データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 対露支援外相と蔵相の合同会議議長声明,付属書(ロシアに供与される支援)

[場所] ホワイトハウス
[年月日] 1993年4月15日
[出典] 外交青書37号,179−182頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1. IMFによるマクロ経済安定化支援

 マクロ経済安定化へ向けた進展、特に通貨と信用の拡張をコントロールの下に置くことによりロシアの高いインフレ率を低減することは、ロシアの経済改革の成功にとって最も重要である。

 我々は、IMFがこの分野においてより積極的な役割を果たすことを奨励するとともに、IMFが安定化に向けての進展に対し具体的な支援を提供する用意があるべきことに合意する。

(1)我々は、移行期にある国々を支援し得るものであって、30億ドルを上限とし二つのトランシュに分けて引き出せる資金支援をロシアに対し供与し得る、新たなIMF「体制移行ファシリティー」を創設するとの提案を心から歓迎する。

 我々は、政策表明文書においてロシアが適切な調整政策を採用するとの政治的コミットメントを行ったときに第1トランシュが支払われるよう要請する。

 第2トランシュは、スタンド・バイ取極への道を開くよう、インフレを抑制するための金融政策に焦点を合わせた政策の実施に十分な進展が見られたときに支払われるべきである。

(2)IMFとロシアができるだけ早期に、また、いかなる場合でも1993年10月1日以前に、包括的マクロ経済安定化プログラムに基づき、経済安定化のためのより強力な支援として最大41億ドルのスタンド・バイ取極を作成することを強く奨励する。

(3)我々は、マクロ経済状況が安定化した際にはルーブル市場への信任を高めるための60億ドルの為替安定化基金を利用可能にするとのコミットメントを再確認する。

2. 世界銀行による構造改革への支援

(1)構造改革措置は、市場経済の構築に不可欠であり、マクロ経済安定化の文脈において最も効果的に実施できる。

(2)世界銀行は、長期的支援の提供者として、ロシアの構造改革及び部門別の改革への支援を率先して行うにの適した立場にある。

(3)我々は、ロシア当局に対し、世界銀行との協力を強化するとともに、昨年分の輸入再建融資枠の下での資金の引出による既存の支援策の活用、追加的な5億ドルの協調融資付きの石油部門向け5億ドルの融資交渉の可及的速やかな妥結等の努力を加速するよう求める。

(4)我々は、第2次緊急輸入融資を含め、新たなIMF「体制移行ファシリティー」と並行し、構造改革及び部門別の改革への支援を強化する世界銀行の努力を支持する。我々は、エネルギー、農業、住宅等ロシアの国民に直接的な利益をもたらす多数の重点部門における投資、制度面の強化、及び改革を支援するため、世界銀行がこの先15カ月の間に新たなコミットメントにおいて最大40億ドルを借款の形で供与する意向があることを歓迎する。

3. 主としてEBRDを通じた中小企業への支援

(1)中小企業は、ロシアにおける民間部門の発展にとり決定的に重要である。EBRDは、この分野において中心的役割を果たすべきである。

(2)我々は、EBRDに対し、我々と緊密に協力しつつ、ロシアの中小企業を振興するための3億ドルの基金を半額は自己資金からの出資により創設するよう求める。我々は、他の諸国に対しこの基金へ拠出するよう要望する。我々は、EBRDに対し、ロシア中小企業銀行を創設するための基礎を準備することも要請する。

4. 大企業の民営化への支援

 ロシアにおける構造調整の最重要分野の一つは、大規模企業の再編と民営化である。我々は、東京サミットに報告するため、例えば二国間の資金と国際開発金融機関の資金との組み合わせによるものも含め、このプロセスに対する最も良い支援の方法を探究する作業グループを設置することに合意する。

5. 債務繰延べ

 我々は、旧ソ連の債務繰延べに関し、1993年4月2日、パリにおいて成立した19カ国の債権国とロシアとの間の合意を歓迎する。これは、150億ドル以上の支援を意味し、債権国の予算に重い負担を課すものである。この救済は、現段階の改革プロセスにおける国際収支上の困難を大幅に緩和し、信用力の維持と新たな資本の流入への道を開く。

6. 輸出信用機関の活動と協力

(1)輸出信用機関の活動は、我々のロシア支援の主要な資金源となる。

(2)輸出信用機関の融資がロシアの構造改革、特にエネルギー等の基幹部門の産業再編を支援するようなものであることを確保することは、重要である。

(3)この目的のため、世界銀行と輸出信用機関との間に協力の機会が設けられることは、極めて望ましい。

(4)我々は、輸出信用機関が実行可能なプロジェクトに対し100億ドル程度の額の輸出信用や保証を供与することができるものと信じる。

7. 貿易の拡大

 国際市場に対するロシア産品のアクセス改善は、ロシアの構造改革を大いに強化する。我々は、自国市場を一層開放する措置をとる意図である。我々は、GATTへの加入を通じたロシアの国際貿易体制への完全な組入れに向けロシア当局と協力する。ロシアが効果的な輸出管理を実施するならば、先端技術の分野における既存の貿易規制(ココム関連規制を含む)を徐々に自由化すべきである。

8.エネルギー部門

 我々は、ロシアにおいてエネルギー部門の民間投資及び貿易を促進するような環境が速やかに創出されるよう求める。我々は、これに合わせ、自国の関係企業に対しロシアのエネルギー部門向け投資の拡大を奨励する意図である。我々は、エネルギー憲章条約の早期締結の重要性を強調する。

9. 原子力の安全性

(1)最近の事故は、ロシアの原子力発電所の安全性を向上することの緊急性を浮き彫りにした。このためには先ず第1にロシア自身の決然たる行動を必要とする。我々は、ミュンヘン・サミットにおいて合意された多数国間行動計画の全面的かつ時宜を得た実施を通じ協力するとの約束をしている。安全性向上のための具体的計画は、遅滞なく着手される必要がある。

 我々は、早期かつ実質的な安全性向上の達成のため、改善されたG24の調整メカニズムを通じて作業を行う。我々は、また、EBRDにより運営される「原子力安全基金」がこの目的を追求するために十分活用されることの重要性を強調する。我々は、国際社会に対し、この基金に拠出を行うことを求める。我々は、「原子力安全基金」の運営に関するEBRDとG24との間の緊密な協調の重要性を強調する。我々は、世界銀行及び国際エネルギー機関による調査に基づき、適切な対応策をロシアの同僚と協議し、ミュンヘンで開始されたプロセスを来たる東京サミットにおいて前進させる。

(2)放射性廃棄物の海洋投棄は、深刻な懸念事項である。我々は、この問題が更に検討されるべきであることに合意する。

10.核兵器の解体

 核兵器解体並びにそれに伴う核物質の処理及び管理に関する支援は、世界全体の安全保障にかかわる問題として、その重要性が認識される。この分野における各国のロシアとの協力は、多数国間の努力の一部を構成する。G7諸国の幾つかは、既にロシアと共に作業を行っている。我々は、この作業をいかに進展できるか、及び他の諸国がこうした努力にいかに関与し得るかにつき検討することを合意する。

11.科学技術

(1)昨年11月に設立協定が署名された国際科学技術センターに関しては、可能な限り早期に活動を開始できるよう必要な諸手続がロシアにおいてとられることの重要性を強調する。

(2)我々は、宇宙分野におけるプログラムを含め、新たな形の科学技術協力を推進する可能性を認める。

12.食糧及び医療支援

 我々は、現在食糧及び医療援助を提供しており、緊急的には従来通りに追加的支援につき引続き考慮する用意がある。

13.技術支援

 我々は、ロシアが地域レベルや地方レベルの具体的プロジェクトや個別の企業にとって利益となるノウハウと経験の広範な流入を引きつけるのを支援する用意がある。経験のあるアドバイザーのチームが現場で長期的協力に携わる一方、より多くのロシア人が訓練のために我々の国に来るべきである。ロシア政府は、技術支援がそれを必要としているところに届くようにする能力を強化すべきである。我々は、世界銀行に対し、より効果的な協調を達成するため、ミュンヘン・サミットにおいて合意された協議グループのプロセスを遅延なく活性化するとともに十分活用するよう求める。

14.二国間支援

 我々は、二国間支援を増額するとのG7諸国の最近の決定を歓迎する。我々の二国間の努力は、ロシアの改革を支援するとの我々共通の戦略の不可分の一部である。我々は二国間の努力を継続する用意があるが、こうした努力は上述の行動計画と密接に連携しこれを補完するものである。

15.支援の実施

 我々の支援の有効性を高めるために一層の努力が必要であるとの認識のもと、我々は、支援が可能な限り効率的に実施されることを確保するよう緊急に作業する。このため、我々は、ロシア当局及び関連国際機関と緊密に協議しつつ、技術協力及び資金援助の活用を促進するための仕組みを確立し、支援の効率的実施につき改善を図るべく障害を除去することに関しロシア当局と協力することを追求する。