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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米安全保障協議委員会(「2+2」)共同発表(同盟の変革:日米の安全保障及び防衛協力の進展)

[場所] ワシントンDC
[年月日] 2007年5月1日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

ライス国務長官

ゲイツ国防長官

麻生外務大臣

久間防衛大臣

I.概観

 日米安全保障関係は、日本の防衛の基盤であり、アジア太平洋地域の平和及び安全の要である。安全保障協議委員会(SCC)の構成員たる閣僚は、過去2年間の安全保障協議委員会の会合及び発表文において示された展望に従って、二国間の安全保障及び防衛協力が近年進展していることを歓迎した。2006年7月のミサイル発射及び同年10月の核実験を含む北朝鮮による挑発は、常に変化する安全保障環境において同盟が引き続き有効であることを確保するためには、日米同盟の変革が重要であるということを明確に認識させるものである。

 閣僚は、現在の拡大する日米協力が、数年前に始まった同盟の更新及び強化のためのこれまでの努力によって可能となったように、両国が現在同盟に対して行う投資によって、平和及び安全に対する将来の課題に対して、同盟が効果的に対応することが可能となることを認識した。

 さらに、閣僚は、相互協力及び安全保障条約の伝統的な役割の重要性を強調した。同条約は、日本政府に対する米国の安全保障を確かなものとしつつ、同盟関係にとって死活的に重要な在日米軍のプレゼンスを可能としてきた。米国の拡大抑止は、日本の防衛及び地域の安全保障を支えるものである。米国は、あらゆる種類の米国の軍事力(核及び非核の双方の打撃力及び防衛能力を含む。)が、拡大抑止の中核を形成し、日本の防衛に対する米国のコミットメントを裏付けることを再確認した。

 この文脈において、閣僚は、新たに発生している安全保障上の課題に対して、より効果的に対応するために、二国間の情報協力及び情報共有を拡大し深化する必要性を強調した。閣僚は、また、秘密を保護するためのメカニズムを強化することとした。

 安倍晋三総理大臣及びジョージ・W・ブッシュ大統領は、2006年11月18日に会談し、日米二国間の安全保障協力、特に弾道ミサイル防衛(BMD)の分野における協力の検討を求め、2007年4月27日の首脳会談においてその重要性を改めて強調した。閣僚は、本日、共通戦略目標及び同盟の変革の文脈において、この議題に焦点を当てた。

 閣僚は、また、日本の防衛組織の庁から省への移行及び自衛隊の国際平和協力活動の本来任務化を歓迎した。

II.共通戦略目標

 日本及び米国は、国際社会において基本的人権、民主主義、法の支配といった基本的価値を促進することを確約している。2005年2月19日、閣僚は、二国間の協力を進展させるための広範な基礎となる共通戦略目標を特定した。

 本日の会合において、閣僚は、現在の国際安全保障環境を考慮しつつ、これらの共通戦略目標へのコミットメントを再確認した。この文脈において、閣僚は、2007年2月13日、第5回六者会合において採択された「共同声明の実施のための初期段階の措置」を歓迎し、北朝鮮が同文書に記されたコミットメントを速やかに実施するよう促した。

 閣僚は、今般の協議において、両国の利益を進展させる以下の戦略目標を強調した。

・六者会合を通じて朝鮮半島の非核化を達成し、また、その他の分野での進展を展望した2005年9月19日の共同声明を完全に実施する。これには、北朝鮮と米国及び日本との国交正常化、拉致問題といった人道上の問題の解決、北東アジアの恒久的な平和及び安定のための共同の努力に対する六者すべてのコミットメントが含まれる。

・すべての国連加盟国が国連憲章第7章下の決議である国連安保理決議第1718号の規定を遵守する義務を引き続き有していることに留意しつつ、同決議の迅速かつ完全な実施を達成する。

・地域及び世界の安全保障に対する中国の貢献の重要性を認識しつつ、中国に対して、責任ある国際的なステークホルダーとして行動すること、軍事分野における透明性を高めること、及び、表明した政策と行動との間の一貫性を維持することを更に促す。

・アジア太平洋経済協力(APEC)が地域の安定、安全及び繁栄の促進において果たす極めて重要な役割を認識し、APECを卓越した地域経済フォーラムとして強化するための協力を増進する。

・東南アジアにおいて民主的価値、良き統治、法の支配、人権、基本的自由及び統合された市場経済を促進するとの東南アジア諸国連合(ASEAN)の努力を支援し、また、二国間及びASEAN地域フォーラムを通じ、非伝統的及び国境を越える重大な安全保障上の問題についての地域の能力及び協力を構築する。

・共有する民主的価値及び利益に基づき、安全保障及び防衛の分野を含め、地域及び世界において、米国、日本及び豪州の三国間協力を更に強化する。

・インドの継続的な成長が地域の繁栄、自由及び安全に密接に繋がっていることを認識しつつ、共通の利益の分野を進展させ協力を強化するため、インドとのパートナーシップを引き続き強化する。

・アフガニスタンの成功裡の経済復興及び政治的安定を確保する。これは、より広範な地域の安全の確保及びテロリズムの打破のために不可欠である。その目的のため、日米両国は、復興、開発及び安全保障を必要とするアフガニスタンの移行を支援することを確約している。

・自らを統治し、防衛し、持続させる能力を持ち、テロとの闘いの同盟国にとどまる、統一された民主的なイラクの建設に貢献する。

・イランに国際原子力機関(IAEA)の要求を完全に遵守させることを目的とする国連安保理決議第1737号及び第1747号の迅速かつ完全な実施を達成する。両国は、中東におけるイランの行動に関して国際社会が引き続き有する懸念に留意しつつ、イランがテロの問題に関して責任ある姿勢を示すことにより国際社会においてより積極的な役割を果たすべきであるとの見解で一致している。

・北大西洋条約機構(NATO)の平和及び安全への世界的な貢献と日米同盟の共通戦略目標とが一致し、かつ、補完的であることを認識しつつ、より広範な日本とNATOとの協力を達成する。

III.役割・任務・能力

 2005年10月29日、安全保障協議委員会は、自衛隊及び米軍の役割・任務・能力に関するイニシアティブを示した文書「日米同盟:未来のための変革と再編」を承認した。同文書に示された安全保障に関する事項を遂行することは、現在の安全保障環境における多様な課題に対応する同盟の能力にとって不可欠である。

 閣僚は、この同盟の変革に関する構想に沿った役割・任務・能力の進展を確認するとともに、以下を強調した。

・自衛隊による国際平和維持活動、国際緊急援助活動及び周辺事態への対応の本来任務化。これは、国際安全保障環境の改善への日本の貢献の重要性に対する関心の高まりを反映するものである。この文脈において、閣僚は、イラクの復興努力に対する自衛隊の支援及びインド洋で活動する諸外国の軍隊等に対する自衛隊の支援につき議論した。

・変化する安全保障環境を反映し、また、地域の危機において共に行動する自衛隊及び米軍がより良い態勢をとるための、より具体的な計画検討作業の持続的な進展。そのような計画検討作業には広範な機能及び分野において更なる調整が必要とされることから、関係省庁の計画検討作業過程への積極的な参加が引き続き極めて重要である。

・軍事情報包括保護協定(GSOMIA)としても知られる、秘密軍事情報の保護のための秘密保持の措置に関する両政府間の実質的合意。GSOMIAは、情報交換を円滑化し、情報並びに防衛装備計画及び運用情報の共有に資する情報保全のための共通の基礎を確立するものである。

・二国間の化学・生物・放射線・核(CBRN)防護作業部会の設立。これは、大量破壊兵器による攻撃を受けた場合に運用能力の持続を確保するべく、CBRN兵器に対する自衛隊及び米軍部隊の即応態勢及び相互運用性を改善することに関し着実な進展を図るものである。

・危機及びそれ以前における、政策、運用、情報及び広報に係る方針を調整するための、柔軟な二国間の省庁間調整メカニズムの構築。

・相互運用性を強化し同盟の役割・任務・能力を推進させるための、二国間の共同訓練の実施。

 閣僚は、日本及び地域の安全保障にとって米軍のプレゼンスが重要性を増していることを認識しつつ、同盟の変革の成功を確保するための適切な資源が必要であることを強調した。両同盟国は、また、同盟の能力を改善し、かつ、在日米軍のプレゼンスを維持するための資源を確保すべく最善の努力を払う。

IV.再編ロードマップの実施

 閣僚は、2006年5月の安全保障協議委員会文書「再編実施のための日米のロードマップ」に記されている再編案を着実に実施する決意を再確認した。これらの再編案は、実施されれば、安全保障同盟に対する日米両国民一般の支持を強化することになる。

 閣僚は、「ロードマップ」に記されている以下を含む再編案に係るこれまでの進展を確認し、評価した。

・2006年6月の再編案の実施を総括する二国間調整メカニズムの創設。

・再編案の早期実施を円滑化するために必要な法案及び予算に関する日本の国会の審議等。

・普天間飛行場代替施設の専門技術的設計に関する取組及びキャンプ・シュワブ沖での海域調査の開始。

・以下のような第3海兵機動展開部隊の要員及びその家族の2014年までの沖縄からグアムへの移転に向けた重要な協力。

・グアムにおける施設の計画及び開発を統括するグアム統合計画室の米国による設置及び予算措置。

・米海兵隊の沖縄からグアムへの移転に向けた環境影響評価書の準備のための計画通知(Notice of Intent)を含む、米国の環境影響評価手続の開始。

・第3海兵機動展開部隊の要員及びその家族の沖縄からグアムへの移転に関連する日本の資金的コミットメントの一部を実現するために、日本政府の指示の下、適切な措置をとる権限を国際協力銀行(JBIC)に付与する上述の法案の日本の国会への提出。

・2007年3月の航空機の訓練移転の開始。

・横田空域の柔軟な使用に関する措置の2006年9月の実施、並びに、2008年9月までに管制業務を日本に返還する横田空域の範囲及び横田レーダー進入管制業務における自衛隊管制官併置に関する2006年10月の合意。これらの措置は、軍事運用上の所要を満たしつつ、横田空域における民間航空機の航行の円滑化を促進するものである。

・「ロードマップ」に明示されている横田飛行場のあり得べき軍民共同使用の具体的な条件や態様に関するスタディ・グループの2006年10月の立ち上げ。

 閣僚は、「ロードマップ」に従って、目標の2014年までに普天間飛行場代替施設を完成させることが、第3海兵機動展開部隊のグアムへの移転及びそれに続く沖縄に残る施設・区域の統合を含む、沖縄における再編全体の成功裡かつ時宜に適った実施のための鍵であることを再確認した。閣僚は、統合のための詳細な計画に関する重要な進展を認識し、その完成に向けて引き続き緊密に協議するよう事務当局に指示した。

 閣僚は、また、1996年の沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告の合意事項の実施が継続的に進展していることを評価した。これには、2006年9月の瀬名波通信施設の返還並びに2006年12月の楚辺通信施設及び読谷補助飛行場の返還が含まれており、これは合計で300ヘクタール(750エーカー)以上になる。

V.BMD及び運用協力の強化

 同盟のBMD能力は、同盟の全体的な抑止の態勢に貢献するものであり、日米のシステムが効果的に共同運用できる程度に応じて強化される。閣僚は、両国が能力を整備し、配備するに際して、戦術面、運用面及び戦略面での調整を確保するためにあらゆる努力が払われなければならないことを確認した。そうした観点から、日米は、同盟の利益に対する弾道ミサイルの脅威に対処するに当たって、緊密に調整しつつ適切な措置をとる。

 この文脈において、閣僚は、以下の分野の運用協力を強調した。

・運用協力を強化するため、二国間の計画検討作業は、今日及び予見可能な将来におけるミサイル防衛能力を考慮しなければならない。この目的のため、米軍及び自衛隊は、弾道ミサイルの脅威に対するミサイル防衛及び関連作戦の実施に当たっての構想、役割及び任務を相互に明確にする。同時に、政策レベルで、BMDの運用に係る政策指針が明確かつ最新のものとなっていることを確保する。

・2005年10月29日、安全保障協議委員会は、共同統合運用調整所の構築を指示した。2006年6月‐7月の北朝鮮のミサイルによる挑発が行われている間、日米は、自衛隊の連絡官が配された横田飛行場の暫定的な調整施設を通じてのものを含め、適時に情報を交換した。変化する状況につき双方が共通の認識を持つことを確保するに当たって、この施設が収めた成功は、横田飛行場における共同統合運用調整所の設置を通じたものを含め、二国間の政策・運用調整の継続的な向上の重要性を実証した。

・自衛隊及び米軍の状況認識を改善する重要性を認識しつつ、双方は、BMD運用情報及び関連情報を直接相互にリアルタイムで、常時共有することを確約している。双方は、また、二国間の共通の運用画面を構築する。

・双方は、同盟の役割・任務・能力の支援のために共有されるべき、より広範な運用情報及びデータを特定するために、包括的な情報共有ロードマップを策定する。

VI.BMDシステム能力の向上

 閣僚は、ミサイル防衛に関する過去の同盟の決定が、近年の加速化された協力と相まって、地域におけるBMD能力を強化してきたことを評価した。

 閣僚は、以下を含む、重要な進展を強調した。

・米国Xバンド・レーダー・システムの日本の航空自衛隊車力分屯基地への配備及び運用。これは、米国によるレーダー・データの自衛隊への提供を伴う。

・日本の嘉手納飛行場への米国PAC‐3大隊の配備及び運用。

・米太平洋艦隊の前方展開された海軍部隊に対するスタンダード・ミサイル(SM‐3)防衛能力の最近及び今後の継続的な追加。

・日本のイージス艦へのSM‐3能力付与のための改修を促進するとの日本の決定。日本は、護衛艦「こんごう」の改修を2007年末までに完了するほか、護衛艦「ちょうかい」、「みょうこう」及び「きりしま」の改修についても前倒しを図る。

・PAC‐3配備の前倒しを図るとの日本の決定。これにより、最初のPAC‐3高射隊が2007年3月に配備され、16個のPAC‐3高射隊が2010年初頭までに配備されるとの見通しが得られた。

・次世代型SM‐3迎撃ミサイルの日米共同開発についての優先的な取扱い。技術の移転に関する枠組みについて双方が基本的に合意したことにより、この計画及び将来の日米の技術協力計画の進展を促進することになる。

 閣僚は、安全保障及び防衛協力のための同盟の変革を進展させることが、地域及び世界の平和及び安全に貢献することを確認した。