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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] グロムイコ・ソ連外相来日に関する共同声明に対する人民日報論評

[場所] 
[年月日] 1976年1月17日
[出典] 日本外交主要文書・年表(3),826−828頁.外務省アジア局中国課「中国対日重要言論集」28,4−6頁.
[備考] 
[全文]

覇権外交のみにくい演技

 ソ連のグロムイコ外相は最近、1966年以来第3回目の訪日を行った。5日間にわたるはりつめた活動と激しい論争がかわされた会談の中で、この超大国の外相は日本にさまざまな威かく・買収の手口を使い、さまざまなみにくい演技を披露し、ソ連の覇権主義の正体を一層明らかにさらけだした。

 周知のように、日ソ両国関係の間に横たわっている主要な問題はソ連が日本の北方領土を無条件に返還すべきであるという問題である。

 ソ連に依然として力づくで占領されている日本の固有領土、北方4島を回収することは、国家主権を擁護する日本人民の正当な権利であり、強い民族的願望である。しかるに、グロムイコはこの問題を避けて通り、日本側に「日ソ善隣協力条約」の締結という要求を出し、この条約の調印は「日ソ平和条約より優先すべきである」などといっている。これはわるだくみのあるワナであり、その目的は、領土問題を解決しなければ平和条約を結ばせないと強く主張している日本の立場を放棄させ、領土問題を抜きにした「善隣協力条約」によって北方4島の返還要求という日本人民の闘争の目標を他にそらせ、そうすることによってソ連が日本の北方領土を永久に不法占領するという点におかれているのである。グロムイコがもてあそんだこの手練手管は当然のことながら日本側に拒絶された。

 ソ連外相は日本において、口を開けば「ソ連は一貫して日本との善隣関係の強化を主張している」などといい、同時にこれはソ連の「根本国策」であるともいっている。

 いっていることは耳ざわりが良いが、やっていることは卑劣である。日本人民はこれについては切実な体験者である。次のことを見ていただきたい。長期にわたって日本固有の領土、歯舞、色丹、国後、択捉の4島を強引に力づくで占領し、これを拒み続けて返還しないのは、他でもないソ連である。大量の漁船をくり出して、常に日本の近海、はては領海まで進入し、漁業資源を略奪し、日本人民に甚大な損害を蒙らせ、ひどい場合には日本の領海で日本漁船をたえず強奪し、日本漁民を連行しているのは、これも他ならぬソ連である。人にはいわれない目的で、軍艦や軍用機を日本周辺の海上に度々送り込み、空中であばれまわり、公然と日本の領海、領空を侵犯しているのも、やはり他ならぬ、ソ連である。ソ連社会帝国主義の所行に、何処にいささかなりとも「善隣」の誠意があるのか、あるのはこれとは反対の掛値なしの超大国の覇権主義的「国策」である。

 ソ連社会帝国主義はアジアの到る所でいわゆる「アジア安保体制」を売りつけており、グロムイコが今度、日本にやって来ても、例によってこの「商売」を忘れていなかった。しかし、人々はとっくにソ連の「アジア安保体制」はソ連が勢力を拡張し他国を支配し、もうひとつの超大国と覇権を争奪するのに用いる手段にすぎないことを見やぶっている。この数年来、このがらくたはますます評判をおとしている。グロムイコは今回、日本で「アジア安保体制」を盛んに宣伝しただけでなく、これを「善隣協力条約」とくっつけてもちだして来た。しかしながら、グロムイコが演じたこの猿芝居では人々をだますことはできなかった。読売新聞は端的に次のように指摘している。このいわゆる「善隣協力条約」とはつまり、「アジア安保体制」の一環である。ソ連は戦略的地位をもつ北方4島の返還を拒否しているばかりか、この「2国間条約」を使って日本を「アジア安保体制」内に引きいれ、日本をソ連が米国と覇権を争奪してアジアを支配するための跳躍台にしようとしている。しかしながら、この企図もその目的を達することができなかった。

 ソ連社会帝国主義は日中友好関係の発展を非常におそれ、さまざまな方法を講じて妨害と破壊を行っている。この卑劣な目的を達成するため、グロムイコは今回の訪問の中で、事もあろうにあわてふためいて日本に公然とおどしをかけ、「もし日本が反覇条項をもりこんだ日中平和友好条約を締結したならば、ソ連は日ソ関係を考えなおす」などと述べたのである。これは日本に対する大胆な、公然たる干渉であり、ソ連社会帝国主義の覇権の正体をあからさまにさらけだしたものである。日本の事柄は日本自身が処理すべきものであり、ソ連が手出しすることがどうしてゆるされようか。グロムイコの横暴なこの態度は日本側の反発と世論の強い非難をあびた。

 現在、アジアの国ぐにや人民の超大国の覇権主義反対斗争{斗にママとルビ}は前進しており、日本人民の北方4島返還要求、ソ連の軍事的脅威反対斗争{斗にママとルビ}も引続き燃え上っている。

 グロムイコのみにくい演技は、日本人民を反面から教育して日本人民にソ連社会帝国主義のどうもうな正体をさらにはっきりと認識させ、国家主権を守り、覇権主義に反対する日本人民の闘争を強化させることになっただけである。歴史の流れを阻もうとするソ連社会帝国主義のすべての陰謀活動はむだ骨折りに終わり、完全な失敗をなめることになるだけである。