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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 核兵器実験問題に関するフルシチョフ・ソ連首相あて書簡

[場所] 
[年月日] 1962年3月10日
[出典] 外交青書7号,20−21頁.
[備考] 
[全文]

 三月二日米国政府は大気圏内核兵器実験を再開する旨の声明を発表しました。

 日本国民は、核兵器の恐るべき惨禍を身をもって体験した唯一の国民として、およそ軍事目的のために核エネルギーの利用が行なわれることは絶対に容認することが出来ないので、米国政府の前記声明に対し日本国政府は直ちに抗議を行なうとともに実験を実施せざるよう要請しました。

 核兵器の実験が全面的かつ恒久的に禁止されることはつとに日本国民のすべてが強く念願しているところであり、閣下もこうした日本国民の悲願はすでに十分に御承知のところであります。

 日本国民は、一九五八年十月核兵器実験停止会議開催以来およそ三年間にわたって米、英、ソ三国間に核兵器実験停止の状態が保たれていたことを喜び、核兵器実験の恒久的禁止への希望と期待をかけていました。

 しかるに昨年九月ソ連邦政府が突然大規模な核兵器実験を再開することにより上記の核兵器実験停止の状態が破られました。当時日本政府は、ソ連邦政府のこうした決定が他国の実験再開を誘発し悪循環となることを恐れ、この旨文書をもってソ連邦政府に申し入れたのであります。はたして今回米国政府も大気圏内核兵器実験の再開を決定し、世界は再び核兵器競争の脅威にさらされるに至ったのであります。

 われわれは現在核兵器の開発を行なっているすべての国が一刻もすみやかに核兵器実験の停止に合意することを心から念願するものであり、近く開催される予定の十八ヵ国軍縮会議において何にもましてまず実効的な査察及び管理の措置を伴う一切の核兵器実験停止に関する国際協定がすみやかに締結されることが、最も緊急な問題であると信ずるものであります。

 核兵器によって日本国民が被ったごとき悲劇をこの地上の人間が二度と再び繰返すことのないよう絶えず訴えることこそ日本国民が歴史と人類に対して負う最も重大な責務であり、かかる警告は人種も政治理念も超越して、およそ核兵器を保有するすべての国、核兵器の実験を行なうすべての国に対して等しく向けられなければならないと私は深く信ずるものであります。従って私はケネディ米国大統領に対しても同じ趣旨の訴えをすでに行なったのでありますが、他面米国政府は効果的な核実験禁止条約がすみやかに締結されれば実験は行なわない旨声明しており、しかも核兵器実験禁止協定の成否は今や閣下の御決断にかかっている次第にかんがみ、閣下もまた全人類の悲願に応えて同協定のすみやかなる締結のために最善の努力を払われることを強く要請するものであります。