データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] モスクワ・オリンピック参加問題についての政府見解

[場所] 
[年月日] 1980年4月25日
[出典] 大平演説集,56−58頁.
[備考] 
[全文]

 政府は、極めて遺憾ながら、現状の下では、今年夏のモスクワオリンピック大会に選手団を派遣することは望ましくないとの結論に達し、これを日本オリンピック委員会に伝達することを決定した。

 オリンピック憲章は、オリンピツク大会の目的を、スポーツを通じて、よりよき、より平和な世界の建設に助力し、国際親善をつくりだすことにあるとしている。

 オリンピック大会が開催される国の政府は、とりわけ強くオリンピック精神の遵守を求められ、すべての国の祝福の中で各国選手団が参加しうるような環境を確保する重い責任を負うものである。

 しかるに、今回の開催国たるソ連によるアフガニスタンへの軍事介入は、平和と友好の精神をそこなうものであるとの国際世論の厳しい非難を惹起し、わが国としても、これに重大な関心を払わざるを得ないことは、去る二月一日の政府見解で明らかにした通りである。

 その後、今日に至る迄、ソ連のアフガニスタンへの軍事介入は、依然として継続しているのみならす、むしろ、長期化の構えさえ見せており、国際の平和と安全にとって憂慮すべき事態にある。

 一方、アジア、欧米その他の諸国においても、モスクワオリンビック不参加の動きが生じてきている。

 政府は、このような状況の下では、モスクワ大会に選手団を参加させることは望ましくないと結論せざるを得なかった。青春の全てを捧げてこれまでひたすら錬磨を重ねてこられた選手諸君の心情は、十分理解するところであるが、平和を国是とするわが国の立場からしてもこれ以外の選択はなかった。オリンピック参加の決定権は、日本オリンピック委員会にあり、関係者各位の苦衷は、察するに余りあるが、政府の判断の意のあるところを汲まれ、適切に対応されることを切望する。

 この際、政府は、改めて本年初頭のアフガニスタン情勢に関する国連緊急特別総会において、圧倒的多大数をもって可決された決議にそい、一日も早く事態が大きく改善され、平和の裡にオリンピック大会が開催されることを熱望するものである。