マオ

ブイ・ヴァン・ティン

ファム・ダン・ラム