データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第26回ソ連共産党大会におけるブレジネフ書記長報告(対日関係部分及び「平和提案」関連部分)

[場所] モスクワ
[年月日] 1981年2月23日
[出典] 外交青書25号,513−518頁.
[備考] 仮訳
[全文]

(対日関係部分)

 日本との関係について。日本の外交路線において否定的要素−ワシントン及び北京の危険な計画に対する伴奏及び軍国主義化への傾向−が強まっている。しかしわれわれは,これがいわば東京の最後の言葉であるとは考えておらず,東京において先見の明及び自己の利益に対する理解が勝利を収めるであろうことを期待している。ソ連邦は従来と同様,日本との堅固な,真に善隣的な関係を支持する。

(平和提案関係部分)

 同志諸君! 党と国家の外交活動の基軸方向は戦争の脅威の緩和,軍備競争の抑制を目指す闘争であったし,いまもそうである。現在,この課題は特別の意義と緊急性を帯びている。それは軍事技術の発展に急速な,深い変化が生じているためである。質的に新しい種類の兵器,何よりもまず大量殺戮兵器が開発されつつある。これは規制,すなわち合意による制限を非常に困難にし,あるいは不可能にするおそれのある種類のものである。軍備競争の新段階は,国際的安定を破壊し,戦争勃発の危険性を著しく強めるであろう。

 侵略的帝国主義勢力の政策が,あらゆる危険な結果を伴う国際緊張の著しい増大を既にもたらしていることによって,事態は深刻化している。

 近年,ソ連邦ほど国際関係の重要な諸問題に関する広範な具体的かつ現実的なイニシアチヴを人類の前に提示した国家は,おそらくないであろう。

 人類にとって最も危険な核兵器の制限問題から始めよう。この年月を通じてソ連邦は,このような兵器の競争に終止符を打ち,地球上におけるその一層の拡散を排除するために断固としてたたかってきた。諸君も御存知の通り,戦略兵器制限に関する米国との条約を準備するための大きな仕事が行われた。核兵器実験の完全禁止に関する米国及び英国との交渉の過程で多くのことがなされた。われわれが,自国領土に核兵器の配備を許さない非核保有国に対しては核兵器を使用しないことを声明し,それを確認したのは,重要な行為であった。だが,われわれはそれ以上のこと,すなわち,核兵器の生産を停止し,そのストックの削減を開始し,最終的にはそれを完全に一掃することを提案したのである。

 ソ連邦は他のすべての種類の大量殺戮兵器の禁止のためにも積極的に努力してきた。報告期間にこの方面でいくらかの成果を収めることができた。軍事目的のために自然環境に作用を及ぼすことを禁止する条約が発効した。放射線兵器禁止条約の基本的諸規定が予備的に合意されている。諸国家の兵器庫から化学兵器を駆逐することに関する交渉が,許し難いほど遅々としてではあるが,続行されている。平和愛好勢力の行動によって,中性子兵器の西欧展開計画の実施を一時中止させることができた。それだけに,この兵器をダモクレスの剣として欧州諸国の頭上に吊り下げようとするペンタゴンの再度の試みは,諸国民のさらに激しい怒りを買っている。われわれとしては,他の国家がそれを持たなければ自分もその生産を開始しないし,この兵器を永久に禁止する協定を締結する用意があることを確認する。

 ソ連邦その他のワルシャワ条約諸国は,欧州の軍事的デタントに関する一連の具体的な提案を行った。われわれは,例えば,全欧会議参加諸国が相互間で核兵器も通常兵器も先制使用しない義務を負うよう,また欧州及び他の諸大陸で既存の軍事ブロックの拡大と新しい軍事ブロックの創設が行われないことを望んでいる。

 欧州の軍事的デタントと軍縮の問題を討議し解決するために,ソ連邦とその同盟諸国は全欧州会議の招集を提案した。この問題は,いまマドリードで開催中の会議で関心の的になっている。

 われわれは,ウィーンの中欧兵力・軍備削減交渉における進展達成のための努力も怠らなかった。社会主義諸国はこの交渉で,西側の交渉相手に向かって道程の半分以上を歩み終えた。だが,西側諸国が今後もこの交渉を長引かせ,同時に欧州で自己の軍事力を増強し続けるなら,われわれとしてもその事実を考慮せざるを得なくなるであろう,と率直に言っておく必要がある。

 ソ連邦とその同盟諸国が過去5年間に打ち出した多くの重要なイニシアチヴは,国連軍縮特別総会におけるものを含む国連の諸決定によって承認された。

 国際安全の強化と軍備競争の制限に関するソヴィエトの諸提案は,いまも有効である。ソヴィエトの外交官,外交戦線のすべての働き手は党中央委員会の指導のもとに,これらの提案の実現のために積極的に働いている。

 われわれの行動は他の諸国及び諸国民の願望に呼応するものである。ラテンアメリカと並んでアフリカと中東を非核地帯と宣言すること,東南アジア,インド洋,地中海に平和地帯を設けることなどの諸提案が諸大陸の多くの国家によって行われ,広範な国際的支持を得たことを想起するだけで十分である。全欧会議の諸決定も,事実上欧州全体をそのような地帯にすることを目指している。

 同志諸君! われわれは国際情勢の抜本的健全化のための闘いを続けている。ソ連邦共産党第24回及び第25回大会によって宣言された平和綱領は,この闘争の確実なコンパスであったし,いまもそうである。

 今日,世界における事態は,戦争の脅威を取り除き,国際安全を強化するための新たな,追加的な努力を要求している。この方向での若干の考えを大会に報告させていただきたい。

 近年,諸君も知っての通り,世界のあちこちの地域でしばしば,大火災に発展する惧れのある軍事的紛争の火元が発生した。経験が示すように,これらの火元を消し止めることは容易なことではない。予防対策を講じ,こうした火元の出現を防止した方がはるかによいであろう。

 例えば,欧州では全欧会議の決定に基づいて行われている軍事面での信頼醸成措置が,ある程度この目的に役立っている−全体としてかなり役立っている。これは,陸軍の軍事演習についての事前通告及びこれらの演習への他国からのオブザーバーの招へいである。現在これらの措置は,ソ連邦の西部諸地域を含む欧州諸国の領域で実施されている。われわれは,これをさらに進めて,海軍及び空軍の演習についても通告する用意がある旨を既に述べた。われわれは,軍隊の大規模な移動についても通告を行うよう提案してきたし,いま改めて提案する。

 われわれは今度は,このような措置の適用地域も大幅に拡大するよう提案したい。{これより下線あり}われわれは,西側諸国家の側も信頼措置の適用地域を然るべく拡大することを条件に,この措置をソ連邦の欧州部全域に拡大する用意がある。{ここまで下線あり}

 信頼措置の策定と適用−もちろんそれは地域の特殊性を考慮してであるが−同地域の情勢を緩和するばかりでなく全般的平和の基盤強化にとって極めて有益なものになりうるような地域がある。それはソ連邦,中国,日本といった大国が隣接している極東である。そこにはまた米国の軍事基地がある。{これより下線あり}ソ連邦は極東における信頼措置について,すべての関心ある国々と具体的な交渉を行う用意がある。{ここまで下線あり}

 信頼措置についての遠大な提案を提起しつつ,われわれは,その実施は軍縮面での進展をも促すであろうという観点から出発している。

 次に,われわれが行ったペルシャ湾についての提案に関して,それはソヴィエト軍部隊のアフガニスタン駐留の問題と切り離すことができないといった発言が時折なされている。これに対して何を言うことができるだろうか? ソ連邦はペルシャ湾について,それを独立した問題として話し合う用意がある。もちろん,すでに述べたようにアフガニスタンをめぐる情勢の個別的解決にも参加する用意がある。{これより下線あり}しかし,われわれは,アフガニスタンに関連する諸問題をペルシャ湾の安全の諸問題と結びつけて討議することに反対するものではない。{ここまで下線あり}その場合,討議の対象となり得るのが,アフガニスタンの内部問題ではなく,アフガニスタン問題の国際的側面に限られることは当然である。アフガニスタンの主権は,その非同盟国家としての地位と同じく,完全に守られねばならない。(拍手)

 われわれはここで改めて,戦略兵器の分野での抑制を強く訴える。世界の諸国民が核戦争勃発の脅威にさらされながら生きるというようなことを容認することはできない。

 戦略兵器の制限及びその削減は緊急の問題である。{これより下線あり}われわれとしては,この分野でこれまでに達成された肯定的なものすべてを維持しつつ,米国と然るべき交渉を遅滞なく継続する用意がある。{ここまで下線あり}交渉が平等と同等安全を基礎にしてのみ行なわれうることは言うまでもない。われわれは,米国に一方的優位をもたらすような協定には応ずることはできない。この点に関して幻想があってはならない。われわれの意見では,他のすべての核保有国も適当な時期にこのような交渉に加わるべきである。

 ソ連邦はいかなる種類の兵器の制限についても交渉を行う用意がある。嘗てわれわれは,米国の艦載ミサイル・システム「トライデント」とわが国の対応するシステムの創設の禁止を提案した。この提案は受け入れられなかった。その結果,米国人のところでは「トライデント1」ミサイルを装備する新型潜水艦「オハイオ」が建造された。われわれのところでも同様のシステム「タイフーン」が建造された。だがこのことから一体誰が利益を得たであろうか?

 {これより下線あり}われわれは,新型潜水艦−米国の「オハイオ」型とソ連邦の同種のもの−の展開の制限に関して取り決めを行う用意がある。われわれはまた,これらの潜水艦に搭載される現存弾道ミサイルの近代化と新型弾道ミサイルの創設の禁止に関する取り決めに応ずることができよう。{ここまで下線あり}

 次に,欧州のミサイル・核兵器について。この兵器のますます危険な蓄積が進行している。一方の行動が他方の対抗措置を招くという一種の悪循環が生じている。この鎖を断ち切るにはどうすればよいのか?

 {これより下線あり}われわれは,いますぐにNATO諸国とソ連邦の新型中距離ミサイル・核兵器の欧州配備に対してモラトリアムを設定すること,つまり,もちろんこの地域における米国の前進基地の核兵器を含め,かかる兵器の現在の水準を,量的及び質的に凍結することについて,取り決めを行うことを提案する。{ここまで下線あり}このモラトリアムはこの問題に関する交渉が始まり次第効力を生じ,欧州におけるこのような核兵器の制限についての,もっとよいのはその削減についての恒常的な条約が締結されるまで有効にすることができるであろう。この際,われわれは,米国の「パーシング2」ミサイルと地上配備戦略巡航ミサイルを含む当該追加的兵器の展開に関する一切の準備を双方が停止することを出発点にしている。

 諸国民は,核戦争が人類にとっていかに破滅的な結果に導くかについて真実を知るべきである。{これより下線あり}われわれは,核破局を防止することの死活的必要性を示すであろう権威ある国際委員会を創設するよう提案する。{ここまで下線あり}委員会には,さまざまな国の最も優れた学者たちが加わることができよう。委員会によって下される結論は,全世界に知らされねばならない。(長い拍手)。

 もちろん,今日の世界には,他にも幾多の緊要な国際問題がある。それらの問題の合理的解決によって,国際情勢の緊張を解消し,諸国民を安堵させることができるであろう。だが,そのためには,先見の明あるアプローチ,政治的意志と大胆さ,権威と影響力が必要である。だからこそ,{これより下線あり}国際情勢正常化,戦争防止のカギを探求するために,安全保障理事会理事国の最高指導者の参加する同理事会特別会議を招集することが有益{ここまで下線あり}であろうとわれわれには思える。{これより下線あり}会議には,恐らく,希望があれば他の諸国家の指導者も参加することができよう。{ここまで下線あり}もちろん,会議の肯定的結果を確保するにはその行き届いた準備が必要であろう。

 同志諸君! このように,われわれの提案している新しい諸措置は広い範囲の問題に及んでいる。それらはミサイル・核兵器にも通常兵器にも,地上軍にも海軍にも空軍にもかかわりを持っている。それらは欧州情勢にも中近東,極東の情勢にもかかわっている。そこで問題となっているのは政治的及び軍事的性格の措置である。これらすべての提案を結びつけているのは,諸国民を核戦争の脅威から脱出させ,地球上の平和を維持するためにできる限りのことをするという一つの単一の目標,一つのわれわれの共通の志向である。(長く続く拍手)。

 これは,言うなれば,現在の国際社会の最も焦眉の,緊要な諸問題に対応して,われわれの平和綱領を有機的に継続,発展させたものである。{これより下線あり}平和を守り抜くこと−現在,わが党,わが国民,さらに世界のすべての国の国民にとって,これ以上重要な国際的課題はない。{ここまで下線あり}(長く続く拍手)。

 平和を守りながら,われわれは,現在生きている人々のためにだけ,またわれわれの子供や孫のためにだけ働いているのではない。われわれは,未来の何十もの世代の幸福のために働いているのである。

 平和がやってくれば,諸国民の創造的エネルギーは,科学と技術の成果に依拠して,いま人々を悩ませている諸問題をきっと解決するに違いない。もちろん,その時には,われわれの子孫の前には新しい,さらに高度な課題が生じてくるであろう。それが進歩の弁証法,生活の弁証法というものである。

 {これより下線あり}諸国民はその物質的,精神富の無意味な浪費を運命づける戦争準備ではなく,平和の強化こそが,明日への道しるべなのである。{ここまで下線あり}(嵐のような長く続く拍手)。