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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ロシア支援G7閣僚合同会合における宮澤内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1993年4月14日
[出典] 宮沢演説集,194−196頁.
[備考] 
[全文]

 議長

 諸大臣閣下

 御列席の皆様

 このロシア支援G7閣僚合同会合に皆様をお迎えすることは私の大きな喜びとするところであります。我が国は、ロシアの政府、国民のみならず、国際社会全体にとって、現在は決定的な時期であると考え、来る七月のG7サミットの議長国として、この会合を開催しました。

 私は、四十年余りに亘って政治に携わってきましたが、その中で、世界が第二次世界大戦の灰塵から立ち上がり、その後冷戦下の対立に苦しみ、ついに自由と民主主義という普遍的価値の達成に向かって歩み始めるのを見て来ました。今日のロシアの姿は、現在まさに起こっている偉大な歴史的変化を体現するものであります。ロシアの改革努力は、多元的民主主義に向けての政治面での改革、市場経済に向けての経済面での改革、及び国際社会において建設的なパートナーとなるための外交面での改革を意味しますが、これらの改革の成功は世界の平和と繁栄を達成していく上で不可欠であります。

 エリツィン大統領の指導の下での改革努力が政治的にも経済的にも巨大な挑戦に直面しており、ロシアは今、岐路に立っています。国際社会は、ロシアの改革が後戻りすることなく遂行されていくことへの期待を明確なメッセージとして送ると言う責務を負っています。G7諸国は、世界の平和と繁栄を確保することに主要な責任を有しており、ロシア及びその他の改革努力を行っている諸国への支援に向けて、国際社会を結集すべく指導力を発揮していかなければなりません。

 結局のところ、自らの改革を実効性のあるものとすることができるのはロシア国民自身なのであります。国際社会は、“自助努力のための支援”を供与することにより、ロシア国民にとって時に痛みを伴う転換を容易にするよう支援していくとの役割を担っています。

 以上を踏まえ、私は我々の努力を方向づける基本的な考え方として次の三点を申し述べます。

 第一に、我々の支援は、ロシア国民の真のニーズに応えるべきであります。改革努力の成功の帰趨を制するのは、ロシア国民自身の不屈の決意であります。それ故、彼らこそ、我々の支援の対象となるべきなのです。

 第二に、我々の支援は、ロシア国民が、市場経済に向けての移行の過程を維持できるような効果的で効率的な組織作りを奨励すべきであります。中小企業の育成に必要な競争的な市場、企業家に資金を提供するための銀行制度、経営能力を育てるための教育、訓練制度は、そうした組織作りの一例であります。我々の支援は、市場経済や民主主義に向けての改革を行っていくための方途をロシア国民自身に与えることに向けられるべきであります。

 最後ではありますが、劣らず重要なことは、我々の支援は、我々の共同の努力が最大限の結果を生み出すよう、ロシア側と密接に連絡をとると共に、主要な支援国、国際機関の間で、恒常的な協議を通じて密接に調整されるべきであるということです。G7諸国は、この点に関して、指導的な役割を果たして行くべきであり、本日の会合はその過程の重要な一歩となることが期待されています。日本は、そうした調整において積極的な役割を果たして来ています。昨年十月、まさにこの同じ部屋で、私はロシアとその他NIS諸国の支援会議の開会を宣言したのであります。

 我が国の二国間支援に関しては、まずこれまでに発表したロシア向け二国間支援の着実な実施の促進を図ると共に、この機会に、ロシアにおける改革努力に対する我が国の支援として、新たに約十八億二千万ドル相当の支援を行うことを発表したいと思います。

 まず、約三億二千万ドル相当の無償支援を行います。

 このうち約一億ドルを利用して、食糧品、医薬品などの供与等の緊急人道支援を実施します。これは、マネタイゼーションを通じ、ロシア国民に直接届く形での支援となります。

 次に、約九千万ドルを利用して、技術支援、人的交流等を通じた人材育成等、市場経済化に向けての改革を支援します。

 また、約三千万ドルを利用して、極東中小企業国際センターに対する支援等を通じ、ロシアの中小企業の育成を図ります。

 さらに、ロシアを始めとする旧ソ連諸国における核兵器の確実な廃棄等に協力するため、約一億ドルの無償支援を供与します。

 これら無償支援に加え、ロシアの主要な外貨獲得源であるエネルギー産業の立て直しに重点を置いて、ロシア側の適切な対応を前提に総額十一億ドルの貿易保険の引き受けを行う用意があることを明らかにします。また、同様に、総額四億ドルの輸銀輸出信用をエネルギー分野及び中小企業育成の分野に重点を置き、適切な案件に対し供与する用意があります。

 これら有償支援の総額は、十五億ドルとなります。

 さらに、ロシアの市場経済移行のための中小企業支援を目的とした国際的なスキームの創設の検討にも、積極的に参加していきます。

 我々は、この会合の検討結果を行動に移す上で前進し、七月の東京サミットに向けて、ロシア支援のための実際の多国間の枠組や措置が得られるよう、強い期待を表明して、私の挨拶とさせて頂きたいと思います。私は、ここに、この会合の成果を踏まえ、G7サミットの議長国としての役割を果たしていくとの我が国の決意を改めて確認致します。(英文スピーチ六九六ページ)