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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 麻生太郎 日本国内閣総理大臣スピーチ(パキスタン・フレンズ閣僚会合及びパキスタン支援国会合に寄せて)

[場所] 2009年4月17日
[年月日] 東京
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

ザルダリ大統領閣下、

各国政府、並びに、国際機関の代表者の皆様、

 今般、ザルダリ大統領をお迎えし、「パキスタン・フレンズ閣僚会合」及び「支援国会合」が、我が国で開催されることは、大きな喜びです。

 ご参加頂いた各国、各機関に対し、心より歓迎を申し上げます。

(テロの脅威と国際的連帯)

 9.11テロから7年半。世界は、依然としてテロの脅威にさらされております。最近でも、イスラマバードやラホール、ムンバイ、カブールで悲劇が続いております。テロは、世界にその脅威を及ぼしており、その撲滅のための努力は、まさに正念場にあると認識しております。

 幸いにして国際社会は、新たな連携の強化を始めています。多くの問題を抱えるアフガニスタンについては、先のハーグでの国際会議を受け、各国の取組が本格化しています。オバマ大統領も、米国のアフガニスタン・パキスタンに対する新政策を発表しました。本日の会合も、この国際的な連帯の動きを更に前進させる好機となると思います。

(パキスタンの役割と努力)

 パキスタンは、このようなテロや過激主義に対する国際的取組の中で、死活的に重要な役割を果たしていると考えています。多大な犠牲を払いつつ、テロという非人道的行為に対峙してこられた、パキスタンの指導者、国民に、心より敬意を表します。ザルダリ大統領は、昨日の私との会談で、国民各層での立場の違いを乗り越え、経済改革とテロ対策にリーダーシップを発揮されることを明言されました。本日、大統領より改めて力強いご発言があると思います。このようなパキスタンの姿勢こそが、困難に直面するパキスタン文民政府を支えるとの国際社会の意志をより強靱なものとするのです。

(パキスタンへの支援)

 パキスタンへの連帯が強まった例として記憶に新しいのは、2005年の大地震の時です。国際的な支援の輪の中で、日本も緊急援助隊や自衛隊の派遣、橋の再建や市街地復興のマスタープランづくりなど、持てる手段を総動員して支援をしたところです。連帯は、具体的な支援をもって示されるべきです。パキスタンは、経済成長の潜在性を有する国ですが、運輸、エネルギー、農業等のインフラストラクチャーの欠如や、国境地域を含む貧困問題、人材育成など、様々な開発問題を抱えています。ご参加の各国、各機関の間に、大きな支援の輪が広がることを強く期待します。日本はパキスタンに対し、今後2年間で最大10億ドルの支援を行うことを決めています。

(アフガニスタン)

 ここで、パキスタンと密接な関係にあるアフガニスタンについても、一言申し上げます。

 短期的には、8月の大統領選挙が、自由、公正、円滑に実施される、それがアフガニスタンの安定に不可欠であり、国際社会の支援が必要だと思っております。日本は、選挙自体への支援に加え、選挙に向けた環境整備をします。治安対策に必要なアフガニスタンの全警察官8万人の給与の半年分の支援を行います。

 また、中長期的には、同国の自立を実現する必要があります。ここでも、国際社会の緊密な連携が求められます。日本は、カブールの国際空港ターミナルの建設、500以上の学校の建設・修復、約1万人の教師の養成など、総額約17.8億ドルにのぼる支援を行ってきました。今後とも、更なる支援を行っていかなければならないと思います。

 パキスタンの安定なくしてアフガニスタンの安定はありません。逆もまたしかりです。特に国境地域の安定が鍵であり、両国自身による包括的な戦略づくりを国際社会が後押しすべきことを強調いたします。

(広域的な視点)

 最後に、パキスタン、更にアフガニスタン支援を語る際、より広域的な視点が重要であることを指摘したいと思います。今日もイランからモッタキ外相に来て頂いておりますが、中央アジア諸国やイランも交えて、広域的視点から発展を目指すアプローチです。

 3年前、私が外務大臣の時に、アラビア海からパキスタン、アフガニスタン、中央アジアに至る物流ルートを整備し、この地域を「平和と安定の回廊」とする構想を提示しました。構想の具体化に向け、引き続き関係国・国際機関と連携を進めます。麻薬対策や難民支援におけるイランの役割も重要です。このような地域的アプローチに対し、多くの賛同が得られつつあることは、心強い限りです。

 本日の会合は、パキスタンと国際社会が新たな連携、新たな連帯を強める重要な機会です。大いなる成果が示されることを期待しつつ、私の挨拶とさせて頂きます。