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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] テロリズムとの闘いにおける協力の分野における日本国及びロシア連邦の間の行動プログラム

[場所] 
[年月日] 2005年11月21日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

〔一般的な原則〕

1. 日本国及びロシア連邦(以下「双方」という。)は、現代のテロリズムが国際の平和と安全に対する増大する脅威であり、ひいてはすべての国と人類全体に対する挑戦であることを認識する。

2. 双方は、実行の時期、実行者又はその動機に関わりなく、すべての形態のテロリズムを強く非難し、べスランにおける児童の人質の殺戮及びバリ島における連続爆破事件を始めとするテロリズムの犠牲者に対し深甚なる同情と哀悼の意を表明し、テロリズムの予防と防止及びテロ行為による被害の緩和のための国際協力を強化するとの双方のコミットメントを再確認する。

3. 双方は、国際連合が不可欠な調整者としての役割を果たし、国際法の確固たる基礎の上に、テロリズムという地球規模の問題に対処するための国際協力が更に強化されることの必要性を強調する。

4. 双方は、すべての国が共同の努力を通じ、テロに関連する国際条約及び議定書の下で自国が負う義務に従い、テロ行為に支援や援助を提供した者やテロ行為に対する資金供与、計画、準備又は実行に参加(未遂を含む)した者に対して、「引渡しか訴追か」の原則に基づき、法による訴追のために効果的な措置をとることの重要性を再確認する。

5. 双方は、テロリズムとの闘いのための措置が国際法上のすべての義務と整合的なものであり、かつ、国際法、特に人権、難民及び人道に関する国際法に従って実施されることを確保することの重要性を想起するとともに、テロ行為は人権の享受を著しく害し、すべての国家の社会的及び経済的発展を脅かし、世界の安定及び繁栄を損なうことを考慮する。

6. 双方は、テロリズムを特定の宗教、国籍、人種又は文化と結びつけようとするいかなる試みも拒否し、文化間及び文明間の対話を強化し、相互理解を促進する必要性を強調する。

7. 双方は、経済活動及びそのための施設をテロ行為から保護すること、並びに安全で容易な人及びモノの移動を確保することの重要性を強調する。

8. 双方は、2000年9月5日に署名された「国際問題における日本国とロシア連邦の協力に関する共同声明」、2002年2月2日に署名された「国際テロリズムとの闘いに関する日本国外務大臣とロシア連邦外務大臣の共同声明」及び2003年1月10日に採択された「日露行動計画」に基づくテロリズムとの闘いのための二国間協力を更に発展させる意図を有する。

9. 双方は、二国間の定期的なテロ協議が開始され効果的な機能を果たしており、また、両国の海上警備当局を含む法執行機関及び情報機関の間の直接の交流が確立される等、テロとの闘いにおける二国間の協力が近年促進されていることに満足の意を表明し、このような協力が双方の関係機関の間で極東において然るべく強化されていることに意を強くする。

10. 双方は、国際連合、G8、APEC等におけるテロリズムとの闘いのための措置の強化を通じ、地球的及び地域的規模における協力が実質的に進展していることを認識するとともに、ロシア連邦のイニシアティブにより交渉が開始された核テロの危険を軽減するための「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約」の採択を特に歓迎する。

〔具体的な行動〕

 双方は、テロリズムとの闘いにおける両国間の協力を二国間で並びに地域的及び地球的規模で更に強化することを決意し、次のことを行う。

1.地球的規模

(1) すべての国家に対し、テロ防止に関連する12の国際条約及び議定書を早急に締結しかつ実施するよう要請し、また、国際連合安全保障理事会決議第1373号を始めとして、同決議第1267号、第1566号及び第1624号を含む関連の国際連合安全保障理事会決議の諸条項を効果的に履行するよう要請する。

(2) 国際連合及び国際連合安全保障理事会の枠組みにおけるテロリズムとの闘いのための協力を強化する。国際連合テロ対策委員会(CTC)及びテロリズムとの闘いに関わっている国際連合の他の諸機関の活動を最大限支援する。

(3) 「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約」の成功裡の採択により生まれた国連における新たなモメンタムを利用して、国際テロリズムに関する包括的条約の作成交渉を早期に完了し、同条約を採択することを支持するとともに、他国が同様に支持するよう要請する。

(4) テロ防止に関連する12の国際条約及び議定書に加え、「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約」が早期に発効することを支持する。

(5) 国際連合安全保障理事会決議第1540号を完全に実施するとともに、「拡散に対する安全保障構想(PSI)」を促進するための協力を強化することにより、大量破壊兵器及びその運搬手段並びにそれらの関連物資及び技術がテロリストの手に渡ることを防止する。

(6) テロ対策に関して、ロシアが議長国である期間及びそれ以降を通じて、G8における協力を引き続き強化し及び拡大する。

(7) テロ対策行動グループ(CTAG)の現地会合を含むテロ対策行動グループを通じ、関係する第三国に対するテロ対処能力向上のための支援における連携を強化する。

(8) インターネット等を通じたテロリズムの扇動の問題への対処について、G8において研究を行う。

(9) 航空保安、港湾保安及び海上保安の分野において、国際民間航空機関(ICAO)及び国際海事機関(IMO)によって設定された国際標準を完全に遵守する。

2.地域的規模

(1) 地域機関及びフォーラム、特にアジア太平洋経済協力(APEC)の枠組みにおけるテロ対策に関係する活動を強化する。「APEC地域における安全な貿易の拡大(STAR)イニシアティブ」を支持し、「事前旅客情報(API)」の提供を含め、「パスファインダー・イニシアティブ」の進展に向けて協力する。

(2) これまでのアセアン地域フォーラム(ARF)閣僚会合で採択されたテロ対策に関連する諸声明を踏まえ、ARFにおけるテロリズムとの闘いのための協力を強化するため努力する。

(3) 東南アジア、中央アジア及びコーカサス地域の国々を始めとする関連する第三国に対するテロ対処能力向上のための支援をそれぞれが適切に実施するため、情報交換を行い、調整を強化する。

3.二国間

(1) 2002年から開催されている日露テロ協議の成果を踏まえ、引き続き、同協議の枠組みにおいて、国際テロリズムの脅威に関する意見及び情報の交換を行う。

(2) 法執行機関及び他の関連機関の間の効果的な情報交換及び実務レベルの交流の一層の促進を図る。

(3) 両国に対するあらゆるテロ行為を防止するために協力する。

(4) テロ行為への資金供与の特定、予防及び阻止に関し、関連する金融当局間の協力、並びに関連する地域機関及び国際機関における協力を含む、両国間の協力を推進する。

(5) テロ行為の性格を有する犯罪に関する刑事共助及びテロ行為の性格を有する犯罪を行った者の引渡しにおける協力を強化する。

(6) テロ行為の準備及び実行に関わった者が国境を越えて移動することを阻止するために、出入国管理当局間の交流を拡大する可能性を検討する。

(7) テロ組織と国際組織犯罪の一体化の問題に関する情報交換を行う。

(8) 航空、海上、地上輸送機関のテロリズムからの安全確保における協力、航空保安専門家間の情報交換を通じた経験の共有及び協力ニーズの特定、交通保安の確保のための先端科学技術の研究、交通保安に関する専門家の育成における協力並びに交通インフラ施設をテロ攻撃から防御するための情報交換を実施する。

(9) テロリズムに有効に対処するために有用な科学技術に関する情報交換を行う。

(10) サイバーテロとの闘いにおいて協力する。

日本国総理大臣

ロシア連邦大統領

東京 2005年11月21日