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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 岸信介首相とネール印首相共同声明

[場所] 
[年月日] 1957年10月13日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),823−825頁.外務省文書.
[備考] 
[全文]

日本、インド両国総理大臣共同コミュニケ

一、岸日本総理大臣の招請に応じ、ジャワハルラル・ネルー・インド総理大臣は、一九五七年十月四日より十三日までの間、日本国を訪問した。ネルー総理大臣は天皇陛下に謁見し、また岸総理大臣と数回にわたり会談した。ネルー総理大臣はまた藤山外務大臣とも同様会談を行つた。

二、両国総理大臣は、本年五月ニューデリーにおいて行つた友好的な話し合いを続けることを喜びとした。これらの会談は、日印両国に特に関係のある事項のみならず、広く国際問題、なかんづくアジアの諸問題にわたつたが、多くの点において意見の一致を見た。前回と同じく、今回の会談も隔意のない友好的な雰囲気の裡に、また、相互の見解に対する友好的理解をもつて行われ、これは両国間の関係を特徴づけるものである。

 両国総理大臣は、日印間には困難な問題は存在しないことを認め、両国の相互利益のためのみならず、アジア及び世界の平和と繁栄にも寄与すべき両国間の理解と協力とをさらに増大したいとの希望を再確認した。

三、最近日本国が国際連合安全保障理事会の非常任理事国に当選したことにつき、岸総理大臣はこれにより日本国が新{前1文字ママとルビ}な重い責任を負うことになつたと述べ、日本国が非常任理事国としての資格において絶えず世界平和及び国際連合憲章の原則と目的の実現のため努力する決意を表明した。ネルー総理大臣は、これに満足の意を表するとともに祝意を表明した。

四、両国総理大臣は、核兵器及び軍縮問題を討議した。両国総理大臣は、兵器の貯蔵、とくに大国による大量破壊兵器の貯蔵は、世界平和に重大な危険を招くものと確信している。最近の大気圏外ミサイルの発明は、性質及び程度がいまだ測り知られない危険を包蔵している。包括的且つ全般的軍縮が緊要不可欠であり、世界の人人が恐怖からの自由の中に生活し、現代の科学及び技術が与える豊かな生活を楽しもうとするならば、核兵器その他の大量破壊兵器の生産及び使用の禁止は緊急且つ絶対的必要事である。両国総理大臣は、主として大国間の理解及び相互信頼の欠如のため軍縮に関する包括的協定を妨げている種々の困難を承知している。国際連合全体、特に大国は、この目的のため努力を継続し、さらに倍加する責務がある。

 両国総理大臣は、過去二、三年間に、核実験の回数が非常に増加したが、核実験の停止は、核兵器の生産及び使用の禁止ならびにその他の分野における軍縮を可能ならしめる条件を生み出す第一段階となるものと考える。

 両国総理大臣は、これに関連して、核兵器の実験停止および軍縮の実現について合意に到達するよう関係国に訴えた一九五五年四月のバンドンにおけるアジア・アフリカ会議の全会一致の声明を想起する。両国総理大臣は、関係国間の核実験の停止および軍縮に関する協定を実現させるため協力するようそれぞれの国連代表部に訓令することを決定した。

五、両国総理大臣は、過去数世紀にわたり無視されていたアジア諸国の経済開発は、アジアのみならず全世界の平和と安定のために必要不可欠のものであると考える。両国総理大臣は、日印間の通商貿易のみならず経済協力増進の方法について討議した。

 両国総理大臣は、現在日印両国間において交渉中の通商協定ができる限り速かに締結されること、及びその他の懸案の解決が促進されることを希望する旨表明した。また、両国総理大臣は、日印両国間の経済協力促進に関し、たとえばインドより日本への鉄鉱石の安定した供給についての長期的取極め、インドの日本からの資本財輸入に対する金融等更に多くの分野があることを認めるとともに、これらについて両国政府の専門家レベルで協議させることに同意した。日本国総理大臣は、インドにおける中小工業の発展に寄与する目的をもつて、インドに技術研修センターを設置することについて日本国が援助することを申し出でた。インド総理大臣は、右申し出でを歓迎し、提案の詳細について、できるだけ速かに両国政府間において協議することに意見の一致をみた。

六、岸総理大臣は、インドの第二次五カ年計画が首尾よく遂行される事を衷心より希望する旨を表明した。この五カ年計画の遂行に関連して、両国総理大臣は、日本からの資本財の供給を金融する円クレディットにより、日本がインドに協力することについて、原則的に意見の一致をみた。

七、両国総理大臣は、最近日印間に締結された文化協定に基いて、両国間の文化関係を促進し、更に強化するため、あらゆる可能な手段をとる決意を表明した。両国総理大臣は、特に、教授および学生の交換、科学者、芸術家、その他それぞれの国の著名文化人の相互訪問の奨励、ならびに映画フィルムの交換の可能性について協議した。

 岸総理大臣は、インド総理大臣に対し、経済関発及び文化の理解に参考書として役立つような科学及び技術、経済及び文化問題に関する多数の書籍、その他の出版物を寄贈したい旨を申し出でた。ネルー総理大臣は喜んでこの贈物を受ける旨を申し述べた。

八、インド総理大臣は、日本で受けた熱誠な歓迎に対し、衷心から深甚な感謝の意を表明した。両国総理大臣は、先般の岸総理大臣のデリー訪問に引き続く今回の訪問及びすでに確立された個人的接触及び今般行われた有益なる意見の交換が、日印両国間の協力並びに理解の増進に大いに寄与するであろうことを確信している。