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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回日印エネルギー対話に係る 日本国経済産業省とインド計画委員会との間の共同声明

[場所] デリー
[年月日] 2007年7月2日
[出典] 経済産業省資源エネルギー庁
[備考] 
[全文]

 日本国経済産業省甘利明大臣とインド計画委員会モンテク・シン・アルワリア副委員長は、デリーにおいて、日印間の定期的な閣僚級エネルギー政策対話である「日印エネルギー対話」の第2回会合を行った。

 「気候変動、エネルギー効率及びエネルギー安全保障」は、インド・シン首相も招待された先月のG8ハイリゲンダム・サミットにおいて、最重要課題の一つとして議論された。このサミットにおいて、安倍日本国総理大臣は、「クール・アース50」の重要性を参加者と共有している。

 今回の第2回日印エネルギー対話は、エネルギー分野の協力を重視する日印双方にとって、極めて重要な意義を有する。

1.双方は、今回の会合において、以下の点につき議論を行い、共通の認識を得た。

(1)人類は、気候変動への対応と持続的な経済発展とを同時に達成するという極めて重要な挑戦に直面しており、本問題に対応する上において、エネルギー効率の向上をはじめとして、エネルギー分野における対策を講じることが極めて重要な役割を占める。

(2)エネルギー安全保障、経済発展、環境保全の好循環を作るための最も効果的かつ効率的な対策は、エネルギーインフラ整備の加速化と、省エネルギー対策の推進である。

(3)日印のエネルギー協力は、両国関係の発展に極めて重要な役割を果たしており、本分野における両国当局間及び企業レベルの更なる協力関係の構築は、互恵的な性格を有する。クリーン・エネルギー、省エネルギー等のエネルギー分野で、専門家の交換派遣や人材育成、インド電力部門への日本企業の参画等による具体的協力プロジェクトを推進することは、双方にとって重要であり、双方は、こうした分野における協力を大幅に促進させるべく、積極的に取り組む。

(4)双方は、「東アジア首脳会議(EAS)」、「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)」や、来年6月に日本での開催が予定される「5ヶ国エネルギー大臣会合」等の多国間の枠組みにおいて、エネルギーの安全保障を確保し、エネルギー効率化を向上させるため、連携を更に強化する。「東アジアにおけるエネルギー安全保障に関するセブ宣言」に則り、双方は、エネルギー効率向上のため、各国別目標及び行動計画を自主的に策定することに合意する。

(5)日本国経済産業省は、省エネルギー、石油備蓄などの分野において、国際エネルギー機関(IEA)とインドが協力していくことを積極的に支持する。

(6)双方は、インドが、家電機器のラベル表示、建築物の省エネルギー基準策定、主要エネルギー多消費産業におけるエネルギー使用の監査・報告制度の確立、各種制度の創設等の一連の政策イニシアティブを通じて、エネルギー効率の向上に積極的に取り組んでいることを認識する。

2.双方は、今回の会合において、1.の共通の認識の具体化を図るため、また、環境とエネルギーの分野における協力関係の構築のため、以下の協力を行うことを決定した。なお、本会合に先立ち、先月28日、29日に本エネルギー対話の下に設置された5つのWGと運営委員会が開催された。それらの結果概要につき、運営委員会の両議長により作成された共同報告書を別添として添付する。

(1)省エネルギー分野における協力

<1>双方は、本エネルギー対話の下に設置された省エネルギーWGを有効に活用することにより、日印の省エネルギー協力の充実を図る。

<2>日本国経済産業省は、インドが、省エネルギー法を2001年に制定し、エネルギー多消費15業種を指定して、エネルギー消費量の報告、診断士の診断を義務付けるとともに、エネルギー消費基準のアプローチを法律上明記し、指定業種におけるエネルギー使用量の削減が義務づけられたことを高く評価する。インドは、これを実施するため、エネルギー管理士の採用・指定、認定エネルギー監査機関によって実施されるエネルギー診断、技術的により経済的な省エネ手法の採用、個別に採用された方策に関する結果報告などの政策手法を用いる。インドはこの政策の実施を加速化させ、経済産業省は、5や6に掲げられた人材育成やその他の手法により、インドのこうした努力を支援する。

<3>双方は、それぞれ、省エネルギーに関する取組みを加速化させ、政策の実効性を高めるため、協同して作業計画を準備する。これらの作業計画は定期的にレビューされる。

<4>日本国経済産業省、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、(財)省エネルギーセンター(省エネセンター・ECCJ)等は、WGの議論に沿った省エネルギー政策を達成するため、双方の決定に則り、電力省省エネルギー総局(BEE)をはじめ様々な関係者と積極的に連携する。

<5>日本国経済産業省は、NEDOを実施主体として、APPプロジェクトを兼ねた形での特定産業分野(鉄鋼、セメント等)での省エネルギー診断を新たに開始するとともに、モデル事業(鉄鋼部門のCDQモデル事業等)の円滑な実施を図る。更には、省エネセンターなどの関連機関・団体を通じ、今後3年間で200人規模の省エネルギー政策・技術に係る研修や、省エネルギー技術に関する専門家派遣やワークショップを実施する。

<6>昨年10月から半年間、省エネルギー専門家をBEEに長期派遣したことに対するインド側の高い評価を踏まえ、日本国経済産業省は、省エネセンターを通じ、BEEに新たな専門家の長期派遣を実施する。

(2)電力、石炭分野での協力

<1>双方は、昨年12月に開催された(財)石炭エネルギーセンター(JCOAL)主催の「インド選炭ワークショップ」、本年3月に日本国経済産業省のイニシアティブによりデリーで開催された「電力タスクフォースのワークショップ」、本エネルギー対話に先立つWGとしてデリーで開催された、クリーン・コール・テクノロジー(CCT)、超々臨界圧石炭火力(UMSCT)、グリッド管理技術など、石炭及び電力に関するセミナーの開催やプレゼンテーションの実施を高く評価する。

<2>双方は、電力、石炭分野での象徴的なプロジェクトとして、NEDOとインド石炭省との間で新たに開始される「選炭モデル事業実施可能性調査(FS)」が、今回の会合において、日印関係者がモデル事業の実現に向けて努力する旨、確認したことを大きな期待を持って歓迎する。

<3>インド側は、NEDOが実施するCCT研修事業において、これまで(01〜06年度)、インド側より34名を受け入れてきたことを高く評価する。日本国経済産業省及びNEDOは、インド側の要望を踏まえて、本年度からCCT研修事業の拡充(インド向け少人数専門研修の設置)を実施する。更に、例えば、地下無線通信、鉱山ガス・火災・浸水予防のための器具の設定・監査システム、地層モニタリング等、インドの炭坑の安全性を高めるための更なる協力の可能性につき、情報交換を図る。

<4>双方は、両国の電力会社による発電・環境分野等に関する交流協定の締結(本年2月)を歓迎する。

<5>双方は、両国の民間企業による高効率石炭火力発電設備(超臨界圧石炭火力)の製造・販売会社の設立を歓迎する。

(3)再生可能エネルギー分野での協力

 双方は、再生可能エネルギー分野での更なる協力の方策を探ることとした。

(4)石油・天然ガス分野での協力

<1>双方は、日本国経済産業省とインド石油天然ガス省との間で署名した共

同声明、及びこれに基づき両国実施機関間において締結された6つの覚書(「第三国での探鉱開発協力」、「メタンハイドレードの共同研究」、「アジア市場のエネルギー研究」、「水素に関する協力と情報交換」、「省エネルギーのための協力」、「石油備蓄協力」)の着実な実施を歓迎する。

<2>双方は、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とONGCVideshとの間で締結された覚書に基づき、今回の会合にあわせ、6月28日にJOGMECとONGCVidesh間の第2回会合がデリーにて開催されるなど、両機関間の協力が着実に進展していることを歓迎する。

<3>双方は、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)と石油・天然ガス省石油計画分析機構(PPAC)との間で行われた「アジア石油市場の安定化に向けた諸方策に関する研究」に関する調査結果を高く評価するとともに、更に、新たなテーマについての調査研究を実施することを確認する。

<4>双方は、両国の実施機関間において締結されたメタンハイドレード分野での協力に関する覚書の締結(本年2月)を歓迎する。

<5>日本国経済産業省は、JOGMECを通じ、石油備蓄の専門家派遣や我が国の備蓄基地の視察受入れなどに関する二国間の備蓄協力を提案する。

<6>双方は、インド石油資源節約研究協会(PCRA)と省エネセンター(ECCJ)との間の省エネルギーに関する覚書の延長を歓迎する。

(5)各エネルギー分野における日印民間企業によるプロジェクトの事業活動

 円滑化に係る支援

 双方は、日印企業によるエネルギー分野におけるプロジェクトの事業活動の円滑化を支援するため、以下の場合において、関係するWGに属する日印関係者間で、中央政府並びに地方政府の関連施策についての情報交換を迅速に実施する。

<1>当該プロジェクトに関与する日印双方の関係機関又は民間組織から情報提供に関する要請があり、かつ、

<2>関係するWGの日印双方の議長が、ともに、両国のエネルギー協力上の当該プロジェクトの重要性を認めた場合

(6)横断的分野での協力

<1>双方は、昨年12月、シン首相の訪日直前に、NEDOとインドエネルギー資源研究所(TERI)との主催によりデリーにおいて開催された第1回エネルギーフォーラムが、本エネルギー対話の創設に大きく貢献したことを高く評価する。また、双方は、両機関が、第2回のエネルギーフォーラムを今冬にデリーにおいて開催することを決定したことを歓迎するとともに、同フォーラムの成功のために、双方の関係省庁が積極的に同フォーラムへの貢献を行うことを確認する。

<2>双方は、今回の会合の実施にあわせ、新たに、IEEJとTERIとの間で、昨今の世界並びに両国を取り巻くエネルギーの諸事情及び諸課題に関し、アカデミックかつ包括的な共同の調査研究の実施に関する合意が行われたことを、大きな期待を持って歓迎するとともに、同調査研究の実施に当たり、かつ、同調査研究の成果の普及に当たり、双方の関係省庁が積極的に貢献を行うことを確認する。

<3>双方は、京都議定書に基づくクリーン開発メカニズム(CDM)事業促進のための両国における民間部門等の役割の重要性を再確認した。

 「日印エネルギー対話」を通じた双方の協力は、上記に限定されず、今後実施のための更なる調整を行う。

経済産業省

甘利明

(経済産業大臣)

計画委員会

モンテク・シン・アルワリア

(計画委員会副委員長)

(別添)

第1回運営委員会に係る共同報告書

 第2回日印エネルギー対話の開催にあたり、日印双方は、6月28日、29日に、電力・発電WG、省エネルギーWG、石炭WG、再生可能エネルギーWG、石油・天然ガスWGを開催し、さらに、それらのWGの結果を踏まえ、29日に第1回運営委員会を開催した。

運営委員会の議長である平工奉文資源エネルギー庁次長と、ビジャイ・ゴーカレ外務省東アジア局長は、以下のとおり、第1回運営委員会に係る共同報告書を作成した。

1.各WGからの結果報告

 第1回運営委員会は、まず以下のとおり各WGからの結果報告を聴取した。

(1)電力・発電WG(6月28日9:30〜12:00、於:電力省)

<1>開催の辞の後、インド側から以下のプレゼンテーションを行った。

(a)NTPC(発電所の効率改善と新たな発電技術の導入)

(b)PGCIL(高圧送電系統の拡充と最新発電技術の採用)

(c)CEA(揚水発電プロジェクトの効率改善)

<2>次に、日本側から以下のプレゼンテーションを行った。

(a)METI(2007年3月9日にニューデリーで開催された「日印電力タスクフォース・ワークショップ」の結果報告)

(b)三菱重工(超々臨界石炭火力発電技術等)

(c)電気事業連合会(送電網の技術革新)

(d)日本機械輸出組合(発電分野における我が国のプラント・エンジニアリングの優位性)

(e)IEEJ(インド/アジアの電力及びエネルギー需給見通し)

<3>その後、4月23日開催の第1回エネルギー対話における計画委員会と経済産業省の共同声明(以下、「第1回エネルギー共同声明」)に沿って、双方の間で議論が行われた。

(2)省エネルギーWG(6月28日15:30〜17:00、於電力省)

<1>第1回エネルギー共同声明に沿って本WGの目的と範囲について議論が行われた。

<2>次に、双方が各々の省エネルギー政策を紹介し、より効果的な省エネルギー政策について意見交換を行った。

<3>その後、双方の関係機関が省エネルギーに関する過去及び現在の双方の協力について報告を行った。日本側は、NEDOがCDQなどインドにおけるプロジェクトについて、ECCJがBEEとの研修や専門家派遣について、IEEJがインドでの省エネルギーの可能性の研究について、それぞれプレゼンテーションを行った。また、インド側からは、BEEがインドでの最終消費者の省エネルギー促進、現在進行中の双方間の協力、将来の協力の可能性のある分野の3つについてプレゼンテーションを行った。

<4>最後に、双方が、今後の省エネルギー協力の在り方について議論を行った。

(3)石炭WG(6月28日9:00〜17:30、於マリオットホテル)

<1>本WGの日本側参加者は、27日にNational Thermal Power Company Limited(NTPC)が操業するDadri石炭火力発電プラント及び発電効率化・環境保全センター(CenPEEP)を視察し、関係者と意見交換会を実施した。

<2>WGでは、第1回エネルギー共同声明に沿って、一日セミナー形式で、日印の石炭協力の今後の方向性について議論を行った。

<3>JCOAL(日印石炭協力の進捗、地下通信技術、インドの石炭に関し日本の選炭技術を適用することの優位性)、NEDO(日本のクリーンコール技術のアジアへの普及に関するNEDOのイニシアティブ)、AIST(石炭利用技術の新展開)、JBIC(インドでの石炭事業におけるJBICの役割)、三菱重工(環境に適応した石炭の利用技術)が各々プレゼンテーションを行った。

<4>次に、CMPDI(クリーンコール技術の導入可能性)、CoalIndia(非コークス用炭の効用)、CEA(クリーンコール技術の技術協力の可能性)が、各々プレゼンテーションを行った。

<5>最後に、双方が本WGの今後の進め方につき意見陳述を行った。

(4)再生可能エネルギーWG(6月28日13:00〜15:00、於再生可能エネルギー省)

<1>WGでは、第1回エネルギー共同声明に沿って、本WGの目的と範囲について、双方から意見表明があった。

<2>次に、日印双方から、双方の再生可能エネルギー政策の現状と課題について、体系的な説明がなされた。

<3>その後、双方の関係機関が再生可能エネルギーに関する過去及び現在の双方の協力について報告を行った。NEDOはバイオマスの協力の可能性について、AISTはバイオディーゼル燃料の標準に関する協力プロジェクトについて、IEEJは過去に実施した研修プログラムの結果について、説明を行った。

<4>双方は、再生可能エネルギー分野での更なる協力の方策を探ることとした。

(5)石油・天然ガスWG(6月29日9:30〜12:00、於メリディアンホテル)

<1>WGでは、第1回エネルギー共同声明に沿って議論が行われた。

<2>まず、28日に行われたONGCVideshとJOGMECとの会合を踏まえ、インド又は第3国における資源開発協力の進め方につき双方から意見表明がなされた。

<3>次に、石油備蓄協力につき、JOGMECから昨年12月に表明した協力のための提案につき再度説明を行い、インド側から当該提案に対する意見表明があった。

<4>さらに、アジア石油市場に関するIEEJとPPACとの共同調査につき、双方からその評価に関する意見表明がなされ、引き続き、双方で石油・ガス分野に関する適切なテーマで共同研究を継続していくことが合意された。

<5>その後、DGHとJOGMECがメタンハイドレートの技術協力の方策について説明を行った。

2.5WG全般に関する共通事業

 第1回運営委員会においては、次に5WG全般に関する共通事業について議論を行った。

(1)第2回エネルギーフォーラムの開催について

 日印双方は、昨年12月に実施された第1回エネルギーフォーラムを高く評価した上で、NEDOとTERIが、今冬にデリーにおいて第2回エネルギーフォーラムの開催を決定したことを歓迎するとともに、日印双方の関係省庁が必要な貢献を行うことを確認した。(本件の説明のため、NEDOとTERIの代表者がオブザーバーとして、運営委員会に参加した。)

(2)IEEJとTERIとの共同調査研究の実施について

 日印双方は、昨今の世界並びに両国を取り巻くエネルギーの諸事情及び諸課題に関し、アカデミックかつ包括的な共同の調査研究を実施し、その成果を両国並びに世界に発信するため、IEEJとTERIとの間で共同調査研究に係る合意が行われたことを歓迎するとともに、同調査研究の実施に当たり、かつ、同調査研究の成果の普及に当たり、双方の関係省庁が積極的に貢献を行うことを確認した。(本件の説明のため、IEEJとTERIの代表者がオブザーバーとして、運営委員会に参加した。)

経済産業省

平工奉文

(資源エネルギー庁次長)

外務省

ビジャイ・ゴーカレ

(東アジア局長)

{<1>は原文ではマル1}