データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日露共同記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2005年11月21日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理】 本日、日露修好150周年の大きな節目にプーチン大統領が日本を訪問されたことを、心から歓迎しております。日露関係は、一昨年採択いたしました日露行動計画に基づいて、幅広い分野で順調に発展しております。この行動計画に基づく協力の拡大のために、今回ただいま12本の文書を作成し署名いたしました。

 来年は、サンクト・ペテルブルグで、G8サミットが開催されます。私も参加いたしますが、これに加えてフラトコフ首相の日本訪問を始めさまざまなレベルの政府間の協議を活発化していこうということで合意いたしました。

 日本とロシアを巡る環境は、大きく変化しております。戦略的協力関係を確立する必要があります。このために、政府間で今後日本側の外務大臣、そしてロシア側安全保障会議書記官の戦略的対話の開始に合意いたしました。

 平和条約については、率直に、かつ真剣に議論を行いました。私は北方四島の帰属の問題を解決して、日露間に平和条約を締結するという重要な問題、可能な限り早期に締結するという方針に従いまして、真剣な話し合いを続けることが我々指導者の責務だと確認することができました。

 私と、プーチンロシア大統領は、これまでもさまざまな合意及び文書に基づいて、真剣に解決を目指す政治的意思を確認し、両国がともに受け入れられる解決を模索する努力をしようということで一致いたしました。この日露間の貿易経済関係の拡大をともに歓迎しておりますし、ロシアのWTO関連に関する2国間交渉妥結も歓迎しております。今後、さまざまな分野、貿易、投資環境の改善が重要であります。

 また、太平洋パイプライン等エネルギー協力は、お互いの利益になる。また、戦略的な意義を持っている。そして、パイプライン早期実現のための協力については、できるだけ早期に合意しようということでも一致いたしました。

 今後、日本とロシア間の人の交流も今、増えておりますけれども、3年間で3倍増やそうと、約四十万人を目指すことでも一致いたしました。その一環で、日露間で青年の交流事業を拡大、強化することでも一致いたしました。

 また、来年は日本でのロシア文化フェスティバル開催を行う予定になっておりますが、これを歓迎し、成功させたいと思っております。

 戦後60年が経過いたしました。ロシアのプーチン大統領に対しまして、高齢化が進んでおりますシベリア抑留者の方々の心情に十分配慮していただき、今後ロシア側の協力の一層の強化を期待している。また、協力してほしいということを強く申し上げ、プーチン大統領もその方向でロシア側も努力することで一致いたしました。

 率直かつ真剣な、実り多い会談だと思っています。今までソ連時代も含めて、ロシアになって、来年はG8サミットの議長国にロシアはなります。お互い自由と民主主義、そして市場経済、共通した価値観を共有するようになりました。また、現在北方領土を巡る問題につきましては、意見の相違もあり、隔りもありますけれども、こういう溝を乗り越えて、これから日露関係が発展していく中で容易ではありませんけれども、この大事な問題を解決していこうと、その方策を見出そうということでも一致することができました。今までにない日本とロシア間の関係は発展しております。この協力関係を更に強化して、お互いの意見の相違を埋める努力を我々はしていきたいと思っております。

 今夜は、この後、プーチン大統領を総理公邸にお招きし、和室で和食を食べながら、残された課題を含めて懇談をしていきたいと思っております。改めてプーチン大統領の日本訪問、そして多くの閣僚始め政府関係者もお見えでございますが、この日本訪問を心から歓迎いたします。

【プーチン大統領】 尊敬する総理大臣、尊敬する淑女紳士の皆様、今回の東京の訪問は総理大臣が指摘されましたように、両国にとって特別な意義を有する節目の年に行われています。150年前、ロシアと日本との間に国交が樹立しましたし、当然のことですけれども、この出来事は今回の訪問の雰囲気をつくりました。

 ここで強調させていただきたいのは、行われた交渉が内容の充実したもので、建設的なものであったことであります。その結果は、大きな文書のパッケージであり、そのパッケージの署名式は皆様が参加されました。

 私たちは、総理大臣とともに2003年に採択した露日行動計画に基づいて、幅広い2国間の事項を話し合いました。当然のことですけれども、私たちは平和条約問題に大きな注目を払いました。ここで指摘しておきたいのは、ロシアも日本もパートナーシップ、互いへの敬意及び相互信頼に基づいて、その問題の解決を探求していかなければいけないということで一致していることでございます。それと同時に問題は複雑ですけれども、その解決は簡単にならないことを認識しております。それは共通の善意、先見の明、国家思考を必要とします。私たちは、お互いに立場を説明しあったことが重要であると考えておりますので、今後ともこのセンシティブな問題に関する対話を継続する意向が双方から表明されました。

 あらゆる分野における露日関係の発展は、両国のためになります。

 まず、政治対話の拡大です。私は、総理大臣のモスクワを公式訪問するよう招待しましたし、今日、来年のロシアの首相の訪日の招待状を総理大臣からいただきました。私たちは、防衛庁長官、海上保安庁長官のロシア訪問を待っております。そして、両国の立法府の議長の訪問を再開することを考えております。

 そのほかに、経済、科学技術、そして人的分野における交流の拡大のガイドラインが決まりました。貿易投資のパートナーシップが重要な分野の1つであります。同パートナーシップは最近著しく活発化しております。2004年には、露日貿易高は75億ドルに達しました。今年は、100億ドルに達します。

 日本の企業活動は、ロシアの市場でも活発になりましたし、御存じのように2005年にレニングラード州においては、トヨタ自動車の工場の建設が始まりました。今後とも、私たちはトヨタ自動車のロシアにおける事業成功を含め日本のビジネスがロシアの市場で活躍するため協力するつもりであります。

 サハリン・プロジェクトのほかに、新しい燃料エネルギープロジェクトへの日本企業の参加問題が検討されております。両大臣は今日、エネルギー分野において、一連の分野における対話の拡大と協力の発展に向けた重要な第一歩となる合意に署名したばかりです。

 私たちは国際問題も話し合いましたし、テロとの闘いにおける協力を活発化することで合意し、文書に署名しました。そして、戦略的な安定の強化、地域紛争の予防、和平、アジア太平洋地域における統合のプロセスの支援は、露日協力の重要な分野であります。

 日本側は、来年ロシアで行われるG8サミットの議長の活動に支援を与える意向を示しました。極めて建設的になることを確信しております。

 最後に、総理大臣に対して、露日協力に対する関心のある態度、そして我々の協力の様々な分野における具体的な提案をいただいたことに感謝いたします。私たちの会談は善意、そして非常に信頼のある雰囲気の中で行われました。そのお陰で、私たちは複雑な問題、センシティブな問題を含むあらゆる問題を話し合うことができました。交渉が示しましたように、ロシアと日本は隣国でありますので、お互いの関係のプラクティカルな利益と戦略的な重要性を完全に認識していますし、長期的なパートナーシップの関係を着実に構築する意向を持っております。

 御清聴、ありがとうございました。

【質問】 まず、小泉総理に1問お伺いしたいんですけれども、今の冒頭の御発言をお伺いしていると、懸案の北方領土問題については、平行線の印象を受けるんですけれども、今後その懸案解決に向けて何らかの手掛りはつかめたのでしょうか。

 それから、関連しまして、北方領土の共同開発につきまして、日露双方から何らかの提案はなされたのでしょうか。

【小泉総理】 北方領土の帰属問題を解決して、平和条約を締結しようという認識は共通しておりますが、これの立場というものには、率直に言ってまだ相当開きがあります。しかしながら、日露関係は、いまだかつてない良好な関係を持っていると。また、さまざまな分野で交流が拡大している。この良好な関係が将来の平和条約締結に向けて資するように、お互い協力しようということで、率直かつ真剣に話し合いました。

 今後、どのような進展があるかと、またどのような共同の具体的な事業をしていくかということについては、今の段階で申し上げることはいたしませんが、今後、両国間、外務大臣を始め、さまざまなレベルで話し合いを続け、協議を続けて、お互いの意見の違い、溝を埋める努力をしていこうということであります。

【質問】 それでは、大統領、四島の問題だけではなくて、協力について話し合われたことですが、その関連で日本へのエネルギー資源の供給などの分野における日露協力の見通しについて、もう少し詳しく説明していただけますか。また、他の分野における協力について、どのようなプロジェクトが一番有望とお考えですか。

【プーチン大統領】 私たちは、経済分野における露日関係の発展について多く話しました。ご承知のとおり今日行われた日露経済フォーラムの場でもその話が行われました。

 エネルギー資源につきましては、既に日本の市場に供給されています。黒海沿岸の鉱区から地中海を通じたものを含め、さまざまなロシアの地域から供給されています。

 それは長いルートでり、大変経費がかかります。

 サハリン1、サハリン2のプロジェクトの下でのサハリンからのエネルギーの供給も始まりました。もちろん、私たちは、その供給が増えると考えています。サハリン2につきましては、日本への液化ガスの供給が始まる予定ですけれども、この産出量の3分の1が供給されることになります。すべての算出ガスが既に契約済みです。

 もちろんこれが全部ではありません。日本のパートナーは、今、ロシアの石炭産業の開発への参加の可能性を検討していますし、特にビジネス界との会談で言及のあったヤクーチアにおける最大規模の炭田の一つの開発の可能性を検討しています。

 しかし、我々の作業は、エネルギー資源の供給と開発にとどまるわけにはいきません。電気エネルギー、原子力や他の直接エネルギーと関連のない将来性のある分野における協力も我々の利益となるものです。その中には含まれるのがハイテク分野、特に通信分野です。今日の1つの文書は通信に関するものですけれども、この分野における関係の発展に不可欠な基盤を整えるための文書です。そして、宇宙共同開発は既にプログラムが実施中ですし、私たちの課題は達成された合意を更に近い将来にも中期的にも続けていくことです。

 それは、全部近い将来の可能な協力の成果です。繰り返しますが、実際のメカニズムが動き始めましたし、今後新しい質的段階に進めるためにこれらの行動の方向をとにかく支持することが必要と考えています。これはすべて可能ですし、これらの成果を達成できると思います。

【小泉総理】 当然太平洋パイプラインの話も協議いたしました。サハリンプロジェクトは一つの成功例ですが、それだけにとどまらないと。将来のエネルギー戦略を考えても、日本とロシアの協力関係は極めて重要であります。

 そういう観点から、この太平洋パイプライン、これは日本の利益だけではない、ロシアにとっても利益になるよう、お互い専門家を含めて、これからどのような協力ができるか真剣に協議していこうということであります。

【プーチン大統領】 総理大臣がおっしゃったことに全面的に同調しております。

【質問】 プーチン大統領にお伺いします。

 大統領は、9月27日のテレビ会見で北方四島に対して、ロシアの主権は第二次世界大戦の結果であり、国際法によって確定された、この部分は日本側と交渉する意思はない、という趣旨のことを述べられました。

 今回の小泉総理との会談を通じて、その立場に変化はあったのでしょうか、ないのでしょうか。

 また、いわゆる93年の東京宣言について、今でも有効とお考えでしょうか。よろしくお願いいたします。

【プーチン大統領】 先日行われた釜山での会合では、総理大臣は正確に世界全体及びアジア太平洋地域における国家間の関係の流れをうまくまとめられました。特に日本との関係について正しい評価をされたと思っております。総理が述べられたことは総理が一番よくご存知と思うので。

 私は、総理大臣がおっしゃったことを最も一般的なかたちで復元してみますけれども、「過去の遺産である問題があるものの、私たちがその問題を乗り越えることができると考えています、隣国との関係は全体として正常なものでありますが、一連の問題が深刻な問題にならないために若干時間がかかる。」とおっしゃいました。この問題提起に全く同調しておりますし、一つ小さな注をつけさせていただくとすれば、ロシアと日本との関係にも同じようなアプローチが適用されることを期待したいと思います。

 そして、先ほどの御質問ですけれども、生放送の対話のときに答えた質問ですけれども、とても注意深くその番組を見ていただき、分析し、視聴者に情報を流そうとされたことに感謝いたします。しかし、若干注目が外れたかもしれません。私の答えの2つ目の部分を外しています。これをあなたが意識的に行ったとは思いませんが。もしあなたがもっと注意深ければ、最初の部分だけでなく、第二の部分も取り上げていたでしょう。まず、第二次世界大戦の結果、そして国際法によって確認されたことについて申し上げましたし、それは事実であります。本当にそうではないのでしょうか。これらの文書を取り上げて読んでみれば、そのとおりです。しかしもしあなたが私が最後に述べたことを読んでいたならば、もう一度引用します。「双方に善意さえあれば、そしてロシアにはその善意がありますが、双方にとって受け入れ可能で、その四島に住んでいる国民、そしてロシアと日本の国益に合致するものになるための解決策を見出すことができることを私は確信しています。」

 私たちは、今回の交渉を通じて総理大臣とともに確認しましたように、ロシアにも日本にもそのような願望があるわけでございます。

【質問】 両首脳に対する質問ですけれども、領土問題について長く話し合われたそうですけれども、日露間で平和条約がないことが、実際に経済協力関係の発展を妨げているかどうか、どうお考えでしょうか。それとも、総理大臣が、先ほどのロシアのマスコミとのインタビューの中では経済協力に日本が関心を持っていらっしゃるとおっしゃいましたけれども、どういう立場に基づいておっしゃったのか、お教えいただきたいと思います。

【小泉総理】 確かに日露間においては、領土問題に関して意見の隔りはあります。しかし、今後、その意見の隔り、溝をどうやって埋めて平和条約を締結していくか。これを真剣に協議しようということで、本日の会談でも一致しておりますし、現に日本とロシアの経済関係も含めて、さまざまな分野での交流は、今までかつてないほど順調に進展しております。

 この良好な経済協力を更に強化して、お互いの信頼関係を深めて、将来の平和条約締結に向けて努力したいと。

 現に多くの日本の企業もロシア間の経済交流に意欲を示しておりますし、実際に貿易額におきましても、今年は100億ドルを超えるという見通しも出ております。

 こういうことから、私は、今、ソ連からロシアになって共通の価値観を持っている両国として、これから協力できる様々な分野を広げていく、そういう中で、今、申し上げました意見の相違、将来の平和条約締結に向けての環境を醸成していきたいと思っております。

【プーチン大統領】 平和条約がないことが露日間の経済協力を妨げているかどうか。妨げていると考えます。いずれにせよ、役立っていません。ビジネス関係者を牽制しているかもしれません。しかし、私は総理大臣とともにこの問題を解決するために全力を尽くすことを確認しました。まさにこのために、私は日本を訪問いたしましたし、まさにこのために来年総理にロシアを訪問していただくよう招待しました。私は総理が招待をうけとってくれたことに感謝します。その方向で、我々の前にすべての問題を解決するために努力するとの決意に満ちています。それは可能であると確信しております。