データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] クリシュナ・カルナタカ州首相主催会合における森総理大臣のIT演説「21世紀における日印IT協力に向けて」

[場所] バンガロール(インド)
[年月日] 2000年8月22日
[出典] 外交青書44号,338−339頁.
[備考] 
[全文]

クリシュナ・カルナタカ州首相閣下、デシュパンデ州工業大臣閣下、バハラト・ラーム・インド工業連盟会長、並びにご列席の皆様、

【冒頭挨拶】

 この度は、アジアの偉大な友邦である貴国を訪問するにあたって、国際的な注目を浴び、また我が国企業の進出も著しいバンガロールを最初に訪れ、この目でその躍進振りを見ることができたことを大変嬉しく思います。貴州政府が、国内でもいち早く、IT産業振興に努めてこられた意気込みを先ほど伺ったところですが、この場において、貴国のIT産業の指導者にもお会いできたことを光栄に思います。御承知の通り、ITは、私が議長を務めた九州・沖縄サミットにおいても主要テーマの一つでありました。したがって、サミット直後のタイミングをとらえて、貴国の政府要人やその他関係者と、ITの活用という重要な課題への取り組みについて、意見交換できることを大変楽しみにしておりました。

 ITの活用は、我が国でも重点的に取り組んでいる分野です。これからのインターネットは、コンピューターだけでなく、携帯電話や家電、高度道路交通システム(ITS)による自動車や電車などといった多様なものをつなぎ、新しい情報社会を形成していきます。これらは我が国が得意とする分野であり、これらを使った新しいITの分野で世界への貢献を進めております。また、我が国は、次世代の高速インターネット技術に不可欠な、高速通信技術や光通信技術の分野での貢献も目指しています。

【森政権とIT】

 ITは21世紀の繁栄の鍵です。私は、政権発足当初より、「IT革命の推進」を経済構造改革の柱に掲げ、自らも本部長となって「IT戦略会議」を発足させました。また、世界規模で見ても、ITの普及は急速に我々の社会・産業構造を変化させております。こうした環境変化に対応しつつ、ITがもたらす可能性を全ての人が享受できるようにすることは、人類共通の課題であると考え、九州・沖縄サミットにおいても中心的に議論しました。その結果、すべての人々がITを利用できるように、情報格差(デジタル・ディバイド)を解消し、人材開発を実施し、IT利用のための適切な環境を整備していくべきことを確認しました。こうした議論を「沖縄憲章」として取りまとめ、各国政府や民間部門、国際機関等、すべての関係者による、全世界的な協力を呼び掛けたのです。

 また、この具体的行動として、我が国自身も、今後5年間で150億ドル程度を目途とする包括的協力策を用意し、アジアを重視しつつ、途上国におけるIT発展にリーダーシップを発揮することを表明した次第です。

【日印IT協力構想】

 私は、IT先進国との評価が高い貴国との間で、サミットでの呼びかけに沿った緊密な対話と協力を進めることに大きな可能性を見いだしています。貴国には、世界をリードする高度なソフトウェア技術力と、豊富で卓越した人材があります。我が国には、世界でも有数の大きな市場と、高度な製造技術能力があり、両国には極めて強力な補完関係があります。私は、両国がこの分野で協調していくことの意義がここにあると考えますし、また、21世紀の世界経済を大きく切り開く契機になると確信するのです。

 しかしながら、その潜在的な可能性に比して、現在の日印間の協力は、まだ十分ではないと認識しております。そこで、「日印IT協力推進計画」として、我が国が検討している次のような構想を皆様に披瀝すると共に、ヴァジパイ首相にもこれを提案したいと考えております。

(1)一つの柱は、IT部門の発展の鍵となる、経済交流の拡大のための取組みです。我が国政府は10月末に、経団連会長と、日印経済委員会会長が率いる大型の経済使節団を、貴国に派遣します。また来年1月にも、中小企業を中心とするミッションが、IT企業の視察を目的としてジェトロから派遣されます。これらミッションは、バンガロールも訪問しますが、貴国のIT企業関係者との活発な交流の起爆剤となることを期待しています。更に、民間交流の象徴的な例として、明後日にはデリーで、両国のソフトウェア振興団体が、相互協力に関する覚え書きに調印すると聞いております。また10月には東京で「インド・ITシンポジウム」が開催される予定であり、政府としては、こうした民間の交流を、今後とも奨励していく方針です。

(2)二つ目の柱として、我が国政府としても、新たな日印IT協力の時代を切り開くための、人材交流を促進していきます。具体的には、我が国の商慣行や日本語に関するインド人向け研修プログラムを、向こう3年間に1000人規模で実施するとともに、貴国のIT企業関係者に対する数次査証の発給を、より一層拡大する方針をとっていくこととしています。こうした機会を生かして、両国民間部門の交流が活発化すると共に、IT分野における新たな可能性が発掘され、更なる発展へのステップが築かれていくことを期待します。

(3)そして三つ目の柱として、こうした民間の経済交流や人材交流を、更に強固なものとするためには、交流のための環境整備のみならず、政府間の交流を促進し、ITに関する対話を深めていくことも重要です。我が国の通産大臣が5月に訪印した際、IT分野における電子政府、電子商取引などの政策課題を両国で議論することとした結果、本年10月にも次官級協議を開始する予定です。また、両国のIT協力を象徴的に打ち出すものとして、貴国のIT担当大臣や、IT政策を推進する州政府要人、及び民間IT代表を我が国にお招きし、「日印ITサミット」を開催したいと考えております。

 更に、両国国民の知見を結集し、これを共有していくため、我が国の「IT戦略会議」と、貴国のIT諮問委員会との交流や意見交換を実施していくことは、極めて有益であると考えます。

【結語】

 我が国と貴国の有する卓越した人材と技術力が結びつけば、デジタル・ディバイドの解消を含む、国際的な問題の解決にも貢献していけるに違いありません。このイニシアティブに、貴国官民よりの暖かい賛同と、力強い協力が得られることを期待して、私のスピーチを締めくくりたいと思います。

 ご静聴ありがとうございました。